第九話 魔術の勉強
うちに猫が来てから、ろくな事が無い。
この白い猫の名前は、ミーシャだ。現在進行形で俺を踏みつけている。
いつもこうなのだ。
俺が剣の稽古でへとへとに疲れて、ぐったりしていると、奴が近づいてきて
うつ伏せになっている俺の背中を踏みつけてくる。
(・・・腹立つ)
なので、ミーシャの首を掴み、放り投げる。
しかしミーシャは、シュタッと華麗に着地する。・・・くそぉぉぉ!
「こら、レイン!ミーシャをいじめるんじゃない!」
ライナに怒られた。
「にゃあ」
ミーシャが、ライナの足にすり寄る。
「おぉ、よしよし。もう・・・お前は可愛い奴だなぁ・・・!」
ライナは、ミーシャを撫でくり回す。何度も何度も。
・・・何だか面白くない。
「うぅー」
俺はミーシャを睨み付ける。
すると、ライナがこんなことを言ってきた。
「ははーん。分かったぞレイン。・・・お前、ミーシャに嫉妬してるな?」
・・・は?
「そ、それってどういう・・・!」
違う!俺は別にそんなわけじゃ・・・!
「そうかそうか・・・お前も可愛いぞ?私がなでなでしてやろうっ!」
ライナが近づいてくる。
「え、遠慮します!」
俺は、逃げるように家を出た。
俺は最近、ライナにペースを崩されがちだ。
まったく、何なんだ。
不機嫌になりながら、歩いていると・・・
「・・・・・ぉ・・・・ぁ・・・もにょにょ」
ババアが、こっちを見ながら何か言っている。
「な、何か?」
「・・・もご、もにょにょ?・・・ょ」
だから、聞こえないって!・・・・・・ハッ!
このババア、まさか!
「えぇと、魔術用品の店の、ばあちゃんですか?」
ばあちゃんは頷く。
何か言いたそうに、鋭い眼光を、俺に向けている。
俺は、恐る恐る、老婆の口元に耳を近づける・・・すると
「・・・・・・・お前は、水晶を、破壊した。」
ヒィィィィィ!?ゴメンナサァァァァイ!?
俺が、ライナに休みを貰い、街を見に行った日。
ばあちゃんの店にあった玉を、俺が壊してしまった。
・・・やっぱり、あのことを怒っていたのだ。
しかも、俺の家を調べ上げ、ここまでやって来た。怖い。
「お、お金なら払います・・・だから!」
すると、ばあちゃんは、懐から本を取り出した。
角の硬いところで殴られるに違いないっ!
ばあちゃんは、俺に本を差し出す。・・・え?何?
「これ、俺にくれるんですか・・・?」
ばあちゃんは頷く。
「あ、ありがとうございます。」
「・・・・もにょ、ぉ・・・ぅ・・・!」
親指をビシッと立てると、そのまま、ばあちゃんは去っていった。
なんだったんだ。
一方、ババア
(あの少年は、不思議だ。)
(あの水晶、破壊するには、相当な潜在能力がないと、ダメだ。)
(あれを、破壊できるのは、神殿の大魔術師くらいかと、思っていたが。)
(・・・面白いことに、なりそうだ。)
ババアは、そんなことを思いながら、街へ戻っていく。
ばあちゃんから、本を貰った。なぜか知らないが。
・・・どういうことなんだろう
「爆発とか・・・しないよな?」
恐る恐る本を開く。
「・・・!これ、魔術の本だ!」
パラパラとめくってみる。うん、間違いない。
こんな高いものを、何故俺に?
謎は深まる。だが、そんなことはどうでもいい。
「これで、俺も魔術が使えるようになるのか・・・!」
ワクワクする。
俺も、あのアイリスって奴みたいに、手から火を出せるのかな・・・
さっそく勉強だ。晩ご飯をさっさと済ませて、自室へ急ぐ。
この本には、魔術についての知識と、鍛錬法が書かれていた。
魔術は、初歩魔術、上位魔術、大魔術。と、ランク分けされている。
そして、大魔術のさらに上の魔術があるらしい。
それは、生まれつき、素養のあるものにしか使えないとされている。
基本的に、誰でも、練習をすれば魔術を使うことが出来る。
そして魔術は、その人の、心によって効果や威力を変える。
なので、当たり前の感情を持った普通の人なら、訓練によって、すべての
上位魔術を使いこなせるようになる。大魔術は使えないが。
でも、この世界に、稀に生まれる、ある一つの感情の力が強い人間。
そういう奴は、大魔術を使うことができる。
例えば、「怒り」の感情が強い奴は、「怒り」の大魔術を使える。
こんな感じだ。
そして、魔術を使うと、魔力を消費する。
魔力といっても、体の中にあるエネルギー。つまり体力と同じだ。
だから、魔術を使うと体が疲れる。それだけだ。
寝たり、食事をすると、ちゃんと回復する。
(ふわぁ・・・)
さすがに眠い。今日はこの辺にしておくか。
「にゃあ、にゃ?」
いつの間にか、俺の部屋にミーシャが来ていた。
そして、ミーシャは俺のベッドの上に陣取った。
蹴り飛ばしてやろうとも思ったが、眠くて、そんな気にはならない。
「・・・今日だけだぞ。」
俺は、ミーシャと一緒に寝た。・・・あったかい。