裏切り者は
ガルディンは、陰月の軍勢を返り討ちにした。そして、今回の件に関わるであろう裏切り者の存在を明らかにする……
2日後、ガルディンは一部のメンバーを本拠地の脇にある平原に集めた。そこには、猩水の王バルトリバザルとフェリペン、アゼルの姿もある。
「ふぉふぉ、裏切り者か。まさか、わしを疑うつもりではなかろうな?」
「まあ、じいさんは、念のため呼んだ立会人みたいなものだ」
「面白い見世物でもやってくるとな?」
「ここで裏切り者を晒すわけだ。刺激にはなるだろう」
「フハ! しかし、ワシを楽しませるのは大変難しいぞえ? なにせ、わしもおおよそ見当ついとるしな」
「やはりな」
2人は犯人がわかっているが、他はそこに至っていない。小柄な黒騎士アゼルは、わからないことが悔しいのと、面倒だからさっさと答えが聞きたいのとあいまってせかし始めた。
「やいやい! それならはやく犯人が誰か言ってくれよな!」
「焦るな。焦るとお前も疑われるぞ?」
「えっ!? い、いや、あたしは何も知らないし!!」
「フハ八、そうわたわたするな小娘。お前ではないことくらい、当然にわかっておるわ!」
「からかうなよ!」
子供のように頬をふくらますアゼルに背を向け、ガルディンは本題にはいる。
「さて、皆の衆。先日の件、陰月はあまりにも確実に攻めてきた。それは、この中にいる内通者が関わっていることに相違なし。よって、この場で内通者を露にし、即座に死刑に処す!」
どよめく黒騎士たち。当然である。自らが裏切り者、犯人とされれば、ここにいる皆が敵になるのだから生き延びる術は限りなく少ないのである。いくら実力があっても、他も実力者なのだからあまりにも分が悪い。
ガルディンはさながら死神のように、黒騎士たちの近くを脅すかのように歩いて回った。そして、一通り見回した後、ある2人の前でズシリと足を止める。
「おっさん!」
「おじさま」
「フフッ、そう簡単に出し抜けると思っていたのか?」
「いや、オッサンさっきあたしは違うっていったじゃないか! 実際違うし!!」
「アゼル、お前には言っとらんわ。私は、サイサリスに、言っておるのだ」
「は!?」
普段から仲の良い2人の女黒騎士は、互いを見合った。
しかし、ガルディンは、その一人しか見ていない。睨んではいない。
「おじ様、何かの間違いです! 私は、や、やめてください! ああ、助けて!!」
「黙れ、裏切り者! 死ねい!」
サイサリスが次の一言を言う前に、斧の一閃が、彼女の首を斬り飛した。血の飛沫と共に、その生首はボールのように弧を描いて地に落ちると何度もバウンドし、自らの髪を巻き付かせて伏せた。頭を無くした胴体もその場に崩れ落ちる。横にいたアゼルは状況が把握できず、愕然としていた。
「ああ、な、なんで、なんでだよ!? なんで、サイサリスを!?」
「お前も、そろそろ気づけよ」
「なにをだよ!?」
ガルディンはアゼルに死体を見るよう促した。サイサリスの胴体も頭も、本来なら消えてしまうはずだ。しかし、その体は残っている。
「おーじーさーまー、ひどいじゃないですかあ。いきなり首をぶったぎってくるなんてえぇ」
不気味に横たわり、髪に埋もれた生首から不気味な声が発せられた。声色違えどサイサリスの声である。
「ふん、なるほど」
「ねえねえねえ、どこから気づいてたんですか? 」
「お前はヒントを与えすぎなのだよ。まず、一回戦の時点でおかしいと思っていた。シレオストが集めた黒騎士はいずれも腕に自信のある強者ばかり。しかし、お前にはそれがまったくなく、弱虫で賢明さもないナヨナヨしたクズだった。そんなやつを、呼ぶとは思えん。若干の魔力の漏れもドス黒いもの見られたし、本来の力を隠していると、容易に推理できた」
「へええぇ、他はぁー?」
「お前は、あの時陰月に攻めることを提案したな」
「ああー攻め入らせて、罠にはめるつもりだったとでも言いぃたいんですかぁ?」
「いや、違う。お前は、自分の立場を利用して、攻めさせないようにしたのだ。弱気な人間の提案を、この私が退けると読んでいた」
「フフッ」
「それに、近くにいるのだから動きを良く知っている。ずっと殺そうと虎視眈々と見ていたのだろう? まったく、したたかな悪女めが!」
「うわぁ、ずっとわかってたんですねぇ。おじ様って、本当にイジワルだなー」
「ふぉふぉ、わしも知っとったぞい!」
「じじい、テメェもかよ。はあぁ、クソばっかですねぇ。イヒヒヒヒ! まあ、バレちゃしょうがないなあ!」
その時、サイサリスの体と頭が粒子になってフッと消えた。
ガルディンは、少し驚いて斧を構える。
「むう……」
「うーしーろだよー」
「なっ!?」
いつの間にか首もつながったサイサリスが、ガルディンの背後に立っており、レイピア剣をガルディンの腹に突き刺そうとした。しかし、歴戦の黒騎士は反応が並外れており、急旋回して間一髪(間一髪)攻撃を受け流した。
「この私が背中をとられただと!?」
「チッ、思ったより機敏じゃねーか」
「お前、眼鏡はどうした」
「あんなもんは、インチキ眼鏡だよ。わたしは、視力すごくいいってか千里眼だからねえ!」
今までのおっとりした雰囲気とは一変し、鋭く妖艶な表情を浮かべる女黒騎士。
「それが、お前の本当の姿か。面白い!」
「やわい手段を使うのはもう終っわりー! ここからは黒花の女王と恐れられた、このサイサリスの力を直に見せてあげるからねえ!」
サイサリスのレイピアが輝きだし、その姿をを轟々(ごうごう)と光エネルギーの吹き出す大剣に変えた。
「ライトソードか。今のお前が持つと禍々(まがまが)しいな!!」
「プルトンブレーカーと呼んでちょうだい! こいつで斬られた奴は傷つくだけじゃすまないよぉ!?」
「そんなことは、わかっておるわ!」
ガルディンは臆せず迎え撃つ。
しかし、もしもの時の事もちゃんと考えていた。
生え抜きの黒騎士たちやバルトリバザルを呼んだのは、処刑シーンを見せるためではなかったのである。
サイサリスの真の姿は、それ程までに警戒すべき存在なのであった。