頂を目指す権利
黒騎士は、決戦の最中、異世界「アディアルカ」に飛ばされた。
そこで行われるのは……
バックスはコホンとひとつ咳をした。
「史上最強の黒騎士王決定戦。またの名を化<ブラックナイト・バトル・ロワイアル>と言う。数多ある世界から選ばれ集められた黒騎士が最強を賭けて戦い、頂点を目指すのさ」
「黒騎士の頂点……」
「あんたの他にも、沢山の黒騎士がこの世界に転移して来ている。街中にもあんたみたいに黒い格好のやつがいなかったかい?」
「ああ、確かにいたな」
「あんたよりも先に来た奴が、既に122035人いるぜ。つまりあんたは122036人目だ」
「随分な数だな。しかし、そんなことを一体誰が何のために行っているのだ」
「それは、2日後にわかる。とにかくあんたを含めた全黒騎士が最強を決めるため凌ぎを削るんだ。すごい話だろ?」
「こちとら、そんな事に興味はないがな。くだらん余興だ」
「まあ、そう言うな。最強の黒騎士になったものは、願いがひとつ叶うんだぜ」
「なに……どんな願いでもだと?」
「ああ。あのお方が、どんな願いでも叶えてくれるんだ。人だって生き返るし、巨万の富をえることだって可能だ。不可能は無いよ」
その響きは、流石の黒騎士でも誘惑される。どんな願いも叶うのなら、帝国に勝利をもたらすことができるからだ。それに、他にも願いたいことが彼にはあった。
「むう……」
「断る意味はないだろ? 参加しなかったら元の世界にはどうせ帰ることはできないし、おそらく死ぬだけだろうよ」
「それは実質強制参加ではないか……まあ良い、参加するとしよう。お前の言う、あのお方とやらの事も気になるしな」
「へい、ではカードを作りますんで暫く待ってくれよ!」
バックスは、箱形の謎の機械を使い、カンキンカンコンと、黒い金属製のナンバーが入ったカードを製造した。紙でないのは、濡れたりして破損させないためであろう。
「できましたぜ! ほい。」
「御苦労」
「礼は良いですぜ。くれぐれも無くさないように気をつけてくれよな。ま、他のやつには使えないような細工がされてるから勝手に利用されることは無いんだけどな」
黒騎士はカードを手に取る。12036の数字がへこみ印字された黒いカードには何やら竜のような絵が描かれ、その上に見たことの無い文字が描かれている。また、カードの下部には、謎の認証コードのような△、○、ひが不規則に並んでいた。
「それがあれば、この国を我が物顔で歩けるぞ。それに、1日あたり200ガレブが国から支給され、専用の宿泊施設や民宿が無料で利用できる。200ガレブあればこの国では困らねえ。酒をガッツリ飲んでもお釣りが来る」
「随分な待遇だな」
「まあ、あのお方はそれだけの存在なのさ……とりあえず、まずは寝床を探しな。町巡りはそれからだ」
「わかった」
「カトヤン、お前も探すの手伝えよ。首をちょんぎられたくなかったらな」
「わかってるって。ささ、黒騎士のダンナ……ああ、まだ名前を聞いてなかったでやす。バックス、忘れちゃだめでしょうに」
バックスは、ガハハと笑った。
どうやら、本当に忘れていたようだ。
「すまんすまん! 黒騎士様、お名前を教えてください。台帳に書かなきゃならん重要事項なんで」
「……」
黒騎士は、斧の柄で床をガンと叩いた。
そして、バックスに背を向けたまま言い放つ。
「私はガルディン。ガルディン=ルートザク。一日で千の首を狩る男と呼ばれる者とでも言っておこうか」