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お決まりの修羅場です

控え室を出て早速ペンダントを取り出して確認すると、紫に変色していた。つまり呼び出しているのは、お嬢様の護衛士イルセン、ということだ。……疑問は浮かぶが、自然足が早まる。


イルセンは私の次くらいに勤続年数の長い同僚だ。厳密に言えば彼はお嬢様の専属というわけでもないのだが、ここ二十年くらいは戦もなく平和で、兵士としての役割をこなす必要がないため、専らお嬢様の護衛を行っている。その理由がハルアレア一番の強者だから、というのだから、お館様の溺愛ぶりがうかがえる。


イルセンが呼ぶということは、何かあったのだろうか。気を利かせて率先して動くタイプでもなければ、大した用でないのに呼びつけるタイプでもない。


考えている内に、会場に着いた。中には入らず、出入口でそっとペンダントに魔力を流す。


すぐに、イルセンが向かってくるのが見えた。声が届く範囲にくると、かすかに防音膜がはられたのを感じた。


「――お嬢様のとこに向かってくれ。スーラ嬢といるはずだ。」

「どういうこと?」


危害が加えられそう、ということならば、わざわざ呼び出して待ったりせず、自ら探しに動いているだろう。アレア様の取り巻きの一人スーラ嬢とは、危害を加えられるような関係でもない。何より、王城内なのだ。危険に晒されることはまずないだろう。


「殿下が、祝いの品を気に入ったとかで、自ら踊りを申し込んだ令嬢がいてな。カミラ嬢が飲み物をかけた詫びにと連れ出したんだ。お嬢様たちが出る直前にな。」

「カミラ様が?」


カミラ様はこれまたお嬢様の取り巻きの一人で、決して殊勝な性格ではない。しかも彼女の家の侍女は、呼び出されることなく控え室にいた。


それが意味するところは、想像に難くない。


「うちのお嬢様の怒りを買った、ってわけね。どんな方なの?」

「キネア公の妹君だ。あそこの護衛士に気づかれる前に止めないと、いろいろまずい。」


先ほど聞いたばかりの名前だ。少しだけ驚いたが、それどころではない。異腹の妹だろうと、イルセンがそういうからには、キネア公の怒りを買う恐れがあるということだ。損な役にちがいないが、阻止せねばなるまい。


「わかったわ。間に合えばいいけど……。」

「中央階段を右にのぼり、左に進んで手前から六つ目の部屋だ。」

「中央階段右、上りきったら左、六番目の部屋ね。」


イルセンが頷き、防音膜が解かれた。行け、という合図だ。


急ぎ、中央階段へと向かう。


中央階段は左右に分かれて螺旋状になっており、開放されている各階に2人、守護士が立っている。メインの会場と侍従たちの控え室、及び衣装部屋は同じ階にあり、一つ上の階は、疲れたり少人数で話したい場合に用いる休憩室だ。飲み過ぎて運ばれる者もいれば、恋人同士入っていく者もいるし、会場で盛り上がった勢いのまま夜通し話し込むため訪れる者たちもいる。


教えられた通りの部屋に着くと、中から声が聞こえた。……お嬢様のものだ。あえてノックをせずに、踏み込む。


「――この、泥棒猫っ!」


パシン、といっそ小気味のよい音が響いた。


「アレア様っ!!」


遅かった、と思いつつ叫ぶ。


――そしてその瞬間、私はありえないことに気がついてしまったのだった。

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