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GARAGE~フェラーリに恋した男と三姉妹~  作者: トネ コーケン
84/100

(84)英国式朝食

 今日の朝食は英国風だった

 目玉焼きとベーコン、トマトソース煮込みの豆、ミルクで煮込んだ甘いオートミール、バターを塗られたトースト。

 まるは映画から出てきたような朝食を興味深げに見まわした後、いい絵のモチーフになりそうな朝食を腹に収めるのが惜しそうな様子で食べ始める。

 朝は和食を好む舞も、日課のジョギングが終わった後の空きっ腹にありがたい分厚いベーコンと地元の卵、缶詰じゃない煮豆と、腹にやさしいオートミール、いい香りのするバターを塗られたトーストを旺盛な食欲で食べる。

 皆が揃っていただきますと言った後に食べる夕食と違い、時間の無い朝はみんな出来た端から食べていく。舞とまるが朝食を腹に詰め込んでいる最中のテーブルに、仁樹が着席した。

 仁樹はいつも通り、彼自身のルールに従って真理に向かい「頂きます」と言った後、イングリッシュ・ブレックファストを食べ始める。

 続いて朝食を作り終えた真理がキッチンからリビングにやってくる。全員に濃いイングリッシュ・ティを淹れた後、席について仁樹に「いただきます」と言ってから食べ始める。


 三姉妹に仁樹が加わってから、和風と洋風の交互になった朝食。今朝は真理と仁樹が一緒に作った。

 きっかけは夕べ、まるがテレビの海外ホテル紹介に映っていた英国式朝食を指し「あれ食べたい」と言い出したことからだった。

 一緒に見ていた舞は、自分が朝食には和食を好むせいもあって「あんなの美味しいもんじゃないわよ」と言ったが、本音は違ってたらしく、夕食前のせいか見ていて腹が鳴り、顔を赤くして仁樹に八つ当たりした。

 真理はテレビの画面に写る朝食を見て言った。

「朝に食べるには少し重すぎるわね、それに幾つか家には無い食材があるわ」

 そこで三姉妹の見ているテレビに無関心な様子だった仁樹が言った。

「真理さんさえ良ければ俺が作ります。食材は夕食後に買っておきます」

 真理は二人の妹にはあまり見せない笑顔を浮かべて言った。

「仁樹さんの朝食が食べられるならば、私にとってこれほど嬉しいことはありません」


 許可を得たと判断したらしき仁樹は、まるに向かって言った。

「あの朝食を明日作ってやる」

 まるは仁樹に抱きつきながら言う。

「ありがとー!お、兄ちゃん」

 まるは仁樹が血の繋がった父親だと知らされてからも、最初に会った時にそう呼んだようにお兄ちゃんと呼び続けている。まるがお父さんと呼ぶのは玄関前に飾られた父の遺影だけ。

 ただし呼び名以外の部分では、まると仁樹の距離は確実に近づいている。仁樹にしがみつくまると、それを拒むでもなくまるが自分から落っこちないように手を添えている仁樹を見た真理は、張り合うように言った。

「では仁樹さん、明日の朝食は一緒に作りましょう」

 真理の言葉には無条件に従う仁樹は、まるをあやしながら言う。

「お邪魔にならぬよう出来るだけのお手伝いをさせて頂きます」

 その後、真理は明日の重い朝食と夕食後の買い物に備えてその場で夕食のメニューを、煮込みハンバーグステーキから和風ハンバーグに変更した。


 さっぱりとしたおろしポン酢で食べる和風ハンバーグを食べながら、姉の真理と妹のまるが、仁樹と楽しくやっているらしき姿を見た舞は、なんだか仲間はずれにされたような気分になった。

 夕食後、真理の煎れた煎茶を飲み、デザートの水羊羹を食べ終えた舞は立ち上がり、猫舌でまだお茶を飲んでいる仁樹の腕を掴んで言った。

「さっさと出かけるわよ。早く出ないとショッピングモールのスーパー閉まっちゃうわよ」

 仁樹は舞にぐいぐい腕を引かれながら、動じることもなくお茶を一口飲みながら答えた。

「食材は横浜のスーパーまで買いに行く。深夜までやっているから急ぐ必要は無い」

 真理が普段の食材を買っている、家から車で十分ほどのショッピングモールには大きいスーパーがあって、生鮮食料は専門店並みながら輸入食材はあまり多くなく、閉まるのも早い。

 そこから更に三十分ほど走れば深夜営業の外資系スーパーがあって、仁樹がフェラーリで行けばすぐだろう。


 舞は言葉に詰まる。大体のところ、舞が一緒に行く理由すら無い。

 でも、こういう時に理に合わぬことをぶつけることが出来る相手というのも居る、少なくとも舞にとって仁樹がそうだった。

「誰があのうるさいフェラーリで行くって言ったのよ?私のRC30で行くのよ」

 仁樹が十代の頃に乗っていて、今は舞が乗っているバイク。舞はもうバイクに乗れなくなった仁樹が、ほんの少しだけ諦めきれぬような顔をしていたことを知っている。仁樹のバイクの操縦は出来ずとも、後ろに乗るくらいは出来るだろう。

 仁樹はバイクの後ろに乗り、自分の体に掴まるところを想像した瞬間、舞はあれこれと考える前に体が動いていた。

 舞に腕を引かれ、残りのお茶を飲み干した仁樹は、大人しく舞についてくる。

 その後、仁樹と舞はRC30に二人乗りし、夜のショッピングモールまで買い物に行った。

 

 翌朝。買ってきた食材で仁樹と一緒に英国式朝食を作った真理は、出来栄えに満足しつつ仁樹に言った。

「鰊の燻製を用意できなかったのは残念ですね。やっぱり近所のスーパーにはなかなか置いていないものです」

 仁樹は夕べ舞と一緒に買いに行った卵とベーコンを食べ、バタートーストを摘みながら答えた。塗られているバターは数日前まるが酪農サイロをデッサンに行った時に買ってきたお土産。

「これも悪くないと思います」

 足りないものなど何も無い。これが三姉妹と仁樹の朝食。

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