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開会式~純潔者シレオスト~

異世界「アディアルカ」に召喚されたガルディンは、「黒騎士王決定戦」に参加することになった。


酒を飲み、老人と語らい、女騎士の見事な剣さばきを目にし、やがてその日が訪れる……


その日は雲ひとつない快晴であった。

「黒騎士王決定戦」がはじまる日である。


黒い衣裳や鎧を纏った者たちが、一点に向かいぞろぞろと歩いていく様は、空から見れば(あり)達が群れをなしているように見えるかもしれない。しかし、放たれる闘気、覇気、邪気などや底知れぬ底黒さが虫とは全く異なるものである。


蟻の体をしながらその力は獅子を凌ぐ。

それが彼ら「黒騎士」なのだ。


アディアルカの民は、建物の側に立ち、旗を振ったり頑張れなどと声をかけたりして彼らを見送るが、応援すると言う意味でそうしている人間ばかりではない。彼らを恐れるものや忌むべきものと睨む者もいる。そういった類いはなかば無理矢理にイベントに付き合わされているのだが、黒騎士達のほとんどはそれらを気にもかけない。


鎧をシャンシャン鳴らしながら、ガルディンもまた、同じ場所を目指す。これから何が始まるのかも気になっていたが、やはり祖国の事も頭から離れていなかった。時間の流れが違うから向こうの時間はほぼ流れない(むね)の話ではあったが、絶対に信頼できる事ではない。もし普通に時間が流れていた場合、彼がいなければ、帝国にはもはや有力な戦士がいないのだ。ガルディン以外の名だたる将はみな、戦死してしまっていた。


しかし、彼が元の世界に戻る(すべ)は、まだ無い。

今はただ、流れに身を任せるしかなかった。



儀礼場「コニルペルエス」の中は、高台となった祭壇を奥に、何十万人の人間を収容できるスペースがあったが、瞬く間に黒騎士達に埋め尽くされ、凄まじい熱気で充満する。並の人間ならその暑さに耐えかねて熱中症で倒れかねないが、そこは黒騎士、みな体力は並ではなかった。


「まったく、さっさと事を始めてほしいものだな」


どよめきが至るところで起こるなか、黒騎士ガルディンはぼやいた。動こうにも、他の黒騎士が満員電車のようにぎゅうぎゅうにひしめき合っており動けず、ただでさえ重装備に身を包んでいため、非常に居苦しい。斧を振り回したいくらいイライラしていたが、暴れるにはまだ早いので彼は渋々時を待った。


「お集まりの皆さん!」


暫くして、やっと、神官のような男が高台に現れた。


「お待たせいたしました! ただ今より、黒騎士王決定戦の開会式を行います!」


ワーとかオーと、場内の色々なところからから声が上がる。

その中には待たせすぎだと言う怒りの声も沢山含まれていた。


「それでは、開会の宣言を、このアディアルカの王にして今大会の主催者、シレオスト様にお願いさせていただきます!」


司会者の男が下がると、純白のドレスを身に纏う、美しき銀髪を持ち高貴な雰囲気を放つ絶世の美女が顔をだした。高台の真下や遠くにいる黒騎士達にはハッキリと見えないのが残念であるが、この世の者とは思えない高潔なるオーラのようなものが、彼女から放たれていた。


「黒騎士の皆さま、はじめまして」


会場がどよめく。なぜなら、頭上にある空に拡大された彼女の姿が写し出されたらだ。全身を横向きにして写されている半透明の映像(ビジョン)だが、なるほど、向き次第では見上げると縦に見える。よく考えられているが、仕組みは謎である。


「我が名は純血者シレオスト。このアディアルカの絶対的支配者であります。皆様をこの地に呼び寄せたのも、他でもなくこの私です。以後、お見知りおきを」


澱みない口調で話す彼女には、感情の揺らぎなど微塵も見られない。何か得体も知れない強靭(きょうじん)な芯があり、それを地面に突き刺しているかのような落ち着きがあった。


「さて、これからあなた達にはいくつもの試煉をこなし、最強の黒騎士を目指していただきます。頂点に立つのはただ一人(ひとり)。その一人(ひとり)には多大なる栄誉(えいよ)と幸福を与えましょう。……それ以外は、全員、余すことなく死ぬ事となります」


会場がどよめく。それもそのはず、勝者一人を除いてこの場にいる黒い者達は皆殺しと言っているのとほぼ同じ意味なのだから。


そのため黒騎士の中には、怒り出す人間が現れる。シレオストを殺そうと考える者も数多くいた。しかし、その隙を、彼女は、いっさい与えない。


「では、早速、1回戦を始めるといたしましょう」


そう言うと間もなく、黒騎士達の足元が光りだして彼らを包み込む。逃げる間もない。勿論(もちろん)、ガルディンも同じであった。


「なにっ……!?」


口から言葉が出たのも束の間、大規模な強制転移は実行された。「黒騎士王決定戦」の幕は今、上がったのであった。



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