(75)Why
廃道の坂を降り切ったところに、霊園入り口の門があった。
そこで道は途切れ、行き止まりになっている。
フェラーリは門前のスペースを活かしてUターンし、そのまま来た道を戻り始める。
舞は最後のコーナーを抜けて、霊園正門までの短いストレートを走りながら、フェラーリとすれ違う。
フェラーリの操縦席に座る仁樹と舞は至近距離で交錯したが、舞は視線を動かさない。
正門の直前で、車体を路面に突き刺すようなブレーキをかけた舞は、さっき覚えたハングオンと膝擦りでRC30をターンさせ、フェラーリを追った。
夜の暗がりでも目立つ真っ赤なフェラーリはさっきダウンヒルした時と同じくらいの車間で先行している。舞に決して追い抜かせない距離。自分のコーナリングする姿をしっかり見せる間合い。
ダウンヒルに続いて急坂を登るヒルクライムが始まる。重量バランスの関係で坂を降りる時よりバイクのほうが有利になる。舞は短い直線で強大なトルクを活かしてフェラーリとの距離を詰め。最初のコーナーに飛び込んだ。
ヘアピン状の第一コーナー、ハングオンで路面に膝を擦るテクニックを得たおかげで、さっきより明らかにコーナリングスピードが速い。傾斜する視界の中で、舞には次のコーナーにさしかかろうとしているフェラーリのテールがよく見えた。
コーナーの終わり際に体を起こし、シフトアップしてスロットルを開ける。フェラーリとの距離が少し離された。ハンドリングとドリフトで曲がってるフェラーリに対し、内側にブラ下がって車体を傾けるバイクはコーナーを脱出する加速の前に車体を起こさないといけない。もっと早く起こさないといけない。
90度のクランク状になったコーナーにフェラーリが突っ込む。車体を横向きに滑らせながらコーナーを通過するフェラーリは、車首がコーナー出口に向いた瞬間、車体を僅かに左右に振った。その動きによってドリフトが止まり。地面をしっかりと噛んだ四輪で加速する。
舞はまたハングオンで膝を擦りながら、仁樹のアクションを真似た。コーナー出口付近でハンドルを左右にこじると、車体がスっと起き上がる。
短い直線を駆け抜けた後、さっきの技を使って五連続コーナーを右に左に車体を倒しながら通過する。フェラーリとの距離が少し近くなった。荒れたアスファルトに擦った膝から、このバイクの速度とパワーが伝わってくる。痛くて危なくて、そしてどうしようもなく刺激的。
緩いカーブで180度近く大回りする最後のコーナー。バイクの小柄さを活かせぬ車に有利なコーナーで、リアタイヤが滑るか滑らないかのギリギリの領域まで使ってフェラーリを追う。
短い直線の後、廃道の終わりが見えた。仁樹のフェラーリは道路が広くなったバス停留所跡でフェラーリを転回させる、そのままもう一度ダウンヒルを始めると思いきや、フェラーリは停止した。
舞も廃道が途切れるゲートの寸前でRC30を横向きにさせて急停止させ、再び発進させたバイクを仁樹のフェラーリの真横につける。
革ツナギに包まれた全身が熱を発しているのがわかる。舞は地面に足をつき、RC30にスタンドをかけながらヘルメットを取る。
仁樹がフェラーリの中でシートベルトを外し、ドアを開けて降りてくる。舞は早足で仁樹の元に歩み寄った。
舞はずっと仁樹に問い詰めたかった。なぜ舞の母親と子供を作ったのか、なぜ自分の子であるまるに今まで会わなかったのか、なぜ、彼はここに居るのか。
夜の廃道でRC30に乗り、仁樹のフェラーリと共に破滅的な走りを繰り返しているうちに、舞の思考は一つの答えを得た。
理解したわけじゃない。ただ、今の舞はその時の母と同じ気持ちになっている。あるいは、この仁樹という男と。
舞は仁樹の襟首を掴み、そのまま力任せに引き寄せた。
そのまま、仁樹の唇に自分の唇を押し付けた。
温かいような冷たいような仁樹の肌を感じている舞の耳に、エンジンが冷えていくチリチリという音が聞こえた。
あれは仁樹のフェラーリの音だろうか、それともRC30か。
舞の心臓は今すぐにも胸を焼き尽くさんばかりの熱を持っていた。




