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GARAGE~フェラーリに恋した男と三姉妹~  作者: トネ コーケン
94/100

(94)治療 

 真理の白血病との闘いが始まった。

 通常の患者なら時間のかかるドナー探しと、何通もの契約書を交わす承諾手続きを仁樹が即日済ませてしまったので、他の患者よりは早い段階で移植手術前の処置は進むことが出来た。

 既に以前の移植経験で仁樹のカルテは病院にあったが、再び適合検査をしてみたところ、骨髄移植ではABOの血液型よりも重要になる白血球数等の各種の数値も、近親者以外では稀な適合を示した。

 フェラーリで運び込まれた日から、その病院に設けられた専用病棟の個室に入院することとなった真理は、仁樹に言った。

「来ないでください」


 体に段階的に無菌化し、致死量の抗癌剤と放射線で血液の癌を死滅させる、真理の言葉で言うなら体を丸ごとレンジでチンするという骨髄移植の前処置、真理は自分の見た目が変わることを気にしていて、そんな姿を見せたくないと思っていた。

 それが仁樹の見る自分自身の最期の姿になるかもしれない事を意識していた。

 仁樹はその言葉に従い、ドナーに必要な各種検査の時以外は病院に来ないようになった。検査の時も真理の病室に寄ることは無い。

 ただ、病院に来るたび主治医を捕まえ、真理の容態を聞き出しては手術を急かすようになった。真理たち三姉妹の母は、数十年前に起きた大規模災害でドナー対象となる親族のほとんどを喪ったため、骨髄バンクで適合者を探している間に転移が発生し、それが命取りになった。


 当初は医局にまで押しかけていた仁樹は、以前にただならぬ関係にあったらしきイタリア人のインターンが医師として赴任してきて以来、それほどしつこくカルテの閲覧等の要求をすることは無くなった。

 そのイタリア人女性と仁樹の間に顔を合わせにくい事情がある事を、老いた主治医は知っていたが、真理や舞が聞いても真理の退院まで内緒だという。

 仁樹と父娘の血の繋がりのあるまるが「もしかしたらもう一人くらい、イタリアハーフの隠し子とか出てきちゃうかもね」と言ったところ、入院以来下がり気味だった真理の血圧が急上昇し、前処置に重要な体調と体力を好転させる役には立った。


 入院生活に必要なものは、舞がバイクで届けた。身につけるものや生活に必要なもの。そして真理には必須の大学で専攻している法学の資料閲覧や論文執筆に必要なタブレットPC。

 大学は休学扱いになっているが、一年生の身で色々な講義を聴講していた真理は、何人もの教授に期待をかけられ、真理も体の動くうちは法律の学習と論文の作成を続けた。

 舞がもう一つ届けた物。耳当てのついたアンデス風のニット帽子。仁樹が真理のために選び、舞が買ったことにしてくれと言って預けたものだったが、ニット帽を手に取った真理は、全部お見通しであるかのように微笑んだ。


 以前仁樹がバイク便に使い、今では舞が病院への往復に利用しているホンダRC30には、仁樹が使っていたFRP製荷物ボックスが装着された。

仁樹がフェラーリに乗り、RC30を降りてからずっとバイクを預かっていた、京都桂川のツナギ仕立て屋のお婆ちゃんが、こういう事態を見越したように送り届けてくれた。

 病院への往復だけでなく、以前は真理がトラックで行っていた日々の買い物にもボックス付きのRC30は役立ち、まるも折り畳みMTBのパラトルーパーで市内のショッピングモールまで走り、舞を助けた。


 真理のドナーとなった仁樹はといえば、時々日帰りや一泊の検査がある時以外はいつもと変わらないように見えた。

 三姉妹の家で暮らし、雑誌記事執筆の仕事を続け、時には真理の替わりに舞とまるのために夕食を作ったりもした。そして相変わらずフェラーリで走り回っている。

 舞は今までと同じような仁樹の微妙な変化に気付いた。

 仁樹がフェラーリで走る時間がだんだん減っていた。

 

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