老獪(ろうかい)なる奇策
歩く原子力発電所(?)サイサリスの無敵とも思える力の前に、黒騎士達は次々と命を落とした。しかし、ガルディンは勝ち気な眼差しを彼女に向ける。
「ムカつくぅ!! このあたしを倒せるですって!? 強がりの時間稼ぎかい!?」
「フフ、どうだろうな。おい、じいさん、そろそろ姿を現したらどうだ?」
「ふぉふぉ」
なんと、バルトリバザルは生きていた。肉体は破壊されたのに、気づけばサイサリスの後ろに立って、にんまりと笑っているのである。
「ジ、ジジイ!?」
「お前の真似をしてみたぞい」
「キエエエェ!」
すぐさま斬りかかるが、老仙は蜃気楼のように消え、ガルディンの側にスッと現れた。
「ホッホッ、再生までちと時間がかかってしまってすまんのう。あの子の攻撃けっこうイタかったんよ」
「謝ることはない。で、策はあるか」
「もちろん。ほれ!」
バルトリバザルは手からスッと、中くらいの大きさのフタのついたビンのようなものを取り出した。
「じゃりらーん! 魔法のしびん!!」
「は?」
「説明するな! これは、普段は変な場所でオシッコしたくなったときに使うんじゃ。このフタを開けて……」
「いや、それ以上言わなくて良い」
尿瓶のことはガルディンも知っていたし、これ以上下品な話をしても仕方ないとの判断で、老人のこれ以上の説明はカットされた。
「はー、汚ねぇ!! ジジイ、変なもんだすな!」
「ほーれ、嗅いでみ」
「死ね変態!!」
「ふっふっ、お前も所詮は女の子じゃのお!」
バルトリバザルの挑発は、見事にサイサリスを鵜呑みにさせる。
「今度こそブッ殺してやる!!」
「ひゃー、やっぱその怒った顔カワユイいのー!」
「死ねぇ!!」
怒りに任せた雑な斬撃など、通じるはずもなかった。意図も簡単に背後に回られ、股を蹴り上げられる。
「ぐがっ!?」
「あれー、痛みとかは普通に感じるんじゃの。それ!」
「グホッ!!?」
正拳突きも、みぞおちにクリティカルヒットし、よだれ垂らして崩れ落ちるサイサリス。さらに、その頭に肘鉄を叩き込んだバルトリバザルだが、片手はずっと尿瓶を持ったままという余裕まで見せつける。
「才能は認めるが、自惚れてちゃんしたと力をつけんかったようじゃのお」
「ググーッ、ジージーイィー!!」
「そろそろちゃんと名前を呼んでちょうだいな子ネコちゃん!」
「お前こそ! あたしは子ネコじゃなくてサイサリスだよ!! あたしこそが世界を統べるものサイサリス!!」
「はいー、残念じゃな」
「えっ!?」
次の瞬間、サイサリスは、バルトリバザルの持つ尿瓶の、開けられた口のなかにシュウと吸い込まれた。そして、すぐさま、老仙はフタをポキュンとはめて閉める。
「はい、終わり」
「じいさん、何をした」
「あー、これはキンカクギンカクが使ってた魔瓢箪の技術を流用したものでな。自分の名前を言った者を中に封じ込めることができる尿瓶なんじゃ。ちなみに、入れられるのは1人だけじゃ」
「ほう。しかし、なぜ尿瓶なのだ? 他のものでもよかろうに」
「さっき言ったじゃろ? 緊急用なんじゃ」
ビンの中から声が聞こえる。
しかし、小さくてよく聞こえない。
「ふぉふぉ、サイサリスよ、お主はもう2度とその尿瓶から出ることは叶わぬ。永久にその中で反省するがよいわ」
「じいさん、見かけによらず、ずいぶんと鬼畜だな」
「まあ、それだけ油断ならんと言うことよ」
「それもそうか」
「しかし、こんな姑息な小娘にナメられるようでは陰月も先がないかのお」
「まったくだな、終わりが近いか」
2人の言う通り、この4日後、2回戦は結末に向けて一気に加速する。各勢力入り乱れる熾烈な戦いが始まろうとしていた。