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GARAGE~フェラーリに恋した男と三姉妹~  作者: トネ コーケン
58/100

(58)教室

 二泊三日の修学旅行期間が終わり、舞のクラスでは一般授業が始まった。

 仁樹と京都で過ごし、修学旅行を欠席した舞は、真理の協力で病欠ということにしてもらったが、帰路で新幹線と並走したフェラーリの中で同級生に手を振る舞の姿は、クラスの中でも何人かの視力のいい子には見えていたらしく、舞は修学旅行をすっぽかしてフェラーリに乗った男とドライブしていた女ということで、クラスの中で話題になった。

 以前の舞は注目を浴びたり、同級生より大きい体格や若干老け顔で大人っぽい顔立ちをからかわれたりすると、あからさまにイヤな気持ちになったが、今の舞は余裕を持って聞き流すことが出来た。

 クラスの中で噂、というより実際に皆が見たものとして伝わっている風説を、教師陣は黙殺することにした様子、ただ一人を除いて。

 舞のクラスで副担任をしている、十代の仁樹を知っているという体育教師。


 職員室の中では中堅ながら普段はあまり目立たぬ女性体育教師は、休み時間に廊下で話しかけてきた。

「安藤、お前は羅宇屋のフェラーリに乗ったそうだな」

 舞は認めようかすっとぼけようか考えたが、一応形だけの肯定をした。

「ええ、そうですが」

 正直なところ、この教師とはもう少し喋る関係になって昔の仁樹のこと、主に彼の欠点や弱みを聞き出したい気持ちもあったが、舞の中に知りたくないという相反した感情もあった。

 この教師は十代の頃の仁樹を、いい奴だけど女難の気があると言っていた。そんなのは、舞の思い描く仁樹の姿と違う。

 ジャージ姿の女教師は舞の気持ちを余所に、昔を思い返すように何度も頷いていたが、急くような早口で喋り始めた。


「あのフェラーリは速かったな、でも羅宇屋はな、バイクに乗ったらもっと速かったんだぞ、RC30っていってな、仁樹はよくあのバイクに乗って、当時浜松に住んでいた女の」

 舞は女教師の言葉を遮るように口を開く。舞は仁樹にダメージを与えられるような情報を知りたいのであって、この教師とお喋りをしたいわけじゃない、それに、仁樹が誰かのために何かしている話なんて聞いても腹が立つだけ、それが女ならなおさら。

「RC30は私が貰うことにしました。中型二輪で登録して私が乗るんです」

 女教師は廊下に響く声で吹き出した。舞には少し耳障りな笑い声。

「あのRC30に羅宇屋以外の奴が乗れるわけないじゃないか!桂川の婆さんも無理だって言ったんだぞ」


 たぶん京都桂川沿いの旅籠を営んでいる革ツナギ仕立て屋のお婆さんのことだろうと思った舞は、女教師を威嚇するように胸を張って言う。

「乗り方はお婆さんに教えてもらいました。RC30もツナギももうすぐ届きます」

 女教師は目を見開いて驚いている。それから、あまり教室で授業をする教師には向かぬ早口で言った。

「桂川の婆さんのツナギだって?お前それ!届いたら着ないで飾っとけ!売ったら家の一軒も買えるぞ!」

 舞にはそんなつもりは無い。どんなに価値のあるツナギだろうと、それが守ってくれるであろう自分の命のほうが高い。


 女教師は舞の体を上から下まで見た。特に運動系の部活には入ってないけど、いつも陸上部やバレー部からヘルプの頼みが来る恵まれた体格。舞自身が好きでない四肢は、ここ数日で自分があのバイクに乗るため必要なものだと自覚したばかり。

 舞の体を見て妙な納得をしたらしき女教師は、舞の手を取って言う。

「RC30が届いたら学校まで乗ってこい!バイク通学については私が許可を取っておく、約束だぞ!」

 舞はあのバイクをママチャリみたいな便利な足にしようとは思ってなかったが、この教師から早く開放されたいと思い、一応約束した。

「わかりました。免許取ったら」

 やっと教室に戻った舞は、同級生の視線が自分に集まってることに気付いた。修学旅行をサボって男と遊んでた女とあっては、注目されてもしょうがないと思った。仁樹との関係は誤解もいいとこだけど、特に実害も無いので誤解させたままにしておくことにした。

 わたしはそんなこと望んでなくても、仁樹の気持ちとこれからの行動次第で誤解じゃなくなる可能性も無くもない。 

 舞は席に座り、携帯を取り出して保存した画像を表示させた。昨日お婆ちゃんに貰った、RC30に乗る十代の頃の仁樹。

 バトルスーツと呼ばれる趣味のよくないライディングウェアを着た仁樹はさておき、彼が乗っているバイクをじっくりと眺めた。もうすぐこれがうちに届く。

 舞の周りに居る、舞が毎日見ている、生きてるのか死んでいるのかわからない同級生と、彼らの過ごす退屈な世界を振り切るものが、舞の元にやってくる。


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