生誕祝いにて
城で開かれるのは、王子が16歳になったことを祝う宴席だ。
アレア様は、何かで服や髪が乱れた時のために、大概こういう席には私を連れていく。とはいえ、会場に各家の従者が控えているのでは狭くてしょうがないので、そういう人間が控えるための別室がある。
「――リーヤ、久しぶり。」
「ニケ、元気にしてた?」
明るい茶髪の彼女はニケ、例の流行り病の時に、領主の下で共に世話になった仲だ。彼女の場合、ハルアレア侯の分家にあたるメレア伯に引き取られ、末娘の侍女となった。メレア伯には何人も娘がおり、侍女は何人いても困らなかったのだ。そのためお互いの主が呼ばれればこうして顔をあわせることになり、自然気安くお喋りをする仲だった。
「流石に今日は、普段見ない方も多いね。」
「そういえば、キネア公の妹君もいらしてるそうよ。」
「キネア公って、随分若いと評判の?妹君がいらしたの?」
声をひそめ、わかるはずもないが、それらしい侍女を探してみる。そんな私に、ニケは笑いかけた。
「いないらしいわ。」
「いないって?」
「控えさせる侍女を連れてきていないらしいの。」
「えぇ、だってキネア公の妹君なのでしょう?」
驚きである。
領土を持たない士族ならいざ知らず、キネア公と言えばティリヤでも最大級の領土の領主だ。しかも公、つまりは王族に次ぐ士族である。ちなみにティリヤの領主は公が最も位が高く、次いで侯、一番下が伯となる。
ニケは呆れたような顔をして、それから声をひそめた。
「妾の産んだ娘らしいわ。そのせいか、これまで全くこの手の席に連れてきてもらえなかったらしいの。聞いたことない?」
「初耳だわ。でもそれならどうして今日はわざわざ?」
「さあ、どなたか王族の方が呼ぶよう言ったのではないかしら?今のとこいらしてる、という話だけでどうして、については聞いてないわ。」
キネア領の人間がいれば、好奇心旺盛なニケのこと、既に聞きにいっていただろう。
と、鎖骨のくぼみが震え、熱くなった。
「悪いけど、失礼するわ。」
「あら、呼び出し?」
「えぇ。」
「随分早いわね?」
私もそう思うが、首からかけたペンダントは、確かに熱を持っている。どんな用事かはわからないが、今日宴に出ているハルアレア領の誰かが呼んでいるのは間違いない。軽く肩をすくめて、急いで会場へと向かうのだった。