決戦
「アレスター、お主との戦いもこれが最後になろう」
「ああ、死んでいった者のため、必ずここで倒す! 覚悟しろ、ガルディン!」
黄金の鎧を纏った若き青年騎士はその月の装飾が施された白銀の大剣の、黒き鎧を纏った大柄で右頬に十字の傷が刻まれた壮年騎士は漆黒の大斧の切っ先を、互いに向け重心を落とし構える。
エランゼ帝国と反乱軍の長きに渡る戦いは、反乱軍側が帝国の本拠地アズダルムに乗り込み、ついに終焉を迎えようとしていた。沢山の戦士達が死に、帝国側の猛者はここにいる老兵を残すのみ。ただ、この老兵は一騎当千の実力を持つ。まさに、最後の砦なのである。
「うおおおぉぉぉ!」
反乱軍のリーダーであるアレスターの魂込めた剣撃が帝国最強の黒騎士を襲う。しかし、彼は青年より遥かに場数を踏んできた歴戦の勇士だ。そう簡単に攻撃を食らうほど甘くはない。
「ぬうん!」
豪快な人振りで、難なく相手を吹き飛ばす。帝国の運命が託されていると言っても過言ではない黒騎士の攻撃は、重く、深い。空中で体を後転させ、体制を立て直したが、着地時に衝撃が体を走り、青年は膝をついた。
「ぐっ……」
「立て小僧、その程度で終わりなどと言うなよ!」
「当たり前だ!」
剣をズサリと大地に突き刺し、立ち上がる。そして、黒鎧の騎士に対して左手を突き出し、5本の指を真っ直ぐに広げ手のひらを敵に向けた。
「大いなる光の神エウラーよ、仇なす者に裁きの耀きを! ≪セイント・ディレイション≫!」
突如としてアレスターの目の前にいくつもの魔方陣が現れ、そこからそれぞれ極太の光線が飛び出し曲線を描いて黒騎士にむけて飛んで行く。並の兵士なら到底かわすことができない猛攻である。だが、老練な黒騎士は違う。
「小癪! ぬるいわ!!」
ブン!
ブン!
ブン!
黒焔を纏わせてた斧を水平に振り回すだけで、光線は意図も容易く凪ぎ払われる。守りに関してこの黒騎士に優る者はいない。1つの要塞よりもはるかに堅固なのである。
「我が暗黒斧の血痕と化せ! ≪ダークネス・ドラゴニウス≫!!」
斧を振り上げると、そこから黒い炎が竜のような姿を描き、真っ直ぐにアレスターを狙う。しかし、青年もそこでまともに攻撃を貰うほどに柔ではなかった。
「負けられないんだあ!」
青年は、その場で瞬時に黒騎士の技を真似て、光の竜を繰り出す。神がかった才能が、反射的に技を繰り出したのだ。
「何だと!?」
竜と竜、意地と意地ががぶつかり合う。
辺りはまばゆい光に覆われた。
「うおおおおおおぉぉぉ!」
「ぬううううううぅぅぅ!」
もうすぐ勝敗が決する。
帝国と反乱軍の運命が決まる。
周りにいたものはそう確信していた。
しかし、まばゆい光は、その予想を、大幅に、裏切ることになったのだった。