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Mr.NO-GOOD´  作者: 慎之介
第一章:聖王国の学園編
8/106

七話

「ふっ……ふっ……ふっ……」


文化祭で犯罪者以下の烙印を押された今日も、俺は剣の修練をする。


もう生活の一部になってるからねぇ。


俺が隠れて使っている裏山の修練場に、気配が近づいてくる。


この人物の気配を、俺はよく知っていた。


手を止めて木剣を置いた俺は、タオルで汗を拭きとる。


「今日も頑張っているな」


「アドルフ様、今お帰りですか?」


文化祭の片づけに時間をとられ、もうすでに日にちが変わっていた。


将軍で責任ある身なんだろうが、アドルフ様もご苦労成されているのだろう。


「うむ。大事な会議があってな」


「そうですか……。わざわざ、こちらにお越しという事は、例の事件の?」


「うむ。学園内に潜入していた兵が、五人殺された」


「えっ!?」


「それも皆実力者ばかりで、背中から鋭い爪か何かで切り裂かれていた」


「何時ですか?」」


「三日前からお前が帰宅後、放課後の見回り時にやられた。騒ぎを大きくしないように、内々で片付けたが……」


アドルフ様のいわんとする事は、大よそ分かる。


下手に騒ぎを大きくするのも良くないが、放置できない状況になってきてるな。


「そうですね。ここまで来ると、学園の一時閉鎖も検討するべきでしょうか?」


「もうすでに、陛下の判断で姫様は休学されている」


「そうですか……」


「そこで、またお前に頼みたいのだが……」


「はい。なんなりと」


「補充人員を一人送る。女性ではあるが剣術、法術ともにかなり優れた者だ。お前はその者と一緒に、放課後の見回りをしてくれまいか?」


「いいですが、その人は魔剣の事を?」


「さすがにそれは伏せてほしい。出来れば、普通の剣を持っていってくれ。魔剣には及ばないだろうが、相応の物をもう用意してある」


「分かりました」


****


こうして依頼を受けた俺は、放課後の見回りをすることになった。


もちろん今回も不運に……と言いたいが、今回は不運四割で俺の失敗が六割ってところかな。


日頃自分では冷静なつもりだが、頭に血が上ると……特に戦いになるそれ以外考えられないらしい。


悲しい事に俺は、猪突猛進型……なんだろうなぁ。


俺ってもしかして、自分で思ってるほど頭の回転よくないんじゃないか?


悩みながら、俺はセシルさんの事を思い出していた。


天は二物を与えないなんて、大嘘だ。


セシルさんは二つどころか三つも四つも、持ってるじゃないか。


俺にもなんか一個くれよ! くそっ!


やってらんね~……。


****


翌日いつも通り学園に登校し、机に突っ伏して寝たふりをしていた。


登校から机に座るまで何時も通り、非難や悪口に晒されたのは言うまでもない。


すでに日課になっている。


てか、もうちょっと慣れてきた。


始業の合図と扉が開かれる音で顔を上げた俺は、首を傾けた。


あれ?


担任じゃない?


綺麗な女性が入ってきた。


どこかで見た事があるような…………。


……。


…………。


駄目だ、思い出せない。


「担任のドレル先生が急病のため入院なされましたので、本日より臨時担任になります。パメラ:リーズです。短い間ですが宜しくお願いします」


確かうちの担任は潜入した兵士だったから、もしかしたらやられたか?


じゃあ、あのパメラって人も軍人だろうか?


まぁ、むさいおっさんより色気たっぷりの、この美人のほうが目の保養にはなるな。


教師なら見つめても、さすがに文句は言われないだろうし……。


最近俺は女子へ視線を向けただけで、不評をかうほどになっており、仕方なく下を向いて歩いている。


そして、男子生徒達からは、嫌な意味でちょっかいをかけられる続ける。


具体的には、足を引っ掛けようとして来たり、偶然を装って肘鉄をくらわせようとしてくるんだ。


もう、俺の学園生活は灰色じゃあなくなっていた。


もう完全な真っ黒だ。


唯一喋れるのがセシルさんと、嫌みしか言わないリリーナお嬢様だけなんて悲しすぎる……。


「レイ君? レイ:シモンズ君!」


ん?


パメラ先生が俺を呼んでいた。


なんだ?


「はい?」


「昼休みに職員室に来て下さい」


「はぁ……」


「では、朝のHRを終了します」


なんだろう?


周りの皆は俺がまた何かよくない事をしたんだと、ヒソヒソ話をしている。


もう、好きに言ってろ。


でも、今回はなにも心当たりがない。


なんだろう?


次席で頭を掻いていた俺に、お嬢様が近付いてくる。


表情は明らかに不機嫌だ。まあ、最近はその顔以外見た事ないんだけどね。


「また何かやらかしたわね! このクズが!」


例のごとくお嬢様の言葉には、愛情とかそういう物を全く感じない。


「これ以上マキシム家の名に泥を塗らないでちょうだい! このクズ!」


そう言って、お嬢様は自分の席へ帰っていく。


そして、席に着いたお嬢様に周りの女子達が集まり、気持ち悪くなかった? 大丈夫? 大変だね、と声をかけている。


ああ……なるほど。


俺に対するきつい言葉をお嬢様が吐き出した事よりも、話しかける事自体が奴等にとっては大問題なんだなぁ。


弁当に下剤でも仕込むぞ! このクソ女どもが!


も~……。


お嬢様は守らないといけないけど、死んでくれないかなぁ。


****


昼休みになり、俺は職員室へと向かった。


「あ!」


「やあ、レイ君。また何かやらかしちゃった?」


俺が職員室の前に着くと、中からセシルさんが出てきた。


「セシルさんまで……」


「あはは。ごめんって、嘘だよ。で、どうしたの?」


「担任に呼ばれたんですよ」


「ああ。あの臨時の美人さんだね」


「そうです。セシルさんは?」


「部活動の申請に来ただけだよ。先週から何故か部活動を粛清されていてね。今日は二時間部活するんだけど、申請しないとやらせてもらえないんだ。なんかあったのかな?」


例の事件のせいか……。


俺は部活動してないから知らなかった。


「じゃあ、友達が学食で待ってるから。またね、レイ君」


「はい」


俺からの返事を期待などしていなかったらしいセシルさんは、いつものように爽やかに去って行った。


所作が優雅すぎる。


将来軍に入って、あの人の手助けが出来たらいいなぁ。


俺は、珍しくだが純粋にそう思っていた。


セシルさんには本当に人を引き付ける、強い魅力がある。


****


「何でしょうか?」


俺は、職員室に入り臨時の担任に話しかけた。


担任は、資料に目を通している。


それは、どう見ても俺の成績についての資料だ。


何? いきなり文句でも言う気?


「アドルフ様から聞いてると思うけど、今日からあなたと見回りを私がします」


おおぅ?


「アドルフ様から役に立つからと言われてるけど……。本当に大丈夫なの?」


「大丈夫かと言われても……」


「噂とは尾ひれがつくものだし、私はほかの職員のようにあなたを色眼鏡で見たりはしないけど、あなたの成績を見る限り……」


足手まといって言いたいのか?


「私は、自分の受け持つ生徒を危険にさらしたくないのよ」


おお? いい人だ。


前の担任なんて、俺の事ほとんど無視してたのに。


「何が出来るかは分かりませんが、最悪先生の盾くらいにはなります」


「そう言うの……私は嫌なのよ。もう誰も知り合いに死んでほしくないの」


そう言ったパメラ先生の顔は、とても悲しそうだった。


そして、俺はこの人の事を思い出した。


俺が九歳か十歳か十一歳くらいの頃だったか……。


うちの屋敷に来ている。


アドルフ様と話をしている所を、俺は偶然立ち聞きしてしまった。


その頃パメラ先生は確か二十歳くらいで、同じ軍の男性と結婚したばかりだったが、その旦那さんが魔族との抗争で命を落として新婚にもかかわらず未亡人になった。


その為、軍に復帰させてほしいとアドルフ様に直接頼みに来ていた。


確か、アドルフ様の指揮下で旦那さんが亡くなったそうで、アドルフ様が彼女に深く頭を下げていた。


子供にはあまりにも刺激が強い話だったので、覚えている。


その時の話だと、この人は剣術、法術とも優秀で、学園を首席卒業して親衛隊の部隊長を務めるほどの才女だったはずだ。


なるほど、俺を含めたアドルフ様の懐刀二人で、早急な解決ってわけか……。


「旦那さんの事、まだ気にされてるんですか?」


俺は不用意にも呟いてしまった。


パメラ先生は驚いたように俺の顔をのぞきこんだ。


「あ! すみません。昔、先生が軍に復帰する話を、屋敷で聞いてしまってまして…………その……」


俺はやっぱりあんまり頭がよくない。


咄嗟だと、上手く誤魔化せない。


因みに、分かった事がもう一つ。


先日、本屋で買った[うまい嘘の付き方]って本は、読んだだけじゃ全く役に立たないようだ。


「あら? もしかしてあの時の……死んだ魚みたいな目をした坊や?」


「はい……。多分それです」


俺は、どんなイメージをもたれたんだ?


確かに、瞳は灰色だけど……死んだ魚の目って……ほぼ廃人じゃないか……。


「あ! ごめんなさい。お昼ごはんの時間が無くなるから詳しい話は放課後にしましょう。今日からよろしくね」


「こちらこそ、宜しくお願いします」


パメラ先生と握手をした。


やわらかくてあったかい……。


女性の肌に触れるのは、どれほどぶりだろう……。


あ、いや、カーラ姫を引き上げるとき触ったか?


でもまあ、あの時は余裕なかったしなぁ。


「あの…………。離してくれる?」


「ああ! すみません」


「ふふふっ。じゃあ、放課後に」


年上の未亡人か……。


一回り年は離れているが、愛に年は関係ない!


なんかやる気出てきた!


今度こそこの人のフラグを!


ええ……分かってます。


認識してますよ。


俺の半分は優しさじゃなくて、下心で出来てます。


だってしょうがないじゃん!


思春期の男の子なんだから!


俺はこの日、パメラ先生にいいところを見せようと思い、張り切った。


それが良くなかったんだろうなぁ。


俺の人生って、空回りの連続だよ。


****


放課後、学園内を巡回する予定の俺は、再び職員室に向かう。


今まで兵士達が襲われたのは、学生がいなくなってからだ。


つまり、部活動がすべて終了するまでの時間はする事がなく、暇つぶしにお互いの自己紹介をもう少し行った。


至福の時間。


こんな優しい美人と普通に話せるなんて……夢みたいだ。


一応、真面目な打ち合わせも行い、巡回時には前衛を先生が務め、奇襲に備えて俺が後衛につく事になった。


なんか、相棒って感じでいいなぁ~。


****


七時を過ぎたところで、俺たち二人は巡回を始める。


「レイ君、一つ聞いてもいいかしら?」


「なんですか?」


「あなた、あの成績本気なの?」


「はぁ……」


「本当に?」


「なんでですか?」


「体力測定の数値がねぇ」


「数値がどうかしたんですか? 低すぎるとか?」


「いえ、ばらつきすぎなのよ」


「えっ?」


「普通、人間の成績は体調による変動もあるけど……貴方の誤差は激し過ぎるわ」


うお! 鋭い。


この人本当に頭いいんだな。


不器用な俺は調整してはいるんだが、同じタイムや数値なんて出せない。


成績を上げる事は簡単だが、下げ過ぎない様に調整するのは正直難しい。


でも、成績が悪い事に変わりないので、そうそう気が付く人間なんていないと思ってたのに……。


どうする? 喋るか?


いや………パメラ先生といい仲になるまでは黙っておいたほうがいいだろう。


なにせ、命がかかってる。


「どうなの?」


「いや~……。たまたまですよ」


「本当に?」


「はぁ……」


「そうかなぁ? どうしてもおかしいと……?」


その時、何か音が聞こえてきた。


なんだ? 歌声?


普通の歌声じゃない。なんだ? この違和感?


何か神経を直接撫でられるような。


気持ちいいようで、気持ち悪いような不思議な感覚だ。


俺と先生は、反射的に剣を抜いていた。


「あら? やっぱり、場慣れしてるんじゃないの?」


「そうでもないですが、いきなり大当たりじゃないですか? これは」


「そうね。気を抜かないで……」


「はい」


「キシャァァァァァァ!」


俺たちの前方に、いきなりモンスターが出現した。


なんだ? こいつは?


見た事がない。半魚人!?


モンスターじゃなくて亜人種……魔族か?


その半魚人の爪を、先生が剣で受け止める。


俺は打ち合わせ通り、後方の確認に専念する為に、先生と背中合わせで剣を構えた。


今まで背中からの攻撃で、皆やられている。


もう一体、敵がいる可能性が高い。


俺の背中に、瞬間的に圧力がかかった。


パメラ先生が俺の背中にぶつかってきたのだ。


敵の攻撃に押されているらしい。


「大丈夫ですか?」


「ええ……。なんとかね……。でも、最悪一人で逃げてくれる?」


「え?」


「相手は魔族の中でも高レベルの人狼……。正直、情けないけど貴方を守りきれる自信はないわ」


先生はそれだけを言うと、剣を振り上げて戦いに戻った。


人狼? あの半魚人みたいなやつが?


どういう事だ? おかしい。何がおこっているんだ?


さっきから感じるこの違和感はいったい。


先生と俺が見えている姿が違う? なんだ? どういう事だ? 考えろ!


ああ! もしかして!


俺は、目を瞑り魔力感知だけに全神経を集中させた。


敵がいるはずの方向から、魔力は感じられる。


いや、違う! この廊下全体から、魔力が出ているんだ。


一番魔力が強いのは……俺の真後ろ!


先生が危ない!


俺は、反射的に先生を背中から突き飛ばした。


間一髪、先生を救うことが出来た。


そこに敵が攻撃を仕掛けた証拠として、俺の肩が切り裂かれている。


傷は浅い! 戦闘続行に支障はない!


俺は、敵の推測が付いた。


こんなところで出くわすとは予想過ぎるが、セイレーンだろう。


海にすむBランクモンスターで船乗りたちをその歌で惑わし、船を沈め食らう魔物だ。


その歌で、俺たちは幻覚を見せられていたんだ。


今までの兵士達も、幻覚と戦っている間に背中を切り裂かれたんだろうな。


強い魔力が遠ざかっていく。


逃がすか!


****


俺は、その魔力を追って廊下を全力疾走した。


そして、廊下を曲がり、敵を突き当たりに追い込んだ。


姿は見えないが、そこにいるのは間違いない。


どう戦う?


全く見えない。


俺は自分に剣を教えてくれた師匠の言葉を思い出す。


どんな達人でもその攻撃の際には、気配が出てしまう。


気配や殺気なしに攻撃できる者は反射的に動いた者でなければ、悟りの境地にいる者だけだと師匠は言っていた。


モンスターが悟りなんて開けるとは思えない。


なら、魔力と殺気に集中すれば、捉えられるはずだ!


よし! 来た!


廊下に、金属音が響く。


俺が持っていた普通の剣は、いともあっさり折られた。


仕方ない。


俺は、マスクと服を装備し、魔剣を呼び出す。


マスクも服も特殊素材で出来ており、そこそこの防御能力がある。


殺気を感じた方向に、魔剣を構えた。


大きな衝撃音は響いたが、流石に魔剣がダメージを受けるはずもない。


俺の手が、多少痺れただけだ。


しかし、こちらから攻撃をどう仕掛ければいい?


躱されれば、そのまま反撃を受けて俺が終わる。


どうする?


場所が完全に特定できるのは、相手から攻撃を仕掛けて来たときだけだ。


どうする?


相手の攻撃を完全に受け流せない以上、反撃へ転じるのが難しい。


奴の攻撃は、剣さえ切り裂いた。


食らえば多分致命傷だろう。


攻撃の時しか……。


あっ! なら、相手の攻撃をはじきつつ斬ればいいんだ!


考えの纏まった俺は、相手の殺気に合わせて空中に飛び上がる。


そして空中で体を丸め、剣を突き出したまま高速で回転する。


連続した縦に走る剣撃が、三本。


<トライデント>


足での踏ん張る力は得られないが、落下の力と回転の力を使った技だ。


一撃がセイレーンの爪を叩き折り、残りの二撃がセイレーンを三枚おろしにした。


そこでやっと相手の姿が見えた。


海の魔物で、美女って聞いてたのに……すげぇ不細工なんだけど……。


まぁ、罪悪感なくていいか。


とりあえず、マスクと服をピアスに戻し魔剣をしまうと、パメラ先生の元へ戻る事にした。


まだ伏兵がいる可能性もあるしね。


その光景を物陰から見つめる視線に、俺は気が付けなかった。


あまりにもうまく気配を消していた為、その時の俺じゃあ、気づく事が出来なかったんだ。


この時、気が付けてさえいれば……。


****


俺が先生の元に戻ると、疲れ切った先生が膝をついていた。


あれからずっと、幻覚と戦っていたらしい。


「大丈夫ですか?」


乾いた大きな音が、廊下に響く。


俺が差し出した手を、先生は叩き落とした。


「あなたはどうやら本当に噂通りのクズね!」


おおぅ!?


「確かに逃げろとは言ったけど、自分の助かりたい一心で、私を敵の前に突き飛ばしてその隙に逃げるなんて……」


ええ? 違う、違う!


敵から守りたくて、突き飛ばしたんだって!


「火の無いところに煙は立たないと言うけど、噂のほとんどが事実のようね! 最低だわ! 貴方!」


「いや、あの……」


「あなたみたいなクズが、何でアドルフ様に可愛がられてるの? 何か卑怯なことしたんでしょう!」


「その……」


「あなたを一時でも可愛い生徒だなんて……考えた私が馬鹿だったわ!」


「だから……」


「敵は何とか私が追っ払いましたが、今後見回りは他の人間とします! 貴方なんかと続けたら、こっちの命が幾つあっても足りないわ!」


「えと……」


「とっとと、私の前から消えなさい! このクズ!」


ヒステックの塊になった先生は、俺の話を聞いてくれない。


全身から怒りのオーラを放ちながら、一人で職員室へ帰って行った。


言い訳を聞いてもらえるとどうしても思えなかった俺は、仕方なく帰宅する。


まあ、見回りの原因は俺が倒したので、任務自体は完了だしね。


悲しいと言うより、もう、なんだろう。情けない。


****


その日も、アドルフ様の部屋で事の顛末を報告した。


「そうか、ご苦労だったな」


「はあ……」


「事情は話してみるが……。悪いが期待はせんでくれ……」


「はぁ……」


「パメラはああなると、昔から誰の言う事も聞かなくなる悪い癖があってな……」


「はぁ……」


「お前の不器用さを見ていると、私まで泣きそうになってしまう……」


「はぁ……」


「もう下がっていいぞ」


「はぁ……」


今回は、俺が不用意だった。それは認めよう。


でも! 説明なんてしてたら、敵に逃げられちゃう状況だったんだよ! 仕方がないじゃないか!


もし俺が物語の主人公だったら、こういうときご都合主義でフラグが立つはずなのに……。


そうですか。俺はバッドエンドに直進ですか……。


はぁぁぁぁぁ……。


****


翌日学園に行くと、パメラ先生が目を合わせてくれなくなっていた。


俺は仕方ないと自分に言い聞かせて、溜息を吐くしかなかった。


俺以外には優しいままのパメラ先生は、明日開催される武道大会のプリントを、全員に配り始める。


全員に……あれ? 全員?


俺には、プリントが回ってこなかった。


まだ回ってない人はとの先生の声に手を挙げたが、何もなかったかのようにHRが進められていく。


俺は、そっと上げた手を下した。


はっはっはっはっはぁぁぁぁぁあっ!


俺はすでに、あの人の中で生徒じゃないんだ! そうか、そうか……。


そのうち俺の席無くなるんじゃないか?


虐めってよくないと思うんだ~、俺。


あぁぁ……心の汗が……。


俺は、何の為にここに通ってるんだ?


ただ苦しむ為?


ははは……。


やってらんね~……。

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