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Mr.NO-GOOD´  作者: 慎之介
第七章:終末の旅人編
87/106

八話

「うん? 貴様! 何を見ているんだ!」


かっ……からまれた~。


金髪美人にからまれた~!


「およしなさい、シェーラ。年増伯爵の部下でもあるまいし。はしたない」


「はぁ……。しかし……」


シェーラと呼ばれた金髪美人剣士は、ロザリー大公にたしなめられて俺の胸倉から手を放した。


怖かった~……。


『何故お前は、こういう時臆病なんじゃ?』


女、怖い。


「部下がご迷惑をかけました。これは、お詫びです」


俺の足元に、金貨が投げつけられた。


う~ん……。


これを拾うと男のプライドが……。


【珍しい! それは、賛同できますね】


でも、もったいないな~……。


「何をしている! 大公の御好意を受け取らないつもりのか?」


【凄い速さで拾いましたね……】


俺、女、怖い。


「では、御機嫌よう」


白くて、ポニテで、怖いお嬢さんが豪華な建物へ消えて行った。


怖いね~……。


はぁ~……。


出来れば、あの二組には遺跡の中で会いたくないな。


どうしよう? 今すぐ遺跡に行っとく?


『それがいいかも知れんな』


****


「止めて……」


うん?


「お願い……」


路地裏から、女の声?


「だから! 俺らに付き合ってくれれば、その薬~。全部買ってやるって~」


「いい……。だから、離して……」


「ちょ? 今の状況分かってる? 拒否権あると思うわけ?」


なんだか、分かりやすいチンピラだね~。


「いや!」


流石に、無視できないよね~。


「は~い。嫌がってますよ~。止めましょうね~」


『お前。それでは止められんじゃろうが』


「ああ~? なんだてめぇぇは? 俺らとやろうっての?」


「おもしれ~。こっちは三人だぞ? 分かってんのか? おお~?」


弱い奴って、口数多いよね~。


【そうですね。この方々は戦士ですらない、只の一般人ですからね】


「お~い! 聞いてんの!? 俺、マジキレそうなんだけど?」


「ジーン! やめとけって~。おい! 今のうちにワビ入れろや~。ジーンキレるとパネェぞ~?」


はぁ~……。


「マジうぜぇぇ。ちょ! マジ死んでくんね?」


「はっ!?」


チンピラ三人は俺の殺気で、動きを止める。


「今すぐ死ぬのと、逃げ出すの。好きな方を選べ……」


っても、喋れないんだけどね~。


【また、そうやって性格の悪い】


うけけけ。


男への情けなんて、俺は持ってない。


「くっそ! 覚えてろ!」


「何を?」


「うわぁあ~!」


殺気を解いて走って逃げる馬鹿達の……。


逃げる先に回り込んでみました~!


物凄くビビってる。


おもしれ~。


三回ほどチンピラは、路地裏を右往左往逃げ回った。


最後泣きそうないなってたな……。


うひゃひゃひゃ。


「あの……」


おっと。


「大丈夫でしたか~? 気をつけて下さいね~」


おふぅ!


立ち去ろうとした俺の襟が、掴まれていた。


何すんの、この子!?


首締まるから!


「待って……。お礼……」


「いいですよ~。放してもらえませんか~?」


…………。


うん!


放しなさいよ~って!


「あの~」


「お礼したい……。来て……」


「いや、いいですよ~。気にしないでください」


………………。


うん!


だから放せって!


無理やり振りほどくぞ!?


「ですから~……」


「お礼……」


おおう!


今まで俯いていたその子が顔を上げると……。


美少女~……。


メアリー級だな……。


「お礼……」


顔を真っ赤にして涙を……。


「分かった! 分かりました! だから……」


やっと、放してくれた。


今だ!


『やめんか! ここで逃げだせば号泣されるぞ!』


あ~……。


「こっち……」


****


少し貧相な服を着た短髪の美少女は、路地裏の先へと俺を誘導した。


ここは貧民町か……。


ガリガリの人間がいっぱいだな……。


【これだけ大きな町ですからね~】


う~ん……。


見てるこっちが悲しくなるね~……。


「ここ……」


美少女は、土で造られた小さな家に俺を招き入れた。


「お嬢様! よかった……」


お嬢様? 物凄く貧乏に見えますが?


「これ……。二つ売れた……」


「ああ! 私が働きます! もうこのような事……ん? あの、そちらの方は?」


「助けてくれた……」


「それはそれは! 汚い場所ですが、こちらにどうぞ!」


やっべ~……。


【もう私は慣れました】


毎回だからね~……。


あああああ!


なんか巻き込まれたぁぁぁぁぁぁ!


なんか、面倒な臭いがプンプンですよ!


【慣れましょうよ】


無理ぃぃぃぃぃぃ!


はぁ~……。


やってらんね~……。


「と言う訳で、お嬢様と二人このみすぼらしい場所に……」


う~ん……。


「はぁ……」


『なるほど、苦労しておる様じゃな』


いやいや、そこじゃない。


【何ですか?】


なんでいきなり来た旅人に、苦労話を始めるの?


おかしくね?


苦労してるかもしれないけど、客に水だっけっておかしくね?


【そこは、お金が無いんですよ。我慢しましょうよ】


「貴方と言う人を見込んで、お願いがあります!」


何を見込んだの?


こいつ何を根拠にこんな話してるの?


「いや……。あの、急過ぎると思うんですが?」


「お嬢様が、このように人を連れてくるなど今までありませんでした! 裕福な時代にもです! お嬢様の目に狂いはないはずです!」


なに? こいつ?


頭がプリン?


「ですから! 何卒お願い致します! 遺跡の宝をお嬢様に!」


なるほど、完全なラリパッパか……。


分かります。


『宝を、頼んだ相手が持って逃げると考えんのか?』


【この方も、世間の常識が少し足りないようですね】


だから、商売がうまくいかないんだって……。


二人が貧乏なのって、こいつのせいだぜ? 多分。


少し、教えてやるか。


「あのね? そんな危険を乗り越えて手に入れた宝を、普通人にはあげないと思いますよ?」


そんなにビックリしなくても……。


「まさか! 宝の部屋の、最後の鍵をお嬢様から奪うつもりですか!?」


うわ~……。


【少し、かわいそうですね……】


「あんた、それを人に言ったら駄目なんじゃないですか?」


だから、そんなに驚くなよ……。


よくそれで、執事が務まったな。


「秘密にしてやるから……」


「ああ! ありがとうございます!」


頭痛くなってきた……。


え~と整理すると……。


美少女メリッサちゃんの親が、この町の顔役で富豪だった。


『遺跡を目当てに来た、貴族達に難癖をつけられて財産を奪われたんじゃな』


【挙句に、両親は無実の罪で投獄】


古くから家に仕えていた、ゴールってこのアホなおっさんがメリッサを守ってる。


【メリッサさんの家は、遺跡の番人なので鍵を持っている】


う~ん……。


こいつ見てると、その両親も頭がいいとは思えんのだが?


『それは、分からん。町に来た貴族はさっきのような、金や権力に目がくらんだ一癖も二癖もありそうな連中じゃ』


ぐ~っと少し離れた椅子に座って、こちらを眺めていたメリッサの腹が鳴ったようだ。


顔が真っ赤だな……。


「お嬢様すみません。今日はこれしか……」


ゴールが出してきたのは、少しカビが生えているパン……。


「半分……。残りはあなたの……」


「ああ、お優しいお言葉を……。大丈夫です! 私は食べなくても平気です!」


馬鹿だから大丈夫なのかな?


【少し、酷いです】


「でも、貴方も昨日から食べてない……」


え~い!


俺は、カバンから食材をだして並べた。


保存食だけどね。


「あの……レイ殿?」


「さすがに、ここで無視するほど俺のハートは強くない。台所借りるぞ!」


二人は喜ぶと言うより、ただ呆然と俺の料理風景を眺めていた。


干した魚と、野菜の漬物を具にパスタを作り、保存用に堅く焼きしめたパンを並べた。


まだ、呆然としてる。


「さあ、食え」


「でも……。お金無いし……お礼……」


「いいから! 食え!」


俺が手をつけると、二人も食べ始めた……。


ゆっくりと味わいながら……。


うん……。


いちいち泣くな馬鹿!


「ぐす……素晴らしい……。当家の雇っていたコックより……」


「腹が減ってれば、何でも美味いんだよ……」


なんだ? この辛気臭い食事は?


二人ともそんなに酷い目にあったのか?


あ~あ……。


『またか……。お前のそれは一生の治らんな』


人を病気みたいに言うな。


「どの道、遺跡には行こうと思ってったんだ……」


「ああ……レイ殿!」


「情報をよこせよ?」


「もちろんですとも!」


大昔に砂に埋もれた、宝の隠し場所ねぇ。


なんだろう?


魔道兵機的なものでも封印されてるのかな?


『その可能性はあるな……』


「では、鍵を……」


「いや、取り敢えず明日遺跡に一回下見に行く」


「そうですか……。まあ、もうすぐ日も暮れるますからね。あ! 泊って行かれませんか?」


「うん?」


メリッサが、俺の服を掴んでいる。


泊ってけってか?


「じゃあ、泊るよ……」


****


う~ん……。


電気止められてるのか……。


いや、電灯も何もないな。


元々電気が来てないのか……。


日が沈み、蝋燭が消えたところで就寝になった。


ベッドは一つしかなく、俺とゴールはハンモックで眠る。


まあ、寝心地悪くないからいいか……。


と……寝る前に修練、修練。


外に出ると、表の町から光が漏れ出してきていた。


こっちの貧民町には電気さえ通ってないのに……。


なんだか賑やかだね~……。


【大きな繁華町がありましたからね】


貧富の差が、ここまで激しい町も珍しいな……。


まあ、いい。


あの広場で修練しよう。


俺は、月明かりの元で刃挽きをした剣を振るう。


「はぁぁ!」


うん、空間も問題なく斬れるようになってきた。


これなら実戦に投入できるな。


【一戦一戦のレベルアップが、目で見て分かりますね……】


そうかな?


自分では、そこまで感じないんだけど。


『確実に上がっておる』


それりゃあ、弱くなってるつもりはないけど……。


まだまだだと思うんだよな~……。


学生の時は、世間知らずで自分が飛びぬけて強いと思えた時期もあるけど……。


『お前は、あのお方を目指しておるからじゃろう……』


無理だろうけど、目標は高くってね。


【もうすでに、神に匹敵する力はあると思いますが?】


今倒してるのは、神と呼ばれてるだけの、ただの強い化け物達だろ?


俺の目標は、本物の神なんだ。


気を抜くだけ馬鹿だろう?


『人間で神に匹敵するか……。化け物にでもなりたいのか?』


違うわ!


目標はありきたりだけど、最強ってやつだよ。


『そうか……』


笑わないのか?


『ふん。わしとて、人の夢を笑うほど馬鹿ではない』


【あの? 以前から気になってたんですが……】


なに?


【貴方は両利きなんでしょうか? 両手で、器用に剣やフォークを使いますが……】


ああ、師匠の真似して両方鍛えたんだ。


元は右利きだけど、左で文字書いたり食事したり……。


『最初はかなり苦戦したのぉ?』


そうだったね~……。


でも、いまだに師匠には及ばないけどね~。


【そんなに凄いんですか?】


凄いなんてもんじゃないよ。


右手と左手で、技の種類かえられるんだぞ。化け物だよ。


【技を変える?】


右手で実の剣を出して、左手で虚の剣を出すんだ。


分かりやすく言うと、右から純粋に速い剣がきて、左から死角を突いて見えない剣が来るんだ。


避けられる訳がない……。


『まあ、相手は最強の死神じゃ』


あれ使えたら、もっと楽に戦えるのにな~……。


うん?


「レイ……」


メリッサ……ヤベ、見られた。


「どうした? 眠れないか?」


「レイが出て行くのが見えたの……」


別に逃げたりしね~よ……。


「で? どうした?」


「レイ……。嫌なら言ってほしい……」


何が?


口数少ない……。


「遺跡は危ない……。レイが強くても……」


俺は、俺を見上げるメリッサの頭に手を置いた。


「どうしても無理ならそう言うさ。心配するな」


おおう!?


何?


メリッサは、いきなり俺に抱きついてきた。


何?


「レイ……。無理してる……」


はぁ? 何言ってるの?


「辛くない? 寂しくない?」


何だこいつ?


「必死で歯を食いしばってるレイが見えた……」


こいつ……。


「お前には何が見えるんだ?」


「私の夢には……。人の心と少しの未来が……」


なるほど……。


そういう能力か……。


「で? それだけ泣きそうなのは、何が見えた?」


「レイが……。死んじゃうところ……」


ふ~ん……。


「それは何時頃で、どんな状況だった?」


「知らない場所だった……。何時かは分からない……。でも……」


「でも?」


「レイ……泣いてた……」


う~ん?


なんだ? 誰かに負けて悔し泣き?


何? 俺何かに負けて死ぬの?


でも、負けても泣かないと思うけどな~……。


「そんなに心配するな。俺は、そうは死なないようになってるんだ」


「でも……」


俺は、女に泣かれるのが嫌いなんだよ……。


「大丈夫だ。ほら、笑ってくれよ。何も心配ないから……」


うん……。


いい笑顔だ……。


あ~あ……。


なんでだろうな?


『既に特殊能力の一つじゃな』


「お前、その力で人に嫌われたり、気持ち悪がられたりしたか?」


メリッサはビクッと反応した。


俺にも嫌われるんじゃないっかって?


俺は、メリッサを抱きしめる。


「大丈夫。大丈夫だ」


「不思議な人……。こんなに短い間で、心を軽くしてくれる……」


「そうか?」


「うん……」


「お前さ……。もう少し自信もって生きてみろよ。変に思われるのが嫌なら、その事だけ喋らなければいいんだよ」


「うん……」


『なるほど、体内の魔力が少し特殊じゃな……』


そうだな……。


あ! そう言えば、ゴールがお嬢様の眠りが浅いって……。


【もしかすると、その予知夢のせいですかね?】


ふ~……。


俺は、指先から少しだけ……。


傷付けないように魔力を流す。


そして、メリッサをベッドへと運んだ。


あ~あ、俺死ぬんだってさ。


【絶対ではないでしょう。ほとんどの場合、予知とは近い未来の予測でしかありません】


『そうじゃな。運命とは決まっているものではないはずじゃ……』


それにしても、これで逃げらんなくなった……。


『どの道、遺跡に行くはずだったんじゃ。これで、よかろう』


へいへい。


さて、寝るか……。


****


その夜、俺は夢を見た。


焚火を囲み、両親と仲間達がいた。


楽器の演奏に合わせて、踊り子達が踊っている。


そして、俺はそれを只無邪気に笑ってみていた。


いつからだろう……。


俺が、本当に笑えなくなったのは……。


あっ、でもミルフォスを倒した時には少し笑えたか……。


****


「……殿? レイ殿?」


う~……うわああああ!


痛~……。


「大丈夫ですか?」


ゴール! 起こすのは構わないけど!


顔が近いんだよ! 馬鹿!


ハンモックから落ちた時に打ちつけた、臀部をさする。


朝食用にと、俺が昨日の夜用意しておいた食料が、すでに机の上に並べられていた。


は~……。


「お……おはよう」


「ああ……」


メリッサは、既に起きて先に椅子に座っている。


今日は、かなり眠りが深くなっていたようだ……。


珍しい……。


三人での食事を済ませた俺は、遺跡へと向かう。


****


うわ~……。


遺跡の周りには、多くのベースキャンプに大量の人間。


露店まで出てるよ……。


行きかう人々の会話は、全て遺跡の罠について……。


なんかお祭りみたいだな~。


「何をしているのですか!」


うん?


怒鳴り声?


おおう。


白いお嬢さんが、部下を蹴りつけてるよ。


おっかね~。


「これではあの伯爵に……あのクソババァに先を越される!」


「申し訳ありません……」


何かあったのだろうか?


シェーラだったかな?


金髪姉ちゃんが、ほとんど土下座に近い形で謝ってる。


「荒れてるな~、大公様は」


あれは、昨日の酒場の……。


「何かあったんですかい?」


「ん? おお! 昨日の兄ちゃん! 何でも、昨日攻略したはずの場所で、部下を五人も死なせたそうだ」


「はぁ、そりゃあ……。難儀ですね~」


「退却をさせられた上に、伯爵がその先に進んだって聞いてあれだ……」


必死だね~。


怖い怖い。


「兄ちゃんは、ここで商売か?」


「まあ、そんな所ですよ~」


さて、関わるときっとロクな事が無いはずだ。


さっさと遺跡の中へ……。


でかいな……。


遺跡の一部が顔を出しただけだと聞いていたが、それでも二階建てくらいの高さに数百メートルもの幅がある。


奥行と、地下はどれくらいあるんだか……。


「そこの行商人!」


えっ!?


「そうです! 貴方です! 昨日の方ですね!」


「へい……」


うわ~ん!


白いの声かけられたぁぁぁぁぁぁぁ!!


怖いよ~。


「何をしているのです! 早くこちらに!」


キャァァァァァァァ!


美人さんが剣を構えてる!


行かないと……なんかされる!


きっと、何かされてしまう!


「な……何でしょうか~?」


「貴方……見ない顔ですが、どう言った商品を?」


んん?


買ってくれるの?


「マジックアイテムなどを……」


「そうですか。では、いい物があれば買ってさしあげるわ」


何か面倒なので売りたくないんだけど……。


『刺されるぞ?』


シェーラ、完全に剣抜いてるよね?


【先程から彼女の目には……】


殺気ですね。分かります。


拒否権なしかよ!


****


「え~……。これが、魔力を高める薬で……」


三十分ほど商品の説明をしてみた……。


「珍しい物ばかり……。遠方からの商人ですか……。いいでしょう! 全て買います!」


はい?


「あの……宜しいんですか?」


「二言はありません! お幾らですか?」


「金貨……五百二十八枚です」


「では、これを!」


ロザリー大公は、部下にもってこさせた金貨を俺に手渡す。


中身を確認したが、純度の高い金貨だ。


この一年商品が、ぎっしり詰まっていた俺のかばんは空っぽになった。


この金貨だけで、しばらくは遊んで暮らせるぞ……。


流石大公様、金持ってるね~。


「うん……。役に立つ物ばかりです」


「へえ、毎度~……。あの、何で俺を?」


「この近辺の店に何が売っているかは、全て把握しています。その上で、必要な物は既に買いに走らせました」


なるほど……。


これだけ、有能でお金が無いと進めない遺跡か。


【一年以上、宝に到達した者がいないのも分かりますね】


そうだな……。


「シェーラ? 人員の準備は?」


「はっ! 後、一時間ほどで」


「急ぎなさい! 私達に時間は無いのです! 早く、カーター様とアイリス様を……」


カーターにアイリス?


『確か、メリッサお嬢ちゃんの……』


両親だな……。


「あの~、大公様?」


「なんです?」


「そのお名前は今投獄されてる、この町の顔役の……」


俺の首にはシェーラの刃が……。


「おやめなさい! それで? 旅の者が、何故お二人の名を?」


「はぁ、お嬢さんと会ったもんで……」


「何ですって!? 何処です? メリッサちゃんは何処にいるのです?」


うん……。


剣をひっこめなさいよ!


それは、人に何かを聞く態度じゃない!


ああ……、止めて。切れる。


「貧民町に執事といます。あの……事情を少し……」


「シェーラ! 下がりなさい!」


「はっ!」


ふ~……やっと剣を下げてくれた。


「あの……大公様はメリッサの事を?」


「ええ……。ご両親に昔世話になりました……」


****


ロザリー大公から、メリッサの両親と遺跡の情報をもらえた。


大公はまだ成人する前に親が死に、大公を継がないといけない事を悩み、有名な占い師だったメリッサのお母さんに相談に来たそうだ。


そして、メリッサの両親に色々教えられ、助けられたらしい。


その二人が、遺跡の宝と力を不正に占有したとして掴まったので、この町に来たのか……。


う~ん……。


何かが引っかかる……。


『何者かが、裏で糸を引いておるかも知れんな』


だよな……。


遺跡の宝の話を漏らして、二人に罪をきせた人間がいる。


多分だけど……。


「カーター様達には面会させてもらえず、宝さえ手に入れれば二人を釈放できると聞いて……」


「なるほど……。すみませんが、メリッサを保護して頂けますか?」


「もちろんです! この町に来た時には、メリッサちゃんは行方不明と聞いて捜していんです!」


なんだ?


なんだこの違和感は!?


何かの歯車がずれている?


【焦っては真実を見失います。メリッサさんを保護してもらえるなら……】


分かってる。


大公は、メリッサの元へ部下を向かわせてくれた。


う~ん……。


何か引っかかる……。


兎に角、遺跡を調べるか……。


「待て!」


俺の首には再びシェーラの剣が。


「何でしょうか?」


「シェーラ?」


「ロザリー様……。この者相当な実力を隠しています」


うん!?


「今のもそうだが、私は二度お前の頸動脈を本気で狙った。それを、紙一重どころか避ける所さえ見せないとは……」


こいつ……。


やっぱりか!


なんか当たりそうだから避けたけども!


馬鹿か!


女でも殴るぞ!


「お前は何者だ?」


「只の、行商人ですよ~」


「ふん……」


しばらくこっちを睨んでいたシェーラは剣を下した。


「ロザリー様に不利益があれば……。覚悟するんだな」


「へ~い」


なかなか忠実な番犬だな。


カバンも軽いし、今のうちに遺跡の中に。


『気を抜くでないぞ?』


分かってる。


【死ぬくらいの罠が、無数にあるそうですからね】


分かってるって!


****


遺跡の中は意外な事に、明るかった。


どうやら、天井から太陽光を反射させて取り込むようになっているらしい。


それにしても……。


【広いですね……】


地下二十階までは大公も潜ったらしいが……。


これは、正直手間がかかるかな?


足元のレンガを踏んだ事で飛び出した、刃物を魔剣で切り裂いて遺跡の先を眺める。


大きな石のブロックとレンガ。


そして、遺跡っぽい古く風化した調度品が並んでいる。


何だったんだ? この遺跡は?


【調度品の趣味は……いいとは言えませんね】


化け物の像が並んでる……。


何かあれっぽくね?


『そうじゃな。魔王の居城かのぉ?』


魔王とか魔神が封印されてるんじゃね?


【可能性は十分ですね】


何だろう?


この流れ? 全体に違和感を感じる。


うん?


伯爵?


俺は、何時もの癖で柱の陰で息をひそめる。


「くっそぉぉぉぉ!」


「アネゴ……。仕方ないですって」


「部下を十人も殺してしまった……。くう……」


へぇ……。


部下の命は大事なのか……。


「急がないといけないってのに!」


「でも、今日はこれ以上……」


「グレース! 急がないと……」


「分かってます。あたしだってアネゴと同じ気持ちです」


「あの大公に先を越されてたまるか! 力は私の物だ!」


力が欲しいのか……。


でも、なんか違う。


「でもさ~。アネゴ……」


レミー伯爵は、グレースの胸倉を掴んでいる。


「分かっているのか!? また、戦争が始まってしまう! その前に力を手に入れるんだ! 私達のような戦争孤児を増やさない為に!」


「分かってるよ……。あたし等は全員兄妹姉妹だ……」


「くうう! こんな所で足踏みさせられるなんて! 急がないと戦争が始まってしまう!何のために……。これでは、何のために汚れた事をしてきたのか……」


あらら~……。


こっちも悪者ぶったいい子ちゃんかよ……。


『性根が腐った、お前とは違うようじゃな』


そうですね~……折る!


俺は貴様を折る!


「アネゴ……。分かってる。あたしらは分かってるから……」


「すまん。少し、取りみだした。それよりも伯爵だ! グレース!」


「へい! 伯爵様!」


【自分達も戦争孤児で、汚い仕事で貯めたお金で伯爵になった】


そして、戦争が起こらないように力を求めるか……。


安易に殴れなくなったな……。


仕方ない……。


これで、宝が魔王じゃ洒落にならん。


本気で進むか……。


『うむ!』【はい!】


飛び出す刃に、落とし穴、部屋全体を覆う炎……。


人間の反射神経を凌駕したトラップが続いていた。


もちろん、俺には十分避けられる速度だけどね。


警戒して降りたせいで、二時間ほどかかったが一番奥にある大きな扉にたどり着いた。


『やはり、魔力で封印されておるな』


中の魔力が感知出来ない……。


【この先には、化け物が封印されているのでしょうか?】


分からん……。


でも、この扉はかなりの魔力で封印されてるな……。


どうだ?


『全魔力を消費すれば、破る事も出来るとは思うが……』


やっぱりこの結界って、魔力を反射するようになってるよな?


『そうじゃ。破れても、跳ね返った魔力で動けなくなるじゃろうな』


【ここは、メリッサさんの鍵を使うべきでしょうか?】


その方が無難だろうな……。


仕方ない、一度帰ろう。


一つ確認したい事もあるし……。


地下三十階から、一時間ほどで地上へ戻った。


****


地上では大公と伯爵がまた喧嘩してた……。


悪い人じゃないんだろうけど、我が強すぎるんだよ……。


【信念をまっすぐに貫く大公】


『自信が汚れても、目的に向かう伯爵』


仲良くしなさいよ~。


喧嘩よくないよ?


あれ? メリッサの気配がないな?


あれ~?


『何かが……』


ああ……。


何かがうごめいてる。


もしかしたら、俺も利用されてしまうかも知れん。


裏をかくには……。


【やはり、情報でしょうか?】


****


俺は、そのまま町に戻り誰も近づく事が出来ないよにされている監獄へと向かう。


巨大な塀に囲まれた大きな塔……。


何でも、町の人々を見て、自身の罪を見直せって事で作られたそうだ。


一つしかない入口には、常に五人は兵士がいる。


あ! そおおい!


塀を飛び越え、塔の壁を駆け上がった。


メリッサの両親がいるのは、最上階らしい。


ふはははは!


俺には、こんな監獄など無意味!


最上階の、鉄格子が入った窓を覗き込む。


おんや?


メリッサの両親らしき人が、こちらに座って頭を下げている。


なんで?


「お待ちしておりました。運命の人……」


え?


運命って……。


俺の嫁は何処?


『違う……』


「貴方が来る事は、夢が教えてくれていました」


なるほど……。


メリッサと同じ能力か……。


「メリッサの両親だよな?」


「はい。私は父親のカーター。こちらが妻のアイリスです」


「分かってたって事は、話しが早く済むんだよな?」


「はい……。この町からお逃げ下さい」


「はぁ?」


「貴方は、多くの命を救う可能性を秘めた存在。ここで戦えば、死んでしまいます」


「はぁ?」


「貴方がいて下されば、この町は救われます。ですが、貴方が死ぬのです」


「はぁ?」


何こいつ等?


親子そろって死ぬ死ぬと……。


つか……えっ!?


俺死ぬの?


マジでか?


予言者二人に死ぬって言われたよ……。


ええ~。


まだ俺童貞なんですけど?


はぁ~……。


やってらんね~……。

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