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第102話 贈り物

 翌日の放課後。俺は柊が来る前に楓と小野寺を家まで連れてきている。

 テーブルの上には、俺が作ったたくさんの料理が並び、リビングの端には各々が持ってきた包装紙に梱包された何かが置いてある。

 リビングの装飾も終わったので、後は柊が来るのを待つだけだ。

 ちなみに両親には事情を伝えて部屋に籠ってもらっている。何かあったらスマホで俺を呼ぶことを条件に出されたが、それくらいなら問題ない。

「さてと、そろそろ花音が来る頃かな?」

「そうだね。どんな反応するかな?」

「きっと驚いてくれるよ。ね、和樹」

「まあ驚いてはくれるだろうな。問題は喜んでくれるかだが…」

 なんか昨日は変な誤解をしているように見えたし、その辺が心配だ。杞憂ならいいんだが。

「大丈夫だよ!みんなで頑張って準備したんだもん!だから和樹君も自信もって!」

 小野寺はそう言って俺を励ましてくれる。ああ…俺はいい彼女をもったよ。

「そうだな。ありがとう、小野寺」

「うん、どういたしまして」

 そんな感じで俺たちが話していると、インターホンの音が家中に響いた。

 俺たちは互いを見合い、クラッカーを持って玄関前までやって来る。

 俺は覗き穴からインターホンを鳴らした人物を確認すると、そこにいたのは間違いなく柊だった。

「開いてるから入っていいぞ」

 俺は玄関から距離をおいてそう言うと、柊が扉を開いて家に入ってくる。

 扉が完全に開き、一歩前に進んだのを視認した後に、俺たちはクラッカーの紐を引っ張る。

「ひゃ!?」

 クラッカーのパン!という大きな音に驚いた柊は、らしくない声をあげる。

 クラッカーから放たれた細かい紙は空中をヒラヒラと舞い、柊の頭や床にに落ちていく。

「あれ?えっ?」

 柊は状況を飲み込めていないようで、目を丸くして辺りをキョロキョロと見渡している。

 そんな彼女に、俺たちはこう言った。


「「「誕生日おめでとう!」」」


 その言葉でようやく状況を把握できたようで、柊はポツリと呟いた。

「みんな…どうして私の誕生日を…」

「和樹から聞いたんだよ。今日が花音の誕生日だから、協力してほしいってさ」

「和樹、本当?」

 柊は俺の方を見て尋ねた。

「まあそうだな。ここ最近は色々あったし、少しは羽目をはずしてほしいなって思ってな」

 それだけが理由じゃないが、他の理由は後になったら果たすつもりだ。まずは俺たちがこいつを祝ってやりたいからな。

「まあ上がれよ。もう料理も出来てるしな」

 そう言って俺たちはリビングまで移動する。

 柊は装飾されたリビングを見て、感嘆な声をあげる。

「これ、全部私のために?」

「そうだよ。花音ちゃんのために、みんなで頑張ったの」

 柊は小野寺の言葉を聞いて涙を流し、俺たちの方を見て言った。


「みんな、ありがとう…」




 誕生日パーティーは夜中まで行われた。

 途中で橘先輩が押し掛けてくるハプニングはあったが、柊は喜んでいたので、結果的にはよかった。

 俺たちは外が暗くなってきたため、そろそろ帰ろうと言うことでリビングを片付け始める。

 が、俺は今、柊と二人で自分の部屋にいる。

 サボっているわけではない。これはちゃんと三人に許可をとっての行動だ。

 なんか橘先輩が変な笑みを浮かべていたが、気にしないことにした。

「それで和樹、話ってなに?」

 柊は、なにやらもじもじしながら尋ねた。よく見たら顔も赤いし、風邪でもひいたのだろうか?

「お前に渡すものがあってな。ほら、これ。誕生日プレゼントだ」

 俺はそう言って、机の上に置いていた小箱を渡す。

「えっ?でも和樹からはもうプレゼントを貰って…」

 そう、俺はすでに十字架のペンダントを渡している。だからこれは別の人からのプレゼントだ。

「まあ、中を開けてみな」

 柊は首を傾げながら小箱を開けると、中には星の模様のついたリストバンドと、一通の封筒が入っていた。

「封筒?」

「開けてみな」

 柊は封筒を開けると、中から手紙が出てきて、それを見る。

 数分経って、柊は手紙を封筒の中にしまう。どうやら読み終わったようだ。

「どうだった?父親からの手紙は」

「……正直、反応に困ってる。あの人が、和樹に手紙と、プレゼントまで託してたなんて…」

「ま、あの人の案じゃないからな」

 まあ俺も、空港で誕生日プレゼントまで託されたのは予想外だった。

 どうやら母親からの意見らしいが、中身は自分で選んだものらしい。中身は今まで知らなかったが。

「なあ、どんな内容だったか、聞いてもいいか?」

 俺がそう尋ねると、柊は手紙を俺に渡す。

『花音へ。まずは誕生日おめでとう。父親として嬉しく思う』

 へえ、出だしは普通だな。

『私はお前の誕生日にはもう家にはいない。だから手紙を出すことにした。とはいっても、手紙を出すというのは本田という少年の案であって、私が出したわけではない』

 なんていうか、あの人らしい事書いてるな。

『私は早くお前と家族のような関係になりたいと思っている。が、あの少年に言われたのだ。「自分の感情を人に押し付けるだけで、そんなんだから昔っから柊に避けられるようになったんだろ」とな。だから、私は少し頭を冷やすことにした』

 あの時の言葉、覚えてたのか。

『私はこれから、お前と無理に距離を積めようとはしない。お前の意志を尊重するよう心がける。今まで、本当にすまなかった』

 手紙はここで終わっていた。

「なるほど。で、お前はこれから、父親とどうするつもりなんだ?」

 俺は手紙を封筒に戻し、柊に返して言った。

「やっぱり、まだあの人の事は怖いし、接することには不安が残ってる…だけど、次にあったときは、ちゃんと向き合って話せるようになりたいとは思ったよ」

「大丈夫か?また酷い目に会うかもしれないぞ?」

「その時は、和樹が助けてくれるでしょ?」

「結局俺も巻き込まれるのか」

 俺がそう言うと、柊はクスクスと笑いだす。

「まあ何はともあれ、ようやく俺の肩の荷が降りたわけだな」

 俺はそう言って、ベットに腰かける。

「ごめん、こんなことに巻き込んじゃって」

「そう思ってるんなら、頑張って父親と仲良くなってくれ。そうしてくれた方が、俺も報われる」

「はは、努力するよ」

 ま、前向きになってくれただけでも一歩前進だ。ゴールまではまだ遠そうだが、進まないよりは遥かにましだ。

「じゃ、俺たちも片付けに戻ろうぜ。みんなに任せっぱなしは嫌だからな」

 俺たちが戻った頃には片付けが終わっていて、事情を把握している楓と小野寺にどうだったかを聞かれ、説明すると二人は安心した様子を見せた。

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