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集約の地アディアルカ


「むう……?」


老練な黒騎士のまわりから、敵の気配が消えた。いや、人の気配そのものがが消えた。


「何が、起こった?」


光が止む。辺りの姿が再び見えてくる。


「どういうことだ、これは」


そこは、今までいた戦場ではなかった。そこは、茂る木々に囲まれた森のような場所であった。


黒騎士は天を見上げる。そこには茜色(あかねいろ)の空が広がっており、浮かぶ見慣れぬ大きな赤い月のような星が、こちらを見下ろしていた。


この場所は、違う。

彼の知る場所ではない。

ここは、一体何処なのか。


「おやおやおや、新しい黒騎士さんがやってきたかい」


森の中からやせぎすな中年の男がヒヒヒと笑いながら現れた。ぼろのローブのような服装は、何やら魔術師か召喚しか何かのように見えるが、いずれにしても貧弱な見た目をしている。


「何やつ」


「ああ、そんなに警戒しなさんなって。あっしは、あんたの案内人ですよ」


「あんないにん、だと? おまえのような怪しい奴にガイドを任せる気はにはならん」


「あー、大体みんなそう言うんですよね。人を見かけだけで判断するんですよね。こっちは、親切に人のいるところまで案内するだけです。ですから、その物騒な斧を下ろしてください」


「むう……」


「そうですそうです。それで良いのですよ。まあ、このパターンは今回が最初ではないので慣れてますけど。みさかいなく襲いかかってきた黒騎士さんもいたので大変なんですよこの仕事」


「きな臭い。だが、ここにいても仕方が無いか。さっさと街に案内してもらうとしよう」


「お任せくだせえ、ダンナ。あ、裏切ったりしないんで背中からバッサリとか勘弁してくださいね」


「お前のその言葉がホラでなければな」


男は、ヒョコヒョコと森に入っていったので、老練なる騎士は鎧をガシャガシャ鳴らして後ろについて行く。男の行く先は一応に道になっており、人の往来がそこそこにあることが伺えた。


まるで狐につままれた気分だ。

一体この先に何が待ち受けているのだろう。

一刻も早くあの場所に戻らなくてはならないのに、革命軍を退(しりぞ)け皇帝陛下をお守りしなければいけないと言うのに。


黒騎士の頭のなかに色々な思考が渦巻く。しかし、彼は歴戦の騎士であった。簡単に冷静さを失ったりはしない。焦らず1つずつ進めていくしかない事を理解していた。ただ、今は人のいるところを目指すことが最善であるときちんと判断していた。


「さあ、着きやした」


「……ほう……」


森を抜けたすぐ先には、白亜の高い壁が姿を現した。

近付いて見上げるとその高さは、黒騎士の故郷である帝国本土の城壁などよりはるかに高く、まるで天に届くかのようであった。


「どうです、驚きました」


「よくも、こんなものを作ったものだ。これは攻めづらい」


「中に入るには、向こうの関門で許可を得るしかありません。さあ、行きやしょう」


壁沿いに歩いていくと、確かに数人の槍を持った兵士か脇を固めた大きな門が姿を現した。黒騎士の知らぬ、獅子を象った銀色の兜を被っている。案内人の男は、恐れることもなくテケテケと彼らに近づき、首にぶら下げたプレートのようなものを見せた。


「新しい黒騎士を連れてきやした」


「そうか、御苦労だな」


老練なる黒騎士も、近づく。常に威圧感を放つ男を見ても、兵士たちは恐れおののかなかった。まるで、よくある光景のように対応する。


「黒き騎士殿、集約の国アディアルカへようこそ。」


「聞いたことの無い国だな」


「そうでしょう。この地は、他の数多の世界の隙間を渡り行く国なのです」


「そうか、では私は自らの住む世界から飛ばされて来たと言うことか」


「ご理解が早いようで。詳細はこの壁の内側で聞くとよろしいでしょう」


「わかった」


開かれた大きな門をくぐる。

黒騎士の目に飛び込んできたのは白を基調とした美しい町並みであった。正面の大通りは、岡の上にある大きな建造物に向けて伸び、その上でたくさんの人々が行き交い、会話し、(にぎ)わっている。見るに、大都市か小国くらいの規模はあった。


「どうです? すごい都でしょう」


「随分と平和なものだな。こちらはその気分に(ひた)れぬと言うのに」


「ああ、故郷の事ですか、安心してくだせえ。あなたがここにいる間、向こうの時は進みません」


「何」


「ここの時は、他の世界の時とは切り離された存在でしてね。ここで何百年経とうが、向こうでは1秒も進みません」


「奇っ怪な話だが、それが本当なら、私は随分ととんでもない事に巻き込まれたようだな」


「ええ、これから始まるとんでもない事に巻き込まれることになるでしょう」


案内人は愉快そうに笑った。

黒騎士はそれを見て不愉快に思った。


「さて、黒騎士様。まずはこの国のシステムについて説明しましょう。まずは、総合受付に参りやしょうか」


「なんだそれは」


「黒騎士様がこの国を自由に利用するには手続きが必要なんでやす」


所謂(いわゆる)国民審査みたいなものか。私の国もやっている」


「では、あの、ひとつだけ黒い建物に入りますよ」


案内人に促され、指定の建物に入る。黒騎士に入れと言わんばかりに黒塗りの壁をした建物は周りから浮いた存在だった。しかし、中に立ち入ってみると、中はカウンターがある普通の店のようであった。


「バックス、新しい黒騎士さんですぜ!」


カウンターの奥に座る太ましい男に対し、案内人は近付いてなれなれしく話しかける。


「今日はこれで3人目だな。しめて3000ガレブか、いい商売だなカトヤン」


「まったくでやす」


聞いたことの無い通貨単位であったが金もうけになることは黒騎士にもすぐにわかった。だが、待たされる事が嫌であったためすぐに斧を案内人の背中に軽く突き当てて脅す。


「何の事やら知らぬが、こちらを差し置いて世間話をそれ以上

続ければ貴様の首を飛ばすぞ」


「いひひ、ごめんなさい。わかりましたから、斧どけてください」


「解れば、良い」


黒騎士は勿論、本気で殺意を抱いてはいなかった。こんなところで騒ぎを起こすことにも、非力な案内人を軽率圧倒的暴力で握りつぶす事も意味がないし下衆であると考える理性は持ち合わせていたからだ。


ただ、この初歩的な理性を簡単に裏切る出来事が起こることを彼はまだ知らない。


「えへへ……改めて、私はカトヤンと言います。まあ、案内が終わったらさほど縁もないと思うので忘れても結構でやすよ」


「なら、忘れる。余計なものは記憶しない」


「ハッキリキッパリしてますなあ、ダンナ。もはや清々しいレベルでやす。それは、さておき、この太っちいオヤジさんが黒騎士管理人のバックスでやす」


「黒騎士管理人?」


「ま、詳しいことは本人にどーぞ」


話を振られると、パン屋でもしていそうな太い男はガハハと豪快に笑った。


「やーやー、このど蓄生が迷惑をかけてすいませんなあ!」


「気にするな……それで……」


「黒騎士管理人ってのは、このアディアルカに()ばれた黒騎士達へのブラックナンバーの配布と名簿管理をするものだ」


「また知らぬ単語が出てきたな。ブラックナンバー?」


「まあ、わかりやすく言えば、黒騎士たちに番号をふってこの国に滞在する権利や決定戦参加権利を与えるのさ。今からその証であるブラックナイト・ナンバーカードを発行するんだが、それを持っていれば国認定の黒騎士として宿や飯も補償される」


「こんな知らない国に務める気はないぞ……それより、また解らぬ単語が出たな。決定戦とは何だ?」


「ああ、それがもっとも重要な部分さ!」


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