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GARAGE~フェラーリに恋した男と三姉妹~  作者: トネ コーケン
25/100

(25)日曜日

 三姉妹が都下の入学してしばらく経った、四月半ばの日曜日。

 暖冬ながら晩冬の冷え込みが長引いたためか、平年より遅咲きの桜はようやく散り始めていた。

 日曜の朝。休日も寝坊の習慣の無い三姉妹は、一階ガレージで暮らす仁樹を加えた四人で朝食を終えたところだった。

 まだ入学から間もなく、先月まで静岡の学校に通っていた関係で入学前からの友達も居ない三人は、暇を持て余していた。

 三人揃ってあまり社交的ではなかったようで、新しいクラスで喋るようになった同級生は何人か居たが、誘い合って休日に遊びに行くほどの友達はまだ居ない。

 今朝の食卓でも、早々に朝食を終えたまるはリビングのソファでテレビを見ていて、舞は同じく朝食を終えながらも食卓に居座り、向かいで悠々とお茶を飲む男をじっとりした目で見ていた。

 仁樹はいつも通り、猫舌気味のため真理の淹れたお茶を飲むのに時間がかかる様子。彼と奇妙な同居を始めてしばらく経ち、仁樹が真理に頼まれて食卓に同席することに反対していた舞も、最近は文句を言うことが無くなっていたが、食後にはさっさと出てけと言わんばかりの態度を取る。

 舞はテーブルを指でトントン叩いて仁樹にお早いお帰りを促したが、真理の作った料理や淹れたお茶をけっして軽んずることの無い仁樹は、テーブルに自分以外誰も座っていないかのように、窓の外を見ながらお茶を飲んでいる。

 舞のいらだたしげな行動の理由は、この男の存在以外のところにあった。

 引越しと入学の重なった慌しい日々が終わって数日。やっと平穏を取り戻した三姉妹。と、なると今度は差し当たってやる事が無いという事実に気付く。

 昔から絶えず動き続けることが好きで、一つの場所に留まることを知らなかった舞は、そんな退屈が腹立たしかった。

 それで、ちょうど目の前に居る男に鬱憤をぶつけたが、仁樹は舞の気持ちなど意にも介さぬ様子。

 向かいから舞に視線を突き刺されながら、やっとお茶を飲み終わった様子の仁樹が席を立つ。

 タイミングを合わせたように朝食の片付けを終え、キッチンから出てきた真理の前に立った仁樹は、軽く頭を下げながら言った。

「とても美味しい朝食でした」


 仁樹はいつも朝晩の食事を終えると、真理に礼を言う。元より無口な男、相槌程度の発声を除けば食事中まともに喋る言葉がそれだけということも珍しくない。

 部屋着のワンピースにエプロン姿の真理は、いつも仁樹の言葉に嬉しそうに身をよじらせている。

 仁樹は朝食の礼を言った後、いつも通りリビングを出て一階のガレージに帰ろうとする。さっきまで仁樹に早く出て行けというジェスチャーをしていた舞が、なぜか物足りなそうな顔をした。

 背を向けリビングのドアを開ける仁樹、真理は引き止めたそうな顔をしているが、彼が一階ガレージにあるフェラーリと共に過ごす時間、あるいはその合間にしている仕事の時間を邪魔することを望まぬ真理は、家に置いていかれた飼い犬のような目で仁樹の背を見ている。

 仁樹と姉二人のやりとりの最中、ずっとソファに寝っ転がってテレビを見ていたまるが体を起こした、腕を伸ばして仁樹の着ているツナギ服を無遠慮に引っ張りながら言う。

「お兄ちゃん、わたし遊びに行きたい」

 仁樹は足を止め、振り返った。無表情なまま、ソファに寝転んだままのまるを見下ろす。

 三姉妹にも、この男の仮面のような顔は、困惑や苛立ちではなく、単に返答の必要が無いか、最適の返答をするに足るだけの情報が足りない時の表情であることがわかってきた。

 仁樹はまるから何か発言の真意を補足するような追加情報が出てくるのを待っている。まるはニヤニヤしながらも、それ以上何も言わない。

「こんな男と遊びに行ってどうすんの?」

 いつもより口調の弱い舞。彼女もまたまる同様に退屈を持て余していた。そこに割って入るように、真理が仁樹の前に立つ。

「仁樹さん、よろしければ私たちとお花見に行きませんか?」

 真理の言葉に、仁樹より先に反応したのはまる、ソファの上で両手を上げて言った。

「お花見!行きたい!」

 続いて舞も真理の提案に賛成する。

「いいわね!わたしたち三人でお花見に行きましょう!わたしたち三人で」

 真理は仁樹の顔を窺う。表情に反して立ち位置は仁樹とリビング出口の間、手はまるに張り合うように仁樹のツナギ服を掴んでいる、仁樹の返答はどうあれ、もう逃がさない体勢。

 仁樹が口を開く、何か言うより先に、舞が食卓から立ち上がる。仁樹に近づいてツナギの襟首を掴む。

「わたしたちの邪魔をしないっていうなら、あんたも荷物運びとして連れてってやってもいいわよ。どうせ日曜にやる事なんて無いんでしょ」

 三姉妹から服を掴まれた仁樹は、真理に顔を向けていった。

「構いません」

 三人の手が離れ、一斉にお出かけの準備を始める中、仁樹はツナギ服のポケットから携帯を取り出す。

 メール画面が表示される。彼の仕事先である雑誌製作会社からの花見の誘い。仁樹は交流の席には興味が無かったが、資料の借り受けのため行く予定だった。

 仁樹はごく短いメールを送った、文面は一言。

 キャンセル。


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