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Black Knights ~史上最強の黒騎士王決定戦~   作者: 束間由一
第三黒:裏切りの荒野~黒騎士の国~
15/28

まずいぜ非常食

1回戦で多くの脱落者を出した「黒騎士王決定戦」。次なる舞台は如何に。



「ガルディン殿!」


「何だ」


「早速軍勢が攻めてきましたよ!〈猛火〉の軍勢です!」


王座に座り、ガルディンは太っちょでちょび(ひげ)の黒騎士サンチョからの報告を聞く。


「早すぎる。浅はかな動き方だ。迎え撃つぞ! 返り討ちだ!」


「おじ様」


王座の右横に立つ眼鏡の女騎士サイサリスが、自ら赴かんと立ち上がったガルディンを制止した。


「指揮官であるお方が、いきなり先陣をきらなくてもよろしいのではないですか」


「何をまどろっこしい事を言うか。腕が鈍るわ」


「おじ様の実力はわかっています。ですが……ここは他のかたに任せた方が」


「ぬるい! その、他の奴等がどこまで信用できるかわかるまい。奴等とて実力者なのだ。どこまでやれるか見張る必要があろう」


「そうですが」


「ですがは1度で良い!」


「は、はい……」


しゅんとする、サイサリス。しかし、ガルディンを指揮官に推薦したのは彼女なのである。こうやって言い負かされる事をわかっていて、敢えてそうしたのだ。


黒騎士王決定戦第2回戦は団体戦であった。

仮想の世界に転移させられ、そこで「克陽(こくよう)」「陰月(いんげつ)」「猛火」「猩水(せいすい)」「霊木(りょうぼく)」「熾金(しきん)」「汰土(たいど)」の7つの国に黒騎士はほぼ均等に分けられ、互いに攻めあう国とり合戦で、滅ぼされたらその国の黒騎士は全員「脱落」し命を落とす。そして、これは3つの国に絞られるまで続き、そこまで残った国の黒騎士達のみが次に進めるのだ。勿論、そこまでに命を落としたら、例え残った国の所属者でも「脱落」である。ガルディンは7つの国のうち「熾金」に所属することになった。



「最悪、他の国に寝返る可能性もあるからな」


「ですが、あまりこちらが不信感を抱くのも逆に心証を悪くするかもしれません。ここは代わりに仮想兵(シュミレティア)を出してください」


「あんな玩具(おもちゃ)が役に立つのか? 時間稼ぎくらいしかできまい」


仮想兵(シュミレティア)とは、この仮想世界に召喚できる心を持たぬ兵士達の事である。人間型もあればゴーレムやドラゴンのような外見のものもあり、本拠地で無尽蔵に召喚できるが、種類によって時間がかかる。弱い人形なら3分程度だが、大型の魔物だと1日かかり、また召喚用の魔方陣は各勢力1つづつしかないため戦略性がある。なお、他の国を占領するとその国の魔方陣も使えるようになり、効率をあげる事が可能だ。


ただ、総じて知能が低く動きも単調なので、殆どの黒騎士達にとっては恐れる程の相手にはならないのであった。


「おじ様……」


「ふん。臆病なことだ。まあよい、ここは素直に聞いておくとするか。サンチョ! そう言うことだ! 薙ぎ倒してこい!」


「はっ!」


不摂生な出っ腹を揺らし、ちょび髭の黒騎士はひょこひょこと玉座の前から走り去った。それを見届けると、ガルディンはサイサリスに再び話しかけた。


「不服か?」


「いえ、それでこそ指揮するものであると思います」


「ふん、まるで被虐を好む変質者のようだな。まあ、無駄な揉め事をさせずに速やかにこの俺を()えた点は評価に値しよう」


「あ、ありがとうございます」


各国の指揮者「タスクリーダー」の選出は、その国の中で決める。兵士の召喚や回復装置など各国の主要設備の使用権は「王の腕輪」を身につけたその黒騎士のみとなるのだが、当然多くの黒騎士はその立場を欲する。1回戦で減ったとはいえ下手な都市並の人数がいるためいるのだから、決めるのは大変な事だ。しかし、早く決めなければ。他の国に先手を許してしまうリスクが高まる。なのでいかに早く「タスクリーダー」を上手く納得がいくように決められるかが重要なのだ。サイサリスはそれをすぐさま理解し、優しそうな見た目を最大限に活かして柔らかい物腰で先のガルディンの判断力と統率を皆に知らせあっさり指導者に就かせるよう説き伏せたたのだ。なので、ガルディンもサイサリスがただの弱虫でないのは百も承知で、その「力量」を理解しているから、軍師のようなかたちで彼女を側に置くのであった。


「むう、待つだけでは腹が減る。ひとまず、何か食べるか」


「おじ様、試作用の非常食(ミール)を食べてみてください」


この世界では、食べ物も「召喚」で手に入れることができる。

この権限も「タスクリーダー」にあり、1度に人数分の非常食(ミール)を召喚できるのだ。


ただし、種類は選べず召喚する者によって味や内容が変わる。

ガルディンの召喚したのは、透明な袋に詰められた黒くて円いクッキーのようなものな乾燥物だった。ガルディンは、その1枚を袋から取りだし、口に入れる。


「これは……」


「どうですか」


「何という味気あじけなさだ。ほとんど味がしない」


「えっ? 私も1ついただいてもよろしいですか?」


「構わぬ。良ければ全部食うが良い」


ガルディンが袋ごと差し出したそれを受け取り、サイサリスもそのクッキーのようなものを取り出しカプリと口に挟んだが、感想は同じであった。


「本当です。これは残念ですね」


「これを主食にするのは厳しいな。動物でも狩って料理した方がまだ良いな」


「おじ様、この世界の生き物は食べない方がよいと思います」


「なぜだ?」


「いやな予感がします。最悪な事態を招くかも」


サイサリスのこの予想は当たっていた。

この仮想世界の生物、植物はほとんどが猛毒を持っており、食べたら即命を落とす。大丈夫なのは水くらいと言っても過言ではなかった。実際に雑食な黒騎士や単独行動を好む黒騎士の何人かはこれで既に命を落としている。


「こんなもので食いしのぐのか。辛いなそれは。他の奴に任せたいものだ」


「そうですよね。けれど、残念ながら今我々の軍勢では、おじ様しか食べ物の召喚はできないのです。リーダーの座を他に譲るか、あるいは」


「あるいは?」


「他の国を滅ぼして〈王の腕輪〉を手に入れるしかありませんね。そうすれば召喚の権利をおじ様以外の人も使えるようになると言う話でしたから」


「なるほど、腕輪の数を増やせば良いわけだな。ならば、早々にどこかの国を滅ぼしたいものだ」


「〈猛火〉の軍勢を退け、偵察隊が戻ったら一度会議を行いましょう」


「うむ」


その後、何だかんだ言いながらサイサリスとガルディンは非常食をひとりで食べきったのであった。慣れてくると意外と癖になる味がと言うのがこの非常食だったのである。後に「ガルディンクッキー」と呼ばれ愛されることになろうとは、今の二人には到底予想できる事ではなかった。


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