表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/105

第4話 初めての街

 ブー、ブー。

 今日は学校が休みなので、ぐっすりと眠っていた俺は、マナーモードにしていたスマホの振動の音で目を覚ます。

 時計を見てみると、まだ午前四時だった。

「たく、誰だ…こんな時間に電話をかけてくるやつは?」

 俺はベッドから出て、机の上に置いてあるスマホを手に取る。

 画面を見ると、そこには『柊花音』と表示されていた。

 とりあえず俺は電話に出て、スマホを耳に近づける。

「もしもし?」

『ようやく出たか。遅いぞ。今こちらは大変なことになっているというのに…』

 遅いぞって…こんな時間に電話かけるやつの台詞じゃねえぞ。

「で、何の用だ?こんなに早い時間に電話をかけてきたんだから、相当な用事なんだろうな?」

『えっ?いや、それは…』

 俺はちょっと威圧的に尋ねてみたが、そうした途端に柊は困惑したような声を出す。

 ……そんな声を出されると、俺が悪いみたいな気がしてくるからやめてくれ。

『えっと…和樹は、今日は何か予定はあるか?』

「いや、特にないけど…」

『そ、そうか!じゃあ私と出掛けないか!?』

「……それって、前みたいに時空の裂け目を探すとかそういうことじゃないよな?」

 少し前に、俺は柊に付き合ってほしいと言われ、ありもしない時空の裂け目の探索を手伝わされたことがある。

 当然見つからなかったのだが、柊はその時『意味のある時間だった』と言って帰っていった。

 俺には何の意味もない時間だったが…

『違う!今回は街に行って、買い物に付き合ってほしいんだ!』

「買い物?何を買うっていうんだ?」

『えっと、新たなる戦いのために必要な道具を手にいれるためだ!』

 こいつは何を言っているんだ?

「それなら一人でいいんじゃないか?それか楓と行けば…」

『だ、駄目だ!今回は和樹が一緒でないと…』

 ……何でかはわからないが、理由はちゃんとあるみたいだな。

「仕方ねえ。一緒に行ってやるよ」

『ほ、本当だな!嘘じゃないな!』

「嘘じゃないから落ち着け…」

 朝っぱらからテンション高いな…

『そ、それじゃあ正午に駅前で待ち合わせよう。約束だぞ、約束だからな!』

「そんなに念を押さなくてもわかってるから落ち着け」

『よし。じゃあ駅で会おう。ではな』

 そう言って、柊は通話を切った。

 正午なら、まだ時間はあるよな…

 眠気に襲われた俺は、再びベッドに潜り、二度寝した。

 

 

 

 午後零時十五分

 二度寝のせいで待ち合わせ時間に遅れた俺は、急いで駅に向かった。

 駅に着くと、以前来ていた白いワンピースを着た柊が待っていた。

 こちらの存在に気づいた彼女は、俺に向かって手を振る。

「悪い柊!待たせちまったな」

「まあ少し待ったが、あの時私も遅れたし、気にしなくてもいいぞ?」

 確かにあの時は一時間も待たされたわけだが、それで帳消しにするというのはなんか気分が悪い。

「そんなわけにいくか。お詫びに、街でなんか買ってやるよ」

「えっ!?だが、私もあの時遅れた詫びはしてないし…」

「楓の誤解を解いてくれたんだから、それでいいだろ?」

「うう…なんかずるい…」

 小声で何か呟く柊。

 短い付き合いだが、柊はこういうときに何を言ったか尋ねると怒り出すのはわかっているので、今の呟きには触れないでおこう。

「じゃあ早く行こうぜ。次の電車、もうすぐだろ?」

「そ、そうね。急がないと遅れる」

 こうして俺たちは、電車に乗って街に繰り出した。

 

 

 

 俺は今まで街に来たことがなかった。

 特に出掛ける理由もなかったし、面倒臭かったからだ。

 だから、街というのがどういう場所か知らなかった。

 だからだろう。駅から出たときに見た景色に感動を覚えたのは。

「へぇぇ…すごいな、ここは…」

「あれ?和樹ってもしかして、街に来るの初めて?」

「ああ…初めてだ。すごいな…こんなにたくさん店やビルが並んでる…」

 ここに来れば大体の物は揃うのではないかと思ってしまうほどの店の数が、この街に並んでいた。

 俺は柊に誘われたことを初めて感謝した。

「それじゃあ早速買い物に付き合ってもらうけど、いい?」

「ああ!色々街も巡ってみたいし、大歓迎だ!」

 俺は柊に導かれるまま、街のなかを歩き出した。

「あった。まずはここね」

 柊が指差したのは服屋だった。

「お前、服とか買うのか?」

「失礼な!女の子なんだから服くらい…!はっ!い、いやその、今来てる服が古くなってきたから、新しい装備をと思っただけで、その…」

 話してる最中にモジモジし始める柊。

 トイレかと思ったが、以前それを言って怒られたので、黙っていよう。

 行きたくなったら自分から言い出すだろう。

「さ、さあ行くぞ!早くしないと日が暮れてしまう!」

 別にまだ一時にもなってないんだから、日が暮れることはないだろう…

 柊が何やら上機嫌で店内に入り、俺もその後に続いて店内に入る。

 

 

 

 俺はさっき、どんなに服選びに時間がかかっても日が暮れることはないと思っていた。

 だが、それは浅はかな考えだった。

「ねえ和樹?どの服が似合うと思う?」

 こいつは店に来てから二時間、ずっと服を選び続けている。

 もう数着は買う服を決めたみたいだが、どうやらまとめ買いをすると安くなるというキャンペーンをやっているらしく、あと一着を選んでいるのだが、なかなか決まらないらしい。

「俺は女の服のことはわかんねえよ。やっぱり楓を呼んだ方がよかったんじゃないか?」

「いいから、和樹が可愛いと思った服を言ってくれればいいの!」

「て言われてもなあ…俺は今の服が一番似合ってると思うが…」

「な!?あ、貴方、そんな急に…!」

 服装を誉めてやった途端に、柊は顔を耳まで真っ赤にする。

「わ、私が聞いてるのは新しい服のことよ!誰も今の服をどう思ってるかなんて聞いてないでしょ!」

 確かにそうだが、正直にいうと白いワンピースは、清楚な感じが出てて一番柊にあってる気がするんだけどな。

 まあ中身は清楚とは言い難いから、真に似合っているかと言われれば微妙だが。

 とりあえず決めてあげないと柊も納得いかないみたいだし、適当に選ぶか。

「じゃあこれなんかいいんじゃないか?」

 俺が手にとったのは、肩の部分が紐になっている黒いワンピースだ。

「黒か…わかった、試着してみる」

 そう言って、柊は俺からワンピースを受け取り、試着室に入っていった。

 そして待つこと十分。

 試着室のカーテンが開き、そこには黒いワンピースを着た柊が恥ずかしそうに立っていた。

「ど、どうかな?似合ってる?」

「お、おう。似合ってると思うぞ…」

 今の柊は、色気を放っていて色々まずい気がする。

 正直なところ、柊の姿を見た瞬間、凄くドキッとした…

 やっぱり柊って、黙ってるとかなり可愛い方だよな…

 本当に、中二病にしておくには惜しい人材だと思う。

「ほ、本当に似合ってる?」

「ああ、ちゃんと似合ってるよ」

「わかった、じゃあこれにする」

 柊はそう言ってカーテンを閉める。

 しばらくすると、最初の白いワンピース姿で試着室から出てきて、黒いワンピースを含めた計四着をレジに持っていった。

 

 

 

 会計を済ませ、店を出た俺たちは、次に行く店を、近くのベンチに座りながら話していた。

「和樹はどこか行ってみたい店はないのか?近い場所なら案内できるぞ?」

「て言われてもなぁ…街に来るの初めてだし、何があるかもわからないからなぁ…柊の行きたい場所でいいぞ」

「でも、それじゃあ和樹が退屈なんじゃ…」

「別に、お前といるだけで退屈だとは思わないがな。お前の中二病に合わせるのは疲れるからな…」

「中二病ではない!私は本当に力を秘めた特別な存在だ!」

「……そういえば、公園で魔法を見せるって言ってたけど、あの時どんな魔法を使おうとしたんだ?」

「ふっふっふっ…聞いて驚け…私はあらゆるものを分裂する魔法が使える!あの時見せようとしたのは、サイコロの分裂だ!」

「…………………」

 俺は言葉が見つからなかった。

 自信満々に言ってるけど、あの時こいつが見せようとしたのってただの手品ってことじゃねえのか?

「……はぁ」

「な、なぜため息をする!」

「いや、やっぱりお前といると退屈しないなって思っただけさ」

「……誉めてないだろ」

 口を尖らせてそう言う柊。

「まあ、お前の行きたい場所がないなら、一ヶ所行ってみたい場所があるんだが…」

「ほう、どこだ?案内してやろう」

「CDショップに行きたいんだが…」

「よしわかった。案内してやろう」

 こうして俺は、柊の案内でCDショップに向かった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ