第十一話 入学
今日もまた、人を殺した。
目の前には、上半身が吹き飛ばされた男(?)の死体。
我ながら、今日も派手にやったもんだ。
「・・・早く帰ろう。」
俺は、その場を立ち去る。誰かに見られるわけにはいかない。
俺は、一週間に一度、発作が起こる。
発作が起きると、人をこの手で殺すまで収まらない。
自分ではどうしようもないくらいの衝動が、内側から湧いてくるのだ。
・・・いつも、不思議に思うのだが、何故か、死体の損傷が激しい。
俺が持っているのは、この短めのナイフだけだ。
ナイフで、腹に大きな穴を開けたり、上半身を丸ごと吹き飛ばしたりはできないだろう。無意識に強力な魔術でも発動させているのだろうか?
・・・まあいいか。
明日から、ついに学校に入ることが出来るのだ。
もしかしたら、この発作の抑え方も分かるかもしれない。
まぁ、分からなくても、学校で戦闘の訓練をして、外の世界を旅すれば、
何か見つかるだろう。
「楽しみだな・・・」
俺はフードに付いた血を落としてから、ベッドの上に倒れこみ、眠った。
翌朝
「おはよう、母さん。」
「おう、おはよう。今朝は早いな。」
「はい、今日は入学日ですから。」
「そうか・・・行ってしまうんだよな・・・」
俺は、この家を出て、一年間、向こうの宿舎で暮らす。
「寂しくなるな・・・ほら、ミーシャも何だか悲しそうだぞ?」
「そんな訳ないでしょう。」
「レイン、行かないでー!」
ライナは、ミーシャの足を持って、パタパタと動かしながらアテレコする。
「はいはい、じゃあ、俺はもう行きます。」
まとめておいた荷物と、入学金の入った袋を持ち、外に出る。
「あぁ・・・レイン。・・・レインが行ってしまう・・・」
ライナは、何だか泣きそうになっている。
どうせミーシャは、「これで、お前の分の魚は俺のものだ。ゲヘヘ」
なーんて思っているに違いない。
「たまには、手紙送ってくれよー!・・・うぅ」
「分かったよ、母さん。」
学校は、家からそこそこ遠いところにある。
まずは、クシャルという街に行き、そこから、馬車に乗るのだ。
三十分くらい歩くと、クシャルに着いた。
学校に行くための馬車を見つけ、乗せてもらう。
「お願いします。」
「あいよ。お前さんも入学しに行くんだろ?」
「はい。」
「そうか。将来はは何になるつもりだい?」
「旅人です。」
「旅人かぁ。夢があっていいなぁ!俺の息子も旅人になって、この国を出て 行っちまったんだ。」
おじさん曰く、旅人は、いまどきの若者の中で、なりたい職業ナンバー1
なのだそうだ。
移動中、おじさんと他愛の無い話をしていると、右側に、洞穴が見えた。
「あれは何ですか?」
「あれは、洞窟だ。」
それは、見れば分かる。
「洞窟の奥のほうには、魔物が出るんだ。」
え?国の中に魔物は居ないはずじゃ・・・
「たしかに、この国全体は、魔術で守られているが、洞窟の奥までは、
効果が届かないらしい。だから、怒りや憎しみの感情が、洞窟の奥のほう に溜まるのさ。そして、その中に迷い込んだ動物が変異して、魔物になる わけだ。そして、そこに住み着くってな感じだな。」
「そうなんですか・・・」
「たまに奴らは餌を求めて洞窟から出てくるからな。もちろん餌は人間だ」
それは、本で読んだ。魔物は、人間を食い、その中にある魔力を糧とするのだ。
「だから、普段は封鎖してる。まぁ、腕に自信があるなら、はいってみるの もいいかもなぁ。魔物の素材は高く売れるぜ?」
・・・いつか行ってみよう。
俺は、無事、学校に到着した。
「おう、じゃあな!がんばれよぉ!」
ありがとう、おじさん。俺、頑張るよ。
受付で、金を払い、手続きを済ませる。
「はい、では、中庭で待機していて下さい。校長先生の挨拶があります。
中庭は、この先です。」
言われたとおり、俺は、中庭に向かう。・・・人が多いな。
何だか緊張してきた。こんなに大勢の人に囲まれるのは、初めてだ。
しばらくして、校長が現れた。
「えー、新入生の諸君。私は、この学校の校長。グレイ・アルスだ。」
~三十分後~
「・・・・・・であるからして・・・・・は・・・・の・・・・・なのだ」
(うぅ・・・何だこれは)
体力が、ガリガリと削られていく。話が長いよ、この人。
「そもそも・・・・というのは・・・から・・・・であり、また・・・・」
(も、もうやめてくれ・・・!!!)
この場の全員がそう思った。
十分後、やっと話が終わった・・・
にしても、体力の消耗が激しい。
あの校長、俺たちに向かって、何か魔術でも発動させていたのだろうか。
人生初の「校長の話」に戦慄していると。
「次は、新入生代表の決意表明です。」
後から聞いた話だが、代表というのは、入学試験を受け、その中でも、優秀な成績を残した者が選ばれるらしい。入学金は免除だ。ずるい。
「それでは、代表、アイリス・シュトライト。前へ。」
「はい!」
・・・母さん、俺、学校生活が不安です。
第一章、完ッ!!!