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Black Knights ~史上最強の黒騎士王決定戦~   作者: 束間由一
第三黒:裏切りの荒野~黒騎士の国~
18/28

引導(いんどう)の方舟(はこぶね)、冥府(めいふ)の軍勢

ガルディンは、「猩水」の軍勢を率いるバルトリバザルと同盟を結んだ。それと平行するように、他の軍勢も動きを見せる。最初に滅びる国は……


「しまった」


彼は悔いる。

自らの判断が遅かったことを。



最早もはや、勝算はない」


彼は、嘆く。

自らに待つ結果が不変であろうことを。


「しかし、ただでは死なぬ。1つでも多くの首を取ってやる」


彼は、怒る。

自らの不幸ふこう、慢心、弱さ。そして、それにつけ入ったあだなす者達に。



「も、もうだめだ! ぎゃああ!」


あたりに新鮮な血のにおいが漂いだした。

錆びた鉄のような匂いで、思い出す。

この世界に来る前も、こうだった。


この世界に呼ばれなければ、彼は死んでいた。

配下を皆殺しにされ、絶望の中で死ぬ。はずであった。


だが、このアディアルカに召喚され、一粒いちるの望みが生まれた。最後まで生き延びれば、運命は引っくり返る。


しかし、結果は、変わらなかった。

結局は負け犬は、負け犬でしかなかったのだ。


これが、どこまでも、我が運命か。

彼は覚悟を決めた。



「貴様が、この国を統べるものか」


目の前に現れたのは、金髪の美しい髪をなびかせる眼帯の女騎

士シュターナルであった。手に持つつるぎはどれだけの血を吸ってきたのか、純粋な殺意を放っている。しかし、その殺意は、ある意味において邪悪さがないと、彼は感じ取る。そして、彼女を見ると、小さく笑みを浮かべた。


「左様、我が名はカゲトラ。もはやここで散る命だが、最期まで足掻くとしよう」


二本の刀のやいばを交差させ、構える。

奥で燃える炎が、その磨かれた刀身とうしんに映り、ゆらゆらと幻想的な輝きを見せた。それを見て、シュターナルもまた、剣を構える。


「手合わせか、良いだろう」


「すまぬな、黒き二つ風と呼ばれしこの刀捌かたなさばき、その目に焼き付けるがいい! 〈暗黒双空斬あんこくそうくうざん〉!!」


先に動いたのはカゲトラだった。

二刀流から放たれたのは、禍々しい黒い真空波。それが、シュターナルに襲いかかる。


キンッ!


しかし、彼女が剣を一振ひとふりすると、真空波は容易く切り裂かれる。


「我が一撃が、こうも簡単に」


「これが全力か」


いな! まだ、やれる!!」


そう、言った彼だったが。わかっていた。

もう、終っていることを。


彼の2本の刀を突き破り、シュターナルの魔剣が体にズプリと突き刺さる。体に、走るのは痛みではなく「闇」だった。


それは優しく。安らかな感覚で彼を包み込む。

自らの犯してきた罪を包み込みいやすような、かき消してくれるような、まるで母胎ぼたいに帰すような、温もり。


「そうか、闇とは」


彼が呟いて間もなく、シュターナルは、剣を切り上げ、上半身を切り裂く。散血さんけつとともに彼の意識は完全に虚空に溶けた。「克陽」の勢力は、こうして、最初に滅亡したのであった。所属していた多くの黒騎士達はこの瞬間すべて消されてしまった。シュターナルは、消えずに床に残されたカゲトラの「王の腕輪」を、床から拾い上げると、静かにつぶやく。


「先に行くのが不幸とは言えぬ。こうして生きることが地獄かもしれないのだからな」


彼女は、目的を果たし、すぐに自らの所属する「汰土」の国へと戻り、王のところに赴いた。


その灯籠とうろう橙光とうこうのみで照らされる薄暗い広間ひろまには、12人の黒騎士と、玉座に座る髑髏どくろのような目まで隠れる兜を被ったマントの男の姿があった。


「ご苦労だったな」


「はい……」


「やはり、私が出る必要もなかったか」


彼こそが「冥府の王」を冠する黒騎士ハデス。放たれる瘴気しょうきは、それだけで人を殺すほどだが、シュターナルをはじめとして誰一人怯まない。馬の頭を模した黒い被り物をした司祭風の男はそれどことか、手を叩き喜びをあらわす。


「ブラボウ! すばらしい! さすっが我が王が見込んだだけはある!」


うま、軽々しいぞ」


「ハデス様、いや、だって、見てるだけで1国つぶれちゃったんですよう? ラッキーじゃないですか」


「よくそんな分かりやすいペテンが言えたものだな。どうせ、貴様の力量なら同じことができただろうに」


「いやー、おだてないでくださいな。私はただのはかりで物事を量るだけしか能の無い、しがない凡才ですよアハハ!」


その横で犬のような仮面を被った男が、フンと鼻を鳴らした。


「つまらん。このアヌビスも留守番をする事になるとは」


「気にしない気にしない。べっつに誰が行っても良かったからランダムで選んだだけだって」


「馬あ」


「ちょっと、掴みかかってこないで! ハデス様、このワンコ暴力的ですっ!」


「貴様はさっさと殺したいんだよ! そのなめきった首を切り取ってやろうか!」


「あんたの頭部も人のこと言えないでしょうに?」


「これは神聖なる仮面なのである! その間抜けづらとは違う! それに、貴様は人じゃあないだろ」


「そうですねー」


「こんのやろおぉぉ、馬鹿ばかにしやがって!」


「ええ、馬ですから」


馬頭うまあたまに掴みかかるアヌビス。それを止めたのは、黒髪をポニーテールにした武者のような鎧を着た女戦士だった。


「つまらぬことで喧嘩けんかをするな、アヌビス。そなたは神の格たる者であろうに」


「チッ」


「舌打ちはからすを呼ぶ。やめておけ」


「ビテン。てめえ、いい子ぶってるが血の匂いがプンプンしてるんだよ」


「落ち着け」


「へいへい」


犬面の黒騎士は、ピューと口笛を吹く。

静かになると、ハデスは再び口を開く。


「シュターナル、その腕輪はお前が持っておけ」


「良いのか。忠誠を誓っているわけではないと言うのに」


「戦利品だ。どうせ、また手に入る。もし、他の王の腕輪に触れ、裏切ろうとも、取り返すだけのこと」


「随分な自信だ」


「それだけの力が、この国にはある。実際、ここに居るなかでお前とハンニバルが出向いただけで1国が滅んだ」


「だが、例外はあるだろう」


「ああ、あの早々に同盟を結んだ2国だな。あそこをえて狙うのも面白いが、あの老仙ろうせんについて少し動きを見たいのは確か。先に他で遊ぶとしよう」


「遊ぶ、か」


「命とは本来軽いものだ。しかし、人と言うのはいちいちそれを重くしようとする。そんな暇があったらもっと生を楽しめばよいものを、わざわざ血の池で泳ぐのだからな」


「どうやら、こちらとは視点が違うようだ」


「だろうな。しかし、お前とて、人間離れしておろう。明らかに命のしつが違う。まるで魂が玉鋼たまはがねにでも包まれているかのようではないか」


「冥府の王、あまり慢心まんしんせぬよう気を付けろ。克陽は倒したが、他はこれほど甘くはないと断言できる」


「ああ、きもに、命じておくとしよう」


ハデスは、右腕で胸を叩いた。

鎧に包まれたそれらは、鈍い音をたてる。


彼が余裕を見せるほど、汰土たいどの軍勢は協力な面子めんつが揃っているのは確かであり、また、彼の実力も神に近いものがあった。


対して、シュターナルは、この状況にあぐらをかく気持ちは微塵も無い。なぜなら、彼女には引っ掛かる存在がいたからだ。


それは、ガルディンである。

まだ、剣を交えていないのに、あの男に感じる不思議な感覚。知らない存在であるはずなのに、何かを「知っている」ような、デジャヴとはまた違った既視感。しかし、その理由はまだ知り得ることはできない。


彼女は、ハデスの居城を出ると、その隻眼せきがんで偽りの青き空を見上げた。偽りの風が彼女の金髪をなびかせる。


「どちらかが死ぬ。その時にこの答えはでるのだろうか」


黒騎士は静かに問う。

しかし、それに答えるものは無い。


その答えは、これから先に築かれるしかばねを乗り越えた先にしか無いのであった。


一方、そのガルディンは、バルトリバザルと共に「霊木」の国に攻めこんでいた。


「ほう、貴様と戦うことになったか」


彼の前に立ちふさがるのは、1回戦で共闘した青年黒騎士モルドレッドだ。


「聞き及んでますよ? あなた様が大将だと。やはり、ガルディン殿にはリーダーの才があるようですね」


「来るか?」


「ああ、確かに、今なら裏切ることが可能ですね」


他の勢力に「転属」するには、その勢力の王の腕輪に触れればよい。つまり、ガルディンが側にいるのだから容易なのだ。


「ですが、そんな野暮やぼ真似まねはしない」


「ほう」


「ガルディン殿は、いずれ立ち塞がる存在になる。ならば、ここでってしまうがいさぎよいと思いまして」


「はは! それは、よい心意気こころいきだ。ならば、その勇気に報いようではないか」


「手加減無用でおねがいしますよ。まあ、おわかりとは思いますがね」


双方、笑みを浮かべながら血の臭いが深く染み込んだ武器を構えた。


回りには何人も黒騎士がいるが、その一騎討ちを、止めようとするものはいない。止める必要もなく、止めるべきではない戦いであることを、皆、すぐに気づいたのである。


「いくぞ! 貴様の命、私があの世に送ってやろう!!」


「それはこちらの台詞せりふ!! 父をも殺したこの聖剣で、あなたも殺してみせる!!」


ギイン。

鈍い金属の音が辺りに響き渡り、それが連奏れんそうをはじめた。


そして、その響鳴きょうめいは、どちらかが果てるまで続く運命さだめにあった。



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