第十五話 発作。 クロアという少女
なんか最近、ほのぼの成分が足りない気がする。
今日も、俺達は、ファウス先生のもとで指導を受ける。
そもそも、実戦は、剣術か魔術の先生が許可を出さないと受けられない授業なのだ。普通の生徒なら、だいたい三ヶ月後くらいで、許可が下りる。
それまで、生徒が居ないファウス先生は、毎年退屈していたものだ。だが
「いや~、今年は優秀な生徒が多くて助かるよ。」
今年は、四人も逸材が居た。嬉しい。
今、シェイドとアイリスが手合わせをしている。
アイリスは、対剣士の練習。シェイドは、対魔術師の練習をするためだ。
もちろん、シェイドは、木刀を使っているから安全だ。
「焔の牢獄!」
アイリスが、火の上位魔術を使う。
たちまち、シェイドは炎の渦に囲まれる。
「・・・くっ。」
シェイドは、水の魔術を使い、炎をかき消そうとするが。
「その程度じゃ、突破できないです!」
水は、すぐに蒸発してしまった。
シェイドは、初歩の魔術しか使えないのだ。
ものすごい熱で、体力がじわじわと削られていく。
だが、シェイドは、魔術が得意ではない分、身体能力が高いのだ。
「・・・はぁっ!」
風の魔術で速度を底上げして、上に高く飛ぶことで、牢獄を突破した。
「フレイムカノン!」
すかさず、アイリスは魔術を放つ。
「甘い。」
シェイドは、それをたやすく回避する。
「だったら・・・!」
フレイムカノンを小分けにして、連続で射出する。
フレイムガトリングといったところか。
「小細工を。」
だが、シェイドは驚くべき動体視力で、かわしつつ、接近する。
「・・・!!」
そして、アイリスの目の前までたどり着いた。
魔術師は、接近戦に弱い。
シェイドの木刀が、アイリスにヒットする。
「っくぅ・・・!」
さらに追撃しようとしたが
「フローズン・シール!」
シェイドは、バックステップで距離をとった。
お互いが相手の様子を見る。
それぞれ、苦戦しているようだ。
ところで、俺はというと・・・
「ダメダメ、もっと小さくしないと。」
「すみません・・・」
破壊の上位魔術、貫く刃を制御する練習をしていた。
貫く刃は、形状を変化させることで色々な使い方が出来る。
実際、俺は、それをアレンジして、タイラント・レオを倒した。
先生は、「あの技、すごかったね!両手に刃を発生させて、さらにひねりを加えて、ドリルみたいに使ったんだろう?でも、あれは、人間に使うような技じゃないね。・・・よし、じゃあ対人用にアレンジしてみようか!」
と言って、俺に指導を始めた。
「違う違う、もっと小さくだよ!集中して!」
「・・・はい!」
今、刃を小さく圧縮して、投げナイフのように使う練習をしている。
これがなかなか難しい。
だが、習得すれば、シェイドもきっと
「う、うぇっ、うぇぇぇん。・・・ゆっ、ゆるしてよぅ・・・」
とか言うに違いない。早くマスターしなければ。
・・・ところで、さっきから、クロアは一人でポツンと立っているだけだ。
訓練はしないのだろうか?
休憩時間
「あ、クロアだ。」
クロアが居た。ちょうどいい、ちょっと聞きたいことがあるんだ。
でも、クロアは三人の男に囲まれてる。何だろう?
「や、やめなよ・・・こんなこと。かわいそうだよ・・・!」
よく見ると、クロアの後ろに、男の子が縮こまっていた。
「いや?別に俺たち、何も悪いことしてないぜ?」
「あぁ、お友達と、お話してただけだぜ?」
「ちょっと、金貸してくれってな。」
「でも、この子、嫌がってたよ・・・?」
「嫌がってたぁ?」
「んなことないよ・・・なぁ?」
「・・・うぅ」
・・・あぁ、いじめか。
「ていうか、お前何なんだよ。」
「え?何?こいつと付き合ってるわけ?」
「・・・ち、ちがいますっ!と、とにかくもうやめなよ!」
「あぁ?お前生意気なんだよ。」
男がクロアを突き飛ばす。
「ほんとだよ。弱っちいくせになぁ。」
クロアが男を睨む。
「・・・なんだよ、その目は。やんのか?」
「ギャハハ!無理無理!こいつ回復魔術しか使えないらしいぜ!」
・・・うーん、一通り見てみたけど。悪いのは多分、あいつらだな。
集団で弱い奴をいじめるなんて。見ていて腹が立つ。
「おい、お前ら。」
「あぁん?なんだおま・・・こぺぁっ!?」
「ど、どうし・・・たぶらぁっ!?」
「ひ、ひぃっ・・・や、やめっしゃぁぁぁぁあああ!?」
瞬殺だ。群れる奴ほど弱い。
「・・・あ、ありがとうございます!」
男の子は、礼を言うと、走り去っていった。
「レイン君・・・」
クロアが、泣きそうな顔で俺を見てくる。
「いや、ちょっと君に用があったからさ。」
「レイン君って、優しいんだね・・・ありがとう。」
クロアが、にっこり微笑む。・・・可愛い。
・・・ん?俺、今、可愛いって?可愛いって何だ!?
今の気持ちは何だ?・・・分からない!!!
「・・・どうしたの?」
クロアが、俺の顔を覗き込む。
「い、いや、何でもない。」
クロアと一緒に居ると、俺の心がかき乱される。
一体、この少女は何なんだろうか。
その夜
「うぅぐぅっ!?・・・ああああ!!!」
自分の部屋で寝ていると発作が起きた。あぁ、人を殺したくてたまらない。
「・・・くぅっ!」
また、殺すのか。俺は。
この学校に来てから、図書館で調べてみたが、いまだに、この症状が何なのかは分からない。
・・・そういえば、ナイフを家に忘れてきたな。
そんなことを思いながら、部屋を出る。獲物は居ないか。
「・・・あれ?レイン君?」
・・・居た。クロアだ。
でも、クロアは殺さないほうがいい。
クロアを殺せば、ファウス先生は、怒って犯人を捜すだろう。
あの人のことだ。きっと犯人をつきとめるに違いない。
ばれれば、終わりだ。死刑だ。・・・いやだっ!!!
「・・・どうしたの?こんな時間に。」
どうやって殺してやろうか。
俺は、獣のようにクロアに飛び掛り、床に押し倒す。
「きゃぁっ・・・何!?や、やめてっ!」
・・・あれ?
「ご、ごめん・・・ん?」
「もう、びっくりして心臓止まるかと思ったよ・・・」
「や、あの、気が動転しててさ・・・」
なぜか、さっきまで体の奥から湧いていた衝動が、ぴたりと収まっていた。
なんで?
「あ、あの・・・よけてくれるかな・・・」
クロアが真っ赤になりながら、そういってきた。
「あ、あぁ、わかった。」
クロアから、離れる。
さっきから、押し倒したままだったのだ。
・・・この少女、何か、特別な力でもあるのだろうか。
もしかしたら、この少女。俺の病気を治す手がかりかもしれない!
「・・・なぁ、クロア。」
「・・・なに?」
俺は、彼女に告げる。
「来週の夜、俺の部屋に来てくれ。」
この少女には、発作を抑える力があるのかもしれない。
それを試したいのだ。
「・・・えええええええ!?」
クロアが驚く。
「な・・・!?え、それってまさか・・・あ、あわわわわ」
「じゃあ、俺、もう寝るから。」
「あ、う、うん。・・・あぅ・・・」
俺は、そのまま部屋に戻って、寝た。
一方、クロアは
(わ、私、いったい何されちゃうんだろう・・・)
何か、勘違いしてた。