十話
「マジかよ!?」
「ああ……」
「か~……、只でさえこのご時世に、なんて厄介な奴が。この世は本当に終わっちまわね~だろうな~?」
「どうだろうな~? 何とかって宗教の、預言書通りになってるって噂だぜ」
「おお! 俺も聞いた聞いた! あれって確か、世界がもうすぐ終わるって脅して信者を増やしてたところだろ?」
「そうなんだよ。何か突然教祖が消えたらしくて、解体されたらしいんだけどよ~。その聖書に書いてあった事が、まんまおこってるらしいぜ」
「確か、その宗教の神様に従った奴だけ助かるって事だろう?今からでも入ろうかな~?」
「馬鹿! そんな、無くなった宗教にどうやって入るんだよ?」
「そうだな~……。でも、本当に死体が腐っちまうのか?」
う~ん……。
「お待たせしました。以上でご注文はお揃いでしょうか?」
「はい……」
『パンじゃ!』
【パァァァァァァァスタァァァァァァ!! ああ、久し振り】
「その場で殺されたのに、何週間も前に死んだみたいになるらしいぜ」
俺は、食堂で久し振りのまともな飯を食べながら、隣の席から聞こえる会話に耳を傾けていた。
『おっほぉぉぉ!』
「それも、予言書ってのに書いてあったんだよな?」
「らしいぜ。あの世からよみがえった亡者の仕業だそうだ」
【ああ……。この濃厚なソースが】
「おっかね~な。今の戦争も、そいつのせいで戦火が拡大してるんだろう?」
「ああ。最初は小国内の小さな紛争だったそうらしいんだけど、そいつの介入で決着がつかね~から、今じゃあ大陸全土を巻き込んだ戦いになってきてる……」
『次はどれをいく? わしは……』
【あ! 手が止まってますって!】
「世界中で化け物を復活させてる頭のおかしい行商人に、あの世からの化け物……」
「マジで、世界が終るのかね~? 少なくても、この国ももうすぐ戦火に巻き込まれる可能性が高いけど……」
【もう一皿追加しませんか? ねっ?】
『この……あの、これも追加じゃ!』
ははっ……。
五月蝿いわ! 馬鹿か!
【ですが、ここ最近戦火の中を駆け回って、まともに食事をしていなかったじゃないですか】
『そうじゃ! もう、保存用の乾パンは嫌じゃ!』
食ってやるから!
黙っとけよ~! 話が聞こえないだろうが!
【あのですね~】
『お前、今の話全部知っておるじゃろうが……。何故聞く?』
いや……。
情報収集が癖になってきた……。
【それよりも、久し振りのまともな食事を楽しみましょうよ】
お前等がうるさくて、楽しむって感じじゃないんだけど?
『次はあのパンじゃ! そして追加注文を……』
人の話聞きなさいよ~!
お前はどんだけパン好きなんだよ!?
『死にそうなパンとお前が目の前におれば、パンを助ける!』
死にそうなパンって何だよ!?
おっかねぇ!
てか、何回俺を見殺しにしようとするんだ! クソジジィ!
俺一人の食事なのに……。
なんで、こんなにイライラしないといけないの?
あ~あ……。
やってらんね~……。
【まあまあ】
俺は、気がつくと十人前をたいらげていた。
久し振りのまともな食事は、いいもんだ。
食べ過ぎて、店員さんにドン引きされてけどね。
****
さて、今日はホテルでベッドに……。
普通の事が幸せだな~。
【ここの所、ずっと野宿でしたからね】
でも、その前に酒場で情報収集でもするか。
『何の情報じゃ?』
戦争のだよ。
ただ相手が気に入らないってだけで、ここまで大規模な戦争にはならないだろ?
『根底はそれだけかも知れんが、確かに大義名分はあるじゃろうな』
それが、敵への近道かもしれないしね。
夜の町でひときわ輝いている、通りへと向かう事にした。
やっぱり首都ってだけあって、人が多いな。
えっ?
そんな……。
幻覚か?
俺の目に、あり得ない人影がうつる……。
二度と会えるはずのない人が歩いている……。
これは、夢なのか?
あり得ない。
必死で忘れようとした。
それでも、未熟な俺は忘れる事が出来なかった。
これは、弱い俺の心が作った幻覚なのか?
『違う! わしにも見えておる!』
ジジィ……。
その女性が現実に存在する事を、通行人との接触後、謝罪する風景で認識した。
ああ……。
夢でもいい。
彼女にもう一度触れられるなら。
喋る……いや、見ているだけで幸せだ。
俺の愛した人……。
そして、俺が殺した人……。
『これはいったい……』
その女性が入って行った酒場に、俺もフラフラと入った。
小奇麗なバーだ。
大きくない店舗だが、客も多く入っている。
流行の酒場なんだろうか?
うん?
酒場の客から声をかけられながら、彼女は店の奥へと消えた。
店員なのか?
俺の疑問は、すぐに解消された。
ドレスに着替えた彼女の登場と共に、店の奥にある舞台に光が当てられる。
そして、ピアノに合わせて彼女は歌い始める。
シンガー……。
彼女は歌を、二時間ほど歌い続けた。
とても素晴らしい歌声で、曲の合間に拍手や声援が飛んでいた。
俺は出口に一番近い席に座り、注文した酒に口をつけずただ彼女を見ていた。
「みんな! ありがとう!」
ああ……。
「今日も最高だったぞ! ジュリア!」
彼女はあんな顔で笑わない……。
何を期待してるんだ、俺は……。
情けない。
【世の中には、そっくりな人間が三人は居るといいます……】
『あの……まあ、酒でも飲まんか?』
ジジィ誤魔化す時、何時もそれだな。
「お客さん、初めての方ですよね?」
店員が俺に話しかけてきた。
そして、小皿に乗った渇き物を俺のテーブルへ置いた。
「ああ……」
「ジュリアは、うちの看板女優なんですよ。彼女の歌が目当てのお客さんも多くてね~。あ! これ、サービスです。また、よかったら通って下さい」
「ああ……」
もう、来ないだろうな。
彼女……ジュリアを見てると、胸に穴が再認識させられる。
彼女は客からおごられたらしい酒を片手に、各テーブルに挨拶に回っている。
とても自然に笑っている。
本当に、人気があるんだろうな~。
あ~あ、情けない。
俺は、酒を一気に飲み干し料金を支払うと、その店を後にした。
ジュリアと向かいあったら、俺は何を言い出すか自分でもわからないからね。
さてと、他の店に行こう。
****
それから数時間、三件ほど酒場を回り戦争に関して情報を集めた。
戦争自体は、普通か……。
【戦争が普通と言うのも、おかしな言葉ですね】
まあな。
『しかし、小国の紛争がここまで大規模になるとは……』
小国内での民族の違いによる、国を二つに分けた紛争。
よくあると言えばよくある話だが、今回はそれに大国が加入して大変な事になっている。
お互いの勢力に、敵対する軍事大国が介入したそうだ。
最初は物資や武器の供給から始まり、軍の派遣で完全な武力介入。
そして、それぞれの大国に賛同する国が加わり、ついには連合対連合の巨大な戦争になった。
今このレーム大陸の何倍もある大陸が、二分された戦争が行われてる。
大国ってのはモリガーナ帝国に、今俺がいるフリーガル連邦だ。
紛争ってのは只の切っ掛けで、昔からいがみ合ってたそうだから領土拡大が本当の目的かな?
『多分な。小国は大国に逆らえない場合や、領土拡大など利益を求めて等色々じゃろうな』
【愚かしい……。下手をすれば、人間が滅ぶ可能性もあるのに……】
まあ、それは仕方ない。
どちらか一方について、介入するのは俺の趣味じゃない。
『そう言いながら、ジパングではしっかり介入したがのぉ』
五月蝿いな!
あれは、仕方ないじゃんか!
【では、静観ですか?】
いや……。
ここまでの戦火の拡大と、あいつ等の介入はどう考えても無関係とは思えん。
【では、今まで通り?】
ああ。
『戦争に介入することなく、目的達成か……。無理じゃな』
はぁ~?
なんで?
『お前は不器用じゃ』
ですよね~。
この一カ月は、何も無かったけど……。
【また、何かに巻き込まれるんでしょうかね~?】
どうだろう?
でも、多分ね~……。
『お前、もう女性を見るな。そうすれば、巻き込まれん』
嫌って言うより、無理。
「はぁ~」
『はぁ~』
【はぁ~】
「ため息は、幸せが逃げて行きますよ?」
ああ?
店の明りがほとんどなくなった歩道で声をかけられた俺は、後ろを振り返った。
ちっ……。
会いたくなかったのに……。
「さっき、すぐに帰っちゃったお客さんですよね?」
見てたのか。
「新規のお客さんだから、挨拶しようと思ってたんですよ?」
「そうか……」
「あの? もしかして、私の歌お気に召しませんでした?」
「いい歌だったよ」
「ありがとうございます!」
ジュリアは、笑う。
とても朗らかに……。
何故だろう?
彼女との違いが、俺の心を冷たくしていく。
まあ、別人だ。
『そうじゃ。もう、気にするな』
「あの……」
「ジュリア! こんな所にいたか!」
うん?
なんだこのキモイ男は?
黒いスーツの男を二人連れて……。
なんだ? あの小太りのおかっぱ野郎は?
いい服着てるな。貴族とかか?
「うん? 何だ? その男は? まさか……」
「違います! 只のお客さんです!」
う~ん。
そう言いながら、俺の背中を掴むな。
どう見ても、俺が関係者みたいじゃんか。
「そうは見えなんだがな……。どう言うつもりだ?」
「あの……。おこ……御断りしたはずです!」
いいから、手を放せ。
「何が気に入らない? 僕の物になれば、メジャーデビューさせてやると言っているんだ!」
「い……嫌です!」
放せって……。
「まさか! その男が彼氏なのか!?」
「だから! 違います!」
俺の背中に隠れる形で、叫ぶジュリア。
誰がどう見ても、俺も関係者じゃね~か!
放せって!
「僕に逆らって、タダで済むとでも思ってるのか!?」
「坊ちゃん……本当に勘弁して下さい!」
「この……」
う~ん。
「ちょっとタイム」
話が分からん。
「あの……」
「あいつが金持のお坊ちゃんで、あんたに力と金を使って言いよってるって事で、いいのか?」
「はい……」
「あいつに逆らって何が困る?」
「もう、店で歌えなくなるかも……」
「なるほど……。おい! 坊ちゃんよ!」
「なんだお前?」
「こいつをどうすれば諦める?」
「はあ!? 諦めるわけ……」
「よく考えろよ? お前何時か刺されるぞ?」
「なっ?」
「ここで無理やりものにして、ベッドでナイフ持ったこいつから、お前はどうやって逃げるんだ? まさか、その時までボディーガードを?」
「いや……あの……」
「てか、大事なとこ食いちぎられるぞ? いいのか?」
「でも……」
「何でも手に入れてきたってか?」
「そっ……そうだ! 僕には金がある!」
「なら、こいつ以上に美人でお金にケツを振ってくる奴捜せよ。結構居るぞ? こんな女に入れあげるより、いいはずだぞ?」
「え? でも……」
「女は怖いぞ~? ここでこんな女に意地になるだけ、時間と金の無駄だって」
何気に、俺のシャツを掴む手に力がこもっている。
「しかし……そうだ! そいつに貢いだ金が!」
金持ってるんじゃないのかよ?
情けない奴。
「いくら貢いだの? てか、何を貢いだの?」
「店に通って……。舞台衣装や、ピアノの演奏者を捜したり、花を贈ったり……」
う~ん……只のファンじゃん!
確かにジュリアの為に、普通よりは色々やってるみたいだけど……。
「それは、諦めるしかないんじゃない?」
「でも~……」
「貴様! 坊ちゃんに失礼だろうが!」
我慢していたようだが、堪忍袋の緒が切れた黒服の一人が殴りかかって……。
そいや!
そいつは、三回転して外灯に……。
【手加減を……】
何それ? 美味しいの?
でも、ちょっとやりすぎたかな?
え~……大丈夫だ!
生きてるから問題ない!
黒服の所まで歩いた俺は、念のため脈を確認した。
『肋骨は……。五本折れとるな』
問題ない!
きっと死なん!
「ああ……」
「な? 頼むよ。もう手を出さないからさ? こんなのよりいい女、いっぱいいるって。な?」
「分かった……」
うん! 素直で宜しい!
「でも、本当にお金に弱い奴って多いから。頑張って」
「ああ……ありがとう」
坊ちゃんと黒服を担いだ黒服が、帰って行く。
うん! 人間話し合えば分かりあえる!
【最後は完全に力技ですがね】
若造! 最近反抗的だぞ!
ジジィのせいか?
『えっ? わし?』
「あの……。ありがとう……」
う~ん……笑顔がぎこちないね。
『あれだけ自分の事を、この程度の女と言われて素直に喜ぶ者はおらん』
ですよね~。
まあ、いいよ。
好かれたいと思ってやった事じゃないし。
さて、ホテルに帰るかな……何?
ジュリアは、俺の進行方向をふさぐように回り込んできた。
「あの……その……」
なんですか~?
「お願いがありまして……」
「何?」
「家に帰れないんです……」
「で?」
「その……お金貸してくれませんか?」
おおう!?
こいつもしかして、マジでさっきの坊ちゃんに貢がせてた悪女か?
小悪魔系ですか!?
「あ! 違うんです!」
何が?
「家の鍵を逃げるときに落としたみたいで……。管理人さんも今日いないんです。明日にならないと家に入れないだけで……」
「それなら、金はあるんじゃないのか?」
「持ち合わせが、ないんです」
「金を渡したとしてどうするんだ?」
「近くの二十四時間営業の喫茶店へ……」
このまま金渡して、他の事に使われるのも癪だな。
「本当なんだな?」
「はい! それは嘘じゃないんです!」
ジュリアは、カバンの中身を俺に見せようとしていた。
「いいよ。ついて来い」
「えっ? あの……」
俺は、ホテルに向かい歩き出した。
ジュリアも後ろをついてくる。
****
ホテルに到着した俺は、受付で寝ぼけた女性に、もう一室分の金を払う。
そして、受け取った鍵の一つを、ジュリアに投げて渡す。
そこそこいい部屋をとったから、文句は無いだろう。
「あの……」
「チェックアウトは十時だ。寝過しても俺は知らんからな」
それだけ言うと、二階への階段を上……。
危ない!
階段を上ろうとした人間を引っ張るって!
馬鹿か! お前は!
「お金は明日お返しします! 部屋の番号を……あの、明日も泊ってますか?」
「返さなくていい」
「でも!」
「金貨二枚だぞ? 払えるのか?」
「えっ!? そんな……」
ホレ見ろ。
「じゃあな」
う~ん。
何か付いてくるんですけど?
黙って後をつけられてるんですけど!?
「なんだよ?」
「その……せめて名前を……」
「レイだ」
「レイさんですか……あの! 私は……」
「ジュリアだろ? 店で聞いた。後、さんはいらない。ただのレイでいい」
「あ……じゃあ、レイ」
「いいから、部屋に行って寝ろ。じゃあな」
まだ付いてくるんですけど!?
俺は、自分の部屋の前で振り返る。
「頼むから勘弁してくれよ」
「何かお礼を……。ここに明日も滞在されるんですか?」
なんだ? 体で払ってくれるのか?
期待を……するだけ無駄なんだろうな~。
『期待は止めておけ』
分かってますってば!
「明日もいるよ。頼むから自分の部屋に行ってくれ」
ふ~……。
二○三号室……。
俺は、自分の部屋へ入る。
なんかジュリアも入ってきたんですけど~?
マジで期待していいのか?
「あの、これが金貨二枚の部屋ですか?」
「いや、ここは銀貨五枚の部屋だ」
「えっ? でも……」
「俺は貧乏性なんでな。ここよりいい部屋は眠り辛いんだ。金が無いわけじゃない」
なんでこんな事説明しないといけないんだ?
「あの……私にはお金なんてなくて……こんな事でしか返せないんです」
おおう!?
この展開は……。
【アカペラで歌い始めましたね】
ですよね~。
だと思ったよ!
俺はきっと一生童貞なのさ!
ええい! ちくしょぉぉ!
てか、修練するつもりなのに!
睡眠時間が減るから帰れよ!
ふん。
【素晴らしい歌声ですね】
この部屋が修練を考えて、完全防音でよかったよ。
『この歌声……』
これは人気が出るだろうな。
魔力がこもってやがる。
『まさに魂の歌声と言うところか?』
しかし、本当にいい顔で歌ってるな。
【歌う事が好きなんでしょうね】
ああ……くそ。
あいつにもこんな顔を……。
くそっ!
『自分が少なからず惹かれておる事が、そんなに不快か?』
五月蝿い……。
五月蝿いよ。
【あなたはもう少し……】
『止めておけ、若造』
五月蝿いんだよ。
「はぁ……はぁ……どうでしたか?」
十五分ほど歌ったジュリアが、感想を聞いてきた。
「ああ……。メジャーに行けるんじゃないか?」
その顔で、そんなに笑わないでくれよ。
胸が苦しくなるんだよ……。
「私には歌しかないんです……」
う~ん。
自分の生い立ち喋り始めやがった~!
俺の修練!
てか、睡眠時間!
「そこで見た、今の私のようなシンガーの人が輝いて見えたんです……」
『お前は、苦労してる人間を引きつける磁石か何かか?』
嫌な磁石だな。
ジュリアは、十歳で両親を事故で亡くしたそうだ。
そして、住み込みで両親の知り合いだったさっきの酒場で働き始めたらしい。
十歳から酒場で働くって……。
見つかったら掴まるぞ? 店長が。
「それから、毎日毎日歌の練習をしたんです」
「そうか……」
「最近やっと昼間の仕事と掛け持ちで、一人暮らしを始められたんですよ」
「ふ~ん」
「あ……私は何を話してるんだろ。興味ないですよね……あはは」
「明日も朝から、仕事なんだろ? 早く寝る事だな」
「あ……はい」
ふ~……。
そんなにへこむなよ。
「本当にいい歌だった」
「あっ! はい!」
五月蝿い。
「お休み」
「はい! お休みなさい!」
ああ……くっそ。
その日の修練は情けないが、いつもより効率がよくなかった。
本当に修行不足だ。
情けない……。
****
その日の夢には……。
師匠。
師匠は死んでないから、本当の夢だな。
何でそんな顔するんですか?
俺は、大丈夫です。
大丈夫。
まだ、前を向いていられます。
まだ、歩く事が出来ます。
まだ……。
う~ん……。
眠った気がしないな……。
****
三時間の睡眠から目覚めた俺は、仕事の準備をする。
さて、今日も元気にお仕事お仕事。
『その服は必要なのか?』
必要だろう!
【そのマスクもですか?】
当り前だ!
さあ! 行くぞ!
俺は、町から出て目的の場所へ向かう。
「指令が来た……」
「そうか。で?」
「このまま、フリーガルの補給基地に奇襲をかけるぞ」
「了解」
「アルファチームは西の側面から、ブラボーチームは東側からだ。ブラボーの指揮はチック。お前に任せるぞ」
「了解です」
「では、一○三○作戦結構だ」
モリガーナ帝国の特殊奇襲部隊が指揮官の合図の元、目的の場所へ散開する。
フリーガルの補給基地を潰す作戦か。
「うん? イーサンは何処だ?」
ブラボーチームの指揮をとっているチックが、小声でいなくなった部下の行方を聞く。
しかし、それを知る者はいない。
「くっ……。トラブルか……。准尉に連絡を……」
目を離した瞬間に、もう一人の部下も消えていた。
「何がおこっているんだ? これは……」
茂みから、ガサリと何かが動いた音がする。
チックが反射的に音のした方に剣を構えるが、そこには何もない。
「気のせいか……。はっ? え? そんな……」
チックが振り返った時には、五人いた部下が全て消えていた。
チックの、軍人としての勘が危険を告げる。
その場から、気配を消して逃げ出す。
そして、小型の通信機で上官へ連絡をとった。
「准尉……。部下が……。イーサン達が消えました……オーバー」
「こちらも二人消えた……。一時撤退だ。オーバー」
「了解オーバー」
チック兵長は予定されていた、集合地点へと走る。
「なっ……。イーサン……」
チック兵長が茂みの開けた場所で見たのは、腐敗した死体となった部下だった。
「また……。あの化け物か!」
部下五人のネームプレートをちぎり取ると、その場を走り去って行った。
ふ~……。
流石、特殊部隊。
『軍人としての隙はないのぉ』
よく訓練されてるよ。
茂みから、迷彩色の服とマスクをつけた俺が立ち上がった。
あの世の使者……。
化け物扱いかよ。
【まあ、仕方ありません】
あ~あ。
やってらんね~……。




