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Mr.NO-GOOD´  作者: 慎之介
第七章:終末の旅人編
81/106

二話

『うん! 美味い!』


おお、確かに美味いな。


【中々ですね~。歯触りは柔らかいのに、適度にこしがある】


なるほど、昼間この店がやってる持ち帰りのパン屋に、行列ができるってのは頷けるな。


【そうですね。間に挟んだソーセージも、いい味です】


それにこのソースも、嫌いじゃない。


やっぱ、多少辛いくらいがいいよな。


【ええ。甘みがある方も、さっぱりと仕上がっていますしね】


これなら、またそのうち来てもいいな。


『お前等、馬鹿か! 明日から毎日ここじゃ! 決まりじゃ!』


うぜっ……。


嫌だよ。


一週間に二~三回が限度だろうが!


『なっ! 美味いじゃろうが!』


断る!


毎日おんなじ店なんて、嫌だ!


『これだけの店は、そうは無いぞ?』


【確かにそうですが、さすがに毎日はちょっと……】


『なっ!? お前等そろって、老人の楽しみを奪う気か!』


だから……。


毎日じゃなければ、来るって言ってるだろうが! クソジジィが!


俺は肉が食いたいんだ! 動物性タンパク質が!


【私も、パスタを……】


『ぬうう……。後で第十三回会議じゃ!』


嫌じゃ、ボケ!


【一日三食ありますし、毎日三人の好みをローテーションで変えれば……】


なんで、お前の好みまで取り入れないといけないんだ? この若造が!


『そうじゃ! お前の好みなど、一週間の三食分だけでええじゃろうが!』


【そんな……】


わがまま言うなら、二食にするぞ!


『クソガキよ! お前に一つだけ忠告しておく!』


なんだ? クソジジィ?


『お前の好みは副食であり、主食ではない! せめて、話し合いの場に主食を出さんか!』


嫌じゃ! ボケ!


食いたいもの食って何が悪いんだ!


馬鹿だろ、お前!


てか!


なんで、こんな事で毎回揉めないといけないんだよ!


引けよ! お前等!


【これでも、かなり我慢してますよ】


『断る!』


はぁ~……。


最悪だ。


やってらんね~……。


「あの……」


「はい? なんですか?」


「その食べっぷりは、気に入っていただけたんですよね?」


「ああ、はい。美味しいですね」


ん?


「どうしたんですか? メリンダさん? 食べないんですか?」


「あっ! いえ……」


何が恥ずかしいんだ?


訳が分からん。


「あの……。変に思わないでくださいね? そうやって、よく食べる男性を見てるのが好きなんです」


変に?


俺、変な目で見られてたの?


【違います】


『早く次のパンを』


おお~う?


「最近、俺は毎日これくらいは食べますよ。気持ち悪いとかですか?」


「違います! 違います! 見てて気持ちいいんで、好きなんです」


「はぁ……」


「あの、私には兄がいまして……。毎日、兄がよく食べてたんですよ。それで、そういう男性に好感がわくんです」


「お兄さんって言うと、あの有名な中佐殿ですよね?」


「えっ!? 御存じなんですか?」


「中佐殿は、この街にいれば一度は耳にしますし、さっき聞いた名前でもしかしてと思っただけですけど」


「はい。頼もしい兄です」


う~ん。


あの厳ついおっさんと、同じ遺伝子で出来てるとは思えんな。


あ……。


でも、いかり肩だしどっちかと言えば筋肉質ではあるのかな?


でも、こういうスポーティな女性も嫌いじゃない。


【健康美人と言ったところでしょうか?】


そこが逆にエロいよね!


【はぁ~】


「英雄の妹さんだったんですね。今日は、晩御飯を作ってあげなくていいんですか?」


「兄は軍の宿舎で暮らしていて、今は一緒に住んでいません。後……」


「後?」


「兄は、英雄なんかじゃないんです。あの顔と喋り方で、よく誤解されるんですが……」


どうでもいいんだけどね。


『パンを……』


「兄は私と兄妹ですから、民間出身なんです。昔から腕っぷしは強かったんですが、あそこまで注目されて、本人も困惑してるくらいで」


う~ん。


昼間は嫌な奴って、印象だったけどな……。


「そうなんですか?」


「はい。あの真っ赤な鎧も軍に無理やり着せられてますし、回りくどく喋るのが苦手なので、何でも思った事をすぐ口に出して誤解されやすいですし……」


【昼間のあれは、故意的な嫌がらせでは無かったって事でしょうかね?】


あれか?


脳みそまで筋肉的なって事か?


【そうかもしれませんね】


『ああ、パン……』


「直球思考の方なんですかね?」


「そう! そうなんです! 両親にも思った事を口に出す前に、一度考えろとよく怒られてたんですよ」


軍が祭り上げた、偶像的な英雄って事かな?


【そう考えるのが、妥当でしょうね】


メリンダさんは、嘘ついてそうにないしね~。


ちょっと、意外。


『パン……』


五月蝿いわ!


ジジィはあれか?


イースト菌かなんかの依存症なのか?


それとも、ただ単純に馬鹿なの?


『一週間ぶりの好物じゃぞ! それも極上の!』


会話の間ぐらい我慢しろよ!


あだ名をイースト菌にすんぞ! コラ!


【会話が終われば、食べられますよ】


『黙れ! 若造!』


そうだ! この若造が!


【そんな……】


後、イースト菌もちょっと黙ってろ!


「あっ! でも、あの性格のお陰で、いい出会いもあったんですよ」


裏表がないからか?


「ここだけの話なんですけど、この国のお姫様と友達になれたんですよ」


はぁ!?


「兄さん色々無頓着で、まだ私が十歳くらいの頃ですけどお忍びで町に来ていたお姫様を、家に連れて来ちゃったんですよ。あっ! 本当にここだけの話にして下さいね」


どうやって!?


「私とも友達になってくれてんですけど、その時城内の上辺だけの人付き合いに疲れた姫が兄さんの性格に惹かれたらしくて」


それなんて休日?


「兄さんったら、姫と分かっても面と向かって今の王国が嫌いって言ったらしいんですよ~」


それ、馬鹿だからじゃね?


てか、それでよく友達になれたよね。


しかし、メリンダさんは、兄さんが本当に好きなんだな。


【いい顔されてますね】


「メリンダさんはお兄さんの事、本当に好きなんですね」


「はい! 不器用でおっちょこちょいですけど、自慢の兄です」


う~ん……。


まっ……巻き込まれたぁぁぁぁぁぁぁ!!


これやっぱり罠だったぁぁぁぁぁぁ!


【分かりやすい罠でしたね】


そうですね!


『じゃから! 話をせずに、パンを食べるべきだったんじゃ!』


五月蝿いわ!


「じゃあ、今お兄さんは心配されているんでしょうね」


「はい……。不器用な兄さんは、仕事をむきになってこなしてます」


迷惑な話だ。


「嫌な事を忘れようと、没頭しているようで……。あれ? でも、何でレイさんは姫の事ご存じなんですか?」


実は、それが目的なんだけどね。


「街中を色々歩いてると、話が耳に入ってくるんですよ。姫様が謎の昏睡状態で、一か月も目を覚まさないってね……」


「そうですか……。アミルタ姫は、私の友達でもあるんです」


あ~あ……。


完全に、なんかのフラグ踏んじまったよ。


「身分が違うので、兄さんは口にしませんけど……。あの二人、相思相愛だと思うんです」


メリンダさん、本当に二人の事が心配なんだな。


いい人じゃん。


美人だし。


【最後は余計ですが、本当にいい方ですね】


『まだなのか?』


空気読めよ!


「あ……。すみません! なんだか、レイさん話しやすくて……つい」


「かまいませんよ。話を聞くくらいしかできませんが」


「ありがとうございます、レイさん」


「あっ、それは結構ですよ」


「えっ?」


「メリンダさんの方が年上ですし、レイで結構です。さんはいりません」


「じゃあ、レイ。ごめんなさい。食事の邪魔しちゃって。どうぞ、食べて!」


『キタァァァァァァ!!』


ちょ、五月蝿い。


「では、お言葉に甘えます」


「ふふふ……」


メリンダさんは、俺の食事をニコニコと眺めながら自分も食事を始めた。


うん! 美人は笑顔が一番ですね~。


『そこのチーズが乗っているパンを!』


【この笑顔を守らないといけませんかね?】


面倒だけどね~。


『次はその緑色の……』


ちょ! マジうざい!


食うから黙ってろ! このイースト中毒!


****


「ふ~……。お待たせしました」


「レイは凄いのね~……。兄さんより食べる人、初めて見たわ」


「はぁ、すみません」


「あっ! 嫌じゃないの! ただ、ちょっとびっくりしただけ」


最近、エンゲル係数が高いんだよな~……。


「でも、ギルドの仲間はレイがいなくて、心配してないのかな?」


「ああ、それは無いです」


だって、嘘だもん。


「でも、レアアイテムを買う為とは言え、一か月以上もギルドを留守にするなんて……」


「ソレガ仕事ナンデ、問題アリマセン」


「そ……そう? まあ、私はいてくれれば嬉しいけど……」


ええっ!?


こいつも守銭奴!?


そんなに宿泊費が!?


『またか……』


「でも、一か月も出物がないなんて、何を捜してるの?」


「あるモンスター退治に必要なものですよ、メリンダさん」


「そうなの……」


ん?


「あの? なんですか?」


「あの、私もメリンダって呼んでくれない?」


「はぁ。じゃあ、メリンダ」


「何?」


ええ~……。


「いえ、呼んだだけです」


「そう……。あ……あの、レイの事を教えてくれない?」


「俺の事ですか?」


「そう! ギルドで何してたとか、色々!」


う~ん……。


「ギルドでは、主にモンスター退治ですかね~。今回は買い出しですけど……」


「他には?」


何が聞きたいんだよ。


「そうですね~。レーム大陸ってところが出身で、外の世界が見たくて出てきたんですよ。それで……」


メリンダさ……メリンダはよく笑う人だ。


さっぱりした感じで、姉御肌の癒し系? なのかな?


これはもう。


【やるしかないですね】


そうだな。


『ほれ見ろ、わしの言った通りじゃろうが』


五月蝿いな。


俺のかなり省いた自己紹介の後、メリンダの事を聞く事になった。


母親はメリンダが十五歳のときに亡くなって、親父さんも去年死んだらしい。


親父さんがあの宿で働いていたので、メリンダがそれを引き継ぐように働きまじめたらしい。


まあ、冒険者がよく訪れるこの国は、宿もそれなりに儲かるでしょうねぇ。


てか、なんで俺の周りには、両親がいない人が多いんだろ。


『ただ単に、お前がそういう相手を見つけておるんじゃ』


そうなのかな?


【センサーの感度は、かなり強いんじゃないですか?】


なんか嫌なセンサーだな。


「ねえ? 腹ごなしに、公園を少し歩かない?」


「いいですね」


****


う~ん。


カップルばっかりだ。


何ここ? そういうスポットなの?


「あ……ああ……あの、何か変な雰囲気だね。ごめんね」


「いえ、仕方ないですよね」


カップル共、みんな死ね。


「あの……レイ?」


「はい?」


「実はその……。私ね……」


「なんですか?」


トイレか?


うん? なんだ!?


「きゃ! 何!?」


草むらから飛んできたナイフを避け、メリンダを庇うように移動した。


殺気? 敵か?


何だ?


「お前達は……何をしているんだ!」


おおう?


「兄さん! いきなり何するのよ!」


「メリンダ! お前こそこんな時間に! 何をしているんだ!」


バット中佐?


なんでキレてんの?


まぁ、敵じゃないか……。


いや! 俺が違法商売してるってばれたのか?


「お前は騙されてるんだ! 男はみんな……」


「何の話をしてるのよ! 私から誘ったのよ! ちょっと散歩してただけじゃないの!」


「じゃあ、何故顔が赤いんだ! 昼間も、後輩の質問からそいつを庇ったそうじゃないか!」


「五月蝿い! レイはそんなんじゃないわよ!」


そんなんですけどね。


「お前は……」


ほう、兄妹喧嘩ですか。


よかった、俺の事はばれてないな……。


【本当に、妹さんが心配だっただけのようですね】


そうみたいだな。


『しかし、かなり勘違いしておるな』


そうだよ! ナイフも腕だけど当たる軌道だった!


シスコンかこいつ?


何もしてないぞ!


あ……馬鹿だ。


『女に男が口論で勝てるわけがない』


【それも、あの方はあまり喋るのがうまくないようですしね】


妹に説教されてるよ、筋肉馬鹿が。


****


「あの……すまん」


弱!


こいつ弱!


「いえ、誤解が解けたならいいですよ」


「ただ! 一つだけ!」


「なんですか?」


「妹に嘘をつけば覚悟しろ!」


えっ? もう手遅れですが?


「兄さんってば! レイは私に嘘なんか付かないわよ!」


何を根拠に?


「それに、私だって嘘つく人は大嫌いよ!」


あらら~。


今回のオチはこれですか……。


『そのようじゃな』


【まぁ、嘘をつかないお兄さんが好きなんですから、仕方がないですね】


へっ! もう期待なんかしませんよ~だ。


「しかし、お前……。当たらなくて今はよかったが、よく俺のナイフが避けられたな?」


じゃあ! 投げるな!


馬鹿か!?


「たまたまです。もう、勘弁して下さいね」


「ああ。すまん」


ああ、本当に素直なゴリラだ。


「それで、妹に話しを聞いたんだが、詫びとしてレアアイテムなら捜すのを手伝うが? 俺はこう見えてもコネがある」


「それは、俺の仕事なんで結構です。ただ、一つだけ教えてくれませんか?」


「何だ?」


「バット中佐は、姫様のこと本気で好きなんですか?」


「なっ! 何を言っている! いや! あの……」


おうおう、狼狽してますね~。


おもしれ~。


【なんだか、あれですね】


『うむ! こいつは人の嫌がる事が、好物じゃ!』


人を、性格破綻者みたいに言うの止めてくれます?


「アミルタ……姫は……姫なんだ」


言葉がおかしい。


「俺なんかじゃ……。あ! しかし、俺が将軍まで……いや……駄目だろうな」


分かりやすい馬鹿ゴリラだな。


『はぁ~。また例の癖か?』


ほっといてくれ。


「すみませんでした。余計な話しでしたね」


ゴリは、結局メリンダに文句を言われながら、宿まで付いてきた。


何もしないっての。


****


夜中、俺は何時も通り宿を抜け出す。


修練もあるが、もう一つ別の目的がある。


『やはり、地脈がくるっておるな』


いるのは間違いないんだけどな~。


【しかし、巧妙ですね】


そうだな。


多分、完全に気配を出すまでは、追うのは無理っぽいな。


『そうじゃな……』


また、時間との勝負かよ……。


ああ、もう面倒だ。


【わざわざ、あの方に聞かなくても……】


馬鹿か!?


確認なしに勝手にやるとまずいだろうが。


姫さん側も確認だよ!


【はぁ~……】


『こいつはこういう奴なんじゃ。慣れるしかない』


今日も、修練だけして寝るか。


『うむ』


****


翌日も、毎度ながらメリンダと挨拶をして変装をすると、城壁を飛び越えて路地裏に立つ。


お?


昨日の客か……。


あれ? やばくない?


「おお! 居たか! 今日も買わせてもらうぞ!」


よくもヌケヌケと……。


「へい、毎度~」


ガシャといい音で、手錠が俺の腕にはまる。


「すまん……。俺も掴まってしまってな。勘弁してくれ」


俺の手に手錠をかけたその男は、半笑い……。


はい、死刑!


「バカめ! 今日こそは逃がさんぞ!」


気配で分かってましたよ~っと。


物陰から、三十人ほどの兵士が飛び出してきた。


「さあ! 観念しろ!」


嫌じゃ! ボケ!


あっ! フン!


「なっ! ぶへっ!」


手錠を引きちぎり、俺を騙そうとした男の顔を殴りつけた。


けけけ……。


【眼窩底骨折ですね……】


「そんな馬鹿な!? マジックアイテムか? 掴まえろ!」


あ~あ……。


今日は売上まだないのに……。


マジでうざいな、こいつ等。


お前らなんかに掴まるわけないっての!


それでも、午前中追い回され続けて、商売が出来たのは結局午後からのみ。


何時もの半分しか売れなかった……。


マジうぜぇ……。


****


かなり遅めの昼をとり、宿に帰る。


あれ?


「あの……」


「ああ、これはレイさん。おかえりなさいませ」


支配人のじいさんが、入口を掃除していた。


「メリンダは?」


「彼女は昼からお休みです。何か用事があるそうで……」


自分の部屋へ戻ると、扉にメモが差し込まれていた。


あら~……。


無視……しちゃ駄目だよね?


『折角のお誘いじゃ』


メリンダからのメモには、家で今日の夜ご飯を作るので待っていますと、書いてあった。


何がしたいんだか……。


****


仕方なく部屋で時間を潰し、書いてあった時間の一時間ほど前に宿を出た。


辺りは既に真っ暗だ。


ええ~?


このタイミングですか~?


【凄いですね……】


『うむ! 不幸といえばこいつ! こいつと言えば不幸じゃ!』


折るとかじゃなく、普通に海とかに捨てるぞ?


『時間が無いぞ?』


へいへい。


俺は、城壁を飛び越えローブを纏う。


さあ、行こうか! 待ちに待ったショータイムだ!


『うむ!』

【はい!】


「ねっ? お願いよ兄さん。三人で食事をしたいのよ。ね? 話せば、レイがいい人だってわかるから」


「しかし……。仕事がまだあるんだ。しかし、お前達を二人きりにはしたくないし……」


「なっ! 変な事はしないわよ!」


あちゃ……。


「当り前だ! お前はもう少し慎みを……なっ! お前は!」


なんでメリンダまで駐屯所に居るんだよ。


『もう、諦めしかないじゃろう?』


ですよね~。


おっと、早くしないと……。


俺は怪しい商人の姿でゴリに軽く手を振ると、城に向かって走り出す。


もちろん、ギリギリ付いて来られる速度で。


「待て! 貴様! 止まれ!」


ナイス単細胞!


追ってきた。


って、あれ?


メリンダまでついて来てるよ。もう!


****


城に付くと、予想通り城の門番から始まり、全ての人間が気を失っていた。


城門や扉を次々に蹴破り、目的の部屋へと進む。


「なっ!? 何者!?」


あら?


姫さんの寝室には、この国の王が居た。


まあ、手間が省けるな……。


「待て! この犯罪者が!」


「おお! 中佐! この者を捕えよ!」


「はっ!」


う~ん。


メリンダ……。


ここまでついてきちゃったよ……。


『まぁ、いつもの事じゃ』


ゴリーが俺に槍を構えると同時に、ベランダへの扉がバンッと勢いよく開かれた。


そこには空中にたたずむ。


オールバック?


見た目、只のおっさんだな。


【纏っている魔力は、舐めていいレベルではないですがね】


「王よ……。約束の日だ。姫を頂こうか?」


「この化け物が! 娘は絶対に渡さん!」


「あの……殿下? これは……」


「くくく……。本当に人間とはいつの時代も馬鹿なものだ。大昔の人間も、お前たちのような者が多数いたぞ? もちろん、残らずこいつ等の餌になったがな」


オールバックの後ろに、三メートルほどの大きな蝙蝠が……。


三十匹か……。


【さすがに伝説の化け物ですね。手下までAランクあるんじゃないですか?】


「ぐう……」


「殿下! これはいったい!? 私は何をすれば……」


「うん? 眠っていない者がいたか……。くくくっ……。説明してやればどうだ? もしかすれば、命を掛けてくれるやも知れんぞ?」


「バット……」


この王に、ここでゴリに逃げろと言うほどの器は無いか……。


****


ゴーリーとメリンダは、目の前のオールバックが三千年の眠りから覚めた化け物だと、王から聞かされた。


今、城の人間が気絶しているのも、姫の昏睡もこいつが原因だ。


化け物の要求は姫を自分の嫁によこすか、城の人間を全て殺されるか選べと言う話だった。


それ、絶対城の人間皆殺し後、姫さんお持ち帰りじゃね?


選択肢になってなくね?


しかし、三千年の眠りから覚めてまず女って……。


『お前のような奴じゃな』


なんかそれ、ムカつくんだけど?


さて、話しを聞いたゴリさんは?


「殿下! 姫を連れてお逃げ下さい! 時間はこの命に代えても稼ぎ出します!」


ああ、そうなっちゃいます?


「兄さん!」


「くくくっ……。無駄な事を」


えっ?


「アミルタ!」


姫さんが起き上がった!?


ちょっと、予想外。


「バット! 止めて! あなたが居なくなったら……」


「私の魔法を跳ね返したか。これは、見上げた精神力だな。気に入ったぞ、姫よ」


【相思相愛。確定ですかね】


ああ……。


「化け物! 私を連れて行きなさい! お願いだからこの人を……」


「おお! 姫が来るなら見逃してやろう! さあ、共に行こう」


それ絶対、後でゴリや城の人間殺す気じゃね?


「アミルタ! 駄目だ! ここは俺が時間を稼ぐ! 逃げるんだ!」


「バット……。でも……でも! 私は!」


「兄さん!」


「メリンダ! アミルタを……頼む!」


おお、ゴリかっけぇぇ。


「何をしている! 姫よ! さあ、早く来い!」


姫の心まで欲しいとは、中々強欲ですな。


そろそろいいかな?



「はぁぁぁぁい! ストォォォォォップ!」


俺の大きな声で、皆が俺に注目する。


「なんだ? 人間? 邪魔をするなら……」


エロ一直線の化け物は、多少イラついてるか?


「王様にいい取引の提案です」


「な! こんな時に何を言っている!?」


「絶望的な状況なんです。話しくらい聞いて下さいよ~」


「なんだ!?」


「えっ? この声……」


「貴方がた四人と……城の人間全員が助かり、この化け物が二度と悪さしないようにできます。ただ、二つほど願いを叶えてくれませんか?」


「なっ!? そんな事……」


「ああ、もちろん叶えられない願いじゃありませんし、成功報酬で結構です」


真っ青だった王の顔に、多少の血の気が戻ってくる。


「何か策があるのか!?」


「おい! 人間! 舐めるなよ!」


オールバックが、怒りでオーラを立ち昇らせる。


それを見た王が、びびってやがる。


ここで問いかけるのが、ベストだな。


「さあ! どうします? 王様?」


「ええい!なんでも叶えてやる!」


「へい、毎度~」


交渉は、相手の弱みにつけ込むに限るね~。


『お前に勇者は!』

【絶対無理です!】


あ~もう、五月蝿い。


「人間よ……。この私を怒らせたのだ! 覚悟はいいな? 貴様から先に、始末してやる!」


「おい! 犯罪者! マジックアイテムか何かを使うのか? 早くしないと……」


はい! 筋肉馬鹿はずれ~……。


正解は……。


<ホークスラッシュ>


「なっ!? 貴様……」


「レイ?」


剣を振るった風圧でローブのフードが下がり、俺の顔が確認できたメリンダ。


そして、一瞬で手下を塵に変えられたオールバック


二人とも固まってるな。


俺は、カバンとローブを地面に置く。


「貴様! 何者だ!」


「只の行商人だよ」


「ふざけるな!」


ふざけてませんけど?


「この! たかが人間風情が! よかろう! 私の真の姿を見て、恐怖して死んでい……はっ?」


「断る!」


姿を変えようと魔力を高めたオールバックは、一瞬で自身の頭上に跳んだ俺を見て、再び固まる。


<トライデントプラス>


二本の剣を真っ直ぐ構えた俺は、空中で身体を高速回転させる。


それにより発生した六本の縦に走る連撃で、オールバックはあっけなく塵へと変わった。



誰がいちいち付き合うか!


全力出される前に殺す!


うん! 気持ちいい!


『お前に、勇者は百パーセント無理じゃ……』


もう、ここまできたら構いません!


諦めました!


楽な方がいい!



空中を一度蹴り、ベランダから室内へ戻ると、素早くローブを纏う。


さすがに、みんなポカーンとしてるな。


「商品の納入は完了しました。代金を頂きましょうか? 王様~」


「あ……ああ。申せ」


「一つ目は、ゴ……バット中佐と姫が付き合う事を認めて下さい。結婚するくらいになったら、バット中佐を将軍かなんかにすればつりあいますよね? この国で一番強いんだし」


「しかし……」


「ん? お代を頂けないのであれば……。とりあえず、三時間は拷問して殺しますけど?」


うふふふふ……。


「わっ! 分かった!」


「もう一つは、俺一応指名手配されてるんで、それの解除をお願いします。永遠に。勿論、こちらも断るなら三時間のご……」


「分かった! 手配書なども絶対出さん!」


最後まで言わせろよ……。


さて、ミッション終了っと!


「レイ! これは……」


メリンダ……。


「許してくれなんて言わないよ。元々、騙す気満々だったんだしね」


「そんな……」


うん! 百パー嫌われたっ!


【もう少し、言い方が……】


『何時もの事じゃ』


いいもん! 泣かないもん!


****


「では、また御贔屓に……」


「あっ!」


大きなカバンを背負った俺は、ベランダから飛び出し、夜の闇に紛れる。


やっと二件目……。


時間ないのにな~……。


うん?


あああああ!


【どうしました!?】


最悪だ……。


昨日、宿のお金一カ月分前払いしたばっかりだった……。


『こいつの話しは、まともに聞くだけ損をするぞ? 若造』


【覚えておきます】


あ~あ。


もったいない。


最悪だよ。


やってらんね~……。

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