六話
「如何です?」
「ああ、いいと思うよ」
始業式が終り、授業のない今日は午前中で学校は終りだ。
ファナさんの提案で、一昨日王都に来たオリビアに町を案内する事になった。
帰路についた俺達は、歩きながらその打ち合わせをする。
「じゃあ決まりね!」
「あの……ありがとうございます」
「もう! 私達同い年よ? 敬語なんて駄目よ! 私の事も、リリーナって読んで! 私もオリビアって呼ぶから!」
「私はファナで結構です。オリビアさん」
「俺もアルスで! 宜しく!」
「はい。皆さん、ありがとうございます」
オリビアもこんな顔で笑えるんだ……。
あれ?
俺は、昔からオリビアを知ってる?
いやいやいや!
今日、初対面だから!
考えないようにしてるはずなのに……。
ああ! もう!
「ねえ? 何処から回る?」
「え~……リリーが考えてくれよ。同じ女の子が喜ぶ所って、リリーの方が想像しやすいだろ?」
「う~ん……」
「何だよ? アルス?」
「お前、なんか今日無口だな。それに、何時も色々考えるのはお前だったのに……」
えっ?
そうだったか?
そう言われれば、そうだった様な……。
「あ……じゃあ、昼飯を家で食ったら学園の前に再集合で!」
「お! 調子が戻ったか?」
「ああ」
「あの……ありがとう」
「気にするな! 俺達は、これから長い付き合いになるんだ!」
あれ~?
何時も言ってるようなセリフなのに?
なんだか、この青春真っ盛りのセリフで吐き気がする?
あれ~?
でも、すっごく気分悪いな。
なんだか……。
やってらんね~……。
****
「オリビアもこっちか?」
「うん……」
家の方向が違う、アルスとファナさんとすでに別れており、俺達三人だけで歩いている。
「あ! もしかして、うちの二軒隣に出来た大きな屋敷って!」
「それがうち……」
「ああ……。リリーの家と大きさ一緒くらいあったよな?」
「じゃあ! あの政治家さんの娘?」
「うん……。クラスではあんまり言わないでね」
何とも、消極的な子だ。
「そう言えば、何で政治家って知ってるの?」
「うちのお父様に、挨拶に来たのよ」
ああ……。
「何でも、なかなか政治の資金集めが上手いんですって! それも、非合法な事をしないで!」
う~ん……。
セーフだけど、非合法とか娘の前で言うなよ。
「オリビア? 兄妹はいるのか?」
「うん。姉様が二人いるけど、地元の大学に通うからこの町には来てない」
なんか、こいつと喋ってるとデジャブのようなものが……。
「今日のレイは、眉間にしわ寄せっぱなしね? 悩み事なら聞くわよ?」
「いや……。ちょっと、寝違えただけだ」
こんな事言っても、頭がおかしいと思われるだけだ。
うん?
オリビアが、俺に小声で耳打ちを……。
「嘘はよくないよ」
ばれた!?
幼馴染のリリーにもばれてないのに!
何で!?
オリビアは、ほほ笑んで俺と少しだけ距離を置く。
「じゃあ、後でチャイム鳴らしてくれ!」
「わかった」
「バイバイ……」
玄関の前で、俺は二人を見送った。
俺の家が、一番学園に近いのだ。
****
「ただいま~」
「お帰りなさい!」
俺は母さんに挨拶をすると、自分の部屋に上がる。
カバンをベッドに放り投げ、私服へと着替える。
制服は洗濯をして貰う為に、下へと持っておりる。
洗濯ものを入れるカゴへ制服を放り込むと、手を洗う。
「あら? 出掛けるの?」
「うん! 転校生が来てさ。町を案内する事になった」
「そう、帰りは遅くなり過ぎないようにね?」
「ああ」
母さんが用意してくれた、カレーを一口食べる……。
懐かしい味……。
「どうしたの? 変な顔して?」
毎日食べてるはずなのに……。
「何でもない……」
何でこんなに……。
っと! いかんいかん!
急いで食わないと!
「晩御飯もカレーでいい?」
ちゃんと作れよ……。
まあ、母さんの料理が食べられるならいいか……。
「ああ……」
うん? あれ?
****
三十分後、二人が俺の家に到着。
さらに、学校でアルスとファナさんも加えて案内を開始した。
俺達は、町の観光スポットや有名な甘味の店を回った。
引っ込み思案ぎみのオリビアだったが、俺たち四人の案内で笑ってくれていた。
意外な事と言えば、ゲームセンターでパズルゲームをしたんだが、オリビアが一番うまかった事だろうか。
しかし……。
何故こんなにも、彼女が気になる?
彼女がリリー達と洋服を選んでいる間、無性に買ってあげたいと言う衝動にかられた。
何故だろう?
いい所のお嬢様であるオリビアの方が、おこずかいを多く持っていた。
でも、俺は彼女の笑顔を見たかったんだ。
「あっ! そうか! オリビアって携帯持ってないんだよね?」
「うん……。私の村では通じなかったから……」
「まあ、携帯電話が何処でも使えるのは、王都内だけだ。仕方ない……」
「そうですね~……。じゃあ、購入されては如何です?」
「そのつもりで、お金も貰ったんだけど……」
リリーが元気よく、携帯電話ショップを指差す。
「善は急げ! さあ! 行きましょう!」
あ……そう言えば。
「アルスも持って無かったよな? 買わないのか?」
「俺は、いいや。なんか縛られてるみたいで、性に会わない」
「そうか……。持ってると便利なんだがな」
「他の国では、ほとんど普及してないんだ。将来の為に我慢するさ」
そう言えば、こいつは聖騎士の資格だけ取って、国外のギルドで働きたいって言ってたな。
まあ、金もかかるし無理強いは出来ないよな。
「これこれ! これが最新機種!」
「リリーナさん! 無理強いはいけません! オリビアさん、好きなのを選んでいいですからね」
ファナさんは優しいな~。
「あのさ、リリー?」
「何?」
「お前、あの機種の使った感想を聞きたかったんじゃないのか? 自分の買い替えの為に」
「うっ……。それもあるけど……。でも! 最新機種がいいのに変わりはないでしょ?」
こいつの、この打算的な所はちょっと嫌だな。
うん? オリビアが俺の袖を引っ張っている。
「どうした?」
「レイはどの機種を使ってるの?」
俺は自分の携帯電話を、ポケットから取り出す。
「あっ……。リリーナさんと同じ機種……」
「こいつに実験台にされたんだよ」
「もう! いいじゃない!」
「まあ、半年前のモデルだが俺は気に入っている」
「……じゃあ、私もそれにする。使い方教えてくれる?」
「ああ」
「私は赤で、レイが黒だから……」
「この青色にする……」
「ああ……。これで、俺でもリリーでも使い方を教えられるな」
「うん……」
自分の携帯電話を初めてもって、笑うオリビアは可愛かった。
地元でも、もてただろうな……。
日が暮れる頃、解散になった。
****
帰宅後、夕飯を食べ風呂に入る……。
う~ん……。
今日の俺は、変だったよな……。
いったいどうしたんだ?
う~ん……。
あれ?
こういう時に、何時もは誰かに相談をして、口喧嘩なんかしてたような……。
誰だったかな?
アルス?
あれ?
あいつとは、幼馴染で親友……。
あれ?
でも、生理的に無理な気がしなくもない様な……。
おっかしいな~……。
そう言えば、オリビアといるとデジャブ的な事が多いな。
てか、無性に気になる。
おおう!?
もしかして、一目ぼれ?
マジかよ……。
この俺が……。
う~ん。
「レイ~? のぼせないでよ~?」
「は~い」
母さんは心配性だな……。
何だろう……。
何でもない、この日常が嬉しい……。
何で、こんな泣きたくなるような気持ちになるんだろう。
平凡って幸せ何だな~……。
風呂からあがり、部屋に戻ると携帯電話に着信が残っていた。
これは……。
今日登録したオリビアから?
俺は、すぐにかけ直す。
「もしもし? どうかしたか?」
「もしもし……あの、今日のお礼が言いたくて。ありがとう」
「いいや……」
何か喋れよ……。
オリビアとの電話は、何故か無言のまま数分が経過した。
「あの……、どうかしたか?」
「ごめんなさい。何を話せばいいかと思って……」
「え~……。話す事なければ、切ればいいと思うよ? どうせ明日も学校で会うんだし」
「あっ……うん」
なんか悪い事言ったかな?
オリビアの声のトーンが下がった……。
「携帯電話は慣れた?」
「メモリ発信が出来るようになったの……。リリーナさんには間違えて三回もかけちゃったけど……」
リリーナ……さんか。
俺だけ呼び捨てにしてくれるんだな。
何だか嬉しいな……。
「そうか……。よかったな」
「うん」
オリビアの声のトーンが上がると、何故か俺も嬉しかった。
「あの、遅くにごめんね。また明日」
「ああ、また明日」
「……お休み」
「ああ、お休み」
電話を切っても少しの間、俺の鼓動は早くなっていた。
多分これが、俺の初恋になるのかな?
****
そのまま眠った俺は、夢を見る。
ただただ、怪物達と戦い続ける夢。
夢の中で、終わる事のない不毛な戦いをしていた。
毎回毎回、勝てる見込みの少ない相手に、死の恐怖を噛み殺して挑んでいく。
その先には何もないと分かっているのに……。
俺は、目覚ましがなる数分前に目が覚めた。
そして、何時ものように朝の準備を済ませ、学園へ登校する。
両サイドには、オリビアとリリー……。
平凡な日常……。
何気ない会話……。
なのに、何でこんなにも焦燥感が?
分からない。
何も分からない……。
****
「レイ! 俺と勝負だ! 冬休みに修行した成果を見せてやる!」
剣術の授業で、アルスと勝負をする事になった。
審判は、クソビッ……いやいや、パメラ先生。
「始め!」
アルスは、クラスの中でも俺と唯一対等に勝負できる相手……。
の、はずだったんだけど……。
まるで、止まってるみたいに見える?
あれ?
アルスが剣をどう振るうか、予想できる。
それもかなりはっきりと……。
おかしい……。
俺にここまでの力が?
俺は、冬休みに修行なんてしてない。
それどころか、毎日の修練……。
えっ?
俺は修練なんてしてないぞ?
「くっ! よそ見するな!」
俺が、ぼーっとしてしまった隙をついて、アルスが斬りこんでくる。
遅い……。
「うおお! くっそ……。今のはわざとかよ! はめられた!」
俺に胴を薙ぎ払われたアルスが、悔しそうにしている。
わざとではなかったんだけどな……。
お前の剣が遅すぎるんだ。
「キャァァァァ!! レイくぅぅぅぅん!」
声のする方を見ると、他のクラスの女子までが集まって来ていた。
「レイ君はいいよな~。モテモテだよ」
その事を、クラスメイトに冷やかされた。
何だろう。
何かが……。
それから、クラスメイト同士が試合形式で剣を競い合う。
やっぱり、その中でもアルスは別格だ。
俺以外の奴に、負けるなんて考えられないほど強い。
ただ、俺はそれをぼーっと眺めていた。
つまらない……。
先生からも特別扱いされている俺は、その授業を眺めていただけだが咎められなかった。
俺なら、十回でも二十回でも打ち込める隙をみんなが作っている。
冬休み前は、こんな事思いもしなかったが、クラスメイト全員が弱いと感じた。
もちろん、アルスも含めて。
本当につまらない。
俺には何の参考にもならない。
これなら、別になっている女子の授業を見た方が、目の保養になるな。
あれ?
俺は、何を考えているんだ?
てか、俺ってこんな優等生だったのか?
何だよ、この焦燥感は。
「いや~、冬休みの間に差を縮めるつもりが開いてるなんて。どんな修行したんだ? レイ?」
「何もしてないよ」
「はぁ? 天才っての何でもありだな」
天才?
俺が天才?
いやいや、天才はお前だろう。
そして、俺は天才が嫌い……あれ?
「お前と幼馴染のせいで、俺のあだ名は永遠の二番手だよ。勘弁してほしいよな~」
「悪いな……」
「えっ? マジで謝られると、ちょっと惨めなんだけど?」
「悪い……」
「何だよ? 悩み事か? 何でも、相談してくれよ!」
「いや、ちょっと昨日から調子がおかしいだけだ」
「おいおい! しっかりしてくれよ?」
なぜ、何時も通りの親友との語らいがこんなにも煩わしいんだろう。
どうしたんだ?
次の法術の授業……。
「はい! 素晴らしいですね! よく復習していますね、シモンズ君」
俺は、教諭の質問への返答で褒められる。
頭の中に、法術の知識は詰まっている。
でも、これは自分が使うために覚えたものだったか?
勉強をした記憶はある。
あるが……。
何かを妬み、必死になって覚えたんじゃなかったか?
俺は、何を妬んでいたんだ?
成績でも実技でも、俺は誰にも負けないのに……。
昔の俺は何をそんなに妬み、何を求めていたんだ?
ズキッっと昨日から時々、胸が痛む。
理由は分からないが、焦燥感と一緒に軽い痛みが走る。
何だろう? この感覚は?
クラスメイトに囲まれて、幸せな学園生活。
何でも喋れる幼馴染に、初恋の女性。
人間は満たされ過ぎると理由もなく、失う事が怖くなるそうだ。
確か、そう本に書いてあった。
これは、それなんだろうか?
あれ?
でも、確かそれは一度何かを手放したり、失った人間の感覚じゃなかったか?
俺は手放した?
いや、俺はいったい何を失ったんだ?
俺は、いったい……。
****
おっと!
俺は、目の前に迫る筆箱を掴む。
「流石はレイだ……。しかぁぁぁぁしっ! 新学期初の会議で、その態度は私への侮辱ととるぞ?」
「あれ~? 僕じゃなくて、レイ君が怒られるって珍しいね」
「セシル! お前も真面目に会議に参加しろ!」
セシルさんに飛びかかろうとする会長を、副会長が体を張って止める。
「セシルさん! レイ君も!」
駄目だ。
今は、会議に集中しないと……。
「すみません。昨日から体調が優れないもので」
「ふん! レイは許してやろう……。だが! セシル!」
「そんなに怒らないでくださいよ~、レイン会長! 仕事はちゃんとやりますって!」
「そう言いながら、机の上で脚を組んで飴を舐めるな!」
「あ……会長達も食べますか?」
「貴様ぁぁぁぁぁぁ!!」
コの字になっている折りたたみの机の周りを、会長がセシルさんを追いかけまわす。
その光景を見ながら、イサナ副会長が頭を抱えている。
「さあ、何時も通り二人のレクリエーションの間に決めてしまいましょう……。まずは、各部活の部費から……」
副会長が主導をとって、何時も通り会長とセシルさんを抜いた真の会議が始まる。
会長は、実質この会議で決まった事を承認しているだけ。
イサナ副会長のあだ名が、[真会長]だとは本人も知らない。
本当に運営しているのは副会長だし、仕方ないよね。
「はぁ……はぁ……では! 日も暮れるので、続きは来週の火曜だ」
「お疲れさまでした~」
結局会長は、会議終了時間まで追いかけっこをしていた。
てか、セシルさんは全く息切れしてない。
本当にこの人はすごい……。
俺は、自分の教室にカバンをとりに行く。
部活動は来週からの再開らしいから、今日は一人で帰る事になっている。
流石に、友達を三時間も待たせるのは気が引ける。
特にリリーには何かおごれと集られたかられかねん。
えっ?
「オリビア? 何してるんだ?」
「あ、レイ。生徒会は今終わったの?」
「ああ……」
「週末だから、お姉さま達が遊びに来てるの。だから、家で勉強し難いの」
「……宿題を全部終わらせたのか。もう終りか?」
「うん」
「じゃあ、一緒に帰らないか? もうすぐ暗くなるし……」
「……うん」
俯き加減で、頬を染めるオリビアは可愛かった。
あれ? また胸の奥が痛い?
俺はこいつを好きに……。
一目ぼれだったんだよな?
あれ?
****
帰り道で、お互いに昔の事を色々と喋った。
正直中身のない、世間話だが楽しかった。
楽しかったんだ……。
なのに、この焦燥感が拭えない。
「あ! レイの家に着いちゃうね……」
「ああ……」
「楽しい時間って、早く感じちゃうよね……」
えっ!?
オリビアも楽しいのか?
嬉しい。
「家まで送るよ」
「えっ? でも……」
「辺りもかなり暗くなってきてる。それに往復してもそんなに時間はかからない。さっ!行こう!」
「うん」
オリビアの笑顔は最高だ。
泣き顔なんかより、ずっといい。
えっ?
泣き顔なんて、俺は見た事が無い……よな?
どうしたんだ俺は?
「じゃあな」
「うん……あの!」
「うん? 何?」
「明日……服を買いに行こうと思ってて……その……」
「俺の家に迎えに来てもらえるか?」
「うん! じゃあ、明日!」
「ああ」
手をふりながら、オリビアが門の中へと入って行った。
明日は、土曜日だが祝日だ。
デートか……。
嬉しいな……。
「レイ? こんな所で何してるの?」
リリー?
あっ……家が近かったんだ。
家に帰ろうと振り向くと、そこにはリリーが立っていた。
「オリビアが残ってたから、危ないんで見送り」
「見てた……」
ええ~?
「じゃあ、聞くなよ」
「聞くわよ!」
うお!? 怒ってる?
「何? レイはオリビアがす……好きだったりするわけ?」
「(ああ、好きだ)そんなんじゃね~よ」
えっ!?
あれ? 口が勝手に言葉を変えた?
何で!?
あれ!?
胸……体が、脈動している?
えと……。
ああ……そうだ。
リリーは、俺の事が好きなんだ。
不用意な事は言えない……。
俺は、空気ぐらい読める。
そうだ……。
「それだけ?」
「そうだよ。そんなに気になるのか?」
「そっ! そんなんじゃないわよ!」
俺はこんなに器用な人間だったっけ?
「そうか……。お前は……もう帰るのか?」
リリーは、部屋着で飛び出して来ていた。
「あの……あれよ! 自動販売機に飲み物を買いに行くのよ! 勘違いしないでよね!」
リリーはその事を思い出したようで、顔を真っ赤にしている。
飲み物くらい、使用人である俺が……。
は?
使用人?
まあ、いいや。
「夜道は危ないですよ? お供しましょう」
「えっ……。好きにすれば!」
そう言って俺に背を向けるリリーの顔には、笑顔が戻っていた。
何だろう?
さっきから、自分が自分じゃないみたいだ。
何時も通りなのに、吐き気がする。
自分自身に吐き気?
それにさっきからの、刺す様な胸の痛みはなんだ?
どうなってるんだ?
その日の夜の夢に、変な男が出てきた。
酷く不器用で、下品で、情けなくて、弱くて、戦う事しか知らない馬鹿だった。
でも、一生懸命に戦っていた。
本当に一生懸命……。
血反吐をはいて、苦しむだけ苦しんで、それでも涙をこらえて戦っている。
馬鹿な奴だ……。
見返りもないのに、何故そんなにも尽くすんだ?
そんなに人が愛おしいのか?
そんなに温もりが欲しいのか?
本当に大馬鹿だ……。
****
その日も、目覚ましよりも少し早く起きる。
そして、朝の準備を済ませてオリビアの訪問を待つ。
その日の正午前に、オリビアが俺の家を訪れた。
なので、昼は二人で外に食べに行く事を母さんに告げて、外出する。
「あの……レイ?」
「何?」
「パンとパスタって……。両方炭水化物だよ?」
「ああ……。育ち盛りだからな」
何だろう?
両方を食べないといけないような気がした。
まあ、美味いし。
いいや。
店で服を三着ほど買ったオリビアと、公園に向かう。
俺がトイレに行きたかったからだ……。
「じゃあ、このベンチで待ってるね」
「ああ、すぐに戻る」
トイレを済ませてベンチに戻るが、そこにオリビアは居なかった。
あれ~?
何処行ったんだ?
「きゃあ!」
うん?
オリビアの声!?
「あんた調子に乗ってるの?」
「引っ越したからって、終わるとでも思った?」
少し離れた茂みに入ると、オリビアが見るからに素行の悪そうな四人の男女に囲まれていた。
「あんたは黙って、私達の財布になってればいいのよ」
「おい! 返事はどうしたんだ!」
四人の前で、倒れ込んでいるオリビアを男の拳から守るために、抱いて移動する。
「なっ? 何だ~? お前は~!」
「レイ……ごめんなさい……ごめんなさい」
オリビアは泣いていた。
「推測すると、前の学校でこいつ等に虐められてたのか?」
「私……こんな性格だから……」
なるほど……。
まただ、胸の奥が痛む。
何かを……。
「大丈夫だ。俺が守ってやる」
「えっ?」
俺は、オリビアをその場に降ろす。
「おい! お前!」
「舐めてるのか? コラッ!」
ふぅぅ……。
「どうせ聞かないだろうけど、忠告だ。オリビアに今後何かすれば、俺が相手になる。今すぐ帰るなら、見逃してやってもいい」
「おいおい……」
「こっちは四人なんだよ! 馬鹿か?」
最初に殴りかかってきた男を、蹴りで吹き飛ばした。
「えっ? 嘘……」
何メートルも吹き飛んだ仲間に、呆然としている男も殴り飛ばす。
走って逃げようとする女二人も、先回りしてから足を引っ掛けて転ばせた。
「次に何かすれば、もっと本気でいくからな?」
女達はその場で俺を見上げながら、壊れた玩具の様に上下にガクガクと頭を振っていた。
「因みに仲間を集めるなら、一万人は集めろよ? それ以下なら、三十分もかからないから」
「ひっ!」
俺のその言葉に軽く悲鳴を上げながら、女二人が逃げ去っていく。
男はほったらかしかよ……。
「オリビア? 大丈夫か?」
涙をぬぐったオリビアが、俺の差し出した手を両手で握って立ちあがる。
「ありがとう」
「これで、もうあいつ等は来ないと思う」
「うん……」
「何かあれば、携帯電話で呼び出してくれ。すぐに駆けつける」
「でも、そこまで迷惑は……」
「俺は、好きになった子を勝手に守るだけだ」
「えっ!? レイ……」
「覚えておいてくれ。俺は、お前が好きだ」
顔を真っ赤にしたオリビアが、ほほ笑んでくれる。
「うん……。忘れない……」
あっ……。
――忘れて――
胸に最大級の痛みが走った。
ああ……。
「レイも忘れないで……。私も、レイの事が好き」
ああ……。
ちくしょう……。
ちくしょう……。
俺は、大嘘付きのクソ野郎だ。
もう、二度と剣を向けないって言ったのに……。
ちくしょう……。
何が守るだよ……。
守れなかったじゃないか。
俺は、どうしようもなく嘘付きだ……。
ああ……。
最低だ……。
ちくしょう……。
俺には分かる……。
高性能な俺の体は、感覚が全くなくても、魔剣を呼び出し握る事が出来る。
「レイ? どうしたの? 泣きそうな顔してる……」
許してくれなんて……。
言えるはずもないよな……。
俺は、何も無い右腕をオリビアの心臓へ向ける。
気付かれないように、一瞬で魔剣を呼び出し……。
真っ直ぐに剣を突き立てたんだ。
オリビアの顔が、どんどん歪んでいく……。
「ば……馬鹿な。人間がこの楽園から抜け出すなんて……。ぐはあ!」
生憎だったな……。
「今お前が化けている奴は……。俺が! この手で殺したんだ!」
「そんな……。記憶から……。最愛の相手を……」
オリビアの姿をしたものが、塵へと変わると同時に周りの風景がイザベラと落下した崖の下へと戻っていく。
ああ……。
最低だ……。
やってらんね~……。




