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GARAGE~フェラーリに恋した男と三姉妹~  作者: トネ コーケン
44/100

(44)合流

 舞の望み通り、フェラーリは京都駅前に到着した。

 東京発のこだまがゆっくりと高架の線路を走り、ホームに入っていくところが見える。

 仁樹が言ったとおり、東名と名神を駆け抜けたフェラーリは、本当に新幹線よりも早く京都に着いてしまった。

 舞の座る右側の窓からは、駅前の広場が見える。全国から修学旅行に来た生徒が、集合と点呼を行う場所。あと少しで舞の通う高校の同級生もあの場所に整列し、引率教師の訓示を受けた後、京都を観光するバスへと乗り換える。

 このままフェラーリを降り、駅前で他の生徒と合流すれば、新幹線に乗り遅れた舞は、無事修学旅行に途中参加できる。

 舞は両肩のシートベルトを外し、膝下に押し込んだバッグに手をかけた。

 ドアはとても重かった。


 舞はフェラーリを出て体を伸ばす。長距離走行で足が少しフラついた。ドアを閉める前に、腰をかがめるようにしてフェラーリの中に顔を突っ込んだ。 

 車内の運転席では、仁樹がハンドルに両手をかけながら座っている。いつも家のリビングでそうであるように、動く必要の無い時は微動だにしない姿。

 「ありがと、おかげで間に合ったわ。じゃあ行ってくるから」

 フェラーリで停止しているのが苦痛であるかのように、一刻も早く走り出したい様子で前方を見ていた仁樹が横を向く。いつも通りの無感情な目で舞を見た。

「行くのか」


 舞がいつも登校する時には、姉の真理や妹のまるに向けるものより簡素な言葉ながら、行って来いと送り出してくれる仁樹の、いつもと少し違う反応。

「楽しい旅行だからね、行くわよ。あんたはどうするの」

 仁樹は同じ表情のまま返答する。

「走る」

 もう何を言うか舞にはわかっていた。古都と名刹の街も、彼にとってはフェラーリで走る場所なんだろう。

「さっさとウチに帰りなさい」

 舞はそれだけ言ってドアを閉めた。


 バッグを片手に下げた舞はフェラーリに背を向け、歩き出す。駅ターミナルの向かい側に停めたフェラーリの場所から、横断歩道を渡ってさほど大きくないターミナルを突っ切れば、集合場所に着く。

 ほんの二~三分で舞は広場に着いた。同級生は降車し改札を通ってる最中なのか、まだ駅からは出てこない。

 これから一緒に旅行をするクラスメイト。特に友達と呼べる人間も居ない集団。入学以来ずっと浮いた存在の舞。

 修学旅行で一緒に京都の名所を回り、皆で旅館に泊まれば多少は親しくなれるのかもしれないと思った。あの同級生と、今思い出そうとしても顔すらイメージ出来ない群集と。


 舞の足がまたフラつく。このまま家に帰りたいと思った。そんな子供みたいな真似はできないと足を踏ん張る。我が家は遠く五百km以上先。仁樹のフェラーリに乗ってやってきた。

 舞の耳にどこかで聞いたことのあるような声が聞こえた。駅舎の階段。その上の方から同級生の喋り声が聞こえてくる。舞は思った。京都に先回りしていた自分を見た同級生は驚くだろうか。自慢の種にでもなるんだろうか。いいお喋りのネタにはなるだろう。仲良くなるきっかけになるかもしれない。

 階段から聞こえてくる同級生の声。教室でずっと聞いていた声。舞には楽しそうな声が、自分を責め、嘲笑しているように聞こえた。

 

 声に続いて聞こえてくる何十人もの足音に追いたてられるように、舞は駅前広場から逃げ出した。ターミナルを走り抜け、青信号が点滅している横断歩道を駆けた。

 道路を渡った先には、仁樹のフェラーリが停まっていた。修学旅行を、同級生を恐れ、家に帰りたくなった舞にとって、家の中より落ち着ける場所。同級生の声に怯えた舞に、もっと聞き心地のいいサウンドを聞かせてくれるもの。

 舞は何も言わずフェラーリのドアを開けた。そのまま旅荷物と共に助手席に滑り込む。

「ゴメン、やっぱり行くのやめる」

 仁樹は何の感情も窺えない顔で舞を見た。当たり前の物を見るような目が舞には嬉しかった。


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