七話
何してんのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!
アホォォォォォォ!
キャァァァァァァァァァ!
『急げぇぇぇぇぇぇぇ!』
【早く! 早く! 早く!】
断崖絶壁から飛び降りた俺は、自由落下に任せるのでは無く、絶壁を全力で斜めに走っている。
理由は簡単!
女性がその崖から海に向かって、飛び降りたから……。
馬鹿か!?
海に身投げすれば楽に死ねると?
よく見なさいよぉぉぉぉぉ!
崖の下岩礁だらけだから!
あのぉ、あれだ……。
グシャ! ってなって、ビチャ! ってなるから!
まぁぁにぃぃあぁぁえぇぇぇぇぇぇぇぇ!!
キャッチ! アンド……リリース!
【何してんですかぁぁぁぁぁ!!】
岩礁ギリギリで受けとめた女性を、俺は再度空中に投げる。
違う違う!
こんな衝撃、普通の人間はダメージを受けるんだって。
衝撃は、全部俺が吸収したから!
証拠に俺が降り立った岩は、砕けているだろ?
ついでの俺の足の骨も……。
回復ぅぅぅぅぅぅぅぅ!!
投げ捨てて、キャッチできないと殺人になるぅぅぅぅぅぅぅ!
『よし! 行け!』
今度こそ! キャァァァァァァァチッ!!
ふ~……。
間に合った。
キャッチした女性は、俺の腕の中でプルプルと小刻みに震えていた。
そんなに怖いなら、やらなきゃいいのに……。
しばらく放心していたが、状況を理解した女性が口を開く。
「何で!? 何で助けたの? 私は……」
「自殺は駄目ですよ~」
「でも……。私が生きてると、みんなに迷惑がかかる……。お願いよ、死なせて」
「そんな事ないですって~」
「貴方も見たでしょう!? あいつは……あの化け物は私が生きている限り、村を襲うの……」
「でも、ハンナさんが死んだ事を知れば、村はどの道全滅ですよ~? 多分」
「それでも……。山神は復活できなくなるんでしょ? 犠牲を少なくできる……」
「ですから~。ハンナさんが死んでも、解決にはなりませんよ~。村は被害を受けますって~」
「もう嫌なの! 生きていたくないの! 私は忌み子なのよ! 私に、優しくしてくれた人が死ぬのをもう見たくないの……」
「泣かないで下さいよ~。今、英雄でもある王子が解決策捜してますから~」
「私は……私は……。生きているだけで周りの人を不幸にしてしまう……。もう、耐えられないの」
村人にあれだけ虐められて、嫌な思いしただろうに……。
それでも、自分を犠牲にしようってかい?
とんだお人よしだ……。
【貴方がそれを言いますか?】
黙れ! 若造!
苦労した人間ってのは、人に優しくなる……。
それでも、報われない世の中か……。
ふ~……。
やってらんね~……。
仕方ない。
「ハンナさん? 生きてるだけで周りを不幸にする人間なんて、そんなに大勢いると思いますか?」
「……うう……ぐすっ……。いないでしょ?」
「なら、やっぱり貴方はそんな人間じゃありませんよ~」
「何で? 何でそんな事言えるの?」
「目の前にいるからだよ。生きてるだけで、人を不幸にしちまう野郎がな」
「レイ……。貴方は……」
「大丈夫。あの英雄王子も頑張ってる。何とかしてみせるよ」
ハンナを担いだ俺は、崖を駆け上がる。
「おお! 行商人! 間に合ったか!」
「ギリギリでしたけどね~。王子様の方はどうですか~?」
「山神の情報は手に入れた! 村人の避難も、もうすぐ完了だ!」
本当にいい手際だ……。
死ねばいいのに……。
【ええ~……】
『仕方ない、こいつはモテル男を敵としか考えておらん!』
【確かに、国を脅かした怪物を退治して英雄になった王子ですが……】
『違う! そこではない!』
【えっ? 何処ですか?】
『お供の二人が美人だからじゃ!』
その通り!
モテる、地位もある、おまけに英雄!
その上、美人の仲間二人からアプローチされてるなんて……。
死んでしまえ! このクソ王子!
【心狭……】
五月蝿いよ~!
「そっちはどうだ?」
「ああ、奴を封印していた場所で情報は手に入れましたよ~。情報交換でチャラって事でどうですか~?」
俺は、ハンナを地面に下ろし、王子と情報を交換する。
「この村の人間は生まれつき魔力が強い。その中でも、双子の片割れは特に強く生まれつくようだ」
「なるほど~。その人の魂を生きたまま吸収すると……」
「ああ、それで完全復活するらしい」
「村を襲うのも……」
「そうだ! 山神は双子が生まれるのを感知して、襲い始める。だから、双子が生まれるたびにこの村は襲われていたようだ」
ほら見ろ……。
俺の推測通りだ。
魔力が強い魂を吸収したいんだ。
村人も基本的に強いから、ハンナを殺せないと多分襲われて、活動エネルギーにされるはずだ。
『今までは失敗して、活動エネルギーだけを吸収していたんじゃろうな……』
間抜けな神だ……。
【今回こそは、ハンナさんの魂で復活したいんでしょうね】
やらせんよ。
「打開策はどうですか~?」
「やはり、完全消滅出来なくても撃退するしかないと思っている……」
毎回それで、結局双子が生まれるたびに襲われるじゃん。
もう少し考えろよ。
「それで? そっちは?」
「山神の完全消滅は、完全復活して倒せばいいだけらしいですよ~」
「やはりそうか……」
「で? 完全復活させるとどうなるんだ?」
「今のように三百年に一度ではなく、自由に暴れちゃいますね~」
「しかし、ハンナを犠牲にするわけには……」
はぁ~……。
よくできた王子様だこって……。
【この場合はいいじゃないですか。誰かを犠牲にしようとしてませんよ?】
やだやだ。
きっと、ろくに苦労なんてしてないんだぜ?
生活に困る事もなく、英才教育を受け、その天才的な才能で魔人を倒して、英雄になって、モテる……。
マジで死ねよ! 馬鹿!
『天才アレルギーはまだ治らんか?』
治りません! アレルギーですから!
「あ! 後、完全復活させると、今の十倍は強くなると思いますよ~」
「十倍!? 今でも十分な化け物だと言うのに……」
「ローガン様ぁぁぁぁぁぁ!」
「ローラ! サマンサ! こっちだ!」
王子の仲間である二人の美人が、こっちに走ってくる。
いいよな~。
赤い髪にスレンダーなローラ、それに青い髪にグラマーなサマンサ……。
【そこは、優秀なアーチャーと神術師を羨ましがるべきでは?】
あ~あ。
このクソ王子は、あの二人といろいろやってるんだろうな~……。
いいな~。
「村人の避難! 終了しました!」
「しかし、こちらにあの魔神が……」
「くそ! 迎え撃つしかないのか!?」
「私が! 私が死ねば!」
まだ言うか……。
「王子様~。取引をしませんか~?」
「なっ! 行商人! この状況で!」
「待て! ローラ! どんな取引だ?」
「ハンナさんを犠牲にせずに復活させたうえで、殺す事が出来ますよ~」
「本当か!?」
「その代わり、ハンナさんを王宮でとりたててくれませんか~?」
「それは、俺も考えていた。魔力が強いんだ、いくらでも仕事はある!」
「それから~」
「まだ何かあるの?」
「今持ってる、パンとパスタを全部下さい」
「それは、構わんが……。それだけか?」
「後はそうですねぇ~……。ハンナさんを泣かせたら、国を滅ぼしちゃいますよ~っと」
「お前は、いったい何を……」
「どうですか~?」
「分かった! それが出来るなら条件を飲もう! ハンナを泣かせるような事はしない!」
「取引成立ですね~。毎度~」
ハンナさんは、顔を赤くして王子を見ている……。
死ねよ! クソ王子!
俺はカバンから、魔力を凝縮した水晶を取りだした。
『疑似的な魂になっておる! 復活させられるはずじゃ!』
頼りにしてるぜ、クソジジィ!
「ぎゃおおおおお!」
下半身が無く、這ってこちらに向かってく山神が見えた。
皮膚のない、丸出しの筋肉……キモイ。
顔は犬なのに、可愛くないよ……。
「あ! そい!」
水晶を山神に投げつけると、その水晶を噛み砕いた奴の魔力が急激に膨れ上がった。
『Sランクじゃな。邪神と言っていいじゃろう』
まあ、あんまり強くないから問題ないけどね~。
俺は、カバンを降ろしローブを脱いだ。
「どうするんだ!?」
山神は下半身が生え、二本足で立つ狼へと変わった。
やっぱり可愛くない。
「くくくっ! これで自由だ! 俺は自由だぁぁぁぁぁぁ!!」
「あれは、俺達ではどうしようもないぞ! 早くマジックアイテムか何かを……」
「マジックアイテム? そんなの使いませんよ?」
「じゃあ、どうするんだ!?」
黙って見てろ。
「そこの人間よ! よくぞ私を復活させてくれた!」
「そんなに嬉しいですか~?」
「最高の気分だ!」
「じゃあ、お代を頂けますか~?」
「いいだろう! なんでも叶えてやろう!」
「それじゃあ……お前の命をもらおうか」
俺は剣を呼び出し、残像を残して、その場から消える。
「なっ!?」
まだ、体がなまっている間に片づける!
驚きで、固まっている山神の上空から、右肩に背負った二本の剣を斜めに振り下ろす。
<メテオリボルバー>
その剣が相手を切り裂くと同時に、俺は体を斜め方向へと回転させた。
それにより、二本の剣が山神のコアを交互に三回ずつ斬り裂いていく。
着地した瞬間、足に練っておいた魔力で山神を蹴りつけた。
コアをなくした山神を、蹴りで爆発前に海上へと弾き飛ばす事に成功した。
それと同時に、俺の体内で、筋肉と腱が断裂する音が響く。
くっ!
海の上で、盛大な爆発が起こる。
痛~……。
股関節脱臼?
【右足が、太股から完全に無くなってます……】
『千切れてしもうたのぉ』
爆発の勢いを食らった俺は、崖とは反対側の茂みへ吹き飛ばされていた。
痛~い……。
痛いよ~。
『無茶をするからじゃ! 馬鹿者!』
だって~……。
骨折れるくらいは覚悟したけど、まさか足がもげるなんて~。
痛~い……。
【もうすぐ復元します】
うん?
ハンナ?
俺の千切れた右足……。
抱きついて泣いてる?
気持ち悪くないのかな?
「私なんかの為に! ああ……レイ……」
「まさか、自爆するなんて……」
えっ!?
違う違う!
ちゃんと殺して、蹴り飛ばしただけ!
足を犠牲に、抱きかかえて自爆したんじゃない!
馬鹿か!? あのクソビッチ!
『普通の人間には、速すぎてそう見えたのかのぉ?』
なんだよ、もぉぉぉ。
「奴こそ真の英雄だ……」
五月蝿い! このクソ王子!
海を見つめながら、何格好をつけてるんだ! 馬鹿か!
「私は……私は貴方に気持ちを伝えていない……。うう……ああああ!」
うおう……。
ハンナ号泣し始めたよ……。
【村中から冷たくされていたところを、貴方に優しくされたんですから……】
『その相手が目の前でいきなり自爆すれば、トラウマになるじゃろうな~』
はいはい。
また、俺が悪いってんだろ?
早く復元しろよぉぉぉぉぉ!
まだ膝までしかないから、歩けないって!
【賢者様からの魔力が……】
ああ! 本当だ!
ハンナに気を取られてた!
ジジィ! てめぇぇ!
『ちっ……』
またか! またわざとか!
【はい! 完了です】
でも、出にくい雰囲気だな~。
みんな崖から海を眺めて泣いてる感じだね~……。
う~ん……。
「ハンナ……。彼の犠牲を胸に強く生きるんだ」
死んでませんけどね……。
「王子……。彼の荷物を、私に預からせてもらえませんか?」
「構わないが……」
「私、旅に出ます。彼の遺品を彼の家族へ……」
いませんし、遺品じゃありません。
「そうか。そうだな! よければ、俺達も付いて行きたいんだが?」
ええ?
ハンナまで狙ってるの? このスケベ王子が!
おおう?
サマンサと目があった……。
こっそり荷物持って逃げようと思ったのに……。
「あっ!」
「ああああ!」
「へへへ……」
「レイ! 生きてたの!? よかった……」
うわお!
また、泣く~。勘弁して下さいよ~。
よし! ここは……必殺!
営業スマァァァァァァァァイルゥ!
あれ?
なんか、みんな固まってる?
あれ~?
急いでカバンから鏡を出した俺は、自分の歯が血で真っ赤になっている事を知る。
カッコ悪!
『締まらん奴じゃ……』
【残念な人ですね……】
五月蝿い! 五月蝿い!
あ~あ、ダサいな~。
退散するか~……。
【いいんですか? ハンナさんの事、結構気にいってたようですが?】
ハンナも王子に惚れてそうだし、いいよ。
それに、俺は近づけば……。
『難儀な奴じゃ』
「では、また何処かでお会いした時には、御贔屓に~」
「えっ? 待って! 待ってよぉぉぉぉ!」
カバンを背負った俺は、夜の闇に消える。
****
さて、次は……。
師匠から貰った地図をだし、神との交信をした時の記憶を手繰る。
砂漠の真ん中の……。
『オアシスのようじゃな』
次でやっと半分か……。
先は長いな~。
『仕方あるまい。人類滅亡を全て防ぐには、しらみつぶししかないんじゃ』
う~ん……。
でも、伝説の化け物を勝手に暴れさせるって、どういうつもりなんだろうね~?
【分かりませんね。戦争にあの世からの亡者の復活……】
悪魔に天使もよく分からないんだよな~。
取り敢えず、化け物で人間の数を減らしたいだけなのかな?
『しかし、メシアを作ったり……。統一性に欠けるのは確かじゃな』
もしかして、神って何人かいるのかな?
『わしもそれは考えておる……』
でも、まだ分からないよね~……。
う~ん……。
今戦ってる、人から神って呼ばれてるだけの怪物じゃなくて、本当の神様っぽい奴か~。
【味方についてくれる神もいるんでしょうか?】
分かんね。
まあ、取り敢えず次の町は二日で着く。
急ごう。
【はい】『うむ』
さて、次の森に入ったら野営だ!
久し振りの肉にパンにパスタだぁぁぁぁぁぁぁぁ!
【ああ、久し振り……】
『早く! 早く! 走れ! 風よりも、音よりも速く!』
ウザ……。
****
食事を済ませた俺は、いつものように木の枝をベッドにして眠りにつく
なんで?
なんで俺はこんなに馬鹿なんだ?
どうして器用に生きられない?
もう少しだけでいいんだ……。
もう少しだけ要領よく……。
なんで俺はこの暗闇から抜け出せない?
なんであいつ等は光の中にいるんだ?
英雄、勇者……。
何故あいつ等は自身で光を放つ?
なんであんなにまぶしいんだ?
何故あんなに報われるんだ?
天才なんて嫌いだ……。
いくら努力しても、簡単にそれを超えられる。
その上で、あの人種は努力までしやがる……。
俺がどうやっても届かない場所にいる……。
【なるほど……】
何であんなに恵まれてるんだ?
俺は……。
俺は……。
【これが以前言っていた状態ですね?】
真っ暗な空間で、人の姿へと戻った聖剣が、魔剣の賢者へ話しかける。
『そうじゃ。極度のストレスにより、深層意識が夢という形であふれ出すんじゃ』
二人は、膝を抱えて座り顔を伏せる俺の頭上から見下ろしている。
【やはり、ここ数日の連戦は負荷がかなりかかったんですね】
『所詮こ奴も二十一歳の何処にでもいる人間じゃ……』
【そうですね。それどころか、誰よりも人間らしい人間……】
『この馬鹿は……。もっと素直に人に甘えれば……。せめて、わし等にだけでも……』
【賢者様……】
賢者の目からは、涙が流れていた。
『この馬鹿は……。この馬鹿は死の恐怖を抱えて、発狂するほどの恐怖と闘っておる。毎日の一分一秒が苦痛でしかないはずじゃ! それなのに、泣くどころか笑っておる!』
かつて聖人と呼ばれた聖剣は、何も言えない。
『毎日毎日、人間の嫌な面をみて、貶され、笑われても……。それでも人に手を差し伸べる! 毎日! 毎日じゃ!』
ジジィは、抑えていた涙が止まらなくなったようだ。
『誰よりも人の温もりを欲しているはずのこ奴は、誰も寄せつけようとせん! ただ、黙して戦い続けるだけじゃ……』
【大事な人を、自身と言う死から遠ざける為に……】
『わしは涙が止まらんのじゃ! 何が女じゃ! 何が金じゃ! 何が……名誉じゃ……。どれも、お前は手に入れられるじゃろうが!』
【彼が本当に望みさえすれば……。望んでさえくれれば……】
『そうじゃ! 人間など多かれ少なから人を犠牲に生きているものじゃ! なのに……』
【彼は、死の恐怖を、孤独を、虐げられる苦痛を誰よりも知っている。だからこそ……】
『こ奴を、英雄と……勇者と呼ばずに誰をそう呼べばいい? こ奴以上に相応しい奴などおらん!』
【真の恐怖を知っても、絶望の中でも、死を目の前にしてさえ立ち上がる。そこに泣いている人がいる限り】
『進んで道化を演じおる。人に笑顔を与える為に。こ奴は決して人を裏切らん。それは、人から優しくされたいからじゃ。不器用なこ奴は、人に優しくする事でしか自分の居場所を見つけ出せん。なのに……』
【人に甘えれば、その人が不幸になる……ですか】
『求めているのは、只の本当に小さな幸せ……。それさえも神は与えて下さらん。こ奴がもし望んでくれるなら、わしはどんな事でもする!』
【私達だけが、彼を理解出来ますからね……】
『本心から弱音を吐いてくれれば……。わしの命などくれてやるものを……』
なら、どうすればいい?
天才に負けない……。
誰にも負けない力が欲しい……。
守るための力を!
誰も泣かせない力を!
修練だ! 力を高めるんだ!
誰も犠牲にしない為に!
【自身が類稀なる才能を持った天才であると、理解出来ないのでしょうか?】
『それは自信を持った者が考える事じゃ。自信とは、強いと認めた者を超え、人からの称賛があって初めて持てるもの……』
戦うんだ。
理不尽な力と!
この体が、心が、魂が擦り切れて燃え尽きるまで!
泣くな! 振り返るな! 立ち止まるな!
運命と戦うんだ!
俺と言う存在が消えてなくなるまで!
歯を食いしばるんだ!
恐怖なんて噛殺してやる!
【この異常とも言える闘争本能はいったい】
『自分の無力さへの怒りだと思っておる……』
誰が怒ってるんだ?
『ぬお!』
何だよ?
朝から不快な声を出すな、クソジジィ。
【いきなり戻るんですね】
何が?
『毎度驚かされるわい』
だから、何が?
『秘密じゃ!』
感じ悪いな……。
【それよりも体はどうですか?】
俺は、タバコに似た薬に火をつけ吸引する。
まあまあ、ってところかな?
『無理をするでないぞ?』
分かってるよ。
それよりも、靴が……。
『底が擦り切れておるな。替えはないのか?』
ないんだよ……。
ハンナに優しくしたら、あの村の奴ら俺に靴売ってくれなかった。
嫌がらせしてから出てくればよかった……。
【その発想はどうなんでしょうか?】
殺さないだけマシです~!
ハンナに石投げた奴、本気で殺そうかと思ったんだからね!
『駄目じゃ。駄目人間』
やってないでしょうが~!
誰が駄目人間だ! このクソジジィ!
眠っていた木の枝から飛び降り、朝食を済ませた俺は砂漠へ向かい走り出した。
****
あとぅい!
あとぅい!
あとぅい!
日光で熱せられた砂を舐めていた……。
あとぅい! てか……。
あつつつつ!
痛い! 痛い!
あじゃじゃじゃじゃじゃ!
足が! 足の裏がこんがりなる!
きつね色になるぅぅぅぅぅぅぅぅ!
てか! ジジィ! フィールド!
『必要か?』
必要じゃ! 馬鹿ぁぁぁぁぁぁ!
『面倒じゃな……』
馬鹿かお前ぇぇぇぇぇぇ!
既に火傷通り越して、血が出てるじゃないか!
『ふ~……』
****
半日砂漠を走り、目的の町へ着いたころには……。
【足の皮が厚くなってますね】
すげくね?
何? この超回復?
【そう言えば、骨の密度や強度も尋常じゃないですよね】
折れまくってるからね……。
もげた右足も、何気に高性能に……。
「毎度~!」
店で新しい靴を五足ほど購入した俺は、早速情報収集に入る。
しかし、毎回敵が分からないって……。
『仕方あるまい。神からの情報はかなりの量を捨てねば、逆流が無理だったんじゃ』
あの神からの啓示って、普通の人間で耐えられるのか?
【一方的に、必要な情報だけ受け取るなら問題ありません。ただ、人格が変わる事があるようですが……】
それのどこが、問題ないんだよ?
完全に神に操られてるじゃね~か!
【あの情報は、かなり衝撃的です。操られていると言うよりは……】
『まあ、神に従おうと考えてもおかしくは無いのじゃろう。それが、今までの常識や道徳とかけ離れていても』
【そうです。今までの常識や考えが変わらない者が、イレギュラーと呼ばれて……】
処理されたって事か……。
【弟も、元は動物が好きな優しい子でした……】
いや、だから操られるのと何が違うんだよ……。
【こう……。言い表しにくいのですが、神の意志に自分から従うと言うか……】
分かんね。
まあ、いいや……。
あの酒場で、聞き込みしよう。
****
あれ~?
さっきから聞き込みしてるけど、封印された魔物の情報なんて何もないな……。
どう言う事!?
「何だよ? その封印された魔物ってのは? ここは夢と希望の町! アラベスだぞ!?」
「いや~。ちょっと小耳にはさんだだけですよ~。それより、夢と希望って何ですか~?」
酒場で隣に座った男に、俺が払った金で酒を進める。
「おお! 気がきくじゃね~か! お前、みたところ旅の商人だろう?何で知らないんだよ? 去年発掘された遺跡の宝の事って、かなり有名だぞ?」
「遺跡のお宝ですかい?」
「そうだよ! 何でも、世界を手にできるほどのお宝が眠ってるそうだ!」
「去年発掘されて、まだ見つかってないんですかい?」
「遺跡の中は、罠でいっぱいらしいからな~。今、一番宝に近いのはレミー伯爵と、ロザリー大公だ」
「伯爵に大公? この国のですかい?」
「違う違う! 近隣の国から、宝を狙って貴族達が押し寄せてるんだよ!」
「なるほど……」
「その中でも、人数も金も豊富なその二組が一番遺跡を奥まで進めているって噂だ」
「ほほぅ。他には何かありますかい?」
「え~……。そんなもんか? 貴族達のお陰で、この町がかなり潤ってるくらいしか……」
「了解で~す。毎度~」
う~ん。
遺跡か。
【怪しいですね】
ああ、遺跡について探った方が早いか?
『そうじゃな……。遺跡の宝と一緒に、化け物が封印されておる可能性が高いじゃろう……』
まあ、間違っててもしょうがないとしてあたってみるか。
****
一通り酒場で情報をもらった俺は、大通りに出る。
取り敢えず、遺跡にでも行ってみるしかないかな?
「ひゃっはぁぁぁぁぁぁ!」
大通りから発砲音が聞こえ、そちらへと目を向ける。
うおう!?
「おらおら! さっきの威勢はどうしたんだ!」
「ふぃぃ!」
大通りでは……。
強烈な女性が、男三人を魔道砲? らしき物で脅していました……。
何あれ? 超怖いんですけど?
【あれは、魔道砲ではなく火薬銃に魔法を付加しているようですよ】
違う!
そっちじゃない! あのホットパンツはいた、凶暴そうなお姉さんのほう!
目つきが狂犬にしか見えないんですけど!
『男三人をボコボコにしておるな……』
超こえ~……。
「グレース! それぐらいで止めておけ」
グレースと呼ばれた凶暴なお姉さんを止めたのは、金髪パーマヘアーの……あれも凶暴だな。
【胸が……大きいですね……】
あれ、自分のおなか見えないんじゃね?
『暑いのは分かるが、露出度の高い服を……』
あれもう、水着じゃね?
その上で、真っ赤なマントって変じゃね?
「アネゴ! でもよ~」
「でもじゃない! それと、伯爵と呼べと何度言わせる?」
「へ~い……。よかったな! このクズ共! 次に伯爵の悪口を言えば、覚悟を決めろよ」
「ひぃぃぃ!」
うわ~、ションベン漏らしてる。
おっかね~。
「あら? レミー伯爵ではないですか。これはまた賑やかな事で」
おお! 今度は真っ白いフリルだらけ服を着たお嬢さんが!
あの赤い伯爵より、あっちの方が好みかなぁ。俺は。
優しそうだし。
『二人が一緒だと縁起がよさそうじゃな』
【でも、なにか雰囲気がピリピリと……】
「うん? ロザリー大公……。私に話しかけてくるとは、ずいぶんと暇なんだな」
「ちっ……。私は、貴方と違って余裕がありますからね」
「ふん! 言ってくれるな! この世間知らずのガキが!」
「なんですか!? 金で伯爵になった年増が!」
なんか、火花出そうなくらい睨みあってるよ……。
グレース……だけじゃないな、二人が引きつれてる兵達が軽く臨戦態勢。
怖いんですけど~?
「ふん! 私は忙しい! お前の相手などしてられるか!」
「こっちのセリフです!」
よかった~。
お互いの兵を連れて引き上げてくれた。
見てるこっちがハラハラしたよ。
『あれが、さっき話しに聞いた伯爵と大公じゃろうな』
多分ね……。
大公の部下にも金髪美人いたけど……。
あれは……。
美人だけど……。
【気が強い女性不得意ですよね?】
うん。
ある事情で、トラウマが……。
『リリーナお嬢ちゃんか……。懐かしいのぉ』
思い出したくないけどね……。
【強いて言えば、誰が好みです?】
う~ん、強いて言えば……。
全員嫌い! だって怖いからね!
何ですか~?
今回の化け物退治で出会える女性は、あんなビッチだらけですか~?
怖いんですけど~?
あ~あ……。
やってらんね~……。




