地獄へご招待
黒騎士王決定戦がついに幕を開けた!
第一回戦の内容とは!?
果たしてガルディンは生き残れるのか!?
ガルディンは、また見たこともない場所に飛ばされた。
そこは、アディアルカの町並みからは遠く離れた印象で、溶岩のような赤光りする液体が地をはう黒き大地と黒い天を持つ世界。人間の生きるべき場所ではないのが見てとれる、地獄のような雰囲気を持った場所だった。
「何だ、またけったいなところに送られたものだ。どうやら、あのシレオストなる娘は、本当に1人を除いて皆殺しにするつもりのようだ」
辺りを見回す。他の黒騎士たちも唖然としているようだ。
「さて、どうしたものか。まだルールもなにも聞いていないんだがな」
そんなグチを溢したのも束の間。天より声が響き渡る。
純潔者シレオストの声だ。
「皆様、第一回戦はその<ネェルタルタロス>の地でオメガドラゴンと戦っていたたきます」
「ドラゴン?」と多くの黒騎士が額にしわを寄せる。
「ルールは簡単です。オメガドラゴンを1匹倒すか、或いは半数が死に至った時点で生きていたものが1回戦を突破したとみなします」
黒騎士が達は辺りを見回す。すると、暗い空から城1個分はありそうな青光りする巨体に、七色に輝く美しい翼の生えた首長の竜があちらこちらに落ちてきた。これに、何十名かの黒騎士が下敷きとなり命を落とした。
「むう、こやつら、ただの魔物ではないな!」
ガルディンは歴戦の勘ですぐさま察した。
察しなければ死んでいた。
ゴゥワーッ!
オメガドラゴンなる竜は、口を開くなりビームのような直線上に伸びる吐息を放ったのだ。それは大地に当たればそれを裂いて大爆発を起こし、人に当たれば灰ものこさない。この超高威力の前に一気に1000人程の黒騎士が命を落とした。
「くっ! これはひとまず距離をおかねばなるまい!」
ガルディンはオメガドラゴンの間を駆け抜ける。まずは攻撃も何も逃げるしかなかった。それだけ、この竜が危険だと判断したのだ。これは、他の黒騎士たちも同じで、高い状況把握能力でみな逃げることを最優先にしはじめた。勿論、その全てが逃げ切れるはずもなく、不運な者たちは竜の牙にかかり紙きれのように爪で切り裂かれ地に伏せたり跡形もなく消し飛ぶ。そして、それがさらに竜の恐ろしさを確たるものにしたのであった。
潜む場所を見つけるのも一苦労である。
なぜなら、岩かげ程度なら竜の吐息で一網打尽にされてしまうからだ。ただ、幸いなのか仕組まれたものなのかはわからないが、知能と気配察知能力はそこまで高くなく、巨体ゆえ若干動きに隙があるのだけが救いであった。
「うわ、やっべーぞ隠れられねえ!」
「そうですね。これは困りました!」
ガルディンの側には2人の女黒騎士をはじめとした10名程が
いた。その女騎士のかたわれで頭に鉢巻きをした小柄なショートカットの方がガルディンに慌てた口調で問う。
「おっさん! 何か良い手は無いか?」
「あつかましい小娘だな。貴様は自分の頭では考えられんのか。ガキの頭は柔らかいものだろう」
「子供じゃない! れっきとした大人だよ! 失礼だな!」
「その態度がガキなのだ。まあ、これ以上話していては竜の餌になる。さっさと壕でも掘るとするか」
ガルディンは、斧を振り上げ、フンという声と共に思い切り大地にふりおろした。すると、ズバアと物凄い衝撃波が地を切り裂き、大きなへこみを生み出す。
「あー、穴ぼこを自分で作るんだ! 考えたなおっさん!」
「言っておらずにお前もやれ小娘! 他のやつもだ! 全力で穴堀り土竜をかますぞ!」
「あいあいさー!」
ドカン
ズドン
バコン
ブバァ
ズボォ
他の黒騎士たちも、己の力や技や魔法を駆使してどんどん穴を広げる。そして、あっという間に大地にトンネルのようなものが出来上がったのであった。まさに凄まじく強い彼らだからできる芸当である。
そのトンネルをさらにガンガン掘り進め、10キロメートル相当の距離に至ったところで、ガルディン達はやっと手を止めた。
「ようし、これだけ空けば暫くは大丈夫だろう」
「ふーっ疲れたね」
眼鏡をかけた紫色のロングヘアーと短めのスカートが目立つ女黒騎士が光の魔法「ライトトーチ」で浮遊追尾する灯りを作ってくれたため出来立てほやほやの洞窟は明るく照らされている。その、親切な彼女が、黒騎士におどおどしながら聞いてきた。
「あ、あの、おじさまはこれからどうするおつもりで?」
「まずは作戦会議だ。どうやって乗り切るかのな」
「なるほど、それは名案ですわ」
「名案だと。馬鹿なことを言う。あの竜は適当に戦ってなんとかなる相手でないのは閃光を見るより明らかであろうが。感心しておらずに意見をよこせ」
「あ、はい」
眼鏡の女黒騎士はガルディンの言葉でしゅんとしたが、案外すぐ気を取り直して意見を出してきた。
「あ、ひとつは、このままドラゴンと距離をとり、他の黒騎士が半数死ぬか、他のがドラゴンを倒すのを待ちます。割と安全な策ですが、どれくらい時間がかかるかわからないのが欠点ですね」
「籠城か。食糧の当てがあれば良いが、ここは期待できん。良策とは言いがたい」
「もうひとつは、ドラゴンの弱点を徐々に調べあげ倒すこと。これは、かなりハイリスクでしょう。倒す方法が見つかれば良いのですが、そうでなかった場合は最悪死ぬ可能性もあります」
「そんな事は、誰でも考える。凡案だな」
ガルディンにあっさりはね除けられ眼鏡の女黒騎士は再びしゅんとする。その横から、端正な顔立ちをした茶髪をカールさせている黒騎士がふんふんと軽いノリで乗り出してきた。
「おっさん、デリカシーねえなあ。おとなしそうな子にはもうちょっと優しくしようぜ?」
「なんだ若造。随分とちゃらちゃらした黒騎士よな」
「オレはモルドレッドだ。これでも、国では有名なんだぜ」
「ふん、お前のような奴が名をあげておるなら、その国の王は部下に後ろから頭蓋骨を減し割られかねんな!」
「はいはい随分な言いかたですね。おれの親父も言えたもんじゃなかったけどさ……まあ、それはいいとして、オレも一案出させてくれや」
「何だ、言ってみろ」
「おっさん、こんな穴ぼこを掘れたくらいだし、あんたの腕はかなりのもんだろ?」
「まあ、それは否定せん」
「他のやつらも、アディアルカに呼ばれたくらいだし実力はあるに違いねえ。なら1つ力試しといこうや」
「?」
「ドラゴンじゃなくて、黒騎士を狩るんだよ。ここにいる俺達で、他の纏まらない黒騎士達を殺しまくるんだ」