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第15話 出会いと約束

 俺が小野寺と出会ったのは、幼稚園だった。

 あのときの俺は、心の底から楽しめることが見つからず、園内をぶらぶらとしていた。

 そんなとき、他の園児にいじめられていた小野寺を見つけた。

 俺はそのいじめっこたちが気に入らず、一発殴ってやったら泣いて逃げ出していった。

 俺は小野寺に、大丈夫かと声をかけたが、返事はなく、そのままどこかに行ってしまった…

 これが、俺たちの出会いだったんだ…

 

 

 

 その次の日。

 また小野寺はいじめっこの標的にされていた。

 俺が止めに入ると、あいつらはばらばらになって逃げ出した。

 小野寺の方を見ると、あいつも姿を消していた。

 いつの間にか、小野寺のいじめっこを追い払うのが、俺の日課になっていった。

 そんなある日、小野寺は俺に初めて口を利いた。

「ねえ…どうしていつも、私を助けてくれるの?」

 その時俺は、どう答えるか迷った。

 ただあいつらが気に入らなかっただけで、それ以上の理由はなかったからだ。

 そんな中で、俺の返した言葉はこんなものだった。

「ただの気まぐれだよ…」

 この日を境に、俺たちは少しずつ話すようになった。

 

 

 

 それからの日々は、いつもより楽しく感じた。

 小野寺と一緒に駒で遊んだり、絵を描いたり、給食を食べたりした。

 時々だが、小野寺の家に遊びにも行った。

 ある日、俺は好奇心である質問をした。

「小野寺ってさ、何でいじめられてたんだ?」

 彼女は、辛そうな感情を抑えるような声で答えた。

「たぶん、私に抵抗する力がないからだと思う。私がどんなに抵抗しても、意味がないことを知ってるから、みんな私に寄ってくるんだと思う」

 小野寺の言葉を聞いて、彼女の苦しみが伝わってきた。

 そして、俺は苛立ちを覚えた。

 自分より弱いからいじめるようなやつらに…

 だから、教えてやろうと思った…

 やられる側の気持ちを…

 

 

 

 俺は次の日、小野寺をいじめていたメンバーを幼稚園の裏に呼び出していた。

 そこで俺は、そいつらをボコボコにしてやった。

 小野寺の気持ちを、こいつらにわからせてやるために…

 数十分たった後、俺以外のやつらは全員倒れていた。

 そんな状況を、小野寺に見られた…

 当時の俺は、小野寺に嬉しそうに経緯を説明した。

 だけど、その時に小野寺が俺に言った言葉は…

「和樹君の馬鹿!私は、こんなの望んでない!」

 そして小野寺は、その場を走り去っていった…

 俺にはわからなかった…

 これでもう、いじめられることはないのに…

 どうして小野寺は、あんなことを言ったのか…

 その日から、俺と小野寺の距離は遠のいた。

 遊びに誘っても断られ、すれ違う時も廊下の端を歩くようになった。

 

 辛かった…

 

 苦しかった…

 

 どうして小野寺は、俺から距離をおくのか。

 

 どうして小野寺は、あの時あんなことを言ったのか。

 

 わからないのが、辛かったんだ…

 

 ある日、俺は思いきって小野寺に聞いてみることにした。

 俺は給食が終わった後、小野寺を の腕を引っ張って外に出た。

 その時の小野寺は抵抗していたが、それは弱々しいもので、あまり抵抗とは言えるものではなかった。

 小野寺が言っていた、抵抗しても意味がないと言った理由がわかった気がした。

 外に出て、俺は逃げられないように小野寺の両肩を掴んで尋ねた。

「なあ、どうして俺を避けるんだよ…避けるにしても、理由を教えてくれ…」

 そんな俺の問いに、小野寺はこう言った。

「やだったの…和樹君が、誰かを傷つけるのを見るのが…私のせいで、傷つける立場になってしまったのが…」

 その時の小野寺は、涙をぼろぼろと溢し、顔もくしゃくしゃだった。

 その時、俺は知った。

 俺がやったことは、ただ小野寺を傷つけただけだったのだと。

 いつの間にか、俺の手からは小野寺の肩を掴む力は抜けきっていた。

 そして、小野寺に一言、謝罪した。

「悪かった…お前の気持ち、ちゃんと理解してなかった…」

「う、ううん!私こそ、何も言わずに冷たい態度をとって、ごめん…」

 こうして俺たちは、仲直りをすることが出来た。

 

 

 

 それからしばらくした後、小野寺と一緒にいるとドキドキすることがあった。

 この気持ちがどういったものなのかは、当時の俺にはわからなかった。

 ある日、トイレから教室に戻ると、小野寺の姿がなかった。

 彼女もトイレかと思ったが、その時、俺は気づいた。

 いつも小野寺をいじめていた連中もいないことに…

 俺は急いで、いつも小野寺がいじめられていた、幼稚園の裏に向かった。

 そこでは、いつもよりも過剰ないじめが行われていた。

 俺に気づいたいじめっこたちは、この前に俺にボコボコにされたときの憂さ晴らしだと言っていた。

 俺は怒りを露にし、いじめっこたちに殴りかかろうとしたとき、小野寺を人質にしてきた。

 そして俺は、いじめっこたちの気が済むまでサンドバッグのように殴られ続けた。

 やがて気が済んで、いじめっこたちが立ち去ると、そこに残っていたのは痛みで立つのもやっとな状態の俺と、そばで大泣きをする小野寺の二人だけだった。

「ごめんね…私の…私のせいで…こんなことに…」

 違う、これは天罰なんだ…

 小野寺の気持ちを考えず、自分の感情だけで動いた俺に対する…

 そして、俺は願った。

 

 

 彼女を守る力が欲しいと…

 

 

 

 小野寺の家に遊びに行ったとき、テレビの画面は歌番組が映っていた。

 小野寺はそれを、目を輝かせて見ていた。

 そして、『私も歌手になりたい!』と言い出した。

 すると、リビングから香織さんが出てきて、小野寺にこう言った。

「歌手は大変よ?大変なことも、辛いことも多いし、茜には無理よ」

「なれるもん!頑張れば、絶対になれるもん!」

 このとき、小野寺が自分の意見をはっきり言うのは珍しかった。

 だから、俺もそれに協力したくなったのだ。

「だったら、俺が守ってやるよ!」

「「えっ?」」

「俺が小野寺を守る!お前が歌手活動で怖い目に遭ったら、そのときは絶対に俺が守ってやるよ!だから、お前は歌手を目指せ!」

「……本当に?本当に守ってくれるの?」

「ああ、絶対に守ってやる」

 このときの小野寺は戸惑っていたが、同時に喜んでくれているのも伝わった。

 こうして俺は、小野寺と約束をした。

 何があっても、絶対に守ると。

 

 

 

 その数日後。

 小野寺の父親が単身赴任から帰ってきた。

 その人はとても家族思いで、優しい人だった。

 俺が遊びに来ているのに、小野寺は父親の方にばかりかまって、ちょっと妬きもちをやいたものだ。

 それだけ小野寺も、父親のことが大好きだったのだろう。

 小野寺の父親は、俺にも優しく接してくれて、とても明るく、裏表のない印象の人だった。

 

 

 だからこそ、あんなことになるなんて、予想できなかったんだ…

 

 

 まさか、この人が原因で、俺たちが離ればなれになってしまうなんて…

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