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Mr.NO-GOOD´  作者: 慎之介
第六章:啓示の救世主編
76/106

十話

「ここを通りたければ、私を倒してからにして貰います!」


ヒルダが剣を抜く。


「そんな……」


「ヒルダ! 教団がやってる事、分かってるの?」


「分かっています! 世界を……人類を救おうとされているのです! たとえ貴方達で……ごふぅ!」


「ちょ! あんた何やってんのぉぉぉぉ!!」


え!?


いやだって……。


「ボディブロー? だけど……」


「空気読みなさよぉぉぉぉ!」


ええ~……。


「だって、倒していけって言うから」


あ痛い!


「なんで? なんで俺が殴られるの?」


「こいつはいい奴なんだ! 何故、そんなあっさり殴り倒してるんだ!」


「鎧がへこむほど女性を殴りますか? 普通?」


「最悪よ! あんた!」


ええ~……。


敵を殴っただけなのに~!


殺してないのに~!


凄く非難されてる~!


『全くお嬢ちゃん達も、むちゃな話じゃ』


だろ! 俺おかしくないよね!?


なんで、ここまで……。


『この馬鹿が、空気など読めるはずがない……』


そうだ! もっと言ってやれ!


ん?


俺、馬鹿にされた?


『気のせいじゃ』


そうか!


え~っと……そうだ!


「なんで、そこまで怒るんだ? こいつは敵なんだろう?」


「そうですが……」


「大丈夫か? ヒルダ?」


「うう……」


「ああ! 無理に起き上がるな! そこで横になれ」


う~ん。


「あのね~! この子はいい子なの! あんたが遭難した時、一週間も一緒にあんたを捜してくれたのよ?」


だって~。


「あなたは本当に……。日頃は絶対に女性に手を上げないくせに、敵だと躊躇がないんですから!」


普通じゃね?


「ヒルダから、我らは色々と情報をもらって助かったのだ! 本当にいい奴なんだ!」


俺~、船の中で馬鹿にされた上に、殴られた記憶しかないんだもの。


確かに、俺が吐いたのが原因だけど~。


なんで敵殴っただけで、ここまで怒られるんだよ。


はぁ~……。


やってらんね~……。


****


「ああ! これ! ちょっとぉぉぉ!」


なに?


「ヒルダの肋骨折れてる! 紫にはれ上がってるわよ!」


「あなたは! 手加減が出来ないんですか!?」


手加減はしたんだよ~。


本気出したら、腕が貫通するもん! 多分!


てか、そうだよ!


俺は胸見ただけで、この間貫通されたんですけど~?


それはよくて、なんでこれが駄目なんだよ!


お前等の基準おかしいって!


はあ~あ……。


ジジィ?


『もう精製してある』


仕方なく、ヒルダの怪我を俺の魔力で回復させる。


「ごほっ……楽になりました」


「大丈夫ですか?」


「ごめんね。この馬鹿、何時もこうなのよ」


「いえ……今の私は敵ですから……」


「どうしても戦うのか? 出来れば私は、お前を攻撃したくはないのだが」


「仕方がありません! 私はメシア様……あれ?」


ああ?


何、頭を抱えてるんだ?


「なんで!? 私は、メシアを止めようと教団に潜入したのに……。あれ? どうして?」


いや、こっちに聞かれても。


知りませ~ん。


「落ちついて! ヒルダ! 何があったの?」


「ギルドで依頼を受けて……。行方不明者を捜索して……。各地で人をさらう教団に気付いて……」


あん?


なんか様子がおかしくないか?


『むう……これは』


「教団に潜入して……。メシアにあって……。えっ? 何で!? 私はメシアが好きになった? ええっ!?」


なんだ?


頭のネジでも飛んだのか?


『違う! これはチャーム(誘惑)の魔法じゃ!』


チャームって……。


マジでか!?


『このお嬢ちゃんは操られたんじゃ!』


マジでか!?


思い切り殴っちゃった!


『まあ、それで、正気に戻ったんじゃろう。結果オーライじゃな……』


おお! 俺、たまにすげぇぇ。


「どうしたんだ? 言ってる意味が……」


「こいつ、多分チャームの魔法掛けられたんだってさ。ジジィが言ってるから、間違いないと思う」


「マリーン様が? では……」


「あのメアリー様? チャームって何ですか?」


「誘惑……幻惑の魔法です。対象者を自分の虜にしてしまうんです」


「あ……あああ……そんな」


おおう!?


泣き崩れた!?


そんなの悔しいの!?


「私は……私は……純潔を……あんな奴らに」


マジでか!?


『どうやら……。本当にろくな集団ではないな』


こいつ男知らなかったのぉぉぉぉぉ!?


マジでか!?


『そこなのか!?』


だってこいつ男いたじゃん!


経験済みだと思ってたよ!


見た目と違って、真面目なのね~!


超意外!


「ああ……なんて……なんて事……私は汚れてしまった」


「別に汚れて無いんじゃないの? 野良犬に咬まれたと思えばいい」


「英雄殿?」


「仕返しくらいは、俺がしてやるよ。人間、嫌な事は忘れないと生きていけないもんだ。大事な思い出じゃないだろ?」


「はい……」


「なら、五分くらいで忘れればいいじゃん。その事は、お前の人生で重要な事じゃない……と思うぞ」


「でも……」


「そんな事で、人生駄目になんてならないって。大丈夫! お前は汚れてない! 俺が保証してやるよ」


「はい……はい……はい」


おおう!?


余計に泣き始めやがったぁぁぁぁぁぁぁ!


何でだよ!


俺は、何を間違えたんだ!?


何がいけなかった!?


「も~……。なんであんたはいい事言った後で、オロオロするのよ~」


だって! 泣いてるもの!


「人間とは、安心しても、喜んでも涙が出るものだ」


リリス?


それ本当?


安心したり喜ぶと、笑うもんじゃないの?


俺を騙そうとしてない?


『お前が、泣かなすぎるんじゃ』


そういえば……。


七歳からだから、十三年くらい泣いてないな。


「大丈夫……。大丈夫ですよ……」


泣きじゃくるヒルダの頭を、メアリーが抱えている。


なんか、お母さんみたいだな。


『なんじゃ? うらやましいのか?』


当り前だろうが!


あの位置なら、自然にメアリーの胸が俺の顔に……。


いいね!


『エロガキが……』


さて、次のチートは何だろうな?


「もういいんですか? ヒルダさん」


「ありがとうございます。あの……英雄様……それに皆さん。もし、お許しいただけるなら……」


「何? お礼ならいいわよ? この馬鹿が殴った事と、チャラにしましょう」


「英雄様は、奥様が三人もおられるのは分かっているのですが……。よければ、愛人でかまいませんので末席に加えてはいただけませんか?」


「なっ!? 奥さん!? 私達の事!?」


「駄目です! レイにそんな事言ったら!」


「それだけで、妊娠してしまうぞ!」


「レイ! 今の忘れな……えっ?」


「出て来いよ! 先に、こっちから斬りかかるぞ?」


俺は、本当にその手の事を何故か聞き逃すんだよ……。


オリハルコンの気配に、俺はだけ魔剣を出して戦闘態勢に入ってます。


「まったく使えんクズ女だ。折角、隙をついて俺が攻撃する予定だったのに……」


何? このクズ率十割は。


少しはまともな奴いないのかよ?


『まともな人間は、聖剣を作らんじゃろうな……』


あっ……。


それもそうだね~。


クズに気遣いは無用だよね~っと。


「お前も特殊能力を持っているのか? 見せてみろよ……」


「ふん! 出来損ないの分際で、調子に乗るなよ?」


馬鹿が剣を抜き、その剣から白いオーラが……。


「あっ……。その前に一つだけ聞かせろ」


「なんだ? クズ?」


「何か見えたか?」


「はっ? え? そんな……」


背後から声をかけた俺を見ようと、馬鹿が振り返った。


それと同時に、首がズルリと地面に落ちる。


正面にいた俺が、背後に移動した事を驚いたままの顔で死んでるよ。


ふん……。


誰が、チートに付き合うか。


『お前の最高速度は、普通の人間にはもう見えんからのぉ……』


うちの流儀は、相手に本気を出される前に斬る事だからね。


うん!


これなら、チート関係なく殺せるね!


ここ馬鹿共は、必ず潰す……。


「さすが英雄様……」


「ヒルダさん?」


「何でしょうか?」


「さっきの話は、戦いが終わってからゆっくり話し合いましょう。いいですね?」


「はぁ……」


「いいわね!」


「はっ! はい!」


あれ?


何、喧嘩してるんだ?


まあ、いいや。


「ヒルダ?」


「はい! 何でしょうか?」


「教団内部の情報が欲しい。後、知ってる事教えてくれないか?」


「あ! もちろんです!」


こうして、ヒルダから敵の情報、教団建物の情報、聖書の内容を聞いた。


「はっ? 闇のメシア? 俺が?」


「そうです。そのように聖書には書かれていましたし、司教や信徒達が言ってました」


聖書に書かれていた!?


俺が見た聖書には、そんな記述無かったぞ?


もしかして……。


「神の使い……天使の事は何か書いてあったか?」


「えっ? え~……神様の使いで……確か地獄から救われた人間を、楽園に導くのが……」


「違う! 地獄からよみがえった悪魔と戦う天使の事だ!」


「いえ……悪魔と戦うのは、メシアの仕事のはずですよ?」


ふ~ん……。


やっぱり改変されたようだな。


『そのようじゃ……』


だって、神様の指示で動くメシアと、天使が戦うこと自体訳が分かんなかったしね。


「あの……何か気になる事でも?」


「聖書の大元の原本は無いのか? 多分、今あるの聖書は、奴等の都合がいいように改変されてる」


「ああ! それでしたら、教団の地下最深部にあります!」


「そうか。それを確認すれば……」


「でも、その場所はメシアが神と交信する場所で、聖剣が封印されている場所ですよ? たどり着けるかどうか……」


まあ、重要な物だろうからそれはいいとして……。


「聖剣を封印? どう言う事だ?」


「私、実はメシアの侍女として働かされていたんですが、メシアのお兄さんが元になった最初の聖剣なんです」


「それが、メシアの聖剣なのか? 元が女性じゃないのか?」


「いえ……。聖剣の失敗作らしいんです」


失敗作?


「嘘ではないと思うんですが、酒を呑んだメシアが言ってたんです。お兄さんも英雄様のように選ばれた灰色の髪をしていたそうですが、神からの導きを拒否したそうなんです。それで、罰として聖剣にその身を変えられたと……」


「それは、分かったけど……。何が失敗したの?」


「女性がもとじゃないから、能力が極端に弱い剣になったのと、その使用者である信徒が現れなかったそうなんですよ」


「なるほど……。それで、失敗作か」


「はい。メシアはそれを教訓に、魔道士だった母親を自分の聖剣にしたそうです……」


なんだ、只のクズか……。


まあ、聖剣はどうでもいいか……。


それよりも……。


『神との交信と、聖書の原本じゃな』


ああ……。


神に……真実にたどり着かないと……。


人類滅亡?


誰がさせるか!


俺が、幸せになって死ぬまではこの世界……死ぬ気で守ってやるよ!


メシアだろうが、悪魔だろうが皆殺し!


必ず……。


必ず敵を……。


『………………』


「向こうは俺達がここにいるのが分かっているのに、攻撃してこない。って事は……」


「待ち構えていると考えるべきでしょうね」


「そうだな。だが、俺は行く。お前達は……」


「まさか、この後に及んであれを言う気?」


「しかし、数万の化け物と信徒に、メシアまで居るんだぞ?」


「くどい!」


無駄か……。


「あの! 私も道案内を!」


ヒルダか……。


「いや、町に戻れ。お前だと、化け物に殺されて終りだ……」


てか、これ以上守る相手連れていけるか!


俺が面倒だ!


「しかし……」


「分かって下さい、ヒルダさん。必ず戻ってきますから……」


「……分かりました! では、町でお待ちします!」


さて、どうするかな?


ここで派手に戦闘をしてる以上、隠れて潜入なんて意味無いよな。


二手に分かれたら、こいつ等守れないし……。


『まあ、仕方があるまい……』


だよねぇ~。


「行くぞ! 正面突破だ!」


「ええ!」


「行きましょう!」


****


こうして俺達は、クソデカイ城のような教団本部へと……。


入ったんだけど……。


これはどう言う事?


「闇のメシアよ……。我らが主は寝室でお待ちだ」


待ち構えてるとは思ったけど……。


整列して迎え入れられた。


何これ!?


「不気味ですね……」


「それだけ、私達を倒す自信があると言う事か?」


くそっ!


完全に舐められてる!


通路の左右に、無表情の信者共が並んでるよ……。


なに? このまま進めと?


罠じゃないの?


「立ち止まるな、闇のメシアよ。罠などは一切用意していない。メシア様と、お前が今日戦う事は決められている事だ」


はぁ~?


それを信じろってか?


てか、戦う事が決まっているって……。


完全に後付けだろうが!


だって、さっき襲われたもの。


「……何時でも逃げ出せる準備だけは、しておいてくれ」


俺は、四人に耳打ちをした。


四人は無言で頷いてくれる……。


罠っぽいよな~……。


「何処まで行くんだ?」


「最深部……メシア様のお部屋に行くのだ」


「は? そんな場所で戦うのか?」


「我らは、今日の事を分かっていたと言っている……」


「だから!」


「そこには、闘技場を設けてある」


準備万端?


う~ん……。


たまたまじゃね~の?


『そうじゃな。未来を知ることなど、出来るはずもない』


てか! ここ広いな!


かなり歩いたぞ?


「ここだ。中で待たれよ」


なんか豪華な扉だな……。


金かけすぎじゃね?


****


中に入ると、本当に闘技場のようになっていた。


「本当に予測されてたの?」


「いや……。他の目的で造られたのかも知れん」


「そうですね……。こんなところで、相手に飲まれるのは賢いとは言えません」


「まぁ、そうよね。レイ? 何見てるの?」


俺が見上げる先には、鎖でぐるぐる巻きにされて台座に刺さった……。


何だあれ?


あれが聖剣の失敗作?


『多分……』


あれで剣なの?


見た目から完全に失敗作じゃん!


『まあ、見ようによってナタ……いや、大きなナイフに見えなくも……』


いや! だって刃が無いじゃん!


なんか、柄の部分Sの字みたいになってるし!


分厚いよ!


あれじゃあ、何も切れないって!


『撲殺用……かのぉ?』


それもう剣じゃない!


なんか別の武器!


あ……でも先は尖ってるから刺す事は出来るのか?


【…………】


さすが失敗作……。


まさか剣っぽいだけで、剣じゃないなんて……。


と……。


きやがったな……。


「待たせたね、闇のメシアくん」


真っ白いロン毛のイケメン……。


こいつが……。


「僕の自己紹介は必要ないよね?」


両サイドの二人もオリハルコン持ちか……。


「勝負は、一対一でやらないといけないらしいんだ。君もそれでいいよね?」


「ああ……」


「じゃあ、そこの四人はそっちの椅子にでも座ってよ。もちろん、こっちの二人も手は出させない」


俺としては、その方が助かるが……。


完全に舐められてる!


あぁぁもう! むかつく!


『落ち着け!』


分かってる……。


あ~あ……。


今度はどんなチートだ?


一番凄いんだろうな~……。


面倒だな~……。


やってらんね~……。

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