常々不敗(じょうじょうふはい)なり陥陣営(かんじんえい)
モルドレッドを撃破したガルディンは、敵の本拠地にむけ前進する。しかし、そこに待っていたのは……
ガルディンたちは、着実に霊木の軍勢を圧倒していった。
同盟を結んだ大軍と言うだけでも強力だが、その一人一人が一騎当千の強者なのだからたまらない。
しかし、ここにその波を押し止める者あり。
それは、かの男、酔漢の高順であった。
「ぬっ!?」
ガルディンの目の前に、横一列に並んだ黒騎士達の姿が現れた。
「よ、戦場で会うのははじめてだな!」
「ふん、お前か。今日もまた酒の匂いがしておるわ。貴様のところでは酒がたらふく飲めるのか?」
「ああ。うちの頭んとこの飯はいいぜ!」
「それは、うらやましいことだ」
「へへ、思ってもいねぇことを言うなあ。しかし、君主がこんな前線に出てくるたあ、随分な自信だぜ。まるで、あのお方のようだよ」
「誰だ」
「呂布様って言う、実に強いお方がいてなあ。俺はそのお方に仕えていたんだが、まあ、自信家で暴れもので、天下無双の強さだったよ。こんなへのいち武将のより、ずっとここに居るべき存在のような気がするんだけどなあ」
「それは、おそらく黒騎士ではないからだろう」
「はは! まあ、鎧の黒さは、確かに上か!」
豪快に笑うコウジュンに、緊張の色はない。
「して、リョフよりも力劣るお主が、挑むのか?」
「そうだなあ。ぜひ戦ってみたい」
「死ぬぞ」
「さあ、それはどうかな? こんなみたくれだが、結構頭がいいんだぜ?」
「それは、意外だな」
「さあ、見せてやろう!! 我が≪陥陣営≫の圧倒的力を!!」
そう言って、コウジュンが後退しつつ指示を出すと、横並びの黒騎士達の前に輝く壁のようなものが生まれた。
「防護魔法(防護)を一斉に発動、展開しただと!?」
「どうすんだよ、おっさん」
そばにいるアゼルに聞かれるも、全線でありながら守りに全精力を注ぐような行動はあまりに予想外であったため、すぐには返答が出なかった。
「コウジュンの奴、がたいの良い割に小癪な真似をしよるわ! 叩ききってやる!!」
ガルディンは、大きな斧を振り上げると、フンと声をだし、地を裂くほどの威力を持つ衝撃波を放った。並の人間なら当たれば体が爆散するほどの威力があるその一撃だったが、一の字に並んで守る黒騎士の前に簡単に打ち負かされて霧散してしまった。
「むう」
「うっわ、すげーかたいな!」
「驚いている場合か。これは、まずいかもしれんぞ」
「え、そうなのか!?」
「これで、向こうに攻撃の手があれば、逆に押し込まれる」
ガルディンの推測は当たってしまった。並んだ黒騎士の後ろから、無数の火の矢のようなものが飛んでくる。
「うわー!」
ガルディン側の黒騎士の目に、矢が刺さり、その体を炎に包んだ。また一人、また一人と、矢の雨が黒騎士の命を奪う。
「これはいかん! 皆のもの、退却せい!! 今戦えば無駄死にだ!」
当たりの木々にも火が燃え移り、黒騎士たちを明るく照らす。勘の良い者はすぐにガルディンの言葉に従い後退をはじめたが、
残念ながら一部かはその場に残ってしまう。
「なんだあ!? 王のくせに、随分逃げ足が早いじゃねえか! 臆病者め!!」
ニンジンのような顔をしたパレオロガスという黒騎士などは、自分の力を過信し、むしろ前進をはじめる始末。
「へへっ、へへ! あいつがやらないなら、オレが大暴れしてやんよ!」
ガルディンと同じく、大斧を振り上げ、叫ぶ。
「うぉぉぉぉ!! ≪メガ・アースシェイカー≫!!」
ハンマーのように斧を地面に叩きつけると、大地が揺れ、地割れが起こり始めた。「動けない奴は大地の裂け目にに落としてやれば良い」と、彼は考えたのである。
「どぉだあ!! んっ!?」
しかし、不思議や不思議、黒騎士たちは動かない。地割れが出来ても浮いているのだ。
「な、なーにぃー!?」
「そんな簡単につぶせやしねぇよ!」
「こ、このやろう! 隠れてないで出てこいや!!」
「じゃあ、遠慮無く」
グサリ。
背後からの一撃だった。
パレオロガスの腹を1本の剛槍が貫く。
「な、なんだと、声が聞こえたのは、前方、だったはず……」
屈強な男である彼も、厚い装甲も貫通し、またたくまに地に顔をつけさせ、死の闇に瞬く間に誘う。ああ、容赦無し、容赦なき武将、コウジュンとは酒を飲んでも酒に負けず冷徹に敵を撃つ将の鑑なり。
「はあ、逃げられちまったか。こんな奴の首なんかに大した価値は無えんだよな」
そういって、死者の首をグシャリと踏み潰した。
しかし、それは瞬く間に消えてしまい。感触は不確かだった。
「ちっ、おもしろくねえな。これこそが、命の冒涜だぜ。死体ってのはいかに惨めにあつかってやるかが大事なんだ。肉団子にしたり鼻を削いだり、内蔵を引き出したりしてこそ、その価値は上がるもの。それなのによぉ、これはないぜ!」
コウジュンは、そう口惜しそうに言うと、左手の拳を強くにぎりしめる。彼の心は、まさに「不完全燃焼」であった。