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異世界の役所でアルバイト始めました  作者: 硝子町 玻璃
少年、アルバイト先を見付ける
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3.異世界にようこそ

 魔法というものが存在しないウトガルドは代わりに科学技術が発展している。例を上げると部屋を暖めたり冷やす機械や、人を乗せて走る鉄の車がある。

 中でも面白いと思うのは、テレビゲームという玩具だ。最近は持ち歩きながらプレイ出来るものが増えたらしい。皆ふと時間が空いた時に機体を出してポチポチボタンを押している。


 ゲームには種類もたくさんある。キャラ同士が闘う格ゲーやパズルを解いていくパズルゲー、可愛い女の子と恋人になれるように進めていくギャルゲー(男を攻略するゲームは乙女ゲー)などが存在する。あとは魔物を狩る事を主流とした狩りゲー。

 一番人気はRPGだろうか。そのジャンルの多くは魔法が存在する世界を冒険して悪い敵を倒すというものだ。


「どう? あんた達がフィクションだと思っていた世界は実は本当に存在してたのよ」


 木や石で出来た家々が立ち並ぶ街中を歩く様々な人間達。剣や武器を背負った者やヘリオドールのようなローブを着た魔術師。尻尾や獣耳を生やした人間と獣とのハーフである獣人。

 車が存在しないこちらの主な移動手段は馬車だ。人々の喧騒に混じって蹄が地面を叩く音が絶えず聞こえる。


「……すごいですね」


 少年が初めて驚いたような反応を見せた。それに気を良くしたヘリオドールはふふん、と鼻を鳴らした。


「分からない事があったら何でも教えてあげる!」

「あ、じゃあ魔女さんの名前教えてください」

「今の会話全然関係ない!?」


 だが、確かに呼び方がいつまでも「魔女さん」と「あんた」のままなわけにもいかない。少年の知りたい事はヘリオドールの知りたい事でもあった。


(私の名前はヘリオドール・ベリル。私を知る者からは黄金の淑女と呼ばれているわ。得意な魔法属性は火。これでも王族の護衛隊にスカウトされた事もあるのよ……よし、これで行こう!)


 ヘリオドールは脳内で威厳があるように感じられる自己紹介文を完成させた。気合いをチャージしてから声に出そうとする。

 が、その前に少年が胸ポケットから学生手帳を出してヘリオドールに見せるのが先だった。


「女の人に先に自己紹介させるのは良くないので僕からいきます」

「えっ」

「僕は天然理心高校一年の藤原総司です。好きな食べ物はカレーとオムライスとハンバーグ。嫌いな食べ物はありません」

「……私はヘリオドール・ベリル。好きな食べ物はグラタンとチョコレートパフェ。嫌いな食べ物はグリンピースよ」


 子供レベルの内容で来るとは思わず、動揺したヘリオドールは少年と同じ内容を喋る事になってしまった。せっかく考えた自己紹介文が日の目を見る事はなかった。

 それから自分より年下の少年が嫌いな物がないと言ったのに、何故グリンピースが苦手だとカミングアウトしたのか。ヘリオドールは自問した。


「とにかく総司君! あなたは今から私と役所に来てもらいます。働けるかどうかはそこで私を含めた数人との面接を受けてから」

「はい」


 所長は若い男なんて面接する前に追い出すだろうから、ここは古株のヘリオドール達のみで総司に働けるかどうかを見極める事にした。先手必勝である。


 擦れ違う人々の視線は総司に向けられていた。この世界にはブレザーの学生服なんて存在しないので当然と言えば当然だ。ヘリオドールは魔女としてのプライドがあったので、ウトガルドでもずっとこのままの格好だったが肩身は狭かった。

 アスガルドの服を着せてやるべきだったとヘリオドールは、少しびくつきながら総司を見た。文化の違いなど全く気にする様子もなく、ぼんやりとした表情でヘリオドールの後ろを歩いている。


 普通、異世界に来たらはしゃぐか戸惑うかのどちらかの反応をするというのに、この順応力。大物である。


「着いたわ、ここよ」


 五階建ての建物。この国は王族の城がある巨大都市ユグドラシルと、それを囲む三つの都市から構成されており、三つの都市にはそれぞれ役所が設けられている。

 ユグドラシルは城の人間達に管理されているが、他は皆役所の人間によって統括されている。住民リストの保管、都市の財政管理は勿論、冒険者向けの短期の仕事クエストの申請やアイテムの鑑定も役所で行われている。他にも精霊・妖精の保護研究課、魔物の生態調査課も存在している。時には問題があるとされる地域への視察も行う。

 要するに総司達のいる世界で言うところの何でも屋の集まりだ。あちらにある役所に比べると仕事の種類は多く、時に視察に出向いた職員が大怪我をして帰ってくる事もある。


 まだ学生の総司には視察なんて絶対にさせるつもりはないが。無傷で帰ってきそうな予感がしても。


「大きい建物ですね」

「まあね。このウルド支部は他の二つに比べて規模も大きいし、城との繋がりも深いの。まあ、今はある理由で女性職員が激減して結構大変なんだけど」

「ある理由?」

「とんだエロジジィが寄生して……ん?」


 入り口付近に見知らぬ少女が四つん這いになっている。しかも涙目で。金髪と翡翠色の瞳に長い耳の美しい容姿。エルフの特徴である。


 何をしやがったあの所長。一瞬、青ざめたヘリオドールだったが、すぐにエルフの少女は何かを探していると気付いた。


「どうしたの?」

「ひゃああああああっ」


 ヘリオドールが声を掛けた途端、少女は奇声を上げながら四つん這いのまま尻をこちらへ向けて逃亡を図った。スカートを履いた状態で何て大胆なポーズを。真っ白な太ももが裾から見えている。


「別に怒っちゃいないわよ! ここの職員なだけ!」

「こ、こちらの?」

「まあ、雑用係だけどね。何かお困り事?」

「あの私……ここで仕事がしたくて面接しに来たんです」

「どうしてそんな自分から性の監獄に飛び込むような真似を!?」


 叫んでからヘリオドールは、五ヶ月間募集を掛けても女性の応募なんて一件もなかった事を思い出した。少女は理解していないのか不思議そうな顔をしている。恐らく今この役所がどんな場所か知らないのだろう。彼女には悪いが、せっかくの労働力を手放すわけにはいかない。


「それでどうしてこんな格好をしてるの? 面接なら受付に言えばすぐに出来るのに」


 ヘリオドールは性の監獄について突っ込まれない内に次の話題に切り出した。すると、少女は顔を真っ赤にして俯いた。


「さっきドアから出てきた人とぶつかった時に鞄の中身を全部出してしまって……その時にペンを落としてしまって……それであの……」

「あー、無くしちゃったのね」


 面接にはペンなんて必要ないので構わない、とは言えなかった。地べたに四つん這いになってまで一生懸命探している少女の努力を無駄にするわけにはいかない。


「大丈夫よ。ちゃんとペン貸してあげ……」

「僕たくさん持ってるから一本貸します」


 少女の前に黒ペンを差し出したのは総司だった。羽ペンが主流のこちらでは、プラスチック製のペンは未知のアイテムだ。立ち上がった少女は手の中にあるペンを見下ろして固まっていた。


「あ、あの……」

「黒が嫌なら他の色でも構いません。あと香り付きとかラメ入りとかもありますが」


 総司のペンケースから次々と出てくるカラフルなペンにヘリオドールは若干引いた。完全に女子高生のペンケースの中身だ。


「僕も今からここで面接をするんです」

「……そうなんですか?」

「はい。一緒に受かって働けたらいいですね」


 直後、少女は頬をほんのり赤く染め、何度も首を縦に振るのを繰り返した。総司は総司で女子力の高いペンケースを学生鞄にしまっている最中で、少女の異変に気付いていない。


(嘘ぉぉぉぉぉぉおッッ!? ペン貸してくれただけで恋に落ちるなんてチョロすぎでしょうが! こんな事で野郎を好きになってたらあんたいつかエロゲとかエロ小説の主人公みたいな野郎に犯されるわよ!!)


 えらい場面に出くわしてしまった。総司達の世界の文化に詳しいヘリオドールは開いた口が塞がらなかった。


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