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第2話 中二病少女が生み出す誤解

 柊が俺に付きまとうようになってから三日が過ぎた。

 彼女は毎日飽きずに俺にわけのわからない用語を聞かせてくる。

 適当に反応していれば、飽きてどこかに行くかと思っていたが、それが間違いだということに今さら気づいた。

 最初のうちは、周りも柊に声をかけていたのだが、中二病発言を連発する彼女の言動についていけず、離れていった。

 そして柊は、そいつらには声をかけない。

 つまり、俺が反応するだけで、あいつは喜びを覚えて俺にしつこく付きまとってくるのだろう。

 選択を誤った…一体どうすれば…

 今から無視をしても効果はあるのだろうか?

「ふふふ…今日も会ったな、ブラッドナイトよ…」

「学校なんだから当たり前だろ」

 登校中に、俺は柊に話しかけられた。

「ていうかブラッドナイトって何だ?俺は本田和樹だ。そんな変な名前じゃない」

「変じゃない!ブラッドナイトはかっこいいだろ!」

 柊は顔を思いきり近づけてきて、そう言った。

「ブラッドナイトはどんなに血に染まろうとも己の道を突き進む英雄なんだ!だから決して変な名前なんかじゃない!」

「わかった!わかったから落ち着け!顔が近いから!」

 俺の言葉を聞いて、柊は顔を赤くする。

 おそらく頭が冷えて、今の状況を把握したのだろう。

「ご、ごめん…」

「いや、わかればいいんだ…」

 何だか恥ずかしくて顔を見てられない。

 しばらく沈黙していると、柊が重い空気を破った。

「そういえば、日向さんは?普段は一緒に登校してるのに…」

 こいつ、意外とそういうところ見てるんだな。

「あいつはまあ、色々あって今日は別々なんだよ」

「そうなんだ。そっか…」

 実は柊に屋上に連れていかれたあの日から、俺たちが付き合っているという噂が密かに流れていた。

 柊の方はどうだったか知らないが、俺は最近、その事でクラスメイトから弄られていた。

 まあ、それをきっかけに、話をする相手は少し増えた。

 だが、楓はその噂を信じ、『あたしと一緒にいたら誤解されちゃうでしょ?』と不機嫌気味に言われた。

 まさか本当に時間をずらしてくるとは思わなかった。

「なあ、ブラッドナイト?ちょっと話が…」

「そのブラッドナイトってのはやめろ。人前でそう呼ばれるのは恥ずかしいから」

「そ、そうね。敵がどこにいるかわからないし、用心した方がいいものね」

 絶対に勘違いしているが、そういうことでいいだろう。

 呼ばないという結果は同じはずだ。

「では和樹。この前言ったことを覚えているか?」

「この前っていつの?」

「私たちが初めて会った日のことだ。あれから魔法は使ってはいないな?」

 そういえばあのとき、そんなことを言っていた気がする。

「ああ、使ってないよ。ていうか使えないからな」

「つかえない…まさか和樹、魔法など頼りにせずに、肉体で戦うタイプなのか…?」

「そういう意味の使えないじゃねえ!使い方を知らないって意味だよ!」

 本当に疲れるな!こいつの相手!

 こんなやつの彼氏になったら、毎日大変だろうな…

「なるほど、魔法を使う必要がなかったから、今まで勉強してこなかったのか」

 まあ、確かにこの平和な世界で魔法なんか使う必要性を感じなかったし、間違ってはいないのたが…

「では今日の放課後は私が魔法を教えてやろう!これで貴方はもっと強くなれるのだ!どうだ、嬉しいだろう?」

「いや、全然?」

「なぁ!?」

 柊はすっとんきょうな声をあげて、目をパチパチさせている。

「な、何故だ?魔法が使えるようになるのだぞ?憧れたりしないのか?」

「お前どうせ使えねーだろ」

「ごふう!」

 どうやら今の言葉は、柊の心に刺さったようで、その場で地面に手のひらをつける。

「ふ、ふふふ…」

 そしてその体勢のまま、不気味な笑いをする。

「アーッハッハッハッハ…そこまで言われたら見せてあげるわ!私の魔法を!」

 体を起き上がらせて、そんなことを言う柊。

 ていうかマジで魔法を使う気か?

 とてもそんなことできるとは思えないが…

 そんなことを考えてると、柊は俺に人差し指をさしてこう言った。

「今日の放課後、公園に来なさい!そこで私の魔法を見せてあげるわ!」

 それを言い残して、柊は学校に走っていった。

 ……とりあえず放課後、公園に行ってみるか。

 

 

 

 四時限目の授業が終わり、昼休みの時間になった。

 ……今度こそ上手くやらないとな。

「なあ楓、一緒に飯食おうぜ?」

 俺は今、楓の誤解を解くために、休み時間を使ってアプローチしている。誤解を放っておいたら、この先関係に溝ができそうな気がしたからだ。

 よくはわからないが、楓は俺と柊が付き合っていると勘違いして、不機嫌になっているようだ。

 だったら、その誤解を解けば、関係は元通りになると踏んでいるのだが…

「私はいいよ。それより、柊さんと一緒に食べてあげたら?恋人同士なんだし」

 さっきからこんな感じで、まともに話し合ってはくれないのだ。

「なあ、何でそんなに不機嫌なんだよ?言ってくれなくちゃわかんねえよ」

「別に、あたしはいつも通りだよ」

「だったらこっち見て話せよ」

 そう言っても、楓は顔をこちらに向けようとはしない。

「おい、いい加減に…」

 俺は楓の肩を掴み、無理矢理こちらに顔を向けさせようとした。

 すると、楓の瞳から涙が零れていた…

「お前、それ…」

「やっ。これは、ちが…!」

 楓は涙を裾で拭き取り、こちらを見る。

「ごめん…」

 しかし耐えられないといった感じで、教室から飛び出していってしまう。

「おい!待てよ!楓!」

 俺は楓を追いかけたが、見失ってしまい、探してる間に昼休み終了のチャイムが鳴り響いた。

 

 

 

 帰りのホームルーム、担任の話によると、楓は早退したそうだ。

 あいつの家に行って、話をするべきか?

 でも、あんな顔を見せられて、何を話せば…

 俺は帰り道で公園を見て、柊との約束を思い出した。

 ……柊に誤解を解いてもらった方がいいのかな?

 何を言っても、俺の声なんか届かないだろう。

 だったら、別のやつに誤解を解いてもらうしかないかもしれない。

 となれば、とりあえず目印になりそうな場所まで行って、待つとするか。

 というわけで、俺はブランコに座りながら待つことにした。

 そして待つこと一時間。

 ……遅い、一体何をしてるんだ?柊のやつ。

 迎えに行こうにも、あいつの家を知らないので、こうして待つことしかできない。

 俺がイライラし始めたとき、背後から声が聞こえた。

「す、すまん!遅れた!」

 柊の声だ。

「遅いぞ、柊。一体何を…」

 してたんだ、と言おうとして言葉を失った。

 そこにいたのは、白いワンピースを着ていて、いつもの中二病のオーラを感じない、ただの美少女だった。

 こいつ、本当に柊か?

 そんな失礼なことを考えていると、柊が顔を赤くしながら尋ねた。

「えっと…待った?」

 何でそんな彼女みたいな雰囲気でそんなことを聞くんだよ。

 こんなものを見せられると、ドキッとしてしまう。

 こいつってもしかして、中二病がなくなればモテるんじゃないか?

 俺は止まった脳を無理矢理回転させて、返事をする。

「思ったより遅かったな。何してたんだ?」

「えっ!?えっと…それは…ふ、服を選ぶのに時間がかかって…」

「何だって?」

「な、何でもない!」

 聞こえなかったから聞き返したのに、逆ギレをされてしまった。

「そ、それより、早速私の魔法を…」

「なあ、柊。お願いがあるんだ」

 俺は柊の話を遮って、用件を切り出した。

「お願い?」

 柊は、話を遮られたことを怒らずに、耳を傾けてくれた。

「頼む。楓の誤解を解いてほしいんだ」

 俺は頭を深く下げてお願いした。

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