九話
何だろう?
俺は死ぬのか?
それとも、最低死にそうになるのか?
う~ん……。
「あの、こっちからいくつか聞きたいんだけど?」
「どうぞ」
メリッサの母親は、真っすぐに俺の目を見る。
吸い込まれそうな、不思議な感覚を覚える目だ。
「俺はどうやって死ぬの?」
「原因は完全には見えませんでしたが、死因は生き埋めのようでした」
生き埋め!?
海の次は砂の中で、圧死に窒息死かよ……。
「じゃあ、遺跡の事を教えてくれないか?」
うん? お父さん?
「それは私から、我が家に伝えられてきたことですが、莫大な財宝と世界を手にするほどの大いなる力が眠ると……」
「それは、あんたらの先祖が埋めた埋蔵金的な物なのか? 何であんたら自身が掘り出さない?」
「宝の内容などは伝わっていません。ただ、宝への最後の鍵を守れとだけ言われていました」
「何時それを掘りおこすとかは、決まってないんだよね?」
「はい。遺跡の場所さえ、知りませんでした」
う~ん……。
「その宝の情報は、貴方がた以外に知ってる人は?」
「当家に深く関わったものであれば、知っています。隠す必要はないと伝えられていました」
う~ん……。
『糸口にはならんな』
「じゃあ、ゴールって使用人の事を教えてくれ」
「おお! やはり、あいつは残ってくれていましたか! 私が成人前から仕えてくれていた、使用人です」
「あいつは、昔から姿が変わらないとか……変わった事ってない?」
「いえ。私よりも若いので、昔はよく一緒に遊んだくらいです。ただ……」
「ただ?」
「性格が単純と言いますか……。思慮に欠けると言いますか……」
「昔から、馬鹿なんですね?」
「はぁ。平たく申しますと、そうです」
ちっ……。
これもはずれか……。
「それで、ゴールは?」
「ああ、メリッサを一人で守ろうと頑張ってるよ」
「そうですか……」
本当にうれしそうな顔をしてるな。
【言葉に嘘もないようですね】
「じゃあ……」
それから、掴まった経緯や状況、その他諸々を聞いてみたが不審な点が無かった。
掴まったのも、この国の法律では多大な財を持った人間は、それ相応の税を納める義務があるので、その点を今審議中だそうだ。
早い話脱税の疑惑らしいが、裁判が長引いているだけで問題ないそうだ。
財産は、国に一時差し押さえられているだけらしい。
ゴールの説明じゃあ、そこまで分からなかっただけか。
あいつ、あれだからしょうがないのかな?
宝が見つかれば、回収が不能である事が分かるので裁判が早く済むと……。
大公の言っていた事にも、間違いはない……。
う~ん……。
どうなってるんだ!?
『何か、流れ全体の不自然さが拭い切れんのぉ』
そうなんだよ。
でも、一つ一つにちゃんと理由もあるし……。
今回遺跡って本当に関係ないのか!?
ああ! もう!
面倒くさい!
サクサク終わらせたいのに!
あ~あ!
やってらんね~……。
【しかし、ここにいれば死ぬと……】
ああ! そうだよ!
結局、何かと戦うはずなんだよ。
「メリッサから、泣きながら死ぬと言われたんだが……」
「そうですか。あの子は私以上の先見の才があります。間違いないでしょう」
う~ん……。
死ぬ事が固定かよ……。
「しかし、メリッサが予言したと言う事は……」
うん?
「私の力はせいぜい、予測にすぎません。回避不能とは言いませんが、あの子はほぼ完ぺきな予知をします」
何? 絶対死ぬってか?
最悪じゃん。
「なら、俺はここから逃げても一緒だろう?」
「いえ、おかしいです」
「何が?」
「貴方は今すぐこの町から立ち去れば、死なないと私は見ました」
うん?
「もしかすると、私と違う未来を……」
これは糸口にならないな。
『そうじゃな。この場所から逃げるという選択肢は無いのじゃろう?』
もちろんだ!
【でしたら、逃げないので死を予言されたとも……】
そうなんだよな~。
メリッサは、俺が逃げない所まで見ていただけかも知れない。
なんだ?
何が足りない?
完全にピースが足りていない……。
作為的に何かが隠されているのか?
「どうぞ……。お逃げ下さい……」
ふ~……。
「俺に嘘はつくな」
「えっ!? あの……」
「全身で助けを求めてるじゃないか……」
唇を噛み締め、手に内出血が出来るほど強く拳を握っている。
自分達以上に、娘や町が気になってるんだろうが。
それでも、世界を救ってくれってか?
自己犠牲精神か、素晴らしいねぇ……。
だが、そんなもんお断りだ!
「いえ……あの」
「生憎、俺は人に逃げろと言われて逃げるほどチキンじゃない」
「しかし!」
「五月蝿い……。死ぬ事怖がって、神に逆らえるかっての!」
俺は、メリッサの両親に立ててはいけない指を立てる。
「俺の進む道は、俺が決める! 運命なんて、クソ食らえだ」
俺は、ポケットから転移の魔法が封印された結晶を投げ込む。
「転移の魔法が入ってる。どうするかは、自分達で決めろ……」
メリッサの両親は涙を流し、頭を床に擦りつけていた。
たく……。
いい大人が、泣くなよ。
その空気に耐えられなくなった俺は、メリッサの家へ帰る事にした。
****
「なっ!? どうしたんだ!?」
家の中で、血を流して倒れ込むゴールを抱き起こす。
「ぼ……暴漢が……お嬢様を……」
くっそ!
「そいつらの特徴は? 何処に行ったか分からないのか?」
「遺跡に……宝が狙い……です。お嬢様を……」
その言葉を吐き出し終えると、ゴールは気を失った。
命に問題は無いな……。
やられた!
ゴールをその場に寝かせると、俺は遺跡へ向かい走りだす。
うん!?
ちょっと待て?
この感覚は……。
『うむ! わしもよく覚えておる!』
完全に裏を……。
「おお!? なんだ? 怖い顔して?」
路地裏から抜けると、酒場で会ったオヤジがいた。
「少し、教えてくれないか?」
俺は、オヤジに金貨を握らせる。
時間が無いんでね……。
「お! おお! 何でも聞いてくれ!」
そのオヤジからの情報で謎が解けた……。
やってくれる!
【落ちつくましょう! これ以上、相手の策にはまっては!】
分かってる!
****
全速力で走った俺は数分で遺跡に到着し、そのまま地下へともぐる。
なんてこった!
俺の動きさえ計算済みかよ!
「まさか同着とはな……」
「私は宝を持ち帰り、このメリッサちゃんの両親を助けたいだけです!」
「ほう。では、この私に所有権は頂けるのかな? 大公殿?」
「無用な争いを避けられるならば……」
レミー伯爵の無言の合図で、臨戦態勢だったグレース達部下が構えを解いた。
それと同時に、大公側の兵も構えを緩める。
「利害が一致だな! ロザリー大公よ!」
「ええ……。ただ! この子の両親が釈放されるまでは、付き合って頂きますよ!」
「いいだろう! 釈放がスムーズに進むように、私も力を貸そう!」
「では……メリッサちゃん」
「はい……」
メリッサは、魔力のこもった鍵を使い、扉を開く。
「おおおお!」
「素晴らしい……」
「アネゴ! アネゴ! 宝の山だ! うはぁぁぁぁ!」
扉の先には、絵に書いたような財宝が詰まっていた。
伯爵側だけでなく、大公側の兵まで金や宝石に群がった。
「想像以上だ……。これだけあれば……」
「やったな! アネゴ! これで、止められる! その上遊んで暮らせる!」
「なるほど……。当家の財産と同等か、それ以上はありますね……」
「ロザリー様? 全て与えて宜しいんですか?」
「いいのです。それよりもカーター様達を……。あら? メリッサちゃん?」
メリッサは、奥の台座に置かれた小さな箱に向かい歩いている。
まるで、夢遊病者のように……。
「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
「あれは……」
「やはり宝を狙っていたか! この嘘つき行商人が!」
俺を狙ったシェーラの剣をかいくぐり、メリッサの元へ走ったが……。
間に合わなかった……。
メリッサが、箱を開けた瞬間中から黒い霧が噴き出す。
信じられない量の魔力……。
くっそ!
「大丈夫か? 怪我は?」
俺は、その場にしゃがみ込むメリッサを揺さぶる。
「あ……あああ! ごめんなさい! 支配に逆らえなかった……」
泣きそうなメリッサの頭を抱えた。
「いい! お前は悪くない!」
シェーラを押さえて、様子を見ていた大公が近づいてくる。
「あれは何ですか!? 貴方が言った、貧民町などこの町には無かった……。ですが、メリッサちゃんを見ている限り……」
「ロザリーさん! 逃げて……」
「どう言う事です? 説明を……」
「説明は俺からする……。だから、メリッサを連れて逃げてくれ」
「貴方は……」
剣を呼び出した俺に、伯爵とグレースも目線を向ける。
「全部、ここに封印されていた魔神だか魔神だかが仕組んだ事だ。そうだろう?」
俺の目線を追った大公達は、ゴールの姿を見る。
そのゴールは……。
【あれは、完全な死体ですね】
『死体を操っておったとは……』
完璧な精神、五感の操作……。
聖剣使いの馬鹿で経験していたが……。
くそっ! やられた!
バリッっと勢いよくゴールの腐敗した手がシャツを破ると、そこには死体と同化した気味の悪い人面疽があった。
ギョロリと目を開けたそれは、不気味な笑みを浮かべる。
「我こそは大いなる魔神! 大魔道士アストール!」
人面疽が膨らみ始め、完全な人の形をとると同時に、ゴールの死体は塵へと変わった。
「よく働いてくれたな。世界に仇なす者よ。感謝するぞ」
「ちっ……」
なんて魔力量だ……。
『今までで、最大級じゃ』
【これが世界を手に入れる力ですか……】
今までの怪物達が、可愛く思えるぜ。
久々のミルフォスクラスだ……。
「おい! お前! 事情を知っているなら説明しろ!」
「そうです! どうなっているの? あの化け物は何?」
「世界に仇なすものよ! 説明してやればいい。待ってやるぞ?」
薄笑いを浮かべたアストールが、俺の説明を待つと言っている。
何だよ? あの余裕は! むかつく!
『事情を知れば、大公達が絶望するとでも思っておるのじゃろう』
【趣味の悪い……】
「説明する。説明が終わったら、兵を連れて全力で逃げてくれ……」
アストールが、大昔に封印された魔神で先程の箱に力を封じ込められていた事。
その魔神は、本当に世界を滅ぼす力がある事。
今回の全ては、復活の為に魔神が仕組んだ事。
メリッサは操られ、その両親もゴールに取り付いた魔神にはめられた事。
そして、俺自身も区画整理で破棄された地区を貧民町と誤認させられ、奴の誘導で三十階までの罠を解除してしまった事を説明した。
「遺跡が現れた事で、意識と力の一部が解放されたってところか? 魔神様よ~?」
「くくくっ……。その通りだ。よく解き明かしたな、世界に仇なす者よ」
このクソが!
【冷静に】
分かってる!
「そんな……」
「では、何故この遺跡にあんな凶暴な罠があったんだ!? おかしく……」
「多分、封印される前の魔神の居城だったんだろう。あの罠は、侵入者を撃退する魔神が作った罠だと思う」
「じゃあ、魔神を封印した者がそれをそのまま封印に利用したと?」
意外に、大公も伯爵も俺を信頼してくれてるな……。
根が真面目なんだろうな、この二人。
「くくっ。少し不正解だ。あの罠は、確かに私が作ったが、人間をいたぶる為に作ったものだ」
まあ、人間に負けるような力じゃないよな。
「さあ、全員逃げろ……。俺が引き付ける」
「待って! あの予言は嘘じゃない! アストールの支配が弱まった時に……」
「お前の母親にも、同じ様な事言われた。心配するな。ただじゃ死なね~よ」
メリッサの頭を撫でる。
「お前は何者なのだ?」
俺の身体から、白と黒のオーラが立ち上ったのを見て、レミー伯爵が目をパチクリと驚いている。
「今は時間がない! 奴は、俺がここで殺す! 巻き込まれたくなければ逃げろ!」
「あ……お前達! ずらかるよ!」
「シェーラ! 兵を! メリッサちゃん!」
おお、頭悪くは無いんだな。
『なかなかの手際じゃ』
突破口を……はっ?
扉の前にいたアストールは、わざわざ逃げやすいようにその場から、移動してくれた。
どう言う事!?
「私は寛大だ! その男以外は逃がしてやろう!」
なんだよあの余裕は!
『まずいな……』
【あの感じは何か策がありそうですね……】
気は抜かないが、逃がしてくれるなら……。
「私は、町に三日後に攻め込む予定だ! 準備をしておく事だな~! はははっ!」
本当に逃がしてくれる?
どう言う事だ!?
もしかして!
「お前、もしかして完全に復活しきれていないんじゃないか?」
「それも正解だ! 世界に仇なす者よ! 三日後までは、完全な力が使えんのだよ!」
ヤバい!
何かある!
「何故、わざわざお前をここに誘導したか……気が付いたか?」
やっぱり! 罠かよ!
「さあ!」
魔力で黒い霧のようなでかい腕を作った魔神は、メリッサを掴み部屋の奥へ投げる。
もちろん、壁にぶつかれば即死するほどの速度で。
うおおおお!
【きます!】
メリッサを掴んだ瞬間、魔神から強力な魔力砲が俺に向かって放たれる。
避けられない!
若造!!
聖剣に魔力を流し、白い防御壁を展開させる。
魔神の力が完全ではないせいで威力が弱い精だろうが、ギリギリ防ぎきれる……。
きれるけども!
こちらに放たれている魔力砲は、止む気配がない!
くっそぉぉぉぉぉぉ! 動けん!
「くくくっ! お前と戦って負けるとは思えんが、ダメージを受ける可能性は十分あるのでな!」
魔神が、呪文を唱えた事でここに誘導された理由が分かった。
この建物自体が崩れ始めた。
その場に釘付けにされた俺は、そのままメリッサを抱え、その場所に生き埋めになる。
予言当たってた~……。
運がいいと言えるのは、メリッサに気がつかなかった大公達が、何とか地上まで逃げ延びてくれた事くらいだろうか?
メリッサを抱え、全身にフィールドと障壁を展開させたが……。
ぐううう!
流石に、何十トンもの土砂はキツイ!
ジジィも若造も全力でフォローしてくれている。
何とかメリッサを助けるんだ!
****
「はぁはぁはぁ……」
【運よく瓦礫が重なって、空間が出来ましたね……】
死ぬかと思った……。
ヤバかった~……。
流石、俺の悪運。
『助かったはいいが、どうやって抜け出すかじゃな』
何とか三日以内に抜け出さないと……。
「レイ……」
おおう!?
メリッサが俺に抱きついてきた!
まさか! 吊り橋効果的な!?
このタイミングで、死ぬ前に彼女が出来て!さらに……。
ちっ……。
メリッサは、小刻みに震えている。
「ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい!」
ふ~……。
「もう済んだ事だ。それより、何処か痛いところは無いか?」
「だって! これじゃあ……」
「絶望ってのは、時間の無駄だそうだ」
「えっ!?」
「俺の師匠が言ってた。ありのままを受け入れ、その中で出来る事を……最善を尽くせってな」
「レイ……」
俺は、メリッサに笑いかける。
「それに俺は、足掻くのが大好きなんだよ」
おおう!?
メリッサがさらに強く抱き……キスされた!
あの……あれ……。
キスされた!
真っ赤になった俺は、うろたえる……。
だって!
だってだもん!
『分からん……』
「アストールに操られていた時の記憶もあるの……」
だって!
「体を好きに弄ばれて……。苦しくて……。苦しくて……」
おおう?!
泣いてらっしゃる!?
「ただ、毎日が真っ暗で生きるのが苦しくて……。そんな私に貴方は、光を……手を差し伸べてくれた……」
ああ! ちくしょぉぉぉぉぉ!
可愛いなぁぁぁぁ! もぉぉぉぉぉ!
「最後に貴方に会えて……。このまま……」
おいおい。
人の話し聞いてなかったの?
「勝手に諦めるな」
「でも……」
「キスのお返しに……。ここから生きたまま救いだしてやるよ!」
「貴方は……」
「約束だ!」
舌!
舌が入ってきたぁぁぁぁぁ!
童貞には刺激が!
刺激が強すぎるって!
このまま二人で……。
ああああ! 駄目だ!
止めて! 何か別の意味でやる気が無くなる!
『エロガキが……』
【情けない……】
あああああ!
****
「来た! 来たぞ!」
俺が生き埋めになって三日後、魔神は一人で町向かって歩いていた。
完全復活し、魔道士らしくローブと杖を装備している。
「あれか? 大公よ?」
「はい! あれが復活した魔神です! 間違いありません!」
「どうした、大公? 震えているのか?」
「武者ぶるいです! それより……レミー伯爵はいいんですか?」
「戦争なんかより、あの化け物を野放しにする方が危険だろう……。準備はいいな? グレース!」
「へい! アネゴ! やってやんぜぇぇぇ!」
「シェーラ! こちらは?」
「はっ! 万全です!」
「この町の為に、英雄である王子様まで……」
「気にしないでくれ、カーター殿。この町は、全力で守ってみせる!」
「王子! 準備が出来ました!」
「ハンナ……。君はいいのか? 死ぬかも……」
「はい! 私は、彼に助けられたこの命を……」
「分かった。無粋だったな……」
「でも、まさか一週間で二回も命をかけるなんて……」
「何? 怖気づいたの、サマンサ? この運命こそ、英雄である王子の宿命なのよ! 私は、ただ王子に従うだけよ!」
「私だって!」
正直、クソ王子にハンナまで来ているなんて思いもしなかった。
いいよな~……。
戦おうとしただけでこの評価だよ……。
俺なんて実際に戦っても……。
さらにハンナまで……。
人生って不公平!
「さあ! 人間よ! 私を楽しませろ!」
魔神は、二メートルほどの魔力で作った火の鳥を町に飛ばす。
「まずい! 避けるんだ!」
前線を固めていた、手練の兵が王子の声に反応し、地面に突き刺さる火の鳥を回避する。
熱風と真っ赤な光が、周囲にまき散らされた。
火の鳥が突き刺さった場所の地面が吹き飛び、十メートルほどの火柱が空に伸びる。
「あんなものが直撃したら……」
兵達が戦慄する……。
衝撃だけで、戦闘不能な兵が出るほどの威力だ。
仕方ない……。
「今だぁぁぁぁぁ!」
馬鹿って怖いよね~。
クソ王子とお供の二人は、恐怖せずに魔神に向かい走り始めた。
勝てないって……。
「おお! まだ、恐怖せんか! それならば……」
魔神ってのはかなり性格が悪いようだ。
向かってくる王子を見て、百羽? ほどの火の鳥を頭上にうかべる。
「そんな……」
「ああ……。なんて事……」
「化け物……」
「やっぱり無理だったんだ……」
三百人の兵士の顔に、色濃く絶望が浮かぶ。
半数以上の兵士が逃げ出す事を忘れ、その場に座り込んだ。
「くくくっ……。いい顔だ~」
「はああ!」
「うん!? まだ諦めんか……。ふん!」
王家に伝わる剣で、王子は魔神に斬りかかる。
もちろん、魔神の手から出された衝撃波で吹き飛ばされて、その剣は届かない。
「ぐああああ!」
「きゃあああぁぁぁぁぁぁ!」
「ぐうう!」
王子を助けようと、受け止める為の障壁を張ったお供二人も、町の壁に叩きつけられた。
それを見ていたハンナが駆け寄り、怪我の手当てをする。
骨が折れ、全身打撲でも立ち上がるのか……。
流石、英雄王子。
「さあ! 次はどうする?」
一羽の火の鳥が、町に向かいはばたく。
絶望に支配された兵士達は、ただそれを避けようともせず眺めていた。
って! 馬鹿ぁぁぁぁぁぁぁ!
「なっ!?」
その火の鳥は、轟音と共に空中で霧散する。
衝撃波五発分……。
黒い影が町の前に到着し、その背中からメリッサが降りる。
「貴様は……」
「あれは……行商人!」
「レイィィィィィ!」
ハンナ……………………叫ぶな!
なんか恥ずかしい!
うん?
メリッサが、泥だらけで血を流している俺の袖を引っ張る。
「レイ……。私を庇った怪我が……」
「まあ、見てろ」
頭を撫でた俺の意図を察したメリッサが、両親のいる場所までさがって行く。
「まさか、あれで死なんとは……」
「クソ野郎! つけは十倍にして返してやる!」
『やはり、やるか……』
ああ!
【魔力はもう残っていませんよ?】
知った事か!
「くくくっ……。いいだろう!」
火の鳥全てが、俺に向かいはばたきだす。
<ホークスラッシュ>!
「おおおおお!」
百の攻撃に対して、魔力が付加されていない衝撃波五百で対抗する。
「流石と言うべきか……。だが! これはどうだ?」
先程の十倍……。
火の鳥が全て俺に向かってくる。
「おおおおお!」
負けるか!
魔力が無い以上回復できない。
動きの無駄をなくすんだ!
体に負荷をかけるな!
流れに逆らうな……。
大地と、大気と、魔力と一体なるんだ……。
音が消え、徐々に視界が白くなっていく。
『ゾーンに入った……』
【くう! 魔力が無いとフォーローも出来ない!】
『歯がゆいのは同じじゃ……。じゃが! この馬鹿は負けん!』
【はい!】
「ぬうう! 何時までも! 早く消えて無くなれ!」
魔神は、千を千で重ねた魔力の鳥を放つ。
全く、バカげた魔力だ……。
「おおおおおお!」
まだだ……。
まだ速度は上がる……。
****
「レイ……」
「メリッサちゃん、あの男はいったい……」
大公の質問に、メリッサは真っ直ぐな瞳で返事をする。
「あの方こそ、世界を救う存在」
「アイリス殿? 詳しく教えてくれませんか?」
「王子様……。彼こそ、世界を巨大な悪意から守る者」
「王子以上の人間がいるなんて……」
「確かに、モンスターの集団から国を守った王子様は、紛う事なき英雄です。しかし、彼はそれ以上の怪物達を人知れず退けてきました。たった一人で……」
「アネゴ~、あたしら逃げた方がいいんじゃね~か?」
「……メリッサと言ったか? 何故、そんな目をする?」
伯爵は余りにも真っ直ぐすぎるメリッサの瞳に、興味を持ったらしい。
「私は信じてるんです……。レイは、負けません!」
「メリッサでも、予言が……」
「お母様! 彼はお母様の予言をはねのけました! 彼は、運命なんかに負けません!」
メリッサの言葉を聞いた両親は、顔を見合わせて少しさびしそうに笑い合う。
「アイリス……」
「あなた……。娘の成長とは嬉しくもあり、さびしくもあるのですね」
「ああ……。娘が信頼する彼を……我らが信じる彼を見守ろう!」
****
「ぬううう! 何故打ち砕けん!」
確実に自分の技を消滅させる俺に、魔神はほぞを噛み始めた。
どうやら、出力には限界があるようだ。
百万これが限界か……。
『しかし、魔力がほとんど減少しておらん!』
【封印されていた間に、魔力を貯め込んだようですね……】
五百万……。
今の俺にはこれが限界か……。
くっそ……。
攻め込めない。
ピシッという嫌な音が、体内を伝って俺の耳にまで届く。
ぐう!
『まずい!』
魔力で回復できない俺の骨と筋肉が、ついに悲鳴を上げ始めた。
筋繊維の断裂に、骨の疲労による亀裂……。
くっそ!
俺はこんな……この程度なのかよ!
まだだ!
まだ……くっそ!
――消して――
守るんだ! 守って見せるんだ!
負けられるか!
俺の魂はまだ燃えている!
まだやれる!
「おおおおお!」
力を……。
力をよこしやがれぇぇぇぇぇぇぇぇ!!
『なっ!?』
【この魔力は……】
俺の身体から大量の煙が噴き出し、体が回復された。
『また、この力か!』
莫大な量の魔力が、俺の体内からあふれ出す。
【何と言う魔力!】
魔剣が秘言を使わずに光の大剣へと姿を変え、聖剣に何時もの数倍はある魔力の刃が出現する。
<バーストスラッシュ>!
極限まで魔力を付加した衝撃波が、魔神の攻撃を相殺する。
「馬鹿な! 何だこの力は!?」
今まで五発必要だったこちらの攻撃が、一対一の相殺へと変化した。
「おおおお!」
さらに、俺の攻撃速度は加速する。
「ぬおおおおお!」
魔神は攻撃をやめ、全魔力で防御壁を作る。
機……。
『今じゃ!』
「何!? 奴は……」
衝撃波の嵐を防ぎきった魔神が、俺の姿を捜す。
「そんな……」
上空からの影が、俺の居場所を魔神に教えた。
さあ、絶望して死んでいけ。
右肩に背負った二本の剣を、聖剣から先に振り下ろす。
<メテオブレーク>!
聖剣が障壁を切り裂き、魔剣が魔神のコアを両断した。
驚愕の顔をしたまま、魔神は凄まじい光を放って爆発する。
俺の斬撃にこめられた魔力に押された爆発が、魔神のいた後方へと弾け飛んだ。
それと同時に、魔剣が元の形へと戻る。
****
ふ~……。
『何とかなったのぉ』
【……今の力は】
知らん。
何回か出した事あるけど、よくわからん。
【ええ~】
火事場のクソ力とからじゃね?
【そんな馬鹿な……】
誰が馬鹿だ!
『まあ、守り切れたんじゃ。今は、素直に喜ぶべきじゃろう』
【そうですね】
「レイィィィィ!」
剣を戻した俺に、メリッサが抱きついてきた。
「よかった! よかった~!」
「まあ、約束は守るさ」
「レイ……」
おおう!?
ハンナ? それにクソ王子……。
「生憎、今日は品切れですよ~っと」
何で?
何でハンナ泣きそうになってるの?
「私は、貴方に……」
ん?
何ですか~?
急にハンナの目つきが……。
「レイの事、何も知らないくせに」
うん?
メリッサ?
おおう!?
何だこの空気!?
ハンナとメリッサが睨みあってる。
何気に殺気じゃね?
ちょ! 待てよ!
どう言う事!?
あばばばば……。
何か胃が……。
『不憫な……』
【情けない……】
「貴方様には、私達の予言など無用でしたね」
おお! メリッサの母ちゃん!
この空気、どうにかしてくれ!
いに穴が空いて死ぬ!
「そうでもない。生き埋めにされたよ。死にはしなかったけどね~」
「ああ……」
「何?」
「貴方のそれは、女性にとっては毒でしょうね」
はい?
何? 取り敢えず、笑ってみただけなんだけど……。
え? 不細工って事!?
【はぁ~、違いますよ】
「きっと、多くの女性が心惹かれたでしょうね」
まともにモテた事無いんですけど~?
何だコラ?
やんのか? コラ?
『アホ……』
アホじゃありませ~ん!
「行商人……いや、レイよ。俺は、お前に謝る必要があるのだろうな」
クソ王子か……。
けっ……。
「いいですよ~、別に」
謝っても許さん! 死ねクソ王子!
「レイ! 何この女?」
メリッサ?
お前、キャラが……。
「レイ……。せめて一度ゆっくり二人で話を……」
ハンナ? あれ?
目が笑ってませんけど?
え~……。
俺の体全体が、ドクンと大きく脈動する。
うっ!
くっそ……。
「駄目よ! 何で二人でなのよ!」
「貴方には関係ないでしょ? えっ? レイ?」
ぐううう!
クソが!
「レイ? どうかしたの?」
おさまれ! おさまれ!
「じゃあ、皆さん。また、何処かで会ったら御贔屓に~」
俺は、精一杯の営業スマイルを作る。
「待ってよ!」
「レイィィィィィィ!」
そして、その場を走り去る。
これが、今の俺の限界だ。
もう持たない……。
「俺は、修行を続ける……。あいつの足元ぐらいは見えるくらいにはならないとな……」
「王子……」
「アネゴ……。あたし等……」
「ああ。歴史の一ページを目撃したのかもな……後、伯爵だ」
「シェーラ? もしかして……」
「私は……。謝りたいです……。あんな方に剣を向けてしまうなんて……」
「メリッサ、あの方を止められる者はいないのです」
「あのお方は、まだ立ち止まれないのだ」
「でも! でも! レイはもう十分苦しんだよ? それでも……」
皆が、俺の走り去った先を只見つめていた。
****
俺が、立ち止まったのはその場所から数十キロ先の砂漠の終点。
「ごはっ! う……ぐうう!」
木にもたれかかった俺は、大量の血を吐き出した。
「えふっ……がああ!」
全身……特に胸から激痛が走る。
全身がバラバラになりそうだ。
「ぐあああああ!」
大きな痛みの波で、俺はその場に倒れ込んでしまった。
「げぼっ!」
血を口からまき散らしながら、俺はその場所でもがく。
一年前から付き合いだした、この症状。
最近では、発作の感覚が短くなってきている。
この症状は、ジジィの回復でも、若造の復元でも治す事が出来ない。
理由は分かっている。
「ぐうううう!」
この発作が、俺に自分の最後を教えてくれる。
一年……。
無理だろうな。
あ~あ……。
やってらんね~……。




