呆気ない幕引き
黒騎士王決定戦第1回戦。
謎の鎧騎士の手によってオメガドラゴンはいとも容易く倒される……
ドラゴンが倒された。
それは、「第一回戦」が終了したことを意味する。
黒騎士たちの足場が、また、光りだした。
そのなかで、ガルディンは近づいてきたモルドレッドと話す。
「まったく、納得がいかぬな」
「だな」
「こちらの策は残念ながら失敗に終わった」
「まあ、生き残ったから良いでしょう」
「ふん。あそこの怪物も仕留め損ねたんだぞ」
恐怖の騎士は、止まっていた。
電池の切れた玩具のように。
「生ける屍よ、今回は良いところを持っていかれたが、次はそうはいかんぞ」
「まあ、いずれ倒さなきゃならんだろ。あいつも、おっさんもな」
「小僧……」
「次は敵か味方かわからないが、またよろしく頼むぜ」
「ああ、敵ならば容赦はせん」
「へいへい」
そこで、一斉転移が起こった。
ガルディン達は、開会式のときに立っていた場所に一人も誤りなく再び戻されたのだ。
「みなさま、よく生き延びられましたね」
そして、すぐさま主催者の純潔者レオシストが話を始めた。
「予想よりも、早く、多くでしたね。これは期待以上でした。これは、この先が楽しみですね。ひとまずこの場はここで解散とします。皆様ひととき疲れをお癒しくださいませ。第二回戦は三日後に行いますので、再びこの場にお集まりくださいませ」
黒騎士たちは、かたや寝床にかたや酒飲みにとバラバラに散っていく。ガルディンが向かったのはやはり、酒のある場所だった。
「はっはっは! そりゃ、棚ぼただったなあ」
「ああ、納得の行く話ではないがな」
「そんなに恐ろしい輩がいるとは! やりがいがあるじゃねえの」
「まあな」
この前の酒場で、広めの机に酒を並べて、ガルディンはコウジュンはここまでのことを語らう。そのそばには、あの小柄な女黒騎士と眼鏡の黒騎士も座っていた。
「何にしても、おかげで無駄なサツジンを減らせたのはよかったよな!」
「お前らは未成年だろうが。さっさと家で飯事しておれ」
「ひでー、こちとらちゃんとした大人でい! なあ、サイサリス」
「あ、いえ、私はお酒は飲みませんので」
「ふーん、そうなんだ」
「ジュースで十分です」
「子供だなあ。サイサリスってホント黒騎士なんだよね? 間違えて召喚されたとかじゃないの?」
「はい。故郷でも、よく疑われます」
きゃびきゃぴする年若き女子の会話から目をそらして、ガルディンは窓際の席に座る、あの眼帯の女騎士の姿を見た。彼女も、生き残っていたのだ。ただ、それはまったく予想外なことではなかった。
「ん、なんだガルディンのオッサン? あの女の方ジーッと見て」
「やかましい」
「あー、もしかしてホの字? いや、すみにおけないな」
「下衆な勘繰りをするな」
アゼルにからかわれていると、眼帯の女騎士シュターナルは立ちあがり、意外にも、向こうからガルディンに近付いてきた。表情は相変わらず無に近い。
「先日は、肩代わりしてくれたそうだな。礼を言う」
「ふん、安い酒代なぞ返してもらうほど貧乏性ではない」
「そうか」
それだけの会話でシュターナルは場を離れようとしたが、ガルディンが引き止める。
「そのかわり、聞いても良いか」
「……良いだろう」
「ならば聞く。そなたの仕える国は?」
「王都エゼルハイム。もう、無くなってしまったが」
「……それは、つまり、滅ぼされたと言うことか」
「ああ。正確には、私が滅ぼしたようなものだ……」
「ほう」
その理由は、ガルディンにとって興味深い事であったが、愚問であると察しそれ以上の追求は避けた。
「国をも揺るがす力か。くれぐれも軽々しい死にかたをするなよ、娘」
「分かっている。少なくとも、あんな見かけ倒しな竜程度に倒されることはない」
「随分な自信だ。その自信が本物なら、奴も斬り伏せられそうだな」
「誰だ、それは」
「縁があれば出会うだろうよ」
シュターナルはそうかと言うと、また席に戻り、静かに酒を飲みはじめた。ガルディンもそれを見届け、今度は飲み逃げはなさそうだなと確信すると、喧しい小娘たちと再び祝勝会らしきものを再開したのであった。
第一の試煉は呆気なく終わった。ように見えた。
しかし、その裏で、大量の黒騎士が倒れ命を落とした。
生き残った者たちは、その犠牲に花を添える余裕も慈悲もなく、次に待ち受ける戦いに身を投じる事になるのであった。
第1章はここまでです。
ここまで読んでいただき誠にありがとうございます!
第2章は外伝を挟んで開始いたします。