第103話 仲のいい二人
金曜日の夜中、俺は小野寺とデートの待ち合わせ場所を電話で話している。
ちなみに今回のデートは、この前の柊の件で約束していた『なんでもわがままを聞く券』で小野寺に要求されたからだ。
正直こういう使い方をしてくれるのは嬉しいのだが、もうちょっとわがままになってもいいのにというモヤモヤも若干感じていたりする。
『うん、それじゃあまた明日ね』
「おう、それじゃあな」
待ち合わせ場所も決まり、通話を切った俺は、歯を磨こうと洗面所に行くと、雪奈が先にいた。
「あ、お兄ちゃん。歯磨き?」
「ああ、お前はもう終わったのか?」
「うん、そろそろ眠気も襲ってきたしね」
雪奈はそう言って口元を隠しながらあくびをする。
「あ、そういえばお兄ちゃん、未来ちゃんに頼まれたこと、ちゃんと覚えてる?なんか全然調べてるような素振りを見せないけど」
雪奈は頬を膨らませながらそう言った。別にシスコンというわけではないが、こういう妹の仕草はやっぱり可愛いと思う。
「忘れてないぞ。ただどうするか悩んでるだけだ」
「ならいいけど…」
雪奈はそう言うと、自分の部屋に戻っていった。
中島の頼みか…俺はあれから、この件をどうすればいいのかと悩んでいる。
正直に言うと、俺は中島の言っていたことに心当たりがある。
多分だが、あの人に聞けば大体の事はわかるだろう。
だけど俺の予想が当たっていた場合、それを中島に伝えるのは抵抗がある。
……中島には悪いが、この件は知らない方がいいな。
俺は歯を磨き終え、部屋に戻って眠りについた。
翌日、小野寺とのデートが終わり、家に送ったので俺も家に帰ろうとしていたときのこと。
道中で、楽しそうに話しながら歩いている雪奈と中島がいた。
声をかけない理由はないので、俺は二人に声をかける。
「よう、二人とも。何やってんだ?」
「あ、お兄ちゃん。今ね、未来ちゃんと買い物してたの」
雪奈のやつ、先月は柊と、先々月は小野寺と買い物に出掛けてたけど、小遣いは足りているのだろうか?
「なんだか、雪奈ちゃんとは気が合うんです。なので、よく二人で遊んだりするんですよ」
「なるほどな。実は二人は姉妹だったりしてな」
「あはは、それはないよ」
「そうですよ。そんなことになってたら、私の家庭事情とんでもないことになりますよ」
中島はクスクスと笑いながらそんなことを言っているが、それはさすがに笑えない。
とここで中島が思い出したかのように俺に尋ねる。
「そういえば先輩。兄について、何か進展ありましたか?」
俺は返答を一瞬ためらったが、その後すぐに答える。
「悪い、その事については、まだ進展はないな」
「そうですか…すみません、こんなことに巻き込んでしまって…」
「気にすんな。巻き込まれたなんて思ってないからさ」
「そう言ってくれると助かります」
中島はそう言って軽く頭を下げる。
「そういえば二人は帰りなのか?だったら家まで送るけど」
「あ、じゃあお願いしよう。いいよね?未来ちゃん」
「うん、それじゃあ先輩、お願いします」
そうして俺たちは、中島の家に向けて歩を進めた。
「そういえば未来ちゃん。あれからお兄ちゃんの手がかりみたいなのは見つかったの?」
「ううん、全然…やっぱり近くにはいないんだろうね…」
「でも大丈夫!私のお兄ちゃんなら何とかしてくれるから!」
なんかこれ、頼られてるっていうより押し付けられてる気がしなくもないんだけど、ただの被害妄想なのだろうか?
「雪奈ちゃんがそう言うなら信じるよ!というわけで先輩、よろしくお願いします!」
「ああ、よろしく…」
俺はこの先、こんな感じに人から厄介事を押し付けられたりするんだろうか?だったら将来は探偵にでもなって金をせしめてやる。
その後は雑談を(主に雪奈と中島の二人だけで)しながら歩いていると、中島の家に到着した。
「先輩、送ってくれてありがとうございました。それじゃあ雪奈ちゃん、また明日」
「うん、また明日」
中島が家の中に入ってくところを確認すると、俺たちも帰るべく家に向けて歩を進める。
「それでお兄ちゃん。デートはどうだったの?」
「ん?楽しかったぞ。最近も色々あったから、ああいう時間は本当に楽しいと感じるようになってきた」
この歳で休みの素晴らしさを実感してる俺は多分異常だと思う。
「なんか目から生気が抜けてるように見えるけど…まあ楽しかったのならよかった」
「お前こそどうだったんだ?中島と遊んだ時間は」
「楽しかったよ!最近は未来ちゃんとばかり遊んでる気がするなぁ」
「仲がよくてなによりだな」
やっぱり二人は波長が合うんだろうな。だからすぐ仲良くなれたんだろう。
そんなことを話していると家に到着し、俺たちは中に入って部屋で休んだ。