十一話
「レイ!」
「さがっててくれ……。聖剣持ち三人と戦うよりは、確実に勝率が高い。奴らの話に乗るのは気分よくないけどな」
「分かりました。勝って下さい!」
「私はお前を信じるぞ!」
「絶対よ! 絶対勝ちなさい!」
「ああ……」
こんなクソ野郎に負けてたまるか!
今日ここで……。
この狂った救済計画ってやつを叩き潰す!
そして、平和になったら今度こそハーレムルートを!
『全く……このエロガキは』
御褒美があるのと無いのじゃあ、モチベーションが違うんでね。
『まあ、わしは狂った神を穿つ剣……』
神様が間違えてるなら!
『止めるまでじゃ!』
おうよ!
「じゃあ、君達もあっちの席で鑑賞してよ」
「はっ!」
ふ~……。
今度は、どんなズルをしてくるかな……。
「じゃあ、そろそろ始めるかい?」
「ああ……」
俺は魔剣を出し、何時ものように身体から真っ黒いオーラを立ち昇らせる。
お前等に、怨みは十分すぎるほどあるんだ。
全部ぶつけてやるよ!
はっ!?
おいおい……。
勘弁しろよ……。
「さあ! 何処からでもどうぞ」
メシアが聖剣を抜いた瞬間、全身から信じられない量の真っ白いオーラが立ち昇った。
部屋全体が、歪むんじゃないかと思うほどの魔力。
マジかよ……。
ミルフォス並みの魔力があるんじゃないか!?
『想像以上じゃな……』
勝敗は、魔力で決まるわけじゃないが。
俺の何十倍あるんだよ!?
勘弁しろよ。
負けられんが、勝てる気がしなくなってきた……。
はぁ~……。
やってらんね~……。
どうする!?
「どうしたの? 早くかかってきなよ!」
くっそ!
ここで不用意に飛び込んでいいのか!?
様子を見る?
どうする?
『相手の能力が分からない以上、様子見が定石じゃが……』
ああ、能力を使われた瞬間負け確定なんて洒落にもならん。
どうする!?
どうすれば、奴に力を使わせずに戦える!?
「早くしてよ。君の力がみたいんだ」
舐めやがって!
今すぐその顔をひきつらせてやる!
行くぞ!
『どうするんじゃ!?』
悩みや迷いは、技を殺す!
全力で仕掛ける!
「おおおお!」
足に練り込んだ魔力を爆発させ、俺はまっすぐにメシアに進む。
もちろん、音速の壁をぶち破りながら。
この速度に、反応出来るもんならしてみやがれ!
<ミラージュ>
メシアの正面に気配を持った残像を残し、俺は奴の左斜め後方の柱に飛んだ。
そして、その柱を全力で蹴り、メシアの背後から全速力で接近する。
俺に出来る最速のフェイントだ!
そのにやけた面のまま死ねや!
<ドラゴンバスター>!
闘技場内に、不快な甲高い音が響いた。
「はい、残念」
「なっ!? 魔法障壁!?」
魔剣は真っ白い障壁によって、止められてしまった。
完全な死角から移動した上に、真後ろから斬り込んだのに……。
何で反応出来るんだ!?
それも、いともあっさり片手で防がれた!?
くっそ!
後ろに飛びのく……ふりして上空へ!
虚像も残した!
これは付いて来れないはず!
『こちらを振り向いておらん!』
よっし!
<メテオストライク>!
空中を蹴り、加速した俺はメシアの左後ろ上空から、剣を振り下ろす。
再び闘技場に、不快な音が響いていく。
ただ、今度は先程と違い、金属がぶつかった音だ。
はっ!?
「凄い威力だね~。剣を両手で持つなんて久し振りだよ」
嘘だろ!?
俺の振り下ろした魔剣は、メシアの振り上げた聖剣にあっさり止められていた。
「ほっ……と!」
うおおお!
受けとめられた剣を軽く押されただけで、俺は壁に背中から激突した。
何だよ!? この威力!?
いって~……。
『やはり、魔力を練った後はフィールドが弱まってしまう……』
集束した魔力の加速状態で放った打ち下しが、全く効かない?
てか、俺の速度に余裕で付いてきやがる! どうなってるんだ!?
くっそ!
奴の剣もコピー?
いや、何かが違う!
何だ!?
何なんだ? この気持ちの悪い違和感は!?
「ふ~ん……。さすが闇のメシア。人間のたどり着けるレベルじゃないね」
くっそぉぉぉぉぉ!
殴り倒したい!
どうする?
どうすれば、奴に俺の剣が届く?
攻撃範囲を広く……。
よし!
<ファルコンスラッシュ>!
神速で放つ二連衝撃波。
ぶつかった三日月状の衝撃波は、回転を始めメシアに竜巻となって襲い掛かる。
触れたものを噛み砕く、凶暴な竜巻!
障壁の大きさは五十センチ程度だった!
少しでもダメージを!
えっ!?
棒立ちで見てるだけ!?
まさか全方位防御が出来るのか!?
いや……。
おおう!
クリーンヒット!?
魔法障壁の気配すらしない!
やったのか?
困惑しながらも追撃に走り出そうとした瞬間、俺の勘がアラームを上げる。
それも、イエローじゃない! レッドだ!
激しい音を立てて、闘技場の石畳が真っ直ぐに砕け散っていく。
反射的に飛びのいた場所を、真っ白い衝撃波が駆け抜けた。
ヤバかった……。
きっと防御を無視した攻撃のはずだ。
「おし~い! 当たると思ったんだけどな~」
はあ!?
なんでメシアが俺の後ろにいるんだ!?
それも、俺とかなり離れている。
あの短い時間で!?
俺でも無理だぞ!?
『何じゃ!? 超高速移動なのか!?』
ファルコンスラッシュを放って、俺が走り出そうとするまでに一秒かかってないんだぞ!?
何がどうなってるんだ!?
まさか、光速移動?
そんなのどうしようもないぞ!?
「どうしたんだい? 他にも見せてくれよ」
くっ!
「君は凄いね~。それに色々な技を持ってるなんて。面白いよ! さあ! 次はなんだい?」
落ち着け……。
焦るな……。
考えろ……。
今分かっているのは……。
強力な魔法障壁と衝撃波……それに、超高速移動?
特殊能力と言うよりは、ベース能力が高い奴なのか?
それとも、能力を出すまでも無いって事か?
てか、何だこの違和感は!?
どうすればいいんだ!?
俺の能力は……。
駄目だ……。
俺は、基本能力が高いのと、回復が出来るだけ。
魔剣の切れ味も通じないし、回復以前にこいつの衝撃波を食らえば、一撃で死ぬ可能性が高い。
超高速移動……。
そうだ! 最低限、こいつの速度を攻略する糸口を見つけるんだ!
ジジィ!
ちょっと無茶するぞ!
『どうするんじゃ!?』
<カノン>を、避けるすき間なくこの部屋全体に打ち込む!
あの技は腕への負担がデカイ!
『よし! 回復じゃな!』
任せたぞ!
「うん? 次はなにかな?」
<カノン>乱れ撃ち!
「うおおおおおお!」
俺は、上空に飛び上がり衝撃砲を地面へ、降り注ぐ雨のように大量に放った。
これで、糸口が……あ?
「はい……。残念」
なっ!?
空気の壁を蹴り、追撃の為に落下していた俺の目の前に、メシアが……。
剣を肩に担いでいる為、防御が間に合わない!
奴の聖剣が、俺の腹に深く突き刺さる。
うげぇぇ!
刺さった聖剣からは衝撃波が出たらしく、俺の腹が半分抉られるように消し飛んだ。
受け身を取る事も出来なかった俺は、そのまま地面へ落下した……。
「レイィィィィィ!」
「さすがに、それでもう動けないよね? 終わりかな?」
華麗に地面に着地したメシアが、うすら笑いを浮かべている。
まるで、無邪気で残酷なガキのような……。
寒気がするうすら笑い。
そんな馬鹿な……。
奴は空中を蹴っていない!
空中を蹴れば、空気の振動が残るのに!
どんなに速くても、それは感知できる!
まっすぐに飛び上がっただけのはず!
いや、不可能だ!
物理的にそんなすき間は無い!
俺が衝撃砲を放つ前ならまだしも、一撃目が着弾するまで確かに地面にいた!
避けられるはずがない!
『まだじゃ! すぐに回復させる! 少し待て!』
物理的に不可能なように、同じ箇所にも放ったし、軌道を変化させたじゃないか!
本当に光速……秒速三十万キロで!?
いや……いや!
おかしい!
なら……なんで?
あ……。
まさか……。
「凄いな……。致命傷が回復するのか」
俺の心が絶望と言う怪物に喰い殺されそうな時に、メシアは回復していく俺の腹部をマジマジと眺めていた。
『どうしたんじゃ!? 分かったのか?』
そんな……。
どうすりゃいいんだよ……。
「うん? 顔が真っ青だね? あ! 気が付いたかい? 流石だね~」
俺の攻撃を防いだ時、途中までは動きが見えていたんだ。
でも、いきなり……。
いきなり後ろを向いていた。
振り返るそぶりが欠落していた……。
奴の靴は普通の材質に見える……。
ファルコンスラッシュを避けた時……。
何も無かった。
俺が音速で移動しただけで、燃え上がるから俺は戦闘時、耐熱の特殊な物を履くか、裸足なのに……。
「あ……ああ……時間を?」
「正解! 僕は、時間を止める事が出来る!」
そんな……。
「はははっ! その顔いいね~! ウケるよ!」
こんな化け物……。
『しっかりせい! まだ、負けと決まったわけではない!』
「あら~? もう駄目みたいだね? じゃあ、遊びはここまでだ」
勝てない……。
『来るぞ! しっかりせんか! このバカ者!』
勝てるわけがない……。
「ぐああああ!」
「魔剣の事も神様から聞いてるんだ。こうやって切り離せば、回復も出来ないんだろ?」
「ああああ……うぐっ!」
メシアは、肩から先が無くなった右腕を押さえている俺の頭を、踏みつけた。
「この魔剣は危険だ。君みたいなのがまた出てくると、計画が狂う。だから、封印させてもらうよ」
俺の右腕ごと、ジジィが六角形の水晶の中に閉じ込められた。
終わった……。
俺は、死ぬのか?
ここで?
嫌だ……。
死にたくない……。
嫌だ……。
怖い!
「情けないね~。魔剣が無いと、這って逃げることしか出来ないわけ?」
ああ……。
殺される……。
誰か……。
助けて……。
怖い!
怖いよぉぉ!
****
闘技場に先程よりも軽い音が響いた。
リリスの撃った魔道砲は、メシアに難なく弾かれていた。
「ん? 大人しくして欲しいんだけどな?」
「やらせん! こいつだけは死んで……も……」
腹を殴られたリリスが、そのまま崩れ落ちた。
「レイにこれ以上は!」
「グルルル!」
止めろ……。
駄目だ! 殺される……。
「逃げろ! 頼む! 逃げてくれ!」
「馬鹿! みんなで帰るって言ったでしょうが!」
カーラが俺の右腕を法術で止血している。
俺は、うつぶせの状態でカーラの服を掴む。
「駄目だ! 駄目なんだ……。お前だけでも逃げてくれ……」
「きゃあああ!」
メアリーが壁に吹き飛ばされ、動かなくなった。
「しっかりしなさい! あんたは! どんな時でも諦めないのがレイ:シモンズでしょうが!」
「ギャウン!」
ゴルバが空中から地面に叩き落とされた。
大きく切り裂かれた腹から大量の血が……。
「やらせない!」
カーラがメシアに向かい走りだした……。
止めてくれ……。
駄目だ……。
止めてくれぇぇぇぇぇぇぇ!!
「この三人は魔力が強い。いい聖剣が出来るよ。君のせいで信徒が減ったからね~。あっ!君も実験材料になってもらうから。宜しく!」
腹を蹴りあげられた俺は、そこで意識を失った。
最悪だ……。
なんで、俺に近づいた人間はみんな不幸になるんだ?
俺は、生きてちゃいけない存在なのか?
俺を好きだと言ってくれた……。
あの三人は、どうしようもないこんな俺の事を好きだと……。
何でだよ?
苦しめるなら、俺だけでいいじゃないか!
なんでこんな事するんだよ!
ちくしょぉぉ……。
何が死ぬのは怖くないだよ……。
俺があそこで竦み上がらなければ、三人を逃がせたかも知れないのに……。
情けない……。
俺は最低だ……。
やってらんね~……。




