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GARAGE~フェラーリに恋した男と三姉妹~  作者: トネ コーケン
93/100

(93)女心

 仁樹と真理は病室で唇を交わした。

 彼が本当に望んでいるのか、不安に思いながら仁樹の唇を感じる真理と、ついさっき倒れたばかりの真理を気遣う仁樹のキスは、丈う熱的とは言えないものだった。

 唇を離した仁樹を真理は見上げる。更なる強い結びつきを求める瞳。もう目前に迫っているかもしれない、命の終わりの前に、真理は自分の生きた証を残そうとしていた。

 仁樹はいつもと変わりない、感情を表現する能力を失ったかのような目で真理を見て、それから真理の眉間に自分の額を当てて言った。

「真理さんが欲しい。俺の人生に必要なんです」

 真理はもう一度仁樹の胸に飛び込んだ。こらえていた涙が溢れ出す。

「わたしは、死にたくありません。これから先もずっと、仁樹さんと抱き合って暮らしたい」

 真理を胸に抱いた仁樹は、集中治療室に隣接した個室病室を見回しながら言う。

「そのためにやらなくてはいけないことは、二人で片付けていきましょう」

 真理は仁樹を上目遣いに見ながら言った。

「仁樹さんは私のことを、フェラーリをメンテナンスするみたいに扱うのですね」


 少し頬を膨らませた真理に、戸惑うような、自分の気持ちを表す言葉を探すような仕草を見せた仁樹は、真理を彼女の体に負担を与えない最適の力加減で胸に抱きながら答えた。

「そうです。フェラーリが俺に教えてくれた」

 仁樹はそう言った後で真理を見る、相手の反応を窺う、彼にはとても稀な仕草。

「仁樹さんからフェラーリに等しい愛を受けることが出来て、私は幸せです」

 それから真理は仁樹の胸の中から離れ、ベッドの上で居住まいを正した後、仁樹に深々と頭を下げた。 

「仁樹さん、それでは改めて、わたしは仁樹さんからの骨髄提供をお受けさせて頂きます。このご恩は決して忘れません」

 ベッドに腰掛けた仁樹も背筋を伸ばして言った。

「真理さんは俺の壊れた心を直してくれた。その借りを少しでも返すのは当然のことです」

 真理は満たされた微笑みを浮かべた。


 舞とまる、真理の二人の妹は病室前の廊下に居た。

 仁樹を追ってここまで来たが、何となく病室に入りにくい雰囲気のまま、仁樹と真理のやりとりを聞いてしまった。

 まるはカーテンの陰から二人を覗き見て、ニヤニヤ笑いながら言う。

「お兄ちゃんと真理姉ぇ、病室でおっぱじめるかと思った。二人とも意気地ないなー」

 舞は厳しい目でまるを睨む。肩をすくめるまるの横で、何も言わぬ舞は感情を押し殺したように無表情だった。

 真理は仁樹の骨髄移植で助かるかもしれない。それが仁樹からに一方的な施しではなく、真理と仁樹が、互いを大切に思った上での行動。

 真理の病という三姉妹の暗雲が晴れる兆しを見せ、その先には仁樹との新しい関係が待っている。舞にとっても喜ばしい展開。

 それでも、舞は自分自身の中に二つの感情が渦巻いていることを自覚していた。

 真理を姉として愛おしく思う気持ちと、女として憎む気持ち。

 これから先、真理に仁樹というパートナーを得て、病を克服し幸せを得て欲しいという気持ちと、仁樹と求め合い愛し合う真理から、仁樹を奪い取りたい心情。


 横目で舞を見たまるが、もう一度病室の二人を盗み見しながら言う。

「まぁ今んとこ真理姉ぇの一点先取だね」

 舞はまるの肩を小突く、舞の馬鹿力で突き飛ばされたまるはつんのめって病室に転がり込んだ。おかげで舞もまるを追うという形で、入りにくかった病室に入ることが出来た。

 急にまると舞に乱入され、仁樹の胸で甘えていた真理は慌てて飛びのき、今さら行儀よくベッドで寝ている大人しい病人のフリをしている。

 動じる様子の無い仁樹は何も言わず立ち上がり、真理の枕元の位置を舞とまるに譲った。

 舞はベッドサイドの椅子に座り、真理の手を取った。真理も握り返してくる。

 とりあえず、真理の病が一段落つくまでは、仁樹と真理に出来るだけの手助けをしようと思った。 

 その間に、二人の関係がどれだけ進展するかを考えると、また黒い感情が湧いてきそうになる。ついさっき真理と仁樹が唇を交わしているところを見てしまった時のように。

 それでも、舞は仁樹のもっと熱いキスを知っている。


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