街人ABの会話
アディアルカのとある街角で、二人の男が話す。
一人は小柄で小太りのヌボーっとした外見、一人はひょろ長ギョロ目。彼等は普通のアディアルカ国民であり「黒騎士王決定戦」の近くて遠い傍観者である。ここでは、前者をA、後者をBと呼ばせていただき、その会話を抜粋する。語りはじめはAからである。
「いやあ、終わったらしいねえ」
「直に観られなかったのが残念だね」
「いや、危ないだろ。すっげえ強い竜がいるんだぜ?」
「あ、そうか」
ギョロ目男Aはキシシと笑った。
小太りのBは、大して面白くもないAの冗談ではあったが、とりあえずつられて笑っておいた。
「人数絞られるまでは我慢だなあ。トーナメント戦ができるまでいけば俺達も見れるってはなしだろ」
「どんなのが残るかなあ」
「可愛い女の子がいいかな」
「夢を見るなよ。だいたいオッサンやヤバイ奴しか残らねえと思うぜ?」
「それはやだなー」
「強い奴は大体そんなもんだ。いいじゃないか、そう言う無煩悩な男の世界も」
「うーん。でも、さっき見た眼鏡のとってもかわいい女の子も黒騎士みたいだったけど。多分1回戦勝ち残ったんだよね」
「え、それは本当か?」
「まあ、運良く勝ち残ったのかもしれないけど」
「なぜそれを早く言わない! 突撃してくる!」
「わー、今男の世界を語ってたのに手のひらクルリンだね」
「ほらほら、どこで見たのか案内してくれ!」
Aは、Bに手招きをしながらカツカツ歩き出した。
まったく呑気なものである。
呼び出された黒騎士達がいかなる者なのか、アディアルカの民の殆どは正しく理解していない。彼等にとっては、まだ娯楽
、アイドルのような存在でしかなかった。彼等がなぜここに呼び出されて何の目的で振るいにかけられるのか、その結末に何があるのか、何をもたらすのか。
いまはまだ知る由もない。