猟果 エルジェーベト
あの狩りの日からひと月が経ったある日。ティゼンハロム侯爵リカードは娘であり王妃でもあるウィルヘルミナを王宮に見舞っていた。
「あの子たちがあんなことをするなんて今でも信じられません。本当にシャスティエ様に申し訳ないわ。
お父様、あの子たちが二度とシャスティエ様の前に姿を見せることがないように、お願いいたしますね」
悲しげに訴えるミーナに対し、リカードは大きく頷いた。
「無論そのつもりだ。あの愚か者ども、儂の顔にも一族の名にも泥を塗りおって。何よりお前に酷いものを見せる羽目になった。決して許すつもりはない」
かつて遊んでやったこともある子供たちが長じて獣に成り下がったのを悲しみ、元王女を案じるミーナ。一方リカードの関心は家名と娘だけ。父娘の会話はどこか噛み合っていない。
――ミーナ様はやはりお優し過ぎる。そして殿様は相変わらずミーナ様に甘いこと……。
主人たちのために茶菓を用意しながらエルジェーベトはそんなことを考える。
彼女もあの若者たちに対して怒っている。ただし、理由は元王女を獣のように追い回したから、ではない。大の男が何人もいたのに、小娘ひとり殺すことも犯すこともできなかった無能ぞろいだったからだ。どうせ罰を受けるなら、あの女が側妃になれる目を潰しておいて欲しかった。純潔を失った女なら、王に侍ることはできなかったのに。
ささくれた感情とは裏腹に、彼女の手元は滑らかに動く。
花茶を淹れよう、と思った。この数日ですっかり季節が進み、冬の気配が濃くなった。空はどんよりと曇りがちだし、庭園の彩りも寂しくなってきている。華やかな色と香りの茶は、明るい季節を偲ぶよすがとなるだろう。
そうして季節が変わっても、王宮の様子は変わらない。美しく忌々しいあの元王女はいまだに人質として王宮に居座り、王に守られている。
――今頃は終わっているはずだったのに。
エルジェーベトは苦々しくあの日の記憶を反芻した。
あの日、森の入口で待機していたエルジェーベトは、ミーナからの使いに呼ばれて森の奥へと参じた。なぜか元王女の侍女も共に呼び出されたのを訝しく思いながら。
ミーナは彼女の姿を認めると飛びついてきた。しきりにシャスティエ様が、と繰り返す主が語る内容は、正直要領を得なくて、というか信じがたくて、何度も聞きなおす必要があった。
元王女の馬が暴走して行方が知れない、という。そして、若者たちのうちの数名と、なぜか王自身が跡を追っているのだと。
――なんて無能な。
最初の感想はそれだった。
馬もまともに乗れない元王女か。大事なはずの人質をあっさり逃がした王か。手はずを整えたのに覆されたリカードか。その対象は判然としなかったけれど。
なお、その頃には元王女の侍女も事情を聞いて泣き叫んでいたが、異国語だったので構う者はいなかった。
元王女を追った若者たちが戻ると状況はもう少し明らかになった。ミーナはもちろん彼らに駆け寄ったし、リカードは彼らにことの次第を問い質した。
彼らは悪びれずに滔々と、いっそ自慢げに語った。
曰く、王が褒美を寄越さないと思ったから自力でいただくことにした。
曰く、生意気な女に思い知らせようと思った。
曰く、犬をけしかけて馬を暴走させて追い回してやった。
――本当の無能はこいつらか。
傍で聞いていたエルジェーベトは、口出すことはできなかったが暗澹とした。
『貴方たち、なんでそんなことをっ! そんな、恥知らずな……!』
誰よりも先に叫んだのは、ミーナだった。そしてそれきり絶句した。王などとは違って、そもそも怒るのには慣れていないのだ。
珍しくも頬を紅潮させて怒りに震える王妃の姿に、リカードもエルジェーベトもやっとミーナにこれ以上聞かせてはまずいと思い至り、彼女を女たちに委ねてその場から遠ざけさせた。
エルジェーベトは、後で必ず詳しいことを教えることを約束させられ、残ることになった。
青年たちの話を終わった瞬間、リカードは怒りをぶちまけた。
『儂の計画を潰してくれたのはそういうわけか。全くもって納得はできぬ。できぬが、理解はした。我が一族にこれほどの愚か者がいることを王に認めるのが儂の役目とは、歳はとりたくないものだな!』
王妃の激昂とリカードの叱咤に、彼らもさすがに不穏な雰囲気を察したようで、居心地悪そうにお互いに目線を交わしていた。そこへ、リカードが更に詰問を重ねる。
『して、なぜ空手で帰ってきた? あの娘はどうなった?』
彼らが口々に述べたことを要約すると、彼らの一人が獲物を勝ち取ったので、譲って帰ってきたのだということだった。
これを聞いて、エルジェーベトの気分はますます暗澹となった。
――後でどう釈明するつもりなのだろう……。
殺すよりもなお質が悪い。人質を死なせるのも重大な罪ではあるが、まだ言い訳のしようがある。過失だとか、逃げようとしたのでやむなく、とか。しかし、犯してしまったら言い逃れの余地がない。王の立てた誓いを軽視した――即ち反逆の意思ありとみなされても文句が言えない。
そうならないようにわざわざリカードは狩りの褒美としてねだる、という建前を用意したというのに。彼らにはその意図が通じていなかったのだ。
『……王が貴様らを追った。行き合わなかったのか?』
リカードの表情は平静を取り戻したように見えた。しかし、その裏では怒りが煮えたぎっていること、不名誉を最小限に抑えるために思考を巡らせていることは、エルジェーベトには良くわかった。彼女は彼の手腕を物心ついた頃から見てきている。
『いえ……』
一人が恐る恐る答えると、リカードは鼻を鳴らした。
『話すだけ無駄と思って避けられたな』
『それなら気づいたはず。我らを見失ったのでは?』
リカードは大胆にも反問した若者を冷たく睨むと、一喝した。
『愚か者! 仮にもイシュテンの王が、貴様ら風情に遅れを取るはずがない。
未熟ゆえに相手にされなかったのが分からぬか!』
リカードの言葉から、エルジェーベトは何となく女たちが合流する前の雰囲気を悟った。王の気性はいかにもイシュテン的で、強いものを好み惰弱を嫌う。女である彼女から見ても、若者たちが王に認められたとは思えなかった。彼らもそれを察したからこそ、このような愚挙に出たのだろうが。
リカードはしばし瞑目し、怒鳴って乱れた息を整えると、口を開いた。方針が定まったようだった。
『貴様ら、元王女を勝ち取ったとかいう者――何といったか――その者が小娘を殺していることを祈れ。
イシュテンの戦馬の神にではないぞ、貴様らのごとき惰弱者に加護をくださるものか。ミリアールトの雪の女王、ブレンクラーレの睥睨する鷲……どれでも良い、中には貴様らに慈悲を垂れる奇特な神がいるかも知れぬ』
エルジェーベトが考えた程度のことは当然リカードも思い至っていたのだろう。あの女が死んでさえいれば、まだ取り繕うことができる。そう、彼も切に祈っていたに違いない。
『そしてもしその者が娘を生かしておくほど愚かであったら、あるいは王が間に合ったら。
その者の命は諦めよ。王がきっと死を賜る。万一そうでなくても儂の手でやらねばならぬ』
誰かがそんな、と叫んだが、リカードは無視して続けた。
『貴様らの命に関しては安心せよ。救いがたい愚か者といえども我が一族から何人も反逆者を出すわけにはいかぬからな。考えようによっては死んだ方がマシかも知れぬが――』
言葉を切ると、彼は若者たちの顔を順に眺めた。彼の顔に浮かぶ表情は、怒り、侮蔑、嫌悪が入り混じった、ミーナにはとても見せられない黒いものだった。
『貴様ら、無能と呼ばれよ』
ミーナが休んでいる天幕に入ると、待ちかねたように彼女が抱きついてきた。
『どうなったの?』
恐る恐る、といった問いかけに、その背を優しく撫でながらエルジェーベトは答えた。
『陛下が必ずあのお方を見つけて下さいます。不心得者どもは、殿様が罰を与えて下さいましょう』
告げた内容はごく大雑把だったが、ミーナは安心したように微笑んだ。彼女が求めているのは詳細な説明ではなく、大丈夫だと言ってもらえること。そして、父と夫は彼女にとって絶対の信頼を寄せる存在なのだ。エルジェーベトが妬ましくなるほどに。
それに、あながち嘘というわけではない。元王女が命あるいは貞操を守れるかはともかく、王は必ず追いつくだろう。好悪の感情は別として、王が卓越した武人であることは否定できない。リカードもこの度の不始末の全てを暴走した者の責として負わせるだろう。
――あとはあの女が死んでいるかどうかだけ。
死んでいれば良い。そう思いながら、エルジェーベトはミーナを抱きしめた。
しばらくすると天幕の外が騒がしくなり、王が戻ったのを知った。
飛び出そうとするミーナを制して、エルジェーベトは先に外に出た。
見慣れた黒馬に跨る王。その腕に抱えられるようにして横座りする元王女は、泥と血に塗れ顔色は青ざめていて、一瞬死んだのかと期待した。しかし、碧い目が地上の彼女たちを見渡すのを見て、その期待が誤りであると気づかされ、エルジェーベトは内心舌打ちした。
迎えた面々の中に、涙で頬を汚した侍女の姿を認めて、元王女の唇が微かに微笑んだ。
『イリーナ。――――』
呼ばれて進み出た侍女は、両腕を広げて主を見上げた。そこへ、元王女が馬上から滑り落ちるように身を投げた。
元王女は細身とはいえ、受け止める次女の方も非力で、二人の娘は地面に転がった。
『……――――! ――――!』
『――――、イリーナ。――――』
主従の会話は異国語だったので、彼女にはその内容はわからなかった。しかし、泣き喚く侍女を抱きしめて、慰めるように語りかける元王女の口調は穏やかで、大きな怪我や陵辱を加えられたようではなかった。
『シャスティエ様! 無事で良かった……無事、なの?』
止める間もなく、ミーナも元王女に駆け寄った。喜び、次いで無残な姿を慮ったのだろう、おずおずと尋ねた。元王女はミーナを見上げると、やっとイシュテン語を使って答えた。
『王妃様。お心遣いありがとうございます。大したことはないのです。……ほとんど私の血ではありませんので』
いつもよりは細いものの、高く澄んだ元王女の声はよく響いた。それならば誰の血痕なのか、とはその場の全員の疑問で――答えを求める視線が王に集まった。
王は無言で背後を示した。そこで初めて、彼が空馬を連れてきたことに気付いた。馬の鞍にくくりつけられているのは布の包み。大きさといい、赤い色が滲む様といい、ひどく嫌な予感がして、エルジェーベトはミーナの目を塞ごうとした。しかし、間に合わなかった。
気の利かない従者がそれを解こうとして、中身をこぼれさせた。
ごつり、ともぐしゃり、ともつかない不気味な音。出来の悪い鞠のように地面に跳ねたそれは、絶叫の表情のままに固まった青年の生首だった。
――なんて配慮のない!
ミーナの悲鳴を耳元に聞きながら、エルジェーベトは王の無粋を声に出さずに罵った。
『それは反逆者だ。命を破って人質を害そうとしたので首を刎ねた』
悲鳴を上げる女たちをよそに、王が淡々と告げた。青灰の瞳がリカードを、若者たちを刺すように捉えた。歪んだ口元は笑みではなく、牙を剥く狼を思わせた。
『言い訳を考える時間はたっぷりあったはずだ。どんな話を考えたか、聞かせてもらおうか』
リカードの釈明は概ね次の通りだった。
犬が元王女の馬を噛んだのは、密猟者対策で人も襲うように調教されていたため。
首を刎ねられたのは、たまたま特別に愚かで分別を知らぬ者だった。他の者はもちろん人質に危害を加えようなどとは考えにも上らせていなかった。王が庇護する人質に劣情を抱く愚者がそう何人もいる筈はない。
そう、その不心得者一人だけが元王女を捕らえたのも、他の者が彼女を見失い、追いつけなかったのも、全て偶然である……。
一通り聴き終えた王は大層不快げに口を開いた。
『人も馬も大勢いる中でわざわざ選んで人質を襲ったのも偶然か。百歩譲って認めてやるとしても、なぜそれを見過ごした? 自家の犬もまともに抑えられないのか』
『所詮は獣でございますから。予期せぬ動きをすることもありましょう』
『その娘の馬術の腕は見ただろう、舅殿? あれに追いつけないほどの無能者が揃っていたというのか?』
『仰る通り、イシュテンの名を汚す未熟者どもでございます』
『俺は娘を捕らえよと命じたのだが。見失ったからといっておめおめと戻るとはどういうことだ?』
『まことに面目の次第もございません』
王の挑発めいた詰問に、リカードは顔色を変えなかった。その程度は想定済みということだったのだろう。既に方針を定めた以上、彼がぶれることはない。先に言った通り、一族から何人も反逆者を出すわけにはいかないのだ。そのためには若者たちが度を外れた無能であり考えなしであると認めなければならないとしても。
『飽くまでそちらを選ぶか。恥知らずな……!』
馬上の高みを保ったまま、王は侮蔑を込めて呟いた。
元王女に対する企みを潔く認める道もあったのだ。
そうすれば、少なくとも一族の若者が信じがたい無能揃いだとの汚名は避けられる。ただし、この場合元王女を追い回した者たちは全員反逆の咎で死を賜ることになるが。
矜持より命を取ったと思われるのは耐え難い恥。命惜しさに無能呼ばわりを受け入れた彼らを、王は心底見下しただろう。
それは、リカードが彼らに与える罰であり、王への牽制だ。そこまでさせるのだから矛を収めろ、という。
『よくわかった。無能と不運が招いた事態ということだな。だが、悪意はなかったとは言え罰は必要だ……』
王の視線が若者たちを順に射抜いた。リカードが何をどう言い含めたのか、あからさまな嘲弄にも彼らからは一言もなかった。
『女にも劣る無能者は俺の麾下にはいらぬ。辺境の守備を任じるゆえ、性根を叩き直すまで帰ってくるな。
ティゼンハロム侯に限らず父親だろうと兄弟だろうと一切の庇護を禁じる!』
続いての言葉はリカードに対してのものだった。
『犬で狩り出さなければならないほど密猟者が多いとか。禁猟地の管理が手に余っているようだな。この森はティゼンハロム家から王家の所領に召し上げることとする!』
リカードは無言で頭を垂れると王の命を受け入れた。内心は怒りと屈辱が渦巻いていただろうが。
一方、命じた王も不快と不満を表情に出していた。本心では関わった者全員の首を刎ねたかったのだろう。
誓いを軽んじられた上に見え透いた嘘で事を収めざるを得なかった王。
恥を晒した上に元王女を王宮から遠ざけるという目的を果たせなかったリカード。
その日の狩りは、誰にとっても得るものがなく終わったのだった。
「エルジー?」
ミーナの声にエルジェーベトは回想から連れ戻された。主人が首を傾げて無邪気な瞳で見つめてくる。
「お父様がシャスティエ様にお詫びをお伝えしたいのですって。お呼びしてもらえるかしら?」
そして呼び出された元王女は相変わらず美しかった。
あの一件の直後はさすがに数日寝込んだし、痣や擦り傷は数知れなかったという。しかし、厚く積もった落ち葉のおかげで後に残るような傷はなかったと聞いた。
むしろ、無残な様子を哀れんだミーナによって惜しみなく香油や化粧水を使われたため、髪も肌もかつてないほど艶々と輝いている。全くもって忌々しい。
「この度は一族の者が無礼を働いた。心より、お詫びを申し上げる」
元王女は目を伏せて謝罪を受け入れた。
「いいえ。幸いに大事なく済みましたから」
仮面のような顔に隠れた真意を覗こうと、エルジェーベトは目を凝らす。
――この女、どこまで気付いているのだろう?
リカードの騙った話を鵜呑みにするほどバカではないが、面と向かっては異を唱えない程度には賢いということだろうか。自分がどれほど疎まれているか、悟っていれば良いのだが。
「あれがこの国の流儀だと思ってしまいそうになりましたが。聞けば滅多にないことということですし。単に私の運が悪かったということでしょう」
「……あの者たちには罰を与えたので安心していただきたい」
嫌味とも本気ともつかない元王女の言葉に対し、リカードの答えは微かに苛立ちが滲んでいる。
あまり怒らせるような事を言ってくれるな、と思う。服を着てしまえばわからないが、リカードの八つ当たりが残した痣はまだエルジェーベトの身体に残っているのだ。
しかし、リカードは八つ当たりの対象を元王女に定めたようだった。
「王に死を賜ったあの者の……兄がひどくごねましてな。単に辺境送りでは足りそうにないのでミリアールトの鎮撫を任じることにした。かの国の冬は惰弱者には堪えるだろう」
これには元王女も眉を寄せ、エルジェーベトを喜ばせた。あの愚か者のひとりが故郷を任せられたと聞いて嬉しいはずがない。美貌が陰ったことでリカードも幾らか溜飲を下げただろう。
あのような愚行に加わった者が敗れたばかりで不満と恨みの渦巻くミリアールトを抑えきれる筈がない。家名を傷つけた者を罰しつつ、王の戦果を褪せさせる。更には生意気な小娘への当てつけにする。一つの行いにこれだけの目的を詰め込むとは、リカードはまったく老獪だ。
しかし、元王女が次に発した言葉は彼女の暗い喜びをかき消した。
「命じられたのは陛下でございましょう? 侯爵様ではなくて」
「そう……その通り、だが……」
悪気なく――としか見えない――首を傾げる元王女に、リカードも一瞬言葉につまる。確かに全てはリカードの思い通り。しかし、命じたのは彼ではない。王を従える権力はあってもリカードはまだ王ではないのだ。
「心配なさらないで。お父様もファルカス様もなさることに間違いはないから」
代わって答えたのはミーナだった。無邪気な王妃は元王女が潜ませた刺に気付いていない。ただ元王女を――分不相応な厚意だが――安心させてやろうとしか考えていない。
ミーナに手を取られて、元王女は目元を和らげた。
「もちろん、さようでございましょうね。……おかしな事を申しました、お許し下さい」
その艶然とした微笑みを見て、エルジェーベトは確信した。元王女はわざとリカードを挑発したのだ。王のように振舞っていても王ではないと突きつけた。権威を振りかざすのは虚勢に過ぎないと嗤ってみせたのだ。
――この女、なんて……!
大胆なというか。あるいは、愚かというか。リカードの不興を買ったところで何の益もないと、想像することもできないのか。それとも、分かっていてなお、バカバカしいほど高い矜持が言わせてしまうのか。いずれにしても許せない。この女が口にしたのは、エルジェーベトの溺愛するミーナに、父と夫の不仲を匂わせることでもあるのだ。
――不遜な女……いつかその振る舞いを後悔することになるわ……。
今回の狩りで誰も何も得なかったというのは間違いだった。猟果と言えるかは知らないが。
綺麗に治る怪我など何ということもない。この一件で、元王女はティゼンハロム侯爵家からの敵意を得たのだ。それは多分、エルジェーベトにとって喜ぶべきことだ。リカードの怒りは、きっとこの生意気な女を破滅へと導いてくれるだろうから。