◆蛭山風愛斗の口空記❶
◆蛭山風愛斗の口空記❶
《直接録音》場所/Ω7919 Ψ9677 Ж4789 Х6211 Σ8629 Ф5711 Ξ3823 Θ1801 Δ2963 ∴!!! ∀773
【現空域地言語に拠る表記】
⇒第51番発生宇宙銀河系列太陽系列第3番惑星地球ユーラシア日本列島神奈川地方横浜地域最重要警戒区域第2号国都霞大学アーミテイジ・ハウス2階男子(生殖別現空域地言語個体名〔雄〕)トイレ第3個室
《直接録音》日/西暦2015年4月15日
《直接録音》時/日本列島時間午後2時14分
《直接録音》者/蛭山風愛斗
アクセス方法/塗具素数を記したる紙
暫定的黙示録/最重要警戒録音
ん。んんん。
んげ。
くっそ、万の野郎、ぬぁにがイチゴ味だ。
おもいっきし、紙の味しかしねぇじゃねえか。
んぐ。
んご。
っふぁっ。
よっしゃあ、呑んだぞ。
でもョ。
ホント、コレでいいのか?
あンのインチキ吸血鬼ハンター、テキトーぶっこいてんじゃねえべな。
よくよく考えたら、自分で確かめようがないじゃん。
傍から見たら、ぶつぶつぶつぶつ、ただの独り言だぞ?
単なるアブないヒトじゃねェか。
ああっ、もうっ、くそっ。
(パチ、パチ。柏手を2回)
そのォ、何ンっつうたか、アカシヤ・レコーダーだかクラシック・アコードだかの担当の人……いや、人だか何だか知らないんだけど、まあ、兎に角、そっちの方にいらっしゃるんですよねぇ。
あほ《ヴァンパイアハンター》の万羅鬼矢センせーが仰るにゃあ、こうやってアカシヤ・レコーダーだかクラシック・アコードだかに録音しておくと、ナニかと面倒見てくれるって話じゃないスかぁ。
ホント、よろしくお願いしますよォ。
それと、あのォ、コレ、本当に、真剣に、ちゃんと聞いててくださいネ?
じゃないと、俺、まるっきり馬っ鹿みたいだから。
あ。
そうだ。
もひとつ、ついでに。
(パッチ、パチ。おまけの柏手を、さらに2回)
どォぞ、だァれも、このトイレに入ってきませんよォに……っとォ。
ったく、何が悲しくて、こんな展開になっちまったかなぁ。
まっ、いいや。
そいつを考え直すっつう意味でも、独り言だろうがアブナイ奴に見えようが、構うもんか、畜生。
ええっと、じゃあ、取り敢えずは、始めるとすっか。
んんっと。
あー。
えーっと。
まずは、自己紹介か。
俺の名前は、蛭山風愛斗。
ひ・る・ぜ・ん・ふ・ぁ・い・と。
いィや、こうやって自分の口でもって、改めて言葉に出してみると、なァんか、ますます恥ずかしいネーミングだと思うワ。
因みに、名付けたのは祖父ちゃんね。
年齢は、二十歳。
あ。
祖父ちゃんが、じゃあないっスよ。
俺が、だよ。
ん?
ああ、ンな事ァ、フツー言わんでも分かるよな。
アホか、俺は。
で、国都霞大学文学部の2年生、英米文学専攻だす。
いや。
……です。
これでも一応、イマドキにゃあ珍しい《文学青年》なんですワ。
おもいっきし、自称だけど。
因みに、国都霞大学って、文学部しかないんだよネ。
食い物屋で謂う『ウチは、このメニュー一つで勝負!』的なノリっつうか、隠れ宿定番の謳い文句『1日1組限定のお宿』的なウリっうか、なンかブレーク芸人に有り勝ちの『一発屋』的に芸がナイっつうか。
いや、まぁ、最後の奴は言い過ぎっちゃあ言い過ぎなんだけど……。
兎に角、単なる文学好き本好き活字好きから、内外の文豪ヲタク、古典研究者気取り、微細的評論家、純にケータイ、ネットにライン、二次創作、現代、時代、歴史に私、恋愛、青春、ミステリー、SF、ホラー、怪奇、オカルト、ファンタジー、エンターテインメント、官能、変態、SM等等等、ありとあらゆるジャンルの作家、脚本家、翻訳家、二次創作家、マンガ原作者の志望者願望者、実際もうなっちゃってる奴……まあ、かなりの率で『自称』が多いんだけど……それとか、ただただ他に行き場所がなかった連中、そんなんばっかが集まってきてるちょっと毛色の変わった大学には違いないんだよネ。
大学のネーミングからして、なァんか、妙じゃん。
ま、『風愛斗』とか名付けられてるお前が言うなって話じゃああるけども。
国都霞。
これって、学長の名前なんだ。
まあ、それだけの話っちゃあ、それだけの話なんだけどサ。
大体、自分の名前を大学名にするって、どーよ。
ある意味、良かったよ、国都霞で。
これが、田中三郎だの鈴木一郎だのだったら、なんか、馬鹿にされてるみたいだもン。
田中三郎大学? 老舗の問屋かよって……あ、いや、全国の田中三郎さんがドーノ、鈴木一郎さんがコーノと言ってる訳じゃないんですよ?
あくまでも、譬えたらって話ですから。
全国の問屋さんたちも、ネ?
そこンところ、誤解なきように。
でもョ。でもですョ。
実はサ、極々最近、その国都霞学長先生ご本人と遭いまみえる機会がありまして、学長のお嬢さんについて、あれこれ、篤と御貴命を賜ったんだけど、いーや、本っ当に、ぶっ飛んでました。
国都霞大学の創設者サマは。
凄いお方です。
あのオバハン……いえ、学長先生は。
自分の名前を付けてトーゼンですワ。
何しろ、この大学、ぶっ飛んでるどころの話じゃなくって、宇宙の果てに鎮座増しますブラックホールの中心も斯くやとばかりの奇妙奇天烈人外魔境な場所なんだもの。
そりゃあ、そんな大学を創ってしまった……いや、果たして、ここを大学と称して良いのだろうか。そんな疑問すら浮かんじまうワ……お方の名前を付けずして、誰の名前を冠せますかっつう話ョ。
それよりもなによりも、そのお嬢さんにしてからが、ハーフとは謂え吸血鬼なんだから。
つぅコトは、だョ。
旦那は、正真正銘の吸血鬼って訳じゃん。
何をか況や、ですワ、ホント。
ま、その点については、後でじっくり話させてイタダクとして。
取り敢えず、俺は、極々普通に文学を愛する真面目な一学徒として、この大学を選んだのだ、とそういう事が言いたかったワケ。
当初は、ネ。
いや。
確かに、別の動機っつうか、身内の事情っつうのも在ったには在ったんだけども。
ま、それも追々ね、追々。
そうだ。
イマドキ珍しい《文学青年》としては、一応、敬愛する作家なんぞを挙げとこうか。
ええっと、ウンベルト・エーコーにチャールズ・ブコウスキー、ジェームズ・ジョイス、ウイリアム・バロウズ、ホルヘ・ルイス・ボルヘス、J・G・バラード、レイ・ブラッドベリ、カート・ヴォネガット、トマス・ピンチョン、ポール・オースター、スティーヴン・キング、筒井康隆、小松左京、半村良、芥川龍之介、夏目漱石、福永武彦、井上ひさし、金子光晴、小栗虫太郎、泉鏡花、谷崎純一郎、それと伊藤計劃。
まあ、殆どが祖父ちゃん家に置いてあった本からの受け売りだの知ったかぶりだのだったりもするんだけどサ。
なにしろ、祖父ちゃんは俺の読書道の偉大なるお師匠さまだからョ。
祖父ちゃん家は、横浜の獅子ヶ谷にある俺の実家から歩いて、そーだなぁ、7、8分ってトコかなぁ。
だから、子供の頃は、そりゃあ、よォく遊びに行ったもンだよ。
俺、凄ェ、ジイチャン子だったから。
まあぁぁぁ、兎に角、本、本、本、本、本ばっかある家でサ。
何度も何度も入り浸っているうちに、いつの間にか、俺も、本、本、本、本、本ばっかの人生になってしまいましたとサ。
やれやれ。
でまぁ、ええっと、ナンダカンダあってェ、この大学に入ったんだけども……。
んー。
ええいっ、クソ。
やっぱ、ダメだな。
ホントはさ、すンげェ可愛いハーフな吸血鬼……例の、学長先生のお嬢さんの事ネ……だの超猫好きな犬女だの無茶苦茶妖艶なむっちり身体の夜叉ちゃんだの糞生意気な一つ目ウサギだの、ああ、それと忘れちゃならないマヌケ吸血鬼ハンターと、その相棒の猫又……笑っちゃうのは、こいつ、O2とか名乗りやがってサ……なんぞに囲まれた麗しのキャンパス・ライフ……っちゅうか、世にも恐ろしい学食バイト生活について、今直ぐにでもくっちゃべりたいんだよナ。
けどもサ、物事やっぱ、順番っちゅうのがあるワ。
そもそも、あの連中を、その手のカテゴリーで分類しちまって良いのかどうかも、よー解らんし。
まぁ、存在しちゃってる時点で、既に受け入れざるを得ないのは、勿論なんだけどョ。
何はともあれ、自分の進学先を国都霞大学に決めた事だとか、今、自分が置かれちまったトンデモ状況だとかを説明するにゃあ、やっぱ祖父ちゃんについて語らんと、まるっきり、話が先に進まんのですワ。
あのサ、俺の祖父ちゃん、3年ほど前に、ある日突然、失踪しちまったんだ。
奇妙な暗号を記した紙片だけを残してネ。
大体、その祖父ちゃんの失踪と奇妙な暗号こそが、俺を、国都霞大学に導いてくれちゃったのダ、と言っても過言ではないのですからナ。
よっしゃ。
取り敢えず、『祖父ちゃんと俺』について、くっちゃべっちまうか。
まあったく、〈朝、起きたら俺は、何時の間にか異世界に居た〉だとか〈車に跳ね飛ばされて、見事ご遺体と化した俺は、異世界へと転生した〉的な話の持ってき方が出来たら、どんなに楽か、畜生メ。
で。
ええっと、ネ。
すべての始まりは、江戸川乱歩の『青銅の魔人』だった。
へへ。
まずは、こんなトコから、だナ。