勢力考察
戦略作戦会議を開くガルディン。
敵対する国々とはいかなるものか。
偵察隊は、無事任務をこなし帰ってきた。
彼らを含めて、翌日、かりそめの太陽がわざとらしく空の高くに昇ったとき、城の大会議場に多くの黒騎士を集めて、ガルディンたちは今後の動きについて話すこととなった。
「みなさま、お集まりいただきありがとうございます」
司会はサンチョが務める。
彼は話術に長ける黒騎士で、聞きやすいイントネーションと声質、柔らかい言い回しができるため、彼はこう言う仕事には適役だった。ガルディンは、自分は話し方に威圧感がありすぎる自覚があり、サイサリスのおとなしい話し方では頼りないと判断したのだ。
「まずはじめに、現在の勢力図について説明いたします」
サンチョは、会議室の北の壁に設置された巨大な黒い板にむけ、リモコンのような機械のボタンを押す。すると、黒い板に地図がバンと写し出された。
それに、サンチョはレーザーポインタのような赤い光の点を出す棒を使って指図をはじめる。
「大体はすでにご存知かと思いますが、現在、我々を含めて7つの勢力がこの地に拠点を構えております」
「陰月」の国のリーダーは、マルグレーテ。
高いカリスマ性を持つ赤髪の絶世美女。
「猛火」の国のリーダーは、ガッシュレン。
血の気が多いが人情味のある長身の仁侠者。
「猩水」の国のリーダーは、バルトリバザル。
何千年も生きたと言う老騎士で、仙人の域に達した者。
「霊木」の国のリーダーは、ファステス。
魔法に長け智謀にも長ける策士。
「熾金」の国は我々。
「汰土」の国のリーダーは、ハデス。
死の神と恐れられる、大鎌使いの不気味な男。
「克陽」の国のリーダーはカゲトラ。
二刀流を極めし忍の志士。統率力に優れる。
「いずれも、我々同様、猛者揃いに違いありません。これらを一手に相手すれば勝算は薄いでしょう」
うなずく者、そんなことはないと自信ありげに笑うもの、反応はそれぞれ異なるが、この時点で質問や反論は出なかった。
「よって、わかりやすい方法として、一部の国と同盟を結ぶと言うものがあります。勝ち残ることができる勢力は1つではないのでもちろん、全ての国が我々の要求を飲むとは考えがたいので、話が通じると有力視される勢力を選ぶことになります。」
「まどろっこしいなあ!」
黒騎士の1人ベルガンは、猪豚のような見た目に違わぬ短気な男で、この程度の話しすら我慢できない輩であった。
「どうせ、あては決まってンだろ!? さっさと言えやこのデブ!」
「まあまあ、落ち着いてくださいませ」
「俺なあ、長げぇ話が嫌いなんだよ! もっとちゃっちゃと話せや!」
「仕方ありませんなあ」
この会議の後、ベルガンはガルディンに半殺しにされたのだが、いまの彼は知るよしもない。
「我々作戦擁立班の結論を言いますと、水の国ですね」
「ほう、そりゃなぜだ?」
「リーダーである老仙バルトリバザルは、長い年季を生きておるようで、まこと含蓄があり。おいそれと襲いかかるような浅はかな人格でない様子。先日、我々の送った諜報員が見つかり捕まったのですが、かの老仙は殺すどころか、なんと、飯を食わせて釈放したのです」
「なんだそりゃ、罠じゃねえのか?」
「普通なら、そうでしょう。しかし、かのご老体はこう言ったそうです。わしは逃げも隠れもせん、次からは堂々と、いつでも好きなように探りに来るが良い、と」
「はぁぁ!? 意味がわかねえな」
「それだけ、余裕があるのでしょう。戦士としての腕は未知ですが」
騎士の1人、金髪に美麗なる容姿をもつ黒騎士バルノーが、そうですねと爽やかに肯定の声をあげた。
「先の竜との戦いでも、あの方は退かずに真っ向から戦っていました。倒すには姿には至りませんでしたが、私が見るにあれは本気を出していなかったように思います」
「ほう、その情報は心強いですな」
「話すに値するのではないかと思います」
「彼はこのように申していますが、みなさま、異論はございますかな?」
はいと手をあげたのは、サイサリスだけであった。
「ほう、作戦擁立班のメンバーであるあなたがご意見されますか」
「あ、はい。その、バルトリバザル様も確かに良い候補ですが、月の国のマルグレーテ様も情報によれば同盟の候補にあがるかと」
「確かに、打ち合わせの時にも二択のうちの一択でしたが、多数決で次点となったんですよね。なにか、お考えがあると?」
「その、月の国は、我々よりも戦力的に下の可能性が高いからです」
「ああ、そうでしたな。すでに1度、汰土の国と交戦し、敗走したと聞きいております。被害も出ていて、他の国より状況が悪いかと」
「なので、あえて助け船を出すかたちをとるのもありかなと思います」
「なるほど、苦境を脱するために同盟を結ぶというのは、向こうからしてみたらありがたい話かもしれませんなぁ」
「成功率は高いと思います」
一見したら一理あるようであったが。サイサリスの意見は、即座に「ダメだ」の一言で一蹴された。その言葉を放ったのは、ガルディンであった。
「それは、愚なり。弱者と手を繋ごうものなら、その繋いだ手をぐいと蟻地獄に引きずり込まれるのが世よ)の性というもの。よって、手を組むなら、水の国の爺さんのほうを選ぶが正しいと断言しよう」
「は、はっきり、おっしゃいますね」
「サイサリス。俺達がいまおかれている状況に、甘さ、弱さは絶対的に不要だ。意見を出す意気は買わんでもないが、貴様の選択肢はあまりに浅慮。もう少し考えてものを言え」
「そ、そうですか」
サイサリスは元々元気がないのにさらに元気がなくなり口をつぐんだ。しかし、それはガルディンの意見に従うという意思表示でもあった。
「よし、ならば、私が直々にかの国に使者として向かうとしよう」
「なななんと!? 王が自ら国を離れると!? それはあまりにも危険です!! この国にいます黒騎士たちの多くは、反乱離反のリスクを持つものたちなのですよ!?」
まさかの言葉に慌てる軍師に、ガルディンは余裕をもって答える。
「サンチョよ。これは、礼儀と言うものだ。むこうの御大将に適当に使者を向けるのは失礼だ。おそらく、そんな失礼をしては、見た目穏やかな老仙だが許すまい。同盟決裂どこるろか殺して首を返すもあり得る」
「まことですか」
実際、ガルディンの考えは的を射ていた。
後に、実際に本人を目の前にしたときに、彼は自らの判断が正しかったことを知ることになる。
「ゆえに、サンチョ。お前とサイサリスには留守を任せることにする。なに、今現在に謀反を起こすのは余程の阿呆だ。この場にいようがいまいが、少し考えれば無意味なのがわかるはずよ」
「で、では、誰か護衛につけますか? つけますよね?」
「ああ、そこの坊主頭と鶏冠頭、それにそこの太ましい奴を連れていくとしよう」
「即決ですか!? 大丈夫ですか、そんなにあっさり決めてしまって」
サンチョがびっくりしたのも無理はない。ガルディンが選んだ三人は、あまり知性も感じられないし忠誠心も無さそうな見た目の、「三バカ」とでも呼んでしまいそうな連中だったからだ。
「適当に決めているわけではない」
「ですが」
「私を信じろ。こいつらは、最前列に立っていた奴らだ。姑息な手を使う奴は、こんな目立つところには基本的には立たぬ。なぜなら、危険だからだ。お前がさっき言ったように、今は1つの勢力にいるが、決して一枚岩ではなく味方と信頼するのはあまりに危うい。私がここにいる者達を次々に殺戮する可能性も無いとは言えぬのだ。最終的には敵になるだろうから頭を減らしておこうとか、恐怖を与えて従わせようとかな」
「ガルディン様、悪い冗談を言いなさりますなあ」
「ははは! なに、言葉の理だ。椅子に座ってあんな不味い非常食ばかりも不健康だから、向こうで少しはましな飯を食ろうてくるとするわ!」
ガルディンの豪快に笑いは、会議室に響き渡る。
大胆かつ的確な即断実行は、歴戦の黒騎士ゆえに出来る所業。彼が国を発ったのは、そのすぐ翌日の事であった。