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第13話 誘拐されたステラ

「小野寺がいなくなったぁ!?」

 午前十時。

 ライブ会場に呼ばれた俺は、香織さんから小野寺が行方不明になったことを告げられた。

「そうなの…控え室で待ってるはずのあの子を迎えに行ったら、誰もいなくて…」

「電話には出ないんですか?」

「ええ…どうやら電源が切られているようで…」

 てことは、もしかしたら誘拐ってことなのか?

「会場のどこにもいないんですか?」

「ええ…しらみつぶしに探しているのだけど、どこにも…」

 だとすると、もしかしたら会場の外に連れ去ったのか?

 とにかく、小野寺を放ってはおけない。

「わかりました。俺も探します」

「ありがとう。見つけたら連絡お願い」

 香織さんはそう言って、小野寺の探索に戻る。

 俺はスマホを取り出し、地図を確認する。

 会場はみんなが見ているから大丈夫だろう。

 俺は誘拐された場合のことを考えて動くことにした。

 もちろん、俺の思い過ごしの方がいい。

 だけど、可能性がある以上、無視することは出来ない。

 地図を確認すると、誘拐した場合に立てこもりそうな場所は三つか…

 一つ目は公園のトイレ、二つ目は学校の倉庫、三つ目は廃墟となったビルだ。

 自宅に立てこもっているとしたら手に負えないが、自宅付近で誘拐事件を企てる人はいないだろう。

 そう考えると、怪しいのはこの三つだ。

 とりあえずここは、一番近い公園から行こう。

 俺は目的地を決めると、公園に向かって走り出す。

 

 

 

「……ん」

 ここは、どこだろう?

 私は確か、控え室で最終リハーサルの準備をして、それから…

 確か、誰か来たと思って、扉を開けたら、意識を失って…

 そうか…あの時、入ってきた人に襲われて…

 とにかく、ここを出なくちゃ。

 そう思って立ち上がろうとしたが、両手両足を縛られていて、うまく立ち上がることが出来なかった。

「あれ?目が覚めたのかな?ステラちゃん」

「!?」

 声がした方を向くと、そこにはマスクやサングラスで顔を隠し、白コートを着込んだ人が座っていた。

 性別は先程の声を聞いた限り、男だろう。

「いやぁびっくりさせちゃったね。いきなりスタンガンを打ち込んじゃってごめんね」

 あの時気を失ったのは、スタンガンを打たれたからなのか…

 でも、一体どうしてこんなことを…

「どうしてって顔してるね。そんなの簡単だよ。俺が君のファンだからさ」

 ファン?私を誘拐したこの人が?

「君のことを知ったのは最近なんだけどさ、君の歌声を聴いたときに惚れたんだ。だからこうして、二人きりになる状況を作ったんだ」

 ……まさか、こんなことになるなんて、思っても見なかった。

 今まで私は、みんなに歌を届けたくて歌い続けた。

 それなのに、今私は、そのファンにこんな仕打ちを受けている。

 こんな…こんなの…

 私は苦しさのあまり、涙をぼろぼろと溢す。

「おや?君も僕と二人きりになれて嬉しいんだね!」

 だが誘拐犯は自分の都合のいいように解釈し、喜びだした。

「それじゃあステラ。手始めに、僕と誓いの口づけを…」

 そう言って、不審者は唇を私の唇に近づけてくる。

 嫌…キスは…

 まだ、和樹君とも…

 そんなの…そんなの…

「嫌あああああ!」

 

 

 

「くそ!ここにもいない!」

 公園に小野寺がいなかったので、その次に近かった学校の倉庫に向かったが、そこにも彼女はいなかった。

 これで廃墟にもいなかったら、探すあては完全になくなる。

「小野寺…一体どこに…」

 そんなとき、俺の脳裏にビジョンが映った。

「!?」

 そのビジョンは、小さな少年が何かを必死に探している様子だった。

 その少年に、俺は見覚えがあった。

「今のは、過去の俺…」

 なぜ今、こんなものが見えたのだろう?

 もしかして、今のは俺の忘れた記憶の一部なのか?

 昔にも、今のようなことがあったのか?

「いや、今はそれどころじゃない!早く廃墟に向かわないと!」

 俺は思考を断ち切り、廃墟に向かって走り出した。

 

 

 

 私は顔を近づけてくる誘拐犯を思わず蹴り突き飛ばした。

 恐怖で息を切らす私を、誘拐犯は恨めしそうに見てくる。

「なぜだ?なぜ僕を拒むんだよ?僕はこんなにも君を思ってるのに…」

 誘拐犯のジリジリと近づいてくる様子には、恐怖しか感じなかった。

 助けて…誰か助けて…

 私は涙目になって祈るが、誰かが来る気配はない。

「さあ、受け取ってよ…僕の愛を…」

「いや、嫌あ!」

 近づいてくる誘拐犯を私は足を精一杯前に出して拒絶する。

「なんでだよ…なんで僕の想いをわかってくれないんだ…僕は、こんなにも君を愛しているのに!」

 

 

「こんな一方的な愛情をぶつけてもらっても迷惑なだけだよ!」

 

 

「!?そ…そんな…」

 私の一言に、誘拐犯は崩れる。

 そして、涙目になりながら叫んだ。

「僕の…僕のステラはそんなこと言わない!お前は…お前は偽物なんだな!?」

 そう言って、誘拐犯は懐からカッターを取り出し、刃を出す。

 私はそれを見て、全身に寒気を感じた。

「待って…それで何を…」

「決まってるだろう?偽物のステラなんて必要ない…偽物は、殺す」

 殺す。

 その一言が本気だということは、冗談なんかじゃないだろう。

 だから、私はただひたすら恐怖した。

 どうして私がこんな目にあわないといけないの?

 私はただ、みんなに歌を届けたかっただけなのに…

 歌でみんなを幸せに出来ると信じてたのに…

 それなのに…どうして…

「ステラの偽物め…お前は、絶対に許さん!」

 誘拐犯は私に歩み寄ってくる。

 今の私は、もうステラではないのだろう。

 

 今の私は、もう歌えない…

 

 今の私は、誰も幸せに出来ない…

 

 今の私は、子供の頃の気持ちを忘れてしまった…

 

 そんな私には、もうステラを名乗る資格はない…

 誘拐犯は私の目の前に立ち止まり、カッターを上に上げる。

「死ねええええええ!」

 叫びとともに、カッターを降り下ろす。

 このとき私は、死を覚悟した。

 恐怖のあまりに目を強く閉じる。

 それなのに、昔に和樹君とした約束を思い出す。

『お前が歌手活動で怖い目に遭ったら、そのときは…』

 和樹君は忘れてしまったけど、もしもあの時の約束が、心の奥に眠っているのなら…

 

 

「助けて…和樹君…」

 

 

 小さな声でそう呟いたとき、何か鈍い音が聞こえた。

 目を開けてみると、誘拐犯は男の子に殴り飛ばされていた。

 その男の子は、私にとって最も頼りになって、私が最も愛した人だった…

 その人は、私の方を向いて、優しく微笑みかけて、こう言った。

「待たせたな…小野寺」

 

 

「和樹君…」

 

 

 私は、嬉し涙を流しながら、そう口にしていた。

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