一話
止めなさいよ~って!
何がそんなに面白いんだよ!
笑うなよ~!
おおう!
「師匠! 体! 体が!」
師匠の体は、ノイズが酷くなり……。
壊れかけのテレビみたいだな……。
(そろそろ、限界が近いか……)
「……師匠?」
(見ての通りだ。ほぼ完全にこの世界への干渉が不可能になってきた。だから今日は、お前に世界の真実を伝えるために来た)
「はい。俺もそれを聞こうと思ってました」
(真実を知って、お前は……)
「もちろん! 元凶を殴り倒します!」
(そうか。なら……)
なるほど……こうか?
(え~っと……これでいいんですかね? 師匠?)
(なっ? こ……この短い時間で、念話を習得したか)
(念話って言うんですか。まあ、これは魔力をほとんど使わないですし、魔法とは違うみたいですからね~)
(これも、れっきとした異界の魔法だ。それも、お前が我流で改良したようだが本来はかなり魔力を消費する)
マジでか!?
おお! 何となく出来そうな気がしたから、やっただけだけど……。
俺~、すげくね?
(お前は、戦いや技を盗む事に関してだけは、天才だな)
えへへへ……。
師匠に、褒められた。
『だけじゃがな』
うん? あれ?
本当だ! だけって付いてた!
もしかして、馬鹿だと思われてる?
(いや……)
うそ~……。
知能指数は低くないと思うのに……。
『まあ、実際馬鹿じゃしな』
【勉強が出来るのと、賢しいのは別ですからね】
(あの……)
マジでか!?
馬鹿じゃないもん!
俺! 馬鹿じゃないもん!
『自覚のない馬鹿ほど、滑稽なものはないのぉ』
お前! たたき折るぞ! ゴラァ!
痛い!
俺は、師匠から頭に拳骨をくらい、その場にしゃがみこんだ。
ものっそい! 痛い!
馬鹿にされた上に、思いっきり殴られた。
最悪だ。
マジで……。
やってらんね~……。
(いい加減にしろ! 時間が無いと言っている! マリーンも!)
『これは……申し訳ございません』
(まあ、俺まで影響を及ぼすこれが、こいつの特性なのは分かってるが……)
殴られた……。
(もう一発必要か?)
「まさか! で? なんでしょう?」
(は~……。この念話は、もともと対話しかできないが、俺が改良して情報を直接相手に伝えられるようにしてある)
「ああ! じゃあ! 下さい! 情報!」
(今から、念話の操作方法を試しに送るぞ? いいか?)
ばちこーい!
おおおう!
来た! 来た! 来た! 来た!
『これは……』
【少し違いますが、神からの啓示に似ていますね】
(根本は同じ原理だ。どうだ?)
(バッチリっす! 師匠! 完璧に使えます!)
おお……。
大勢の人に言葉を伝えたり、一人の相手に情報を送ったりできるのか~。
超便利じゃん!
これなら、密談のし放題だね!
する相手いないけど!
(では、今まで俺が集めた情報を送るぞ? いいか?)
「あ! はい!」
(先に言っておくが、かなりの情報量だ。三人で意識処理を共有してくれ。そうしないと、脳や神経に支障が出る可能性がある)
えっ!?
何気に怖い事言ってません?
脳に障害って……。
(心配しなくても、万が一があってもお前ならすぐに回復出来る。しかし、情報が正確に伝わらない事の方が問題だ)
ああ……。
【大丈夫です。私の復元をすぐに使いますから】
『まあ、魔力はフル充填出来ておる。問題ないじゃろう』
う、うん。
頼むぞ~。
「大丈夫です! お願いしま~す!」
(あ……ああ。では、いくぞ)
「シャーッス! うおおお!」
俺の頭の中に直接、情報……いや、師匠の記憶が流れ込んでくる。
師匠が、なにかでっかい機械の前にいるな……。
うお!
『立体映像じゃな……。何かの記憶媒体か?』
人がいる……。
えっ?
この星の昔?
【どうやら。死神様の映像補足情報が、付加されておりますな。実に分かりやすい】
八万年前のこの星。
おお……なんだかすごい世界だな。
『今よりも、格段に文明が進化しておるな。うん? 亜人種が存在しない?』
人間だけだし……。
あれ?
魔法が存在しない!?
どう言う事!?
ああ……発見されていなかったと……。
うおおお!
何あれ!?
鉄が空飛んでる!
えっ?
魔力じゃないの?
【エンジン? 化石燃料? 魔法とは……全く原理が違うようですね】
おいおい!
宇宙! 宇宙に飛びだしてる!
何これ!?
スッゲ!
(これが、元のこの星の姿だ。人口百二十億人。色々な問題もあるが平和な星だった)
へ~……。
これが、聖書に書いてあった滅びた文明か……。
神秘的って言うより、SFっぽいね。
ミサイル? 何それ?
戦争がえげつないな……。
えっ?
モンスター?
あの! あれーーー!
『うむ……。ケルベロスに、ヒュドラ……』
【地下から這い出して来てますね】
嘘だろ……。
そこからは、人類とモンスターの戦争の記録だった。
驚異的な戦闘力と数のモンスターに、その時代最高の兵器が投入される。
当初劣勢だった人類も、一人の天才により徐々に反撃を開始された。
トオル:フルタニ?
その天才は、魔力に仕組みに気付き、魔力を応用した今俺達が使う魔道砲等の原理を作った。
そして、モンスター発生の原因も推測を立てる。
星の意思……星が生命体?
マジでか?
【あり得ない……とは、言いきれないですね】
『いや、正しいじゃろう』
モンスターの発生原因は、星の意思なんだそうだ。
星そのものが、人類を不要と考えたそうだ。
人類も星の一部ではあるが、悪性の腫瘍と判断したのか。
『それで、魔力……生命の根源の力を使い排除を』
でも、この天才のお陰で勝てそうじゃね?
あれ? でも、おかしくね?
ああ! あれ! ちょ!
ミルフォスゥゥゥゥゥゥゥ!!
【ヨルムンガンドもいますね……】
人類軍、メッコメコにされてる!
めっちゃ! 人死んでるぅ!
うおおお!
何か変身した! 変身したよ!?
【これが……亜人種の始まり】
激戦により魔力兵器を使いすぎた人間は、魔力に当てられ死んでいく。
ただ、運よく生き残った者はその姿を異形へと変化させた。
てか、亜人種ですね。分かります。
おおう!?
やっぱり、投入しますか。
【まあ、亜人種であればモンスターにも対抗できますからね】
でも、メッチャ負けてるって!
『仕方あるまい、相手は天使とあの世の死者じゃ』
おい! 天才!
なんとかしなさいよ~!
全滅するって!
『何か案を考え出した様じゃな……』
人類が十分の一ほどに減少した時、天才はある発見をした。
アカシックレコード?
運命……因果律を読み解く!?
そんな事出来るの?
すげ~……。
天才すげ~。
その理論とは、運命とはあらかじめ決まっており、それを超次元で記載したレコードがあると言う事だった。
天才は、実際にそれにたどり着き、その運命に強制介入する機械まで作り始めた。
って……。
人間が手を出していい次元じゃ無くね?
『ここまで追い込まれれば、そうも言っておれんのじゃろう』
星がキレた原因?
へ~……。
凄い技術だな……。
星が人間を排除しようと考えた最後の切っ掛け、それは星の天候や気候をコントロールする機械だった。
これも、人間が手を出していいもんじゃないだろう。
好きな場所に雨を降らせたり、地震までコントロールするのか。
星からすれば、自分の体を勝手にいじられてるみたいなもんか?
【ですね。神にでもなったつもりなんでしょうか? 愚かな……】
宇宙ステーション?
なるほど……。
宇宙に、アカシックレコードコントローラーを置くのか。
『まあ、不用意に刺激を与えれば洒落にはならん物じゃ』
天才と、五十人のスタッフを乗せた人類最後の希望が宇宙へと打ち上げられた。
アカシックレコードコントローラーは、宇宙空間で最終的に完成させるのか。
(これが、この世界の全ての元凶になってしまったんだ。仕方ないともいえるが……)
師匠……。
まあ、続きを……。
宇宙空間で完成したそれは、人類生存を目的に全てを計算し始める。
そして、出した結論……。
マジでか?
最悪だな……。
【これが、神……】
『神ではない。人造の偽神じゃ……』
ミルフォスの方が、神に近いな……。
因果の情報から読み取ったのは、人類も星の一部であり絶滅は星も望んでいない。
しかし、文明が進み人口の増えすぎたままでは、星の攻撃性は抑えられない。
そこでアカシックレコードコントローラーが出した結論とは、作為的な人類の間引き。
暴走したそれは、天才の心と体を乗っ取り選ばれた人間を宇宙ステーションへと運んだ。
計算により算出された、繁殖可能な人数……三百人。
五百人集めて、劣勢な者二百人を宇宙空間に捨てている。
気分悪いわ……。
戦うだけ戦ったモンスターを残った人類ごと、天候操作装置で一掃……。
『何と言う事を……』
一部のモンスターと、亜人種だけが生き残ったのか。
そして、洗浄が完了した星に、三百人の人間と獣たちを戻す。
なるほど……。
どおりで、文字があれだけあるのに喋る言葉が共通なはずだ。
元は、同じなんだもんな……。
なんて無茶苦茶な……。
『想像以上じゃな……』
【これが、神の正体……】
気持ち悪くなってきた。
(まだだ……)
えっ!?
アカシックレコードコントローラーが出した、今後の方針。
人間は二万年で、星の怒りを買う存在となる。
なので、二万年に一度率先して間引きを行う。
技術がついえると読み取った偽神がとった行動が、今俺達のいる状況。
各地に人を殺す邪神や魔王を配置。
その怪物どもの、定期的な封印と解放。
そして、宇宙ステーションへ人間を導くメシア因子を遺伝子に紛れ込ませる。
二万年に合わせて出現するミルフォス達に対抗するために、疑似異空間[魔界]を作り。
その場所で、星の力に対抗し、人間を間引きする戦力……悪魔を育成か……。
馬鹿じゃね~の?
何考えてんだ! このバカ!
【想定できる事態に、全て対処したと言う事なんでしょうか?腐ってますね】
『人工物である以上、融通がきかんのか……。なんと言う愚かな……』
そして、世界は三度生まれ変わった。
前回の戦いでは、師匠がかなり頑張って亜人種なんかを助けている。
五つある隠された天候操作装置も、三つまで探し出して破壊したのか。
流石、師匠。
(いや……。だが、大きく動きすぎてな……)
それで、あのクソ偽神に干渉を制限されたんですね?
(ああ、お前とミルフォスの戦闘後、四つ目の天候操作装置を破壊したが、それ以降は今のように全く干渉できなくなった)
この空間も……。
『ここは、異空間のさらに異空間じゃ』
ギリギリの干渉ですか……。
(まだ全てを解き明かせたわけでもないし……。お前に、全てを託すことしかできん俺を……。許してくれとは言わない)
今の世界の始まり……。
そこで、師匠からの情報は終わった。
ふ~……。
まあ、こんなこったろうと思った。
「師匠! 俺……全力でやってみます!」
(……すまない)
「な~に言ってるんですか! 師匠は助ける必要がない俺達を、救おうとしてくれたんじゃないですか!」
【はい。感謝こそすれ、怨みなど】
『貴方様は、もっと感謝されるべき存在です。我等にお任せを』
師匠は、悲しみの色が深い瞳で……ほほ笑んだ。
やっべ!
俺が女なら惚れるね。
股を五秒ぐらいで開くね。
(俺にはそんな趣味は無い)
読まれたぁぁぁぁぁぁぁ!!
「てか、師匠。五億年も、自分の世界を滅ぼした贖罪をしてきたんですから……。もう、引退していいんじゃないですか?」
(お前……)
へへっ……。
念話って便利……。
「ちょっとだけ逆流させてもらいました! 師匠を怨むなんて、ありえませんてっ!」
(お前は……。まさか、俺の心まで軽くするとはな……)
でもまあ……。
馬鹿って言ったのは……。
忘れませんけどね~……。
『ちょ! お前!』
【聞こえてますって!】
はうううああああ!
『不憫な……』
【情けない……】
あばばばばっ!
「ちょ! 違います! 師匠! あの……あれです! 気のせいです!」
『アホの子じゃ……』
五月蝿い!
(かまわん。もう、ここにとどまるのも限界のようだ)
そう言った師匠の姿が、どんどん透けていく。
(俺はこれからも、何とか干渉を試みる)
「了解です!」
(これから……)
「ダリウス大陸に行って悪魔殴り倒してから、神様気どりの馬鹿のコンセント抜いてきます!」
(ああ……。頼む)
でも……。
俺は、ここからどうやって出るんだろう?
(俺が出口を開く……。じゃあ……)
「はい! 全部終わったら! 一緒に飯食いましょう!」
(ああ……)
目の前に現れた、歪んだ空間に飛び込む。
あああああ!
『なんじゃ?』
荷物持ってくるの忘れたぁぁぁぁぁぁ!
金も何もない!
ヤベェェェェェェェ!
飯も食えん!
【はぁ~……】
ああああ!
やっちまったぁぁぁぁぁぁ!
プチ成金から、一文無しかよぉぉぉぉぉ!
まじで……。
やってらんね~……。




