ある少年 レイン
ここは、トリアの貧しい街。
そこに住む12歳の少年、レインは、今日もまた木刀を振る。
「870、871、872・・・!」
彼は毎朝、汗びっしょりになりながら木刀を振るう。
「873・・・!874・・・!」
「振り方が雑になってきたぞ。」
「はいっ!母さんっ!」
彼女はライナ。レインの母親である。
といっても、本当の母親ではないのだが・・・
「997!998!999!1000!・・・終わった・・・!」
「よし、じゃあ朝ご飯にするか」
俺がこの家に来て、もう1年が経つ。
俺は、1年前にこの街で倒れているのをライナに拾われた。
何故、俺がそこに倒れていたのかは分からない。
それ以前の記憶が無いからだ。
ライナは、そんな俺を家に迎え入れてくれた。
・・・何故なのかは分からない。ライナに得は無いはずだ。
「ほら、できたぞ。朝ご飯。」
ライナは24歳だ。この国の兵士として働いている。
仕事内容は、要人の護衛だ。夜、仕事に出て、朝に帰ってくる。
やや幼なく見えるが、整った顔立ちをしている。
「・・・はぁ」
「どうした、レイン。そんなことで疲れていては駄目だぞ。」
「でも毎朝素振り1000回は厳しいです。」
「一流の戦士になりたかったら、それぐらい耐えろ。」
「しかも、日中はずっと剣の稽古ですし・・・」
母さんの稽古は、すごく厳しい。
「そんな顔をするな・・・私はお前のためを思ってだな・・・」
初めの頃は、毎日、腕が筋肉痛だった。
だが、ここ最近は筋肉がついたせいか、楽になった。
とはいえ、キツいことに変わりは無い。
はぁ・・・今日も腕がだるい・・・
「はぁ・・・」
「機嫌を直せ、ほら、私が撫でてやるから。」
「いいですよ別に・・・うわっ」
無理やり抱きしめられて、頭を撫でられた。
俺の顔に、ライナの大きな胸が押し付けられる。
・・・どうも落ち着かない。
「ほら、どうだ?」
「どうって言われましても・・・何とも」
胸が当たって気持ちいいな・・・
「何で母の愛が分からないんだ、まったく。・・・まぁいい、早く食べろ。 終わったらすぐに稽古だからな。」
「はーい・・・」
・・・出た。また『愛』だ
俺にはそれが何だか分からない。
人間の持つ感情の1つらしいが、俺はそれらしい感情を抱いたこと は、一度も無い。・・・それを必要とした事も無い。
と、そんなことを考えているうちに
俺は飯を食い終わってしまった・・・
今日も地獄の特訓が始まる・・・