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Mr.NO-GOOD´  作者: 慎之介
第七章:終末の旅人編
88/106

九話

何だろう?


俺は死ぬのか?


それとも、最低死にそうになるのか?


う~ん……。


「あの、こっちからいくつか聞きたいんだけど?」


「どうぞ」


メリッサの母親は、真っすぐに俺の目を見る。


吸い込まれそうな、不思議な感覚を覚える目だ。


「俺はどうやって死ぬの?」


「原因は完全には見えませんでしたが、死因は生き埋めのようでした」


生き埋め!?


海の次は砂の中で、圧死に窒息死かよ……。


「じゃあ、遺跡の事を教えてくれないか?」


うん? お父さん?


「それは私から、我が家に伝えられてきたことですが、莫大な財宝と世界を手にするほどの大いなる力が眠ると……」


「それは、あんたらの先祖が埋めた埋蔵金的な物なのか? 何であんたら自身が掘り出さない?」


「宝の内容などは伝わっていません。ただ、宝への最後の鍵を守れとだけ言われていました」


「何時それを掘りおこすとかは、決まってないんだよね?」


「はい。遺跡の場所さえ、知りませんでした」


う~ん……。


「その宝の情報は、貴方がた以外に知ってる人は?」


「当家に深く関わったものであれば、知っています。隠す必要はないと伝えられていました」


う~ん……。


『糸口にはならんな』


「じゃあ、ゴールって使用人の事を教えてくれ」


「おお! やはり、あいつは残ってくれていましたか! 私が成人前から仕えてくれていた、使用人です」


「あいつは、昔から姿が変わらないとか……変わった事ってない?」


「いえ。私よりも若いので、昔はよく一緒に遊んだくらいです。ただ……」


「ただ?」


「性格が単純と言いますか……。思慮に欠けると言いますか……」


「昔から、馬鹿なんですね?」


「はぁ。平たく申しますと、そうです」


ちっ……。


これもはずれか……。


「それで、ゴールは?」


「ああ、メリッサを一人で守ろうと頑張ってるよ」


「そうですか……」


本当にうれしそうな顔をしてるな。


【言葉に嘘もないようですね】


「じゃあ……」


それから、掴まった経緯や状況、その他諸々を聞いてみたが不審な点が無かった。


掴まったのも、この国の法律では多大な財を持った人間は、それ相応の税を納める義務があるので、その点を今審議中だそうだ。


早い話脱税の疑惑らしいが、裁判が長引いているだけで問題ないそうだ。


財産は、国に一時差し押さえられているだけらしい。


ゴールの説明じゃあ、そこまで分からなかっただけか。


あいつ、あれだからしょうがないのかな?


宝が見つかれば、回収が不能である事が分かるので裁判が早く済むと……。


大公の言っていた事にも、間違いはない……。


う~ん……。


どうなってるんだ!?


『何か、流れ全体の不自然さが拭い切れんのぉ』


そうなんだよ。


でも、一つ一つにちゃんと理由もあるし……。


今回遺跡って本当に関係ないのか!?


ああ! もう!


面倒くさい!


サクサク終わらせたいのに!


あ~あ!


やってらんね~……。


【しかし、ここにいれば死ぬと……】


ああ! そうだよ!


結局、何かと戦うはずなんだよ。


「メリッサから、泣きながら死ぬと言われたんだが……」


「そうですか。あの子は私以上の先見の才があります。間違いないでしょう」


う~ん……。


死ぬ事が固定かよ……。


「しかし、メリッサが予言したと言う事は……」


うん?


「私の力はせいぜい、予測にすぎません。回避不能とは言いませんが、あの子はほぼ完ぺきな予知をします」


何? 絶対死ぬってか?


最悪じゃん。


「なら、俺はここから逃げても一緒だろう?」


「いえ、おかしいです」


「何が?」


「貴方は今すぐこの町から立ち去れば、死なないと私は見ました」


うん?


「もしかすると、私と違う未来を……」


これは糸口にならないな。


『そうじゃな。この場所から逃げるという選択肢は無いのじゃろう?』


もちろんだ!


【でしたら、逃げないので死を予言されたとも……】


そうなんだよな~。


メリッサは、俺が逃げない所まで見ていただけかも知れない。


なんだ?


何が足りない?


完全にピースが足りていない……。


作為的に何かが隠されているのか?


「どうぞ……。お逃げ下さい……」


ふ~……。


「俺に嘘はつくな」


「えっ!? あの……」


「全身で助けを求めてるじゃないか……」


唇を噛み締め、手に内出血が出来るほど強く拳を握っている。


自分達以上に、娘や町が気になってるんだろうが。


それでも、世界を救ってくれってか?


自己犠牲精神か、素晴らしいねぇ……。


だが、そんなもんお断りだ!


「いえ……あの」


「生憎、俺は人に逃げろと言われて逃げるほどチキンじゃない」


「しかし!」


「五月蝿い……。死ぬ事怖がって、神に逆らえるかっての!」


俺は、メリッサの両親に立ててはいけない指を立てる。


「俺の進む道は、俺が決める! 運命なんて、クソ食らえだ」


俺は、ポケットから転移の魔法が封印された結晶を投げ込む。


「転移の魔法が入ってる。どうするかは、自分達で決めろ……」


メリッサの両親は涙を流し、頭を床に擦りつけていた。


たく……。


いい大人が、泣くなよ。


その空気に耐えられなくなった俺は、メリッサの家へ帰る事にした。


****


「なっ!? どうしたんだ!?」


家の中で、血を流して倒れ込むゴールを抱き起こす。


「ぼ……暴漢が……お嬢様を……」


くっそ!


「そいつらの特徴は? 何処に行ったか分からないのか?」


「遺跡に……宝が狙い……です。お嬢様を……」


その言葉を吐き出し終えると、ゴールは気を失った。


命に問題は無いな……。


やられた!


ゴールをその場に寝かせると、俺は遺跡へ向かい走りだす。


うん!?


ちょっと待て?


この感覚は……。


『うむ! わしもよく覚えておる!』


完全に裏を……。


「おお!? なんだ? 怖い顔して?」


路地裏から抜けると、酒場で会ったオヤジがいた。


「少し、教えてくれないか?」


俺は、オヤジに金貨を握らせる。


時間が無いんでね……。


「お! おお! 何でも聞いてくれ!」


そのオヤジからの情報で謎が解けた……。


やってくれる!


【落ちつくましょう! これ以上、相手の策にはまっては!】


分かってる!


****


全速力で走った俺は数分で遺跡に到着し、そのまま地下へともぐる。


なんてこった!


俺の動きさえ計算済みかよ!


「まさか同着とはな……」


「私は宝を持ち帰り、このメリッサちゃんの両親を助けたいだけです!」


「ほう。では、この私に所有権は頂けるのかな? 大公殿?」


「無用な争いを避けられるならば……」


レミー伯爵の無言の合図で、臨戦態勢だったグレース達部下が構えを解いた。


それと同時に、大公側の兵も構えを緩める。


「利害が一致だな! ロザリー大公よ!」


「ええ……。ただ! この子の両親が釈放されるまでは、付き合って頂きますよ!」


「いいだろう! 釈放がスムーズに進むように、私も力を貸そう!」


「では……メリッサちゃん」


「はい……」


メリッサは、魔力のこもった鍵を使い、扉を開く。


「おおおお!」


「素晴らしい……」


「アネゴ! アネゴ! 宝の山だ! うはぁぁぁぁ!」


扉の先には、絵に書いたような財宝が詰まっていた。


伯爵側だけでなく、大公側の兵まで金や宝石に群がった。


「想像以上だ……。これだけあれば……」


「やったな! アネゴ! これで、止められる! その上遊んで暮らせる!」


「なるほど……。当家の財産と同等か、それ以上はありますね……」


「ロザリー様? 全て与えて宜しいんですか?」


「いいのです。それよりもカーター様達を……。あら? メリッサちゃん?」


メリッサは、奥の台座に置かれた小さな箱に向かい歩いている。


まるで、夢遊病者のように……。


「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


「あれは……」


「やはり宝を狙っていたか! この嘘つき行商人が!」


俺を狙ったシェーラの剣をかいくぐり、メリッサの元へ走ったが……。


間に合わなかった……。


メリッサが、箱を開けた瞬間中から黒い霧が噴き出す。


信じられない量の魔力……。


くっそ!


「大丈夫か? 怪我は?」


俺は、その場にしゃがみ込むメリッサを揺さぶる。


「あ……あああ! ごめんなさい! 支配に逆らえなかった……」


泣きそうなメリッサの頭を抱えた。


「いい! お前は悪くない!」


シェーラを押さえて、様子を見ていた大公が近づいてくる。


「あれは何ですか!? 貴方が言った、貧民町などこの町には無かった……。ですが、メリッサちゃんを見ている限り……」


「ロザリーさん! 逃げて……」


「どう言う事です? 説明を……」


「説明は俺からする……。だから、メリッサを連れて逃げてくれ」


「貴方は……」


剣を呼び出した俺に、伯爵とグレースも目線を向ける。


「全部、ここに封印されていた魔神だか魔神だかが仕組んだ事だ。そうだろう?」


俺の目線を追った大公達は、ゴールの姿を見る。


そのゴールは……。


【あれは、完全な死体ですね】


『死体を操っておったとは……』


完璧な精神、五感の操作……。


聖剣使いの馬鹿で経験していたが……。


くそっ! やられた!


バリッっと勢いよくゴールの腐敗した手がシャツを破ると、そこには死体と同化した気味の悪い人面疽があった。


ギョロリと目を開けたそれは、不気味な笑みを浮かべる。


「我こそは大いなる魔神! 大魔道士アストール!」


人面疽が膨らみ始め、完全な人の形をとると同時に、ゴールの死体は塵へと変わった。


「よく働いてくれたな。世界に仇なす者よ。感謝するぞ」


「ちっ……」


なんて魔力量だ……。


『今までで、最大級じゃ』


【これが世界を手に入れる力ですか……】


今までの怪物達が、可愛く思えるぜ。


久々のミルフォスクラスだ……。


「おい! お前! 事情を知っているなら説明しろ!」


「そうです! どうなっているの? あの化け物は何?」


「世界に仇なすものよ! 説明してやればいい。待ってやるぞ?」


薄笑いを浮かべたアストールが、俺の説明を待つと言っている。


何だよ? あの余裕は! むかつく!


『事情を知れば、大公達が絶望するとでも思っておるのじゃろう』


【趣味の悪い……】


「説明する。説明が終わったら、兵を連れて全力で逃げてくれ……」


アストールが、大昔に封印された魔神で先程の箱に力を封じ込められていた事。


その魔神は、本当に世界を滅ぼす力がある事。


今回の全ては、復活の為に魔神が仕組んだ事。


メリッサは操られ、その両親もゴールに取り付いた魔神にはめられた事。


そして、俺自身も区画整理で破棄された地区を貧民町と誤認させられ、奴の誘導で三十階までの罠を解除してしまった事を説明した。


「遺跡が現れた事で、意識と力の一部が解放されたってところか? 魔神様よ~?」


「くくくっ……。その通りだ。よく解き明かしたな、世界に仇なす者よ」


このクソが!


【冷静に】


分かってる!


「そんな……」


「では、何故この遺跡にあんな凶暴な罠があったんだ!? おかしく……」


「多分、封印される前の魔神の居城だったんだろう。あの罠は、侵入者を撃退する魔神が作った罠だと思う」


「じゃあ、魔神を封印した者がそれをそのまま封印に利用したと?」


意外に、大公も伯爵も俺を信頼してくれてるな……。


根が真面目なんだろうな、この二人。


「くくっ。少し不正解だ。あの罠は、確かに私が作ったが、人間をいたぶる為に作ったものだ」


まあ、人間に負けるような力じゃないよな。


「さあ、全員逃げろ……。俺が引き付ける」


「待って! あの予言は嘘じゃない! アストールの支配が弱まった時に……」


「お前の母親にも、同じ様な事言われた。心配するな。ただじゃ死なね~よ」


メリッサの頭を撫でる。


「お前は何者なのだ?」


俺の身体から、白と黒のオーラが立ち上ったのを見て、レミー伯爵が目をパチクリと驚いている。


「今は時間がない! 奴は、俺がここで殺す! 巻き込まれたくなければ逃げろ!」


「あ……お前達! ずらかるよ!」


「シェーラ! 兵を! メリッサちゃん!」


おお、頭悪くは無いんだな。


『なかなかの手際じゃ』


突破口を……はっ?


扉の前にいたアストールは、わざわざ逃げやすいようにその場から、移動してくれた。


どう言う事!?


「私は寛大だ! その男以外は逃がしてやろう!」


なんだよあの余裕は!


『まずいな……』


【あの感じは何か策がありそうですね……】


気は抜かないが、逃がしてくれるなら……。


「私は、町に三日後に攻め込む予定だ! 準備をしておく事だな~! はははっ!」


本当に逃がしてくれる?


どう言う事だ!?


もしかして!


「お前、もしかして完全に復活しきれていないんじゃないか?」


「それも正解だ! 世界に仇なす者よ! 三日後までは、完全な力が使えんのだよ!」


ヤバい!


何かある!


「何故、わざわざお前をここに誘導したか……気が付いたか?」


やっぱり! 罠かよ!


「さあ!」


魔力で黒い霧のようなでかい腕を作った魔神は、メリッサを掴み部屋の奥へ投げる。


もちろん、壁にぶつかれば即死するほどの速度で。


うおおおお!


【きます!】


メリッサを掴んだ瞬間、魔神から強力な魔力砲が俺に向かって放たれる。


避けられない!


若造!!


聖剣に魔力を流し、白い防御壁を展開させる。


魔神の力が完全ではないせいで威力が弱い精だろうが、ギリギリ防ぎきれる……。


きれるけども!


こちらに放たれている魔力砲は、止む気配がない!


くっそぉぉぉぉぉぉ! 動けん!


「くくくっ! お前と戦って負けるとは思えんが、ダメージを受ける可能性は十分あるのでな!」


魔神が、呪文を唱えた事でここに誘導された理由が分かった。


この建物自体が崩れ始めた。


その場に釘付けにされた俺は、そのままメリッサを抱え、その場所に生き埋めになる。


予言当たってた~……。


運がいいと言えるのは、メリッサに気がつかなかった大公達が、何とか地上まで逃げ延びてくれた事くらいだろうか?


メリッサを抱え、全身にフィールドと障壁を展開させたが……。


ぐううう!


流石に、何十トンもの土砂はキツイ!


ジジィも若造も全力でフォローしてくれている。


何とかメリッサを助けるんだ!


****


「はぁはぁはぁ……」


【運よく瓦礫が重なって、空間が出来ましたね……】


死ぬかと思った……。


ヤバかった~……。


流石、俺の悪運。


『助かったはいいが、どうやって抜け出すかじゃな』


何とか三日以内に抜け出さないと……。


「レイ……」


おおう!?


メリッサが俺に抱きついてきた!


まさか! 吊り橋効果的な!?


このタイミングで、死ぬ前に彼女が出来て!さらに……。


ちっ……。


メリッサは、小刻みに震えている。


「ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい!」


ふ~……。


「もう済んだ事だ。それより、何処か痛いところは無いか?」


「だって! これじゃあ……」


「絶望ってのは、時間の無駄だそうだ」


「えっ!?」


「俺の師匠が言ってた。ありのままを受け入れ、その中で出来る事を……最善を尽くせってな」


「レイ……」


俺は、メリッサに笑いかける。


「それに俺は、足掻くのが大好きなんだよ」


おおう!?


メリッサがさらに強く抱き……キスされた!


あの……あれ……。


キスされた!


真っ赤になった俺は、うろたえる……。


だって!


だってだもん!


『分からん……』


「アストールに操られていた時の記憶もあるの……」


だって!


「体を好きに弄ばれて……。苦しくて……。苦しくて……」


おおう?!


泣いてらっしゃる!?


「ただ、毎日が真っ暗で生きるのが苦しくて……。そんな私に貴方は、光を……手を差し伸べてくれた……」


ああ! ちくしょぉぉぉぉぉ!


可愛いなぁぁぁぁ! もぉぉぉぉぉ!


「最後に貴方に会えて……。このまま……」


おいおい。


人の話し聞いてなかったの?


「勝手に諦めるな」


「でも……」


「キスのお返しに……。ここから生きたまま救いだしてやるよ!」


「貴方は……」


「約束だ!」


舌!


舌が入ってきたぁぁぁぁぁ!


童貞には刺激が!


刺激が強すぎるって!


このまま二人で……。


ああああ! 駄目だ!


止めて! 何か別の意味でやる気が無くなる!


『エロガキが……』


【情けない……】


あああああ!


****


「来た! 来たぞ!」


俺が生き埋めになって三日後、魔神は一人で町向かって歩いていた。


完全復活し、魔道士らしくローブと杖を装備している。


「あれか? 大公よ?」


「はい! あれが復活した魔神です! 間違いありません!」


「どうした、大公? 震えているのか?」


「武者ぶるいです! それより……レミー伯爵はいいんですか?」


「戦争なんかより、あの化け物を野放しにする方が危険だろう……。準備はいいな? グレース!」


「へい! アネゴ! やってやんぜぇぇぇ!」


「シェーラ! こちらは?」


「はっ! 万全です!」


「この町の為に、英雄である王子様まで……」


「気にしないでくれ、カーター殿。この町は、全力で守ってみせる!」


「王子! 準備が出来ました!」


「ハンナ……。君はいいのか? 死ぬかも……」


「はい! 私は、彼に助けられたこの命を……」


「分かった。無粋だったな……」


「でも、まさか一週間で二回も命をかけるなんて……」


「何? 怖気づいたの、サマンサ? この運命こそ、英雄である王子の宿命なのよ! 私は、ただ王子に従うだけよ!」


「私だって!」


正直、クソ王子にハンナまで来ているなんて思いもしなかった。


いいよな~……。


戦おうとしただけでこの評価だよ……。


俺なんて実際に戦っても……。


さらにハンナまで……。


人生って不公平!


「さあ! 人間よ! 私を楽しませろ!」


魔神は、二メートルほどの魔力で作った火の鳥を町に飛ばす。


「まずい! 避けるんだ!」


前線を固めていた、手練の兵が王子の声に反応し、地面に突き刺さる火の鳥を回避する。


熱風と真っ赤な光が、周囲にまき散らされた。


火の鳥が突き刺さった場所の地面が吹き飛び、十メートルほどの火柱が空に伸びる。


「あんなものが直撃したら……」


兵達が戦慄する……。


衝撃だけで、戦闘不能な兵が出るほどの威力だ。


仕方ない……。


「今だぁぁぁぁぁ!」


馬鹿って怖いよね~。


クソ王子とお供の二人は、恐怖せずに魔神に向かい走り始めた。


勝てないって……。


「おお! まだ、恐怖せんか! それならば……」


魔神ってのはかなり性格が悪いようだ。


向かってくる王子を見て、百羽? ほどの火の鳥を頭上にうかべる。


「そんな……」


「ああ……。なんて事……」


「化け物……」


「やっぱり無理だったんだ……」


三百人の兵士の顔に、色濃く絶望が浮かぶ。


半数以上の兵士が逃げ出す事を忘れ、その場に座り込んだ。


「くくくっ……。いい顔だ~」


「はああ!」


「うん!? まだ諦めんか……。ふん!」


王家に伝わる剣で、王子は魔神に斬りかかる。


もちろん、魔神の手から出された衝撃波で吹き飛ばされて、その剣は届かない。


「ぐああああ!」


「きゃあああぁぁぁぁぁぁ!」


「ぐうう!」


王子を助けようと、受け止める為の障壁を張ったお供二人も、町の壁に叩きつけられた。


それを見ていたハンナが駆け寄り、怪我の手当てをする。


骨が折れ、全身打撲でも立ち上がるのか……。


流石、英雄王子。


「さあ! 次はどうする?」


一羽の火の鳥が、町に向かいはばたく。


絶望に支配された兵士達は、ただそれを避けようともせず眺めていた。


って! 馬鹿ぁぁぁぁぁぁぁ!


「なっ!?」


その火の鳥は、轟音と共に空中で霧散する。


衝撃波五発分……。


黒い影が町の前に到着し、その背中からメリッサが降りる。


「貴様は……」


「あれは……行商人!」


「レイィィィィィ!」


ハンナ……………………叫ぶな!


なんか恥ずかしい!


うん?


メリッサが、泥だらけで血を流している俺の袖を引っ張る。


「レイ……。私を庇った怪我が……」


「まあ、見てろ」


頭を撫でた俺の意図を察したメリッサが、両親のいる場所までさがって行く。


「まさか、あれで死なんとは……」


「クソ野郎! つけは十倍にして返してやる!」


『やはり、やるか……』


ああ!


【魔力はもう残っていませんよ?】


知った事か!


「くくくっ……。いいだろう!」


火の鳥全てが、俺に向かいはばたきだす。


<ホークスラッシュ>!


「おおおおお!」


百の攻撃に対して、魔力が付加されていない衝撃波五百で対抗する。


「流石と言うべきか……。だが! これはどうだ?」


先程の十倍……。


火の鳥が全て俺に向かってくる。


「おおおおお!」


負けるか!


魔力が無い以上回復できない。


動きの無駄をなくすんだ!


体に負荷をかけるな!


流れに逆らうな……。


大地と、大気と、魔力と一体なるんだ……。


音が消え、徐々に視界が白くなっていく。


『ゾーンに入った……』


【くう! 魔力が無いとフォーローも出来ない!】


『歯がゆいのは同じじゃ……。じゃが! この馬鹿は負けん!』


【はい!】


「ぬうう! 何時までも! 早く消えて無くなれ!」


魔神は、千を千で重ねた魔力の鳥を放つ。


全く、バカげた魔力だ……。


「おおおおおお!」


まだだ……。


まだ速度は上がる……。


****


「レイ……」


「メリッサちゃん、あの男はいったい……」


大公の質問に、メリッサは真っ直ぐな瞳で返事をする。


「あの方こそ、世界を救う存在」


「アイリス殿? 詳しく教えてくれませんか?」


「王子様……。彼こそ、世界を巨大な悪意から守る者」


「王子以上の人間がいるなんて……」


「確かに、モンスターの集団から国を守った王子様は、紛う事なき英雄です。しかし、彼はそれ以上の怪物達を人知れず退けてきました。たった一人で……」


「アネゴ~、あたしら逃げた方がいいんじゃね~か?」


「……メリッサと言ったか? 何故、そんな目をする?」


伯爵は余りにも真っ直ぐすぎるメリッサの瞳に、興味を持ったらしい。


「私は信じてるんです……。レイは、負けません!」


「メリッサでも、予言が……」


「お母様! 彼はお母様の予言をはねのけました! 彼は、運命なんかに負けません!」


メリッサの言葉を聞いた両親は、顔を見合わせて少しさびしそうに笑い合う。


「アイリス……」


「あなた……。娘の成長とは嬉しくもあり、さびしくもあるのですね」


「ああ……。娘が信頼する彼を……我らが信じる彼を見守ろう!」


****


「ぬううう! 何故打ち砕けん!」


確実に自分の技を消滅させる俺に、魔神はほぞを噛み始めた。


どうやら、出力には限界があるようだ。


百万これが限界か……。


『しかし、魔力がほとんど減少しておらん!』


【封印されていた間に、魔力を貯め込んだようですね……】


五百万……。


今の俺にはこれが限界か……。


くっそ……。


攻め込めない。


ピシッという嫌な音が、体内を伝って俺の耳にまで届く。


ぐう!


『まずい!』


魔力で回復できない俺の骨と筋肉が、ついに悲鳴を上げ始めた。


筋繊維の断裂に、骨の疲労による亀裂……。


くっそ!


俺はこんな……この程度なのかよ!


まだだ!


まだ……くっそ!


――消して――


守るんだ! 守って見せるんだ!


負けられるか!


俺の魂はまだ燃えている!


まだやれる!


「おおおおお!」


力を……。


力をよこしやがれぇぇぇぇぇぇぇぇ!!


『なっ!?』


【この魔力は……】


俺の身体から大量の煙が噴き出し、体が回復された。


『また、この力か!』


莫大な量の魔力が、俺の体内からあふれ出す。


【何と言う魔力!】


魔剣が秘言を使わずに光の大剣へと姿を変え、聖剣に何時もの数倍はある魔力の刃が出現する。


<バーストスラッシュ>!


極限まで魔力を付加した衝撃波が、魔神の攻撃を相殺する。


「馬鹿な! 何だこの力は!?」


今まで五発必要だったこちらの攻撃が、一対一の相殺へと変化した。


「おおおお!」


さらに、俺の攻撃速度は加速する。


「ぬおおおおお!」


魔神は攻撃をやめ、全魔力で防御壁を作る。


機……。


『今じゃ!』


「何!? 奴は……」


衝撃波の嵐を防ぎきった魔神が、俺の姿を捜す。


「そんな……」


上空からの影が、俺の居場所を魔神に教えた。


さあ、絶望して死んでいけ。


右肩に背負った二本の剣を、聖剣から先に振り下ろす。


<メテオブレーク>!


聖剣が障壁を切り裂き、魔剣が魔神のコアを両断した。


驚愕の顔をしたまま、魔神は凄まじい光を放って爆発する。


俺の斬撃にこめられた魔力に押された爆発が、魔神のいた後方へと弾け飛んだ。


それと同時に、魔剣が元の形へと戻る。


****


ふ~……。


『何とかなったのぉ』


【……今の力は】


知らん。


何回か出した事あるけど、よくわからん。


【ええ~】


火事場のクソ力とからじゃね?


【そんな馬鹿な……】


誰が馬鹿だ!


『まあ、守り切れたんじゃ。今は、素直に喜ぶべきじゃろう』


【そうですね】


「レイィィィィ!」


剣を戻した俺に、メリッサが抱きついてきた。


「よかった! よかった~!」


「まあ、約束は守るさ」


「レイ……」


おおう!?


ハンナ? それにクソ王子……。


「生憎、今日は品切れですよ~っと」


何で?


何でハンナ泣きそうになってるの?


「私は、貴方に……」


ん?


何ですか~?


急にハンナの目つきが……。


「レイの事、何も知らないくせに」


うん?


メリッサ?


おおう!?


何だこの空気!?


ハンナとメリッサが睨みあってる。


何気に殺気じゃね?


ちょ! 待てよ!


どう言う事!?


あばばばば……。


何か胃が……。


『不憫な……』


【情けない……】


「貴方様には、私達の予言など無用でしたね」


おお! メリッサの母ちゃん!


この空気、どうにかしてくれ!


いに穴が空いて死ぬ!


「そうでもない。生き埋めにされたよ。死にはしなかったけどね~」


「ああ……」


「何?」


「貴方のそれは、女性にとっては毒でしょうね」


はい?


何? 取り敢えず、笑ってみただけなんだけど……。


え? 不細工って事!?


【はぁ~、違いますよ】


「きっと、多くの女性が心惹かれたでしょうね」


まともにモテた事無いんですけど~?


何だコラ?


やんのか? コラ?


『アホ……』


アホじゃありませ~ん!


「行商人……いや、レイよ。俺は、お前に謝る必要があるのだろうな」


クソ王子か……。


けっ……。


「いいですよ~、別に」


謝っても許さん! 死ねクソ王子!


「レイ! 何この女?」


メリッサ?


お前、キャラが……。


「レイ……。せめて一度ゆっくり二人で話を……」


ハンナ? あれ?


目が笑ってませんけど?


え~……。


俺の体全体が、ドクンと大きく脈動する。


うっ!


くっそ……。


「駄目よ! 何で二人でなのよ!」


「貴方には関係ないでしょ? えっ? レイ?」


ぐううう!


クソが!


「レイ? どうかしたの?」


おさまれ! おさまれ!


「じゃあ、皆さん。また、何処かで会ったら御贔屓に~」


俺は、精一杯の営業スマイルを作る。


「待ってよ!」


「レイィィィィィィ!」


そして、その場を走り去る。


これが、今の俺の限界だ。


もう持たない……。


「俺は、修行を続ける……。あいつの足元ぐらいは見えるくらいにはならないとな……」


「王子……」


「アネゴ……。あたし等……」


「ああ。歴史の一ページを目撃したのかもな……後、伯爵だ」


「シェーラ? もしかして……」


「私は……。謝りたいです……。あんな方に剣を向けてしまうなんて……」


「メリッサ、あの方を止められる者はいないのです」


「あのお方は、まだ立ち止まれないのだ」


「でも! でも! レイはもう十分苦しんだよ? それでも……」


皆が、俺の走り去った先を只見つめていた。


****


俺が、立ち止まったのはその場所から数十キロ先の砂漠の終点。


「ごはっ! う……ぐうう!」


木にもたれかかった俺は、大量の血を吐き出した。


「えふっ……がああ!」


全身……特に胸から激痛が走る。


全身がバラバラになりそうだ。


「ぐあああああ!」


大きな痛みの波で、俺はその場に倒れ込んでしまった。


「げぼっ!」


血を口からまき散らしながら、俺はその場所でもがく。


一年前から付き合いだした、この症状。


最近では、発作の感覚が短くなってきている。


この症状は、ジジィの回復でも、若造の復元でも治す事が出来ない。


理由は分かっている。


「ぐうううう!」


この発作が、俺に自分の最後を教えてくれる。


一年……。


無理だろうな。


あ~あ……。


やってらんね~……。

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