(26)背比べ
三姉妹は出かける準備を始めた。
外出といっても近場の花見。部屋着から買物に行くような服に着替えるだけ。
あとは真理のお弁当作りの手伝いくらいだが、妹たちが退屈を訴えることを見越していたように、食材はすでに揃ってた。
仁樹は何も言わず、何も言われぬまま三階のリビングから階段を降りた。
仁樹が暮らしている一階ガレージに来客が来た時のために置いているキャンプテーブルとチェア、クロス、地面に敷くシートを持ち出し、ガレージ横のスペースに停められた真理のトヨタトラックに積み始める。
仁樹が日本のホームセンター等で売っているキャンプ用品より重く頑丈なチェアを担ぎ上げ、トラックに積んだところで二階の玄関が開き、舞が階段を降りてきた。
「あんたに任せてたらいつまでかかるかわからないから、手伝いに来てやったわよ、あんたひ弱そうだし」
舞の見立てはあながち間違っていなかったらしく、仁樹はチェア同様に重厚な作りのテーブルを、苦労している様子で持ち上げている。
途中まで上げたテーブルを、どうやったら真理のトラックを傷つけないように荷台に積めるのか迷っていた仁樹は、後ろを振り返ることなく言った。
「ここはいい、真理さんを手伝ってこい」
舞は足を踏み出し、仁樹が持ち上げているテーブルに手をかけながら言った。
「イヤだ」
テーブルは仁樹がなかなかトラックに積み込めないのが理解できる重さだった。成人男子の平均的な力では持ち上げることさえ出来るかどうか。しかし舞は馬鹿力には少し自信がある。
少しよろめきながらもテーブルの下部を持ち、そのまま力を振るってトラックの荷台に放り込む。
荷台の端に少し傷がついた。仁がはこれを恐れて一人で積み込めなかったことに気付いた舞は、まだ積んでないチェアを持ち上げ、放り込みながら言う。
「車なんてただの道具なんだから、こうやって使えばいいのよ」
真理が父の知り合いの中古車屋から登録の費用だけで譲って貰ったトヨタ・ダイナの四人乗りトラックは、以前は植木屋で使われていたらしく、既に傷だらけ、今さら一つ二つの傷など目立たない。
仁樹は真理のトラックについた傷に指で触れながら言った。
「それもそうだな」
積み込みは二人がかりであっさり終わる。舞は仁樹と並んで作業しながら、やっぱり彼は自分よりほんの僅か背が低いことに気付いた。
仁樹は以前まるが不躾に身長を聞いた時には百七十cmと答えていたが、舞の身長は百六十九cm、舞の主観ではほんのたまに身長計が壊れていて百七十以上の数値を出すことがあるが、それが今からどれくらい前に測ったものだろうと百六十九cmという数値が出たからには、それが本当の身長だと思ってる。
こいつ百七十cmとかサバを読んでるのか、と思い少し機嫌がよくなる。でも、並んで歩く時にはヒールの高い靴を履かないようにしようと思い、この男と一緒に歩くことなんてこれから先あるわけないと頭の中の妄想を打ち消す。
舞は少し上ずった声で言った。
「少し汗かいちゃったからシャツだけ替えてくるわ。あとこの格好じゃ寒いだろうから上着も取ってくる」
階段を駆け上がり、二階の玄関から家の中に入った舞は、すぐに外出の準備を終えた真理とまるを伴って玄関から出てきた。
仁樹と出かけると聞いて部屋着とさほど変わらないデニムパンツに地味なシャツ姿の舞は、先日仁樹に修復して貰った革ジャケットを羽織っていた。
出かける時にはパラディウムやティンバーランド等のアウトドア用トレッキングシューズを好む舞にしては珍しく、今日は底の薄いデッキシューズを履いていた。




