一話
ここは、魔法科学の発展したフィード王国。
その進んだ技術により生み出されるマジックアイテムは、冒険者達に重宝されている。
この王国自体に軍は存在するが、ギルドは存在しない。
しかし、今日もマジックアイテムを買い求める為に、商店街は多くの冒険者達で賑わっていた。
特にこの街でしか買い求められないアイテムは、高値で取引されている。
荒くれ者が多く出入りするこの王国では秩序と法を遵守し、それを破った者には厳しい罰が待っている。
軍の武力による強制的な法の執行こそ、この国では何よりも重要と考えられ、国の財政を支える産業、商業をも管理していた。
その為、大店から露天商に至るまで、国の許可を取らなければ商売が出来ない。
その許可を取らずに商売をしているのが見つかれば、最低でも五年間の強制重労働が強いられる。
じゃあ、許可を取ればいい?
実は、その許可を取ると同時にある事が強制されてしまう為、今日も路地裏では闇の市が立つ。
ある事ってのは、もちろんインフレデフレ抑制の為の値段統制と、三割と言う重税だ。
どんな商売でも、最低五分~一割程度の利益が無いと破たんする。
この王国では、全ての商店が約二割の利益が上がる様に計算されているが……。
運転資金、店舗の拡張などを考えると本当にギリギリの利益である。
国民の多くが毎日自転車操業で、しのぎを削っている。
ここまで、説明すればなぜ闇市が出るか分かってくれると思う。
****
「えっ!? こんな値段でいいのか!?」
「もちろんですよ、旦那。おひとつ如何です?」
「おっ! おお! あるだけくれ!」
「へい、毎度~」
路地裏で、表の商店で買う八割の値段で売られていたマジックアイテムを、その冒険者は三十個買いこむ。
「噂は聞いていたが、想像以上に安いな~」
「そうですか?」
「ああ! 他の闇市でもよくて八割五分が相場だからな……。お前のところは安ければ七割か……」
「御贔屓に~」
「しかし、これで儲かるのか? 原価割れしてるんじゃ……」
「ギリギリでやってますよ~」
「はぁぁ! 商売人の鏡だな!」
「非合法ですけどね~」
「今日は手持ちがないが、また見かけたら買わせてもらうよ!」
「またお願いしま~す」
身長よりも長い槍を背負ったその冒険者は、路地裏を後にした。
「ああ! いたぞ!」
「こっちだ!」
その冒険者と入れ違いで、路地裏に巡回中の兵隊がなだれ込んできた。
かなりの人数だが、それは無理もない。
兵士達からすれば、この一カ月毎日追いかけまわしているが、捕縛できていない相手なのだ。
逃げ足が速いその相手に、鎧を着た兵士達では追いつけない。
その事が原因で部隊長は、毎日上司に怒られているとか……。
大変だよね~。中間管理職って。
【何を他人事のように……】
えっ!?
だって、そんな関係ない奴が怒られたって、俺に関係ないもん。
『この駄目人間が……』
五月蝿いな!
ここにはギルドがないんだから、仕方ないだろうが!
俺も飯食わないと死ぬんだよ!
あっ……。
もちろん、今マジックアイテムの入った大きなカバンを背負って、兵士達から逃げてるのは俺です。
ふはははは!
追いつけるもんなら、追いついてみやがれ! クソ兵士どもが!
『しかし、お前に商売の才能まであるとは……。意外じゃな』
舐めんなよ!
俺は農業に商業……下働き的な事全般、得意なんだよ! クソジジィ!
『何故こんな奴が正統後継者に……』
分かりません!
てか、俺普通に村人やってた方が幸せじゃね?
なんで、こんな殺伐とした人生送ってるの~!?
『お前は! 自分で決めた道じゃろうが!』
五月蝿い! 黙れ! このクソジジィ!
『このクソガキは!』
【止めて下さいよ。毎日毎日……】
『黙れ! 若造が!』
そうだ! この役立たずの若造が!
【また、私に矛先が向くんですか……】
『嫌なら口出しをするな! 若造!』
そうだ!
悔しかったら、俺にチートをよこせ! この若造が!
【仕方ないじゃないですか……。神に逆らったんですから……】
もぉ~……。
楽になると思ったのに~!
なんで、聖剣の能力に制限がついてるんだよ~!
はぁ~……。
やってらんね~……。
****
俺は城壁を飛び越え、森の中へマジックアイテムと、纏っていた黒いローブを隠す。
そして、普通の冒険者のふりをして城下町内へと戻る。
城壁には門が、東西南北にそれぞれ一つ。
毎日入る門を変えている。
顔を覚えられると面倒だしね~……。
「あら? お帰りなさい! レイさん! 今日はお早いですね?」
「ええ、いい物が見つかりませんでした」
俺が宿に帰ると、従業員の女性が玄関をほうきで掃除していた。
さすがに一カ月も泊ると、色々話をするくらいにはなる。
「そうですか。じゃあ、まだご宿泊ですね?」
「ええ。もう一月分前払いしておきますよ」
「いえ! お金じゃないんです……」
うつむいて、顔を赤くしている……。
まぁ、面と向かって金の事を聞くのは恥ずかしいよね~。
【……何時もですか?】
『何時もじゃ……』
【なるほど、賢者様が言っていたとおりですね】
何が?
『何でもない』
まあいいや。
腹減った。
今日は客が途切れなかったから、昼抜きだったしな。
『約束通り、昼飯を食べながら、能力の整理をするぞ』
【はい】
めんどくせ~……。
『この前失敗したじゃろうが!』
へいへい。
さて、今日は何を食いに行くかな?
『昨日の店でどうじゃ?』
う~ん……。
【先日言っていた、肉屋の隣に行くのはどうですか?】
おお! パスタか!
それいいね! 決定!
『わしは、パンが……』
断る!
「あら? また、お出かけですか?」
「ええ、昼を取ってないので今から」
「あっ! 私もご一緒していいですか?」
う~ん。
「すみません。また今度に」
脳内会議するから、他の人と会話できないんだよねぇ。
「そ……そうですか」
【あ~あ……。落ち込んでますよ? 彼女】
何故そんな事言うの!?
戦闘の打ち合わせは、俺の生存率に関わる問題だよ!?
【そうですが……】
あぁぁ! もう!
頭の中三人になってから、物事が決めにくい!
…………。
あれ?
ジジィ? いつもの、面倒な反論は?
『パンを……』
うざっ!
晩飯パンにするから我慢しろよ!
てか、何で味覚だけ共有してるの? 俺ら?
痛覚繋がってないじゃん!
【まぁ、そう言うものですとしか……】
****
俺は、宿から商店街へと足を向ける。
あっ! さっきの兵士ども!
まだ捜してるのかよ。
御苦労なこって……。
「何をしているんだ! まだ見つからんのか!」
「申し訳ありません……」
おお……。
部隊長が怒られてるよ……。
てか、あの怒ってる方性格悪いんじゃないか?
『そうじゃな。説教をこんな人目の付くところで』
あれは、やられる方キツイぞ~。
かわいそうだな。
まあ! 掴まる気は無いけどね!
【あれが、一騎当千とうわさの中佐じゃないですか?】
真っ赤な鎧……。
多分そうだな。
一人でBランク数匹を倒した化け物だろ?
へ~……。
物凄い厳ついおっさんだな。
【確か、まだ若いはずですよ? 老け顔なんでしょう。それに、この場合は威厳と言うんですよ。実際に権力もあるでしょうし……】
まぁ、どうでもいいよ。
それより、ご飯! ご飯!
『パン……』
まだ言うか!
晩飯もパスタにするぞ! このジジィ!
****
俺は、目的の店で五人前のパスタを注文する。
何故か、最近腹の燃費が悪い……。
まぁ、いいや。
それで、整理すると……。
【はい、時間の局所的遅延、身体能力の強化、他人を含めた肉体の復元、他人の記憶や精神への干渉、魔力による斬撃です】
う~ん……。
『う~ん……』
【あの……】
使えね~!
能力が、ジジィとかぶりまくってるじゃないか!
【なっ!? 遅延時間内でも攻撃可能ですし、肉体の復元ですよ? 回復じゃなく、無くなっても元に戻せるんです! 何が……】
大いに不満じゃ! バカ造が!
『そうじゃ! 若造!』
確かに聖剣の能力すげぇぇよ!
一つ一つは凄いよ!
回復に復元が加わって死に難いよ!
でも、時間遅延と精神操作の魔力消費量が、激しすぎるんだよ!
『一回で、最低五分の一消費は、さすがに厳しすぎるぞ!』
【そうは言われても……】
そうだ!
てか、信徒共は、なんで魔剣もなしに能力使いまくってたんだ?
言ってみろ! 若造が!
【ですから……。彼らは、神から聖剣へ直接魔力を供給されていたんです。それが私にはありません】
ふっざけんな!
俺にもチートよこせ!
楽勝でラスボス殺す力よこせ!
馬鹿か!
『まぁ、今の能力だけでも十分人間離れしとる』
ええ~……。
ジジィまでそっちにつくなよ~。
だって、戦闘力のベースって基本的に生身の俺の力じゃん?
鍛えなくても、AやSランクになってた信徒共と、全然違うじゃん!
全然楽出来てないじゃん!
『ここぞと言う時には、Sランクになるじゃろうが!』
ここぞだけじゃんか!
『ここで、わしらに文句を言ってもどうにもならんじゃろうが!』
あ~あ……。
すんげぇぇパワーアップした気になってたのに……。
制限付きの切り札が、ちょっと増えただけか……。
魔力消費の少ない、障壁と斬撃くらいしか通常は使えないな……。
【復元も自身の身体ならば、消費が少なくて済みますよ?】
それ、ジジィの回復の方が消費少ないって、何べんも言ってるだろうが……。
折るぞ! 若造!
【あの……私は貴方より年上なんですが……】
お前なんて若造で十分なんだよ!
黙っとけ!
お前のせいで、完全にタンクトップ着れなくなったんだぞ!
【それは……。まぁ】
俺の左腕の二の腕には、若造が同化した証として、教団の紋章が刻まれた。
最悪。
右腕には魔王の紋章に、左腕には白の教団の紋章。
タトゥーが二か所って!
公衆浴場に、もういけないじゃんか!
『温泉は……入りたいのぉ』
また、包帯巻いて入るか?
でも、変な目で見られるんだよね~……。
『そうじゃな』
あ~あ……。
本当にろくなことが無い……。
****
商店街で他の店の値段チェックをした後、俺は宿に帰った。
「ですから! この方は怪しくありません!」
「しかし、メリンダさん……」
「何ですか? 私に人を見る目が無いとでも?」
「いえ……。そう言う事では……」
受付で、従業員のメリンダさんと兵士が揉めてる?
「ならどう言う事ですか! 私と兄とは関係ありません! はっきり言って下さい!」
「しかし、中佐に……」
おや?
この話の流れって……。
『確かめるのが、早いじゃろうな……』
それから、五分ほどでメリンダさんに言い負かされた兵士達が、宿から引き上げる。
「あら? レイさん! お帰りなさい!」
兵士が引き上げると同時に、俺は気配を元に戻し宿に入る。
「今のは?」
「あ……。気分を悪くしないでくださいね? あなたの宿泊期間と、違法商人の商売を始めた時期が一緒だと言いがかりをつけられまして……」
はい! それ正解!
「あっ! でも、ちゃんと私が説明しましたから! 大丈夫ですよ!」
「ありがとうございます」
それよりも……。
「あの、メリンダさん?」
「なんですか?」
「嫌じゃなければ、下の名前って聞いてもいいですか?」
「なっ!? 突然!」
ええっ!?
そんな顔真っ赤にして……。
怒ったのかな?
回避しないと……。
「あっ……。嫌ならいいです」
「嫌じゃないです! あの……メリンダ:リンクスです」
あ~あ。
【中佐は確か……】
バット:リンクス……。
【的中ですね】
ヤバいよ。
結構可愛いし、胸が大きいのに……。
これ完全に罠だよ。
メリンダさんに関わったら、また余計な事にも巻き込まれるよ。
絶対そうだよ。
危なかった~……。
『まぁ、今回はお前に賛成じゃな』
「あの……、レイさん? レイさんってば!」
おおう!?
「はい?」
「よければ、今日晩御飯を一緒しませんか?」
「えっ?」
「レイさん、毎日お一人じゃないですか。寂しくは……」
「ないですよ。俺にとって一人は普通ですから」
「でも……」
お前に関わると、面倒なんだって!
てか、なんで中佐の妹がこんなところで働いてるんだよ?
あ~……でも、情報。
【そうですね。既に一カ月たちました】
仕方ないか……。
「パンの美味しい店、知ってますか?」
「はい! お勧めの店があります!」
「じゃあ。七時にここで待ち合わせって事で、いいですか?」
「はい!」
また、変に事に巻き込まれなきゃいいけど……。
『無理じゃな!』
なっ!?
決めつけとかよくない!
つっても、まぁ……。
きっとそうなんだろうな~。
あ~あ。
やってらんね~……。




