最古老
今回の黒騎士達の中で最高齢なのは、齢8035歳のバルトリバザルと呼ばれる男だ。
小柄で、仙人のような白い眉毛とあご髭を長く生やした風体。顔に刻まれた皺は、もはや1つの作品のように彼の深い内面を現していた。
「このような事に巻き込まれるとは、フハ、人生とは面白きもの也」
雲をも貫かんとする巨大な岩の頂上にあぐらをかいて座り、纏う黒い袈裟の袖を夕風に波打たす。それは神々しく、ひとつの悟りを拓いた者である事を身をもって語るかのようである。
「多くの時代を彼方まで見た。多くの生き死にを見た。しかし、我が眼には、まだ新鮮な色が入ってくる。そのなんと素晴らしく贅沢なことか」
彼の傍らに岩に刺さる銅色の打剣。
彼と最も付き合いの長い存在であった。
「ジュグよ。友よ。お主はこの流れをどう見る」
剣は、最古の老にのみ聞こえる声で語る。
最古の老は、それを聞き、うんうんと頷く。
「ふむふむ、根元悪か。まあ、奴が動くまでは放っておくのがよかろう。今はまだ、この生を楽しめばよいのじゃ。なに、そうそう簡単には死なんて。イエスマンばかりでないこの極めて幸福な状況を、わざわざこのワシに与えてくれたのじゃ。賜ったものをすぐに無くすのは勿体ない。そうじゃろ」
それを聞き、剣は見えない声で笑った。
山合に眠らんとする夕日を揺り起こさんばかりに。
最古の翁も、数本しかない前歯を見せて、顔をくしゃくしゃにして笑う。
「しゃしゃしゃ。まこと愉快、まこと愉快至極なり。さあ、これからどうやって儂を楽しませてくれるかのお」
超人の域に達した者の内は、尋常ならざる好奇心と、エネルギーに充ち溢れていた。その有り余る力の矛先がどこに向かうのか、それは彼すらも知らぬ事であった。