その部屋の片隅で
「何でこんな奴と同じ部屋になっちゃったんだろう」
髪形と顔を合わせるとキノコのように見える痩せぎすの黒騎士ファリペンは、ハーと溜め息をついた。
「こんなことなら相部屋なんか選ばなきゃ良かった」
部屋の片隅に、壁にもたれて、恐怖の鎧騎士はまるで死んだように静かに佇んでいた。恐ろしい竜すら怯えたその瘴気は今は鳴りを潜め、さしずめ脱いだ鎧が立て掛けてあるように見えるが、しかし、わずかに漏れる禍禍しいものは隠しきれない。
「運が悪いなおれ」
サンジスカの寮は、黒騎士達の一時の住み処の選択肢の1つである。男性のみが入居可能で、女性は女性専用の寮に入ることとなっている。メリットは、無償で朝昼夜三食が提供され、部屋にはトイレがあることだ。ガルディンのような孤高な男には好まれないが、黒騎士の中には人としゃべくるのが好きな者もいる。ファリペンもその一人だった。ただ、彼には他にも理由がある。
「いいオトコが入ってくると思ってたのに。そりゃないよ」
ぼそりと呟く。
そう、彼は同性愛者なのである。
男と同棲できると言うことが、彼にとってはメリットなのであった。特に筋骨隆々で屈強な男は、彼の「大好物」だ。
「せーめて、タイプじゃないにしても、やさ男子でいいから顔出しくらいはしてほしいよね。全部鎧で隠すとかありえないホント最悪ぅ」
命知らずか、はたまた無神経か、臆すこともなくフェリペンは彼に話しかけた。
「なーなー聞いてる? ちょっとは反応してほしいなー? おれ達同居人だぞ?」
鎧の騎士は微動だにしない。
それを見てフェリペンは頭を掻く。
「もー、このいけず! いいよいいよ他のオトコ探すから! あんたより格好いいやつ探す!」
彼が拗ねたような表情を浮かべたその時だった。
鎧の騎士の内側から、声が漏れる。
「……許サジ……ああ許スマジ……」
「うひゃっ!? いきなりなんだよ! ビックリした!」
「アア……憎い……憎い」
「な、なんだよ? ちょっと愚痴っただけだろ? 」
「殺ス……殺ス……」
「いやいや、そこまでする? おれがちょっとムカること言っただけで殺しちゃうの? どんだけ短絡的なの?」
「……マディアクター……」
「は?」
鎧の騎士は、フェリペンに話しかけてはいなかった。彼はどこか他のところにある「憎むべき対象」にその怨嗟の言葉を投げつけているのだ。
「……マディアクター……キサマハカナラズ地獄二落トス……焼カレ貫カレ吊ルサレタ無念……無念……無念ヲ……」
「もしもーし」
「…………」
「あ、また黙った。何なのこれ? もーわけわかんない!」
フェリペンは、なんかうんざりしたため鎧の騎士から離れた。そして、窓の外の生い茂る木々を見る。
「見てろよ~おれの運命のオトコを必ず探しだしてやるんだからな! そして優勝したら、そのオトコと結婚する!」
彼の心は燃えていた。
それはある意味まっすぐとも言えるが、こと一般的な視点おいて見れば、それは凄まじくグニャグニャクルクルポコポンポンなものなのであった。