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第16話 破られた約束

 俺たちが約束をした数日後。

 小野寺が話したいことがあるとのことで、俺は公園に来ていた。

 しかし、どれだけ待っても彼女が来ることはなかった。

 当時の俺は、スマホどころか携帯すら持っていなかったため、連絡が取れなかった。

 約束の時間から二時間が経過した頃、俺は体調を崩したか心配になり、小野寺の家に向かった。

 小野寺の家に到着し、インターホンを鳴らす。

 しかし、どれだけ待っても、誰も出ることはなかった。

 俺は仕方なく自分の家に帰り、明日幼稚園で小野寺に用を聞くことにした。

 

 

 

 翌日。

 小野寺は幼稚園には来ていなかった。

 先生に理由を聞くと、どうやら風邪で休むと連絡があったようだ。

 俺はその日、なけなしの小遣いでリンゴを買って、小野寺の家にお見舞いに行った。

 インターホンを鳴らすが、今日も誰も出る気配がない。

 さすがにおかしいと思った。

 小野寺が風邪なら、両親のどちらかが診ていると思う。

 俺は庭の方に向かい、窓から中の様子を確認した。

 リビングが見えたが、ここには誰もいないようだ。

 本当に誰もいないのか…

 そう思ったその時、トイレの水が流れる音が聞こえた。

 もしかして、トイレしてたからインターホンに反応しなかったのかな?

 そう考えて、玄関前に戻り、再びインターホンを押す。

 今度こそ誰か出てくれるはず。

 俺はそう思っていた。

 しかし、どれだけ待っても誰も出てこない。

 明らかにおかしい…

 中に誰かいるのは明らかなのに、誰も出ないのはどういうことなんだ?

 俺は原因を探るため、どこからか中に入ることは出来ないか模索する。

 しかし、当然玄関や窓の鍵はかかっていて、他に入る方法はなさそうだった。

 どうすれば中に入れるのか庭で考え込んでると、二階の窓から小野寺が顔を出した。

「小野寺!」

 俺は思わずそう叫んだ。

 それで俺の存在に気がついた小野寺は、窓を開けて俺の名前を呼んだ。

「お前どうしたんだよ?インターホン鳴らしても出ないし、そんなに重い病気なのか?」

「ち、違うの…そういうわけじゃ…」

 小野寺は、何か言いたくなさそうに暗い顔をする。

「言いたいことがあるなら言えよ。約束したろ?お前のことを守るって」

「……そうだね。うん、実はね…」

 俺との約束を思い出し、何かを言おうとしたその時、小野寺の表情が一変した。

 そして…

「和樹君!後ろ!」

「後ろ?」

 そう言われ、疑問を抱きながら振り返ると、小野寺の父親が俺の方を向いて両手を合わせながら降り下ろした。

 その時、俺の頬に何かがかすった。

 小野寺の父親が持っているものを見てみると、鉄パイプが握られていた。

「えっ?」

 俺は状況が全く飲み込めなかった。

 なぜこの人は鉄パイプなんて持っているのか。

 なぜそれを俺に向けて振るったのか。

 当時の俺は、怖いという感情よりも、何が起きているかわからなくてパニックになった状態だった。

 そんな中、小野寺の父親が発した言葉は…

「ちっ。外したか…」

 その一言で、俺はようやく恐怖の感情が芽生えた。

 今の一言で、あの一振りが俺を狙ったものだとわかったからだ。

 俺は小野寺の父親から急いで離れて、ある程度の距離が開いたところで向き合う。

「なんで、俺を狙ったんですか?」

 俺は、若干震えた声でそう尋ねた。

「なんで、ねぇ…お前、茜のことをつけ回ってたみたいじゃないか。だからだよ…あいつに近づく害虫は、一匹残らず蹴散らしてやる…」

 その言葉には、憎しみの感情が込められていたのが、当時の俺にも伝わってきた。

 俺は震えた…

 怖かったからだ…

 当時の俺は小野寺の父親の言葉がどういう意味だったかはわからない。

 だけど、この人が俺に向けている感情は、いやというほど感じた…

「本当は穏便に済ませるはずだったが、見られたのなら仕方がない…痛い目みてもらうぞ!」

 そう言って、小野寺の父親は俺に向けて鉄パイプを振り下ろす。

 震えていた俺は逃げようとしたが、膝カックンされたようにバランスを崩し、転んでしまう。

 そのおかげで鉄パイプに当たらずに済んだが、二度目の攻撃が俺を襲った。

 俺は体を反転させてそれをかわし、慌てて距離をとる。

「ちょこまかと…大人しくくたばれよ。それが茜のためなんだからよ…」

「……小野寺のためって…どういう意味ですか?」

 小野寺の父親の発言は、俺にとって聞き捨てならないものだった。

 すると、こんな答えが返ってきた。

「どういう意味だと…決まってる。茜は高嶺の華ということだ。お前とは釣り合わない存在なんだよ…だから、お前との関わりを断ち切るために、幼稚園を休ませた」

 この発言は、娘を愛する感情からきていたのだろうが、当時の俺にはさっぱりわからなかった。

「なのにお前はここまで来てしまった…なら、もうお前を消すしかない!」

 小野寺の父親はそう言って、俺に駆け寄り、鉄パイプを振るう。

 俺は無意識の内に、左腕を前に出して鉄パイプを防ごうとした。

「ぐっ!があ!」

 腕に鉄パイプが当たった瞬間、鈍い音が聞こえた。

 腕の骨が折れたのだ。

 俺は痛みに耐えられず、左腕を抑えながら木によしかかった。

 俺は泣きそうになっていた。

 逃げようとも思った。

 だが、小野寺の叫びが、その考えを断ち切った。

 

 

「もうやめてよ父さん!もうこんな酷いことしないで!」

 

 

「酷いことだと…俺はお前のためにやっているのだぞ」

「こんなの、全然私のためなんかじゃないよ!和樹君を傷つけるのが、どうして私のためになるの!?絶対おかしいよ!」

 小野寺の悲痛な叫びが、俺の心を震わせた。

「そうか…ではまず、お前から調教する必要があるのか…」

 そう言って、小野寺の父親は玄関に向かった。

 おそらく、小野寺の部屋に行くつもりだろう。

 今のあいつに、小野寺の部屋に行かせたら何をしでかすかわからない。

 絶対に止めると、決意した。

「待てよ」

 俺の一言に、小野寺の父親は足を止めてこちらを向く。

「行かせねえよ…小野寺は、絶対に守るって約束したからな…」

 俺の言葉を聞いた彼は、怒りを露にする。

「子供が何をカッコつけてる…茜は俺が守る…お前は帰れ…茜の幸せを願うならな…」

「そんなこと、出来るか…」

 今の小野寺は、辛そうだから。

 だから俺は、こんなところで逃げるわけにはいかなかった。

「そうか…ならば、二度と立てないようにしてやる!」

 小野寺の父親は、そう言って俺に駆け寄る。

 俺もそれに合わせて、あいつに駆け寄った。

 小野寺の父親は鉄パイプを振り下ろし、俺はそれをかわした。

 そして、右の拳をやつの顔面に打ち込んだ。

 俺はこのとき、やったと思った。

 しかし、俺は右腕を掴まれてしまった。

 俺はこのとき、相手との力量の差を見誤っていた。

 幼稚園児の俺が、真正面から大人にぶつかるなど、自殺行為だったのだ。

 小野寺の父親はニヤリと笑い、鉄パイプをゆっくりと上にあげる。

 俺は何とか腕を払おうとするが、力では全く歯が立たなかった。

 小野寺の父親は、抵抗できない俺の頭に、鉄パイプを降り下ろした。

 頭に衝撃が走り、俺はその場で倒れてしまう。

 だんだんと意識が薄れていったせいか、痛みはあまり感じなかった。

 しかし、このままではあいつが小野寺の部屋に行ってしまう。

 わかっているのに体が動かなかった…

 だんだんと薄れていく意識の中で、小野寺の悲痛な叫びを聞こえた気がした…

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